「
叙述トリック
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==起== 「ねえ小島さん、'''叙述トリック'''って知ってます?」 <br>「急になんだよタケ。まあ知ってるけどさ」 <br> 冬の早朝6時15分、僕はいつもより少し早く目覚めてしまい、同じく起きていた小島さんにこの質問をぶつけたのだった。小島さんは35歳くらいで、彫りの深い顔に髭が似合うダンディな人だ。 <br>「なんでそんなこと聞くんだ?」 <br>「こないだ読んだ本にあって。ミステリーあたりはからっきしなんですよ」 <br> 僕はしばらく前にトラブルを起こして大学を退学になり、今は男4人で同居している。ルームシェアだと思えばましだけど……誰が進んで野郎共と一つ屋根の下で住むものか。4人というのは、僕と小島さん、そして京極さんと三津田さん。皆僕より年上だ。あとの2人はまだぐっすり寝こけている。部屋はいささか肌寒い。 <br>「はっ、マジかよ」 <br> 小島さんは鼻で笑った。お前がかよ、と顔が語っている。 <br>「こういうの好きだったでしょう? 教えてくださいよ」 <br> 時々小島さんが本を読んでいるのを見るが、大体推理小説なのだ。どうやらそういう系統の新人賞に応募したこともあるらしい。 <br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」 <br> 見ると、京極さんと三津田さんがもぞもぞと起き出していた。2人とももう、おじさんというよりおじいさんといった方がしっくりくる歳だ。京極さんは身長が低くて小太り、三津田さんは対照的にのっぽで痩せぎすな体型をしている。話し方も、三津田さんは三回りほど年下の僕にも丁寧語を使うが、京極さんはゴリゴリの関西弁で、対照的だ。 <br>「おはようございます」 <br>「なんやふたりとも偉う起きるんが早いなあ」 <br> いつも同じ時間に起きていると、アラームなぞ無くとも自然と目が覚めてしまうものだ。僕は変わり映えのしない一日の到来に溜め息を吐くと、布団を畳むために立ち上がった。 <br>「あれは俺が小6になりたての4月の出来事だった」 <br> そう小島さんは話し始めた。
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