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利用者:キュアラプラプ/サンドボックス/戊
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あるところに小鳥がいました。小さなみどり色のつばさと、きれいでふさふさな毛なみをもち、気ままにのうのうとくらしている小鳥です。 今日はお気にいりの甘あい実をたくさんとれたようで、ごきげんなようすでおうちにもってかえってきました。夕やけ空を風のようにかけぬけて、とっても気もちよさそうです。 「あっ、小鳥さんだ! 空をとんできた!」 「やあ小鳥さん。わあ、おいしそうな木の実!」 「さっすが、小鳥くんは木の実をとるのがじょうずだね。」 小鳥には森のともだちがたくさんいます。いつも元気なりすさんに、食いしんぼうなうさぎさん、とっても頼りになるふくろうさん! 小鳥はみんなに木の実をすこしずつ分けてあげました。みんながおいしそうにたべているのをみて、小鳥はちょっぴりほこらしくなりました。 「えっへん、ぼくがえらんだ木の実はおいしいでしょう?」 「うん、とっても!」 じぶんが食べる分を木のみきのほら穴につめこんだあと、小鳥は日がくれるまであたりをさんぽすることにしました。この森をぬけたすぐそばには、にんげんたちのくらす街があります。そこにはにぎやかな歌やようきな音楽がいつもなりひびいていて、おいしい食べものもそこら中にあふれているのです。小鳥はこの街を、とーっても気にいっていました。 はなうたまじりに街に入ろうとした小鳥は、ひんやりとした風といっしょにながれてきたものに心をうばわれました。甘くてきれいで、しっとりしたいいにおいです! そのおいしそうなかおりにつられ、しばらくそのままさまよって、小鳥はついににおいのもとまでたどりつきました。そこは、街のはずれにあるケーキやさんでした。 かちゃかちゃぐつぐつ音がして、えんとつからはもくもくとけむりが立ちのぼっています。小鳥がおみせのなかをのぞいてみると、そこにはもちろんたくさんのケーキ! どれもおいしそうで、みているだけでおなかがへってきてしまいます。 「こんにちは、小鳥さん。」 「う、うわあ!?」 とつぜんこえをかけられて小鳥はびっくり! まどガラスごしにはなしかけてきたのは、たなのはじっこにあるショートケーキ、その上にいるいちごでした。なめらかな形がさえた真っ赤にいろどられ、まわりのホイップクリームはまるでドレスのよう。小鳥はなんだかどきどきしながらへんじをしました。 「こ、こんにちは、いちごさん!」 いちごは小鳥のほうをみて、やさしくほほえみました。小鳥は恥ずかしくなって、とっさに目をそらしてしまいます。 「ねえ、あなたは空を飛べるの?」 「う、うん、飛べるよ! それも、とーってもはやくね!」 「わあ、すごい! じゃあ、雲の上にもいったことがあるの?」 「雲の……うえ……。」 小鳥はたしかに空をじゆうにとべます。けれど、雲の上にいったことはありませんでした。そんなにたかいところまでとぼうとしたら、つかれてへとへとになってしまうし、なにより小鳥はこわがりだったからです。じめんがみえなくなるほど上にいってしまったら、もうかえってこられなくなるんじゃないかと、どうしてもそうおもってしまうのです。 でも、そんなこといったらかっこわるい気がして、小鳥はうそをつきました。 「もちろん! ……雲の上ではおひさまもぽかぽかで、すっごく気もちよかったよ!」 これを聞いたいちごは、ぱあっとえがおになりました。でも小鳥は、なぜだかちょっぴり目をそらしたくなってしまいました。もじもじしながら、いちごはこう続けます。 「……わ、わたしね、じつは、いつか雲の上にいくのが夢なの。だから、その……よければわたしをつれていってくれないかな……なんて。」 「え!? あ、その、えーっと……。」 どうしよう! どうしよう! ほんとうは雲の上にいくなんてむりなのに! 小鳥はさっきうそをついたじぶんにもんくをいいました。 「……ご、ごめんね! 会ったばっかりなのにこんなこと聞いちゃって! め、めいわくだったよね! やっぱりこのことはわすれて!」 いちごはかなしそうにうつむいています。それをみた小鳥は、ついあせって……。 「わ、わかった! つれていってあげるよ! 雲の上!」 「ほんとに!? やったあ! ありがとう!」 できもしないようなやくそくをしてしまった小鳥は、あとでどうしたらいいのか、とてもしんぱいになりました。けれど、いちごによろこんでもらえたのがうれしくて、ひょっとすると今ならほんとうに雲の上までとべるかもしれないとおもいました。いちごといっしょなら、なにもこわくないような気がしたのです。 ――しかしそのときとつぜん、ばさばさという大きな音がちかづいてきました。 「小鳥くん、どうもこんにちは。」 小鳥がうしろをふりかえると、そこには真っ黒でのっぽのカラスがいました。りっぱなつばさをもっていて、とってもとぶのがはやそうです。かっこいい! ……だけど小鳥には、どこかぶきみなかんじがしました。 「こ、こんにちは、カラスさん。」 「……小鳥さん、あのカラスさんはおともだち?」 いちごがひそひそ声で聞いてきます。 「ううん、いまはじめてあったとこ……うわあ!」 気づいたら、いつのまにかカラスは小鳥のすぐとなりにきていて、えがおでこういいました。 「ねえねえ小鳥くん、かわいいかわいい小鳥くん、きみを食べてもいいかい?」 「え?」 あぶない! カラスはいきなり、つばさをふりあげておそいかかってきました! 「うわああ!」 すんでのところで小鳥はこれをかわしましたが、カラスはひきさがりません。なにがなんだかわからないまま、とりあえず小鳥はここからにげることにしました。 「いちごさん! いまはあぶないから、明日また会おう!」 「ま、まって!」 しかしいちごは、なにやらあわてているようです。 「わたし、今日でこのおみせにすてられちゃうの!」 「え!?」 「りゆうはわからないけど、ケーキはみんな一日でうれなくなるからって……。とにかく日がしずんでおみせがしまっちゃったら、わたし……!」 カラスのこうげきはつづきます。小鳥はかんがえるひまもないまま、こうさけびました。 「わ、わかった! 日がしずむまでにここにもどってくるから、それまでまってて!」 「……! うん! あ、ありがとう!」 つばさをはためかせ、小鳥は空にとびあがります。しかし、ケーキやさんがみえなくなっても、カラスはしつこく小鳥をおいかけてきました。それもものすごい速さで! 小鳥はひっしで小回りをきかせ、どうにか出しぬこうとしますが、カラスにはつうようしません。夕やけはもうむらさきがかってきていて、お日さまはしずみはじめています。 「小鳥くんはすばしっこいなあ。もういいからはやく食べさせてよう。」 「……どうしてぼくを食べようとするのさ! 街にはもっとほかにおいしい食べものがあるでしょう!」 小鳥とカラスはつかずはなれず、ついに街の真ん中にある時計台のてっぺんまできました。空はくらくなってきて、お日さまはもうはんぶんしかありません。早くおみせに戻らないと、いちごはすてられて、ゴミばこに入れられてしまいます。ついさっきいちごと出会ったばっかりなのに、どうしてこんなふうにおもっているのか、じぶんにもわからなかったけれど、小鳥にとってそんなことはぜったいにいやでした。 小鳥はいつのまにか、森のともだちとおなじくらい、もしかしたらそれいじょうに、いちごのことをだいじにおもっていたのです。 「……ひとめぼれ、じゃないかな。」 「……え?」 ちく、たく、ちく、たく。時計台のはりのゆれるおとが、いやに大きくきこえてきます。 「ん? ああ、ぼくが小鳥くんを食べたくなったりゆうだよ。」 「え、いや……え?」 ちく、たく、ちく、たく。 「きれいな緑色のつばさにふさふさの毛並み。きみをみるとなんだか……どきどきしちゃうのさ。」 「ど、どういうこと……?」 ちく、たく、ちく、たく。 「ぼくはきみのことがすきなんだ。」 「あ、え。」 ちく、たく、ちく、たく。 「ずっとしあわせにするから。」 「ど、どうして、じゃあ、たべる、なんて。」 ちく、たく、ちく、たく。 「うーん……でもさ、そんなかおしたって、ほんとうに心のそこからわからないなんてことはないだろ?」 ごーーーん。 七時をつげる時計台のおとが、小鳥をわれにかえらせました。にしの方をみると、あおぐろい雲の下、お日さまはほとんどしずみかかっています。小鳥は、かんがえるよりさきに、じめんに向かってすごいスピードでおちはじめました。カラスもやっぱりあとをおって、まっさかさまにおちてきます。 「どうしたの小鳥くん、そのさきにはじめんしかないよ! このままだとぶつかっちゃう!」 カラスのいうとおり、小鳥はじめんに向かってまっしぐら。あぶない、ぶつかる――! というところでおっとっと、くるりとからだをひるがえします。しかしのっぽのカラスは小回りがきかず、そのままじまんの大きな羽をじめんに打ちつけてしまいました。これでカラスも、しばらくのあいだはおいかけてこられないでしょう。 「ぐっ……小鳥くん……ぼくはあきらめないからね! いつかきみのことを食べてあげるから!」 カラスのことばには耳もかさず、小鳥はあのケーキやさんに向かってぜんそくりょくでかけていきます。お日さまはついに、とおくに見える山の向こうにしずんでしまいました。小鳥の中でいやなそうぞうがふくらんできます。ちかづいてきたケーキやさんのえんとつからは、もうけむりはのぼっていません。……いちごさん、おねがい、ぶじでいて! 小鳥はなりふりかまわず、いまさっきみちでひろった小石をまどガラスになげつけました。おおきな音を立てて、とうめいなガラスへんがくずれおちます。おみせのだれかのひめいもよそに、小鳥はわれたまどのすきまから中におし入って、目線はたなのはじっこの、ショートケーキのてっぺんの―― 「いちごさん!」 「あ、小鳥さんっ!」 「さあ、つかまって!」 小鳥はつめのあいだに大切にいちごをかかえて、ケーキやさんをあとにしました。空はすっかりほのぐらくなっていて、お月さまとお星さまが白くかがやいています。つめたくふく風が小鳥といちごをくすぐって、ひゅうひゅうと音を立てました。 「あの、小鳥さん……ありがとう!」 「えへへ、どういたしまして!」 かわいた空気のなか、小鳥はふかく、やわらかく息をはきます。だれかのためにこんなにがんばるだなんて、小鳥には生まれてはじめてのことでした。肩の荷がおりるのとどうじに、カラスとのおいかけっこのつかれがどっと押しよせてきました。 「すごいなあ……空ってこんなにひろかったんだね。」 ほほえましい気もちもひるがえって、雲の上へいちごをつれていくやくそくをおもいだした小鳥は、じぶんのなさけなさがにくらしくなりました。あのときうそをついてしまったことが、なにもかもをだいなしにしているようにおもえました。だから小鳥は、いちごにほんとうのことをはなすことにきめました。 「あ、あのさ、雲の上につれていくってはなしなんだけど……。」 でも小鳥には、じぶんがうそをついたとみとめる勇気がありませんでした。 「今日はつかれちゃったから、またこんどでいいかな?」 もしあれがうそだったとばれたら、いちごはじぶんのことをきらいになってしまうかもしれません。もしそうなってしまったら――その先をそうぞうすることさえ、小鳥にはこわくてとてもできませんでした。こんなことなら、うそなんてつかなければよかったのに。 「わかった。じゃあ……明日にしようよ! 早く雲の上にいってみたいな……!」 「……う、うん、そうしようか。じゃあ今日はとりあえず、ぼくのおうちで休もう。」 「やったあ! 小鳥さん、ほんとうにありがとう!」 小鳥は、じぶんのことがきらいになりました。
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