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==8月13日23時22分 城島浩司== 「分隊長! 不審な通話を傍受しました!」 <br>セカンドショップの格好をした財団の小基地の中。一人の通信員が叫んだ。声には隠し切れない興奮が顕れている。 <br>「最初から聞かせろ。手空きの者は話者の特定を急げ」 <br>短く告げると、通信員はヘッドセットを渡してきた。それをつけると、数分前の録音が耳に飛び込んできた。 <br>『もしもし?』『やあ、夜分遅くにごめんね。僕さ、アンドレだよ』 <br>アンドレとコーヘイという二人は、それから2分半にわたって話していた。ハイに長広舌をふるうアンドレと、押し殺した声で返答するコーヘイ。彼らの通話内容は、衝撃的だった。コーヘイという男が、先刻現れた引力者であることは間違いないだろう。そして、アンドレはそのバックにいる引力者の組織の人間で、コーヘイと接触を図っている。 <br>何より、通信が傍受できたということは、どちらかがここ付近にいるということだ。おそらくは件の引力者の方が。 <br>「分隊長! 通話していた人物が見つかりました!」 <br>「間違いないか?」 <br>「はい。監視カメラに記録された唇の動きと、傍受した通話内容が、完全に合致しました」 <br>「よし、どこだ?」 <br>通信員は壁に貼られた周辺地図の一点を指した。ここから目と鼻の先だ。 <br>「現在、国道58号線を南下中。ちょうど我々の方へ接近しています」 <br>「肉眼で確認する。ついて来い」 浩司は外へと出た。夜気が服越しに肌を刺す。 <br>国場川に架かる明治橋。そこの片方の車線を占有し、第二十七分隊は警戒任務にあたっていた。その先頭へと行き、怯えながら避難する群衆に目を向ける。 <br>「正面に見える、赤ん坊を腕に抱いている男です」 <br>通信員に言われて、浩司はその男に目を留めた。疲れ切ったような顔で、俯きながら歩いてくる。横には、男の妻らしき人物もいる。 <br>あの男が、引力者なのか。浩司は部下からサーモグラフィーを受け取った。ついさっき、米国からの情報として本部から連絡があった。なんでも、引力者は能力を発動すると、体温が上昇するらしい。そういうわけで、隊の設備をひっかき回して、スコープ型のサーモグラフィーを一つだけ見つけてきたのだ。そこら中の物を手当たり次第に引き寄せ巨人となった引力者は、さぞ体温が上がっているだろう。 <br>浩司はサーモグラフィーを目に当て、およそ100メートル先の人影を見遣った。結果は、火を見るより明らかだった。男の体の中心部、心臓の辺りが特に赤くなっている。 <br>サーモグラフィーを外し、肉眼で男を見つめる。向こうもこちらの動きを感じ取ったのか、男は立ち止まってこちらを見据えていた。目を逸らさぬまま、傍らの通信員に手早く指示する。 <br>「対象人物を発見した。本部に連絡しろ」 <br>通信員が走り去り、そのまま浩司は振り返ってハンドサインを送った。橋に待機していた隊員が、一斉に動き出す。浩司はまた男に向き直った。
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