「
帝国主義のパパイヤ
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===MIMCの陥落=== MIMC本部の知能スコア検査で満点を叩き出したパパイヤは、すでにその異常な学習能力をもって拡張脳波検出機の仕組みを完全に把握していた。パパイヤが興味を示したのは、そこに使われている人口音声スピーカーだった。この音声生成のシステムに内蔵される、感情パラメータの検出によって自然な読み上げを行う機能を利用することを思いついたパパイヤは、即座に殺意ハイテンションになって自身の感情性を殺害方向に極端に大きく検出させ、人口音声スピーカーから死の音声を生成させることに成功し、周囲の検査官6人を殺害した<ref>むろんパパイヤに聴覚はないので、パパイヤ自身は死ななかった。</ref>。この後、パパイヤはスピーカーの振動によって施設内を這い回り、計81名の従業員を殺害したところで、MIMC内部保全実行委員の策略によって二階の「レクリエーション室」に閉じ込められた。このときの状況を、元MIMC内部保全実行委員のホセ=カリンジは著書の中でこう回顧している。 <blockquote>サイレンが鳴って、俺のスキン・デバイスには「すぐさま武器を取り出して二階へ向かえ」と表示された。実際、あの組織には敵が多かったから、こんなことは日常茶飯事だったし、GUから内部保全部隊に支給されたエネルギー放射機銃にかかれば、いつも世間知らずの襲撃者たちは俺達の前で肉体の形を数分と留められなかった。だからこのときも、俺はこの司令を恐ろしいとも思わず、さっさと二階に上がっていったんだ。そこで――奇妙に思った。あちこちに転がっているスタッフの死体に、外傷がないんだ。化学兵器や放射線は検出されていない。なら、これは何なんだ? ――その思考が凍結した一瞬、俺は何か、バイブレーションのようなものと、「声」を聞いた気がした。振り向くと、そこには黄色いパパイヤがいて、俺はなぜか、そいつが悪魔のような笑みを浮かべていると思った。そして、「声」をもろに聞いてしまったんだ。それは、何百人もの子供が集まって、全く同じ周期で、一斉に鋭い笑い声を上げているような、とにかく徐々に大きくなって、俺の耳から脳みその中に入ろうとしてくる――まるで、そう、昆虫のような体つきで耳をこじ開けようとしてくる、狂った響きだった。そのまま意識を失いそうになったところで、やってきた仲間の一人がとっさに俺の耳のすぐそばで拳銃をぶっ放してくれて、なんとか助かったんだ。聴力を一時的に喪失した俺は、そのまま情けない声を上げて、階段を落っこちるようにその場を逃げ出した。今でもあのパパイヤの汚い黄色が脳裏にこびりついて取れないよ。</blockquote> 「死の声」は大きな脅威であったが、振動によって這って動くパパイヤは、機動力に弱点を抱えていた。MIMCは光学迷彩装甲を改造し、即席の「ノイズキャンセリングスーツ」とエネルギー放射機銃P-72を装備して、物量によってパパイヤを退避に転じさせ、防音室であるレクリエーション室に閉じ込めることに成功した。マルマジカ=ディアスの証言によれば、このときパパイヤはすでに獲得的な「進化」を遂げつつあり、振動による動きはバッタのように俊敏なものになっていたという。かくして窮地に陥ったパパイヤだったが、このレクリエーション室で彼は偶然にも、最大の協力者を手に入れることとなる。MIMCの「精神感応活性化実験」「透視・精神念写<ref>実際にイメージを紙上に出現させる「念写」とは異なり、イメージを人の意識に出現させるものである。</ref>活性化実験」など、ほとんどすべての実験に対して「第一級適合者」となったMIMCの最高傑作、'''メリンダ=シャンドリエ'''である。早くから安楽死を法的に認めていたオランダ王国の中で、彼女はありふれた安楽死希望者だった。彼女を特別にしたのは、その顕著な薬剤耐性である。医師による致死薬の投与を{{傍点|文章=耐え抜いてしまった}}後、彼女は戸籍上死亡していることを形だけの根拠にして人権の保持を否定され、秘密裏に計82種類の致死毒を投与するプロジェクトの被検体となった。この3年の試用期間を経て、高い程度の不死性が証明された彼女の身柄は、MIMCに購入され、オランダ王立研究室を離れることととなる。後にメリンダはパパイヤとの出会いをこう述懐している。 <blockquote>彼はまさに、私の王子様でした。あのとき、得体の知れない薬品によって変調させられていた私の精神にとって、この世界は茶色いマッシュルームの群れのように見えていました……ああ、おぞましい。思い出したくもありません。しかし、そのくすんだ茶色で粉吹きの世界に、彼は金色の輝きをまとって現れたのです。私はテレパシーを使えましたから、彼に話しかけることができました。「王子様、ここから出して!」と。彼はちょっと驚いたようでしたが、すぐにこう言いました。「もちろんさ、プリンセス・エスパー。とはいえ僕もピンチだ。二人で協力しよう」 こうして彼は、私の手枷や目隠し、その他32箇所の拘束具を振動で破壊してくれました。自由になった私はその日、たぶん人生で初めて笑いました。何せ窓の外の廊下には、あれほど憎かった検査官たちが{{傍点|文章=なんの変哲もなく}}死んでいたんですもの。そして、自分に与えられた力に、はじめて感謝しました。手枷にねじ止めされた鉄のサックさえ無ければ、壁越しの人間を狂気に陥れてしまうことでさえ、私の精神念写には容易いことなのです!</blockquote> パパイヤに解放されたメリンダが、レクリエーション室周辺に詰めかけていた内部保全実行委員たちにパパイヤの「死の声」の幻覚を与えると、集団はパニックに陥って崩壊し、四方八方に散った。パパイヤとメリンダはその隙にレクリエーション室を脱出し、メリンダの透視能力の手引でMIMCの「活性化実験」に用いられている他の安楽死手術の同意者たちを次々に解放していった。こうして、パパイヤ最初の殺人から1時間29分後、パパイヤらはMIMC本部の主要三施設<ref>総合データセンター、拡張室、内部保全指揮室(モニタールーム)。</ref>を完全に掌握することに成功した。
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