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「
古民家カフェの惨劇
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==狩人== 建物の北側の庭。耳栓を外し、カフェの壁と崖に挟まれたところに転がる三つの骸を眺める。散弾に貫かれた人体が、雑巾のように醜くべしゃりと落ちている。流れ出す血が、土に染みこみきらずに赤黒く溜まっていた。 <br> 愉しい。 <br> 俺は確かに悦楽を感じていた。恐怖に震え、逃げようともがく人を殺すのは、とんでもなく楽しい。 <br> 思いきり笑い出したいような愉快な気分だったが、あまり浮かれすぎてはならない。つとめて冷静になろうと、俺は顔を撫でた。 <br> さっきは思わず興奮してしまい、つい見境なく撃ってしまった。逃げた先に敵がいると気づいたときのあの狼狽えよう、本当に面白かった。木戸の中にも人が見えたものだから、ついつい狙ってしまった。反省しなくては。 <br> 弾も節約しなくてはならない。この銃は親父の家からかっぱらってきたものだ。自分の銃の管理が悪くて大勢が死んだのだから、事が済んだあとであいつはさぞ苦しむだろう。そう考えるのも愉快だ。しかし、弾は少なかった。全員を射殺するには少々心許ない数だ。だから、無駄撃ちはしないようにせねばならない。 <br> 今、死ななかった奴らは橋の方へ逃げているだろう。逃げ道はそこしか無いと思っているのだから、当然だ。だが、俺はあえてそこに背を向け、ゆっくりと庭を奥の方に歩いていく。急ぐ必要はない。逃げ道は一つも無いのだから。絶望する時間をたっぷり取ってやるのだ。想像通り、後ろの方から悲痛な叫び声が聞こえてきた。 <br> 建物の後ろに回り、開け放たれた木戸から大部屋の中を覗く。ここにも死体が三つ。生きた人の姿は無い。ふと廊下への襖を見ると、左の方、つまり北廊下への襖が開いているのに気づいた。中央のものが開いているのは、あのジジイ──名前は確か中村だったか──が開けたのだから、当たり前だ。しかし、全員が庭に逃げると思っていたから、廊下に逃げた者がいたのは意外だった。よく考えてみれば、木戸の奥にいたあの男、あいつは北廊下にいたのだから、あいつかもしれない。あのガキは上原か。さっきで殺せていればいいんだが。 頭に例のリストを思い浮かべる。準備段階で、野崎に電話で聞いておいたものだ。こちらの意図には微塵も気づかず、簡単に招待客の内訳を語ってくれた。そのリストから、討伐が完了した名前に線を引いて消していく。 <br> 野崎綾子、中村悟、今村晴未、福田浩二、望月健吾、西尾優香、斎藤健一郎 <br> とりあえず7人。順調順調。減りが早くて淋しいくらいだ。もう少し歯応えがあってもいいのに。 <br> 俺はのんびり建物を周っていく。庭は土が剥き出しで、植え込みの類はない。谷底へ落ちている三辺は、橋があったところ以外、胸の高さほどの転落防止用の木柵で囲われている。その柵と建物の壁との中間くらいをゆっくり歩いていく。角を回ると、橋の袂に集まる人影が見えた。携帯を手にして悪態をついている者もいる。 <br> 彼らは、携帯がなぜか圏外になっていて狼狽えているだろう。原因は、車にある通信妨害装置だ。半径150メートルに妨害電波を飛ばし、通信を不能にする。そこそこ値が張ったが、それだけあって役目はしっかり果たしているようだ。ここは、完全に孤絶している。 <br> その時、一人がこちらを振り返り、悲鳴を上げた。恐慌は一瞬で伝播し、全員が建物の陰へと駆け出した。狙撃しようかとも思ったが、さすがに距離がある。俺は慌てず、耳栓をはめ直し、銃を構えて近づいていく。建物と柵の中間、土を踏む足裏の感覚だけが伝わってくる。橋の袂には誰もいない。建物の角が近づいてくる。 俺は一気に飛び、角の向こうに躍り出た。壁際、幟の後ろに人影。しかし、着地で銃口がぶれ、狙いを定めるのに一瞬遅れる。ズドンと発射された散弾は幟を貫き、いくつかの人影はそれより早く飛び出してきていた。 <br> 3人。素早く先台をスライドさせつつバックステップを踏む。3人の男は左右に散開してあっという間に迫ってくる。左に二人、右に一人。次弾の装填は間に合わないか。 <br> 男たちは手を伸ばして掴みかかってくる。その手が体に触れる直前、横にした銃を思いきり突き出した。左の男はもろに口で受け、折れた前歯が飛んでいく。右のやつは腕で受けたが、叫んで飛び退った。発砲直後の鉄の銃身に触れたのだ。一瞬で皮膚が焼ける。 <br> そのまま銃身を左に振る。後ろのやつには当たって悲鳴を上げさせたが、前の男はしゃがんでかわした。そのまま胴に組みついてくる。俺は男の鳩尾に左膝蹴りを叩き込んだ。ごえっと喉を鳴らして体がくの字に折れ、男の手が緩む。俺は右手を伸ばして男のベルトを掴んだ。そのまま体を捻り、男の体を持ち上げる。男が慌てて手を伸ばすより早く、俺は思いっきり男を放り投げた。放物線を描いた男の体は柵を軽々と越え、悲鳴と共に崖下へ吸い込まれていった。 <br> その時、後ろから体当たりされた。ダブルタックルを食らい、体勢を崩される。身をよじって仰向けに地面に倒れ込む。二人の男が覆いかぶさり、拳を顔に振り下ろしてくる。左腕一本でそれをいなすと、右のやつに右アッパーを食らわせた。拘束が一人ぶん解けると同時に、両脚を折り畳んで足裏を左のやつの腰に当てる。俺は両手を肩の後ろについて背中を丸め、両腕両脚を一気に伸ばして逆立ちした。足裏に乗せられた男の体が、後方にふわりと舞い上がる。さすがに飛距離は伸びず、男はうわあと情けない声を上げて顔から柵にぶつかった。 <br> 逆立ちの状態から足を下ろし、這いつくばっているもう一人の男に手を伸ばす。上がった彼の顔を両手で掴み、一気にひねった。パキリと頸椎が折れる音が響く。手を離すと、男は力なく地面に崩れ落ちた。 <br> 振り返ると、柵にぶつかった男は鼻血を垂らしてようやく起き上がったところだった。男は倒れた仲間を見て蒼ざめ、背負った鞘から刀を抜いている俺を見てもっと蒼ざめた。 <br> 彼はくるりと体の向きを変えて逃げ出したが、俺は三歩で間合いを詰めた。ずしりと重い刀を、男の首めがけて振る。固い感触があって刃は止まったが、間をおかずに刀身を引く。男の首から赤い鮮血がほとばしった。そのまま前のめりに倒れ込む。僅かに土埃が舞って、血の池が広がっていく。 俺は一歩下がって息を整えた。血を軽く拭ってから刀を鞘に戻し、落ちている銃を拾って弾を籠める。辺りに人の気配はしない。他の人間は皆、屋内に逃げ込んだのだろうか。 <br> 少し無理に動いたせいで、右の二の腕を痛めたようだ。だが我慢できないほどではない。 <br> 西尾司、野崎徹、工藤健一 <br> 合計10人。中間地点突破だ。
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