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叙述トリック
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==破== <font face="Tahoma"> その次の日、昼飯の時間になって、お袋に言われて俺は2階の自室にいる兄貴を呼びに行った。兄貴の部屋をノックしようとしたところで、急にドアが開き、俺は鼻をしたたかにぶつけた。兄貴は笑いながら「すまんすまん」と謝ったが、こっちは痛いのなんの。不貞腐れたよ。鼻の頭に絆創膏を貼らないといけなかった。 <br> ともかく昼食になった。そのときは俺と兄貴、親父とお袋の4人暮らしだった。はは、今と同じだな。お袋は専業主婦、親父は市議会議員だった。俺は食卓のお誕生席で黙々と白飯を食ってた。兄さんには無邪気に接していたんだが、他の家族、特に親父の前でははしゃげなかった。今思えば、この時既に親に少し苦手意識を持ってたのかもしれないな。 <br> そんなことは露ほども知らない、何かと心労の絶えない時期を通り抜けた親父は、とにかく機嫌が良かった。俺がレタスをこぼしても、いつもと違ってこの日は何も言われなかった覚えがある。ずっと陽気に「政治は~、政治を~」と理想を語っていたよ。だからお袋が、 <br>「せっかくケンちゃんが賞状貰ってきたのに、お父さんったら政治、政治ってそればっかり。少しは気にかけてやってくださいよ」 <br>と嗜めた。だが親父は、 <br>「気にかけてるよ。それに、弟ってのは兄の背を見て育つもんだ。だからお前も優秀に育ってるし、健児もそうなるだろう。な、健児?」 <br> 事実、親父が褒めるかどうかなんて俺は気にしてなかったから、適当に返事して終わったと思う。親父が言うように、兄は教育通り優秀に育ったんだ。まあ弟がそうじゃないことは、あんたらも知っての通りだ。 <br> 俺は飯を食い終わったあとも、食卓でテレビを眺めていた。兄貴は早々に自室にひっこんでいて、俺はひとりで買い物に行く両親を見送った。安っぽいドラマに飽きた俺も、まもなく2階の自分の部屋に戻った。悲劇はこのあと起こったわけだ。 <br> 何時間か経った午後3時、俺は小遣いで買っといたプリンを食べようと、2階からキッチンへ降りてきた。さあ食べようと冷蔵庫を開け放ったんだが、確かに2段目に入れといたはずのプリンがない。中を隅から隅まで探したが、ない。そこで横のゴミ箱を見ると、なんとプリンの空容器が捨ててあったのさ! <br> それを見て幼き俺は愕然として落涙、この世の不条理を嘆いた……わけじゃあない。正直あんまショックは受けなかった。プリン大好きってわけじゃないし、小遣いは十分貰ってたから惜しくもなかった。たかがプリン1個くらいで家族を詰るような、狭量な男じゃなかったんだ、俺は。 <br> だが、ここで一つ疑問が残った。誰がプリンを食べたのだろう? 容器はゴミの上の方にあり、俺が昼飯のときにこぼしたレタスよりも上にある。加えて、昼飯のあとに俺は食卓にいた。その時にプリンを食べているやつがいれば、さすがに気づく。つまり、プリンが食べられたのは、俺がこの食卓を離れた後ということだ。しかし、両親は買い物からまだ帰ってきていない。なら、親が食べたのではない。そして、兄さんは珍しいことにプリンがとても苦手なんだ。食べるなんてこと絶対にあり得ない。今日は客も一切来ていない……。 <br> そこまで考えたところで、自分が無駄な思考をしていたことに気づいた。落ち着いて考えれば、答えは歴然じゃあないか……。 </font>
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