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比尾山大噴火
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===大火砕流=== 噴煙柱を形作っていた大量の火山噴出物は、大火砕流となって四方八方に流れていった。ほぼ360°に広がり、時速100km以上であらゆるものを焼き尽くしていった。高さ100m近い灰神楽が猛スピードで迫ってくるのは圧巻じゃったのう。灼熱の灰に包まれ、皮膚が、髪が、喉が燃え上がるのは良い気分じゃないが。こんな経験を一体何万回させられたか。記憶にしかすぎないとわかってはいるが、さすがに応えるわい。<br><br>高崎の小村では、雪が降ったんで子供たちが雪遊びをしとったのう。子供は風邪をひかんと大人たちは笑っておったわい。じゃが、あの爆発音が聞こえ、空気は一変した。尋常じゃあない噴火が西の方角に見え、長老の決断で避難することにしたんじゃ。その時じゃった。轟音とともに木々を呑み込む巨壁が見えたのは。逃げ惑う人々のところに火砕流はあっという間に到達した。家に駆け込み柱の陰に隠れた者も、足がすくんで動けんまま火砕流を見つめていた者も、我が子を抱きかかえてその場にうずくまった者も、皆焼き尽くされた。村は、全滅じゃった。<br><br>駿河の富士山麓の村にはある家族が住んでおった。彼らの家からは、噴煙は富士のわずかに左に見えた。40分後、こちらへ駆ける火砕流が見えた。周りが畑ばかりで見通しが良かったことが幸いじゃった。火砕流の恐ろしさは[https://ja.m.wikipedia.org/wiki/貞観大噴火 大昔の富士の噴火]の話からよくわかっておった。家族は富士の陰に隠れることにした。夫婦と、夫の両親、2人の息子と1人の娘の計7人は懸命に走った。しかし、高齢の2人は段々遅れていったのじゃ。他の5人が富士の陰に入ったとき、夫の両親は50mほど離れた位置にいた。夫は、妻と子供にここに居るよう言い含めると、両親を助けに走った。その2秒後、火砕流が襲った。夫の両親は一瞬で灰に呑まれて見えなくなった。夫は歯を食いしばり、戻ろうと踵を返した。その時、火砕流が富士山の峰を越えて襲ってきた。峰は火砕流を防げるほどまだ高くなかったんじゃ。しかし、火砕流は峰にある小さな峠で割られた。2つの流れは夫の左右にわかれ、悲鳴を上げる妻と子供たちを焼き、呑み込んだ。夫は、左右を塞がれ、その場で絶叫するしかなかった。その直後、峰が轟音とともに崩れ、土砂と火砕流が夫に迫っても、彼はもう逃げようとはせんかった。<br><br>能登半島の鹿島では、海で一艘の漁船が漁をしておった。それには男とその息子が乗っておった。噴火が起こったとき、彼は身の危険は感じなかった。しかし57分後、地平線の彼方、富山湾を挟んだ陸に大きな灰色の壁が見えた。彼はそれが何かわからんかった。しかし、着々と近づいてくるそれに本能的に恐怖を抱いた。じゃが、何かは知らぬが、間に海がある限り案ずることはないと漁を続けようとした。そこで息子が叫んだ。海を渡ってくる、と。彼らは知る由もなかったが、火砕流は非常に軽いため、水上をも進むのじゃ。あわてて男は船を岸に向けた。じゃがもう遅く、巨大な火砕流が船に迫った。男は咄嗟に海へ飛び込んだ。男は水中から、息子を乗せたままの船が砕かれ流れに呑まれるのを見た。すると、水が急激に熱くなってきた。男は、あれは炎の流れなのだと悟った。男は水を蹴り、深く潜った。じゃが、海面上の流れは全く終わらず、水は煮えていくばかりじゃった。男は、息子のように即死せんかったことを後悔しながら、徐々に苦しくなってきた体で更に深く潜っていくのじゃった。<br><br>この火砕流は半径100kmを灼き尽くした。山の陰にいた者などのわずかな例外を除いて、この範囲の人々は皆死んだ。まさに未曾有の大災害じゃった。これによる死者は、'''52万3359人'''。火砕流は広大な土地を、家々や人々の死体とともに埋めた。
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