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サリンドの共鳴
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==資料== ・[[メディア:サリンドの共鳴音.mp3|サリンドの共鳴音を簡易的に再現した音声]] {{vh|vh=90}} <span style="font-size:200%">真実</span> ---- 俺たちは、日々の暮らしに倦んでいた。少子高齢化と膨れ上がる借金で、国の未来はない。世界全体でも、地球温暖化は止まるどころか加速し続けている。声高に改革を叫ぶヤツもめっきり見なくなった。そう、人間は滅ぶんだ。そして俺たちはそれを受け入れていた。 そんな時、あいつらが来た。人類が築き上げた技術の、何十倍、いや何百倍のそれを持って。世界は、久々に危機感を共有した。俺たちも、引導を渡すやつらが現れたかと、怯えたよ。 でも、違った。あいつらは、俺たちを小動物としか思ってなかった。人間がチワワを見るように、あいつらは人間を見ていた。侵略目的とかではなく、純粋な好奇心と慈しみを持ってあいつらは人間に接した。一気に、こちらの緊張は解けた。その原因には、戦うというレベルにも至らないくらいの技術力の差もあったが。 あいつらが敵でないと、上位存在だと判った俺たちは、また急速に倦んでいった。強大な敵を前に全人類が一致団結することもない。結局、俺たちは今までと変わらずゆっくりと滅んでゆくのだ。 そんな雰囲気だから、あいつらが近くの人間を採集し始めたときにも、特段恐れは感じなかった。解剖されるのか、実験台にされるのか、それとも食われるのか。どうなるかは知らないが、どうせ近いうちに皆死ぬ。やがて、俺が採集される番がやってきた。 どのくらい寝ていたか知らない。いや、寝ていたかすら定かでない。気づくと、俺はあいつらと暮らしていた。整った温度の家、定期的に与えられる水と餌、心地良い寝床、そして俺を愛でるあいつら。すぐに気づいた。俺はこいつらのペットなのだと。 しかし、その生活は悪くなかった。むしろ、良いとさえ言えた。何もせずとも安定して生きられる。明日の食事にも、早急な改革の必要にも、文明崩壊のカウントダウンにも、悩まされなくていいのだ。そう、俺たちは倦んでいたから。 そうして幾許かの時間が経った。その日、俺はいつも通りぼーっとして餌の時間を待っていた。突如、耳に懐かしいフレーズが飛び込んできた。思わず音の方を見ると、あいつが白い腕を蠢かせて同じ旋律を奏でた。生まれてから幾度も、幾度も聞いてきた旋律。嫌いなヤツもいたが、紛れもなく俺たちの誇りを示した唄。 いつの間にか、俺は大声でその唄を歌っていた。すると、壁の向こうから別のやつの歌声が聞こえてきた。構わず歌い続けていると、どんどん歌声は膨れ上がっていく。ふと、涙が溢れた。みんな、そこにいた。俺たちは、一つだった。 泣きながら俺たちの国歌を何度か合唱しているうちに、俺たちの心には一つの想いが込み上げてきた。こんな生活でいいのか。愛玩動物に甘んじていいのか。どんなに未来が暗かろうと、それに屈していいのか。俺たちの誇りは、こんなものだったのか。 否 いつしかそう叫んでいた。そこにいる、みんなに。俺たちに。みんなの意志は、確認せずとも判った。俺たちはもう、倦んでなどいなかった。もし実行すれば、俺たちは処分されるだろう。でも、俺たちの尊厳を取り戻すには、こうするしかない。 やるぞ また会おう そう叫ぶと、みんなの応えが轟音となって返ってきた。 誇りを。俺は吠えながらあいつに向かっていった。 {{foot|ds=さりんとのきようめい}}
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