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Sisters:WikiWikiリファレンス/開いた口が塞がらない状態における日本語の音韻解明
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=== 第3章 検証と考察 === ==== 第1節 考察の流れ ==== この研究では,音声学の観点から,開いた口が塞がらない状態の日本語の変化,主に発音と表記について考える。音声学とは,人間による音声について研究する学問であり,ここでは音声学の中でも「発音」を主とする分野である調音音声学に基づいていく。 まず発音について,ここでは「単音」,つまりそれぞれ一つずつ絶対的に存在する音声に着目して考えていく。つまり,例えば「あっかんべー」という文字列を「[ä]/[kː ]/[ä]/[m]/[b]/[e̞ː ]」と区切って,それぞれの音の特徴などを踏まえ,開いた口が塞がらないことによる影響を考えるということだ。 そして表記について,ここでは「音素」,つまりある言語において同じものであるとされる音声の集合に着目して,変化した発音を日本語として捉え直していく。例えば,文字列「アンパン」について,音声として捉えれば,実際には違う音([ä'''m'''pä'''ɴ'''])であるにもかかわらず,日本語では二つの「ン」は同一と見なされる(/a'''ɴ'''pa'''ɴ'''/)。これが音素の特徴であり,これによって日本語には本来存在しない音声をも日本語で表すことができるのである。 また,日本語には,「モーラ」と呼ばれる音の単位が存在する。これは「拍」とも言い換えられ,単独で音節をつくる「自立モーラ」と,単独で音節をつくれない「特殊モーラ」の二種類が存在する。日本語における自立モーラには,「あ」「か」等の直音と,「きゃ」「くゎ」等の拗音<sup>*1</sup>があり,特殊モーラには促音「っ」,長音「ー」,撥音「ん」がある<sup>*2</sup>。ここで日本語話者が注意すべきであることは,特に特殊モーラに関して,これらは必ずしもある一つの音声と対応しているわけではないということだ。例えば促音は,実際には長子音(長く発音される子音)の前半を切り取って1モーラとしたものであり,単独で音声を表すことはない。このように,あくまでも開いた口が塞がらない状態における一方的な日本語の変化を考えることには,音素やモーラのような特定の言語(ここでは日本語)の話者の間に共通する概念ではなく,確固たる表記基準を持つ「単音」を中心に考えていく。 では,母音と子音,そしてそれらの弁別要素から音声を分類し,発音と表記についての,開いた口が塞がらない状態における影響について考えていく。 *1…子音が口蓋化(舌の前面を口腔内の上部に近づけて調音する音になること)または円唇化(唇を丸めて調音する音になること)されていて,かつそれに対立する,子音が口蓋化も円唇化もされていない直音が存在するもののことである。例えば,拗音の「しゃ」は直音の「さ」と対立する口蓋化した音である。しかし,開いた口が塞がらない状態においては,口蓋化も円唇化も自然に発声することはできないため,拗音と直音の対立は消失し,これによって直音と拗音という2つの概念も消失し,その結果「直音」とされていたもののみが残る。 *2…なお,促音・長音については,それぞれ長子音・長母音の一部であり,開いた口が塞がらない状態でもこれらは存在するため,開いた口が塞がらない場合においても何ら変化はない。 ==== 第2節 日本語の母音 ==== まず,母音とは「調音位置が存在しない音」のことである。つまり,気流(肺からの息の通り道)を一切妨げずに発する音,ということである。日本語の母音には,「あ」「い」「う」「え」「お」で表される5種類が存在している。 音声学上,母音は '''1.唇の形 2.舌の形 3.顎の開閉度''' の3つの特徴によって弁別される。例えば日本語の「あ」の音は,「唇が丸まっておらず,舌が口腔内で中ほどに位置し,顎の開き具合が広い母音」,つまり「'''非円唇中舌広母音'''」のように表される。 ここで,開いた口が塞がらない状態において,これら3つの弁別要素にどのような影響が自然に現れるのかについて,以下のことが考えられる。 # 唇の形→丸まることのない「'''非円唇'''」に限定される。 # 舌の形→開いた口が塞がらない状態でも舌の形は自由であるため,影響はない。 # 顎の開閉度→常に広くなり,「'''広母音'''」および「'''狭めの広母音'''」に限定される。 このことから,開いた口が塞がらない状態における母音は,非円唇かつ広母音および狭めの広母音であるものに限定されるといえるのである。これによって,日本語の母音にどのような影響が現れるのかについて,それぞれ考えていく。 「'''あ'''」は'''非円唇中舌広母音'''([ä])である。非円唇の広母音であって,これが影響を受けることはないため,「あ」は開いた口が塞がらない状況においても,発音・表記ともに変わらない。 「'''い'''」は'''非円唇前舌狭母音'''([i])である。非円唇であるが広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「い」は'''非円唇前舌狭めの広母音'''([æ])として発音され,その発音が本来の日本語のこれと近しいために「'''え'''」として表記される。 「'''う'''」は'''弱めの円唇後舌狭母音'''([ɯ̹])である。弱かれ円唇であり,さらに広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「う」は,'''非円唇後舌広母音'''([ɑ])として発音され,その発音が本来の日本語のこれと近しいために「'''あ'''」として表記される。 「'''え'''」は'''非円唇前舌中央母音'''([e̞])である。「い」と同様に非円唇であるが広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「え」は,「い」と同じく'''非円唇前舌狭めの広母音'''([æ])として発音され,「'''え'''」として表記される。 「'''お'''」は'''円唇後舌中央母音'''([o̞])である。「う」とほぼ同様に円唇であり,さらに広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「お」は,「う」と同じく'''非円唇後舌広母音'''([ɑ])として発音され,「'''あ'''」として表記される。 結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の母音は, * [ä, i, ɯ̹, e̞, o̞]ではなく[ä, æ, ɑ, æ, ɑ]と発音される * 「'''あ/い/う/え/お'''」ではなく「'''あ/え/あ/え/あ'''」として表記される ということができる。 ==== 第3節 日本語の子音 ==== まず,子音とは,「調音位置が存在する音」のことである。つまり,母音とは逆に気流をどこかで妨げて発する音,ということである。日本語では子音を単独で表すことはできないが,強いて言うなら「『か』の頭子音」,「『さ』の頭子音」など,約30種類が存在している。 音声学上,子音は '''1.発声の状態 2.調音位置(気流をどこで妨げるのか) 3.調音方法(気流をどう妨げるのか)''' の3つの特徴によって弁別される。例えば日本語の「か」の頭子音は,「声帯が振動しておらず,軟口蓋(口腔内の上奥にある柔らかい部分)で気流が妨げられ,その妨げの種類が『完全な閉鎖を急に開放するもの』である子音」,つまり「'''無声軟口蓋破裂音'''」のように表される。 ここで,開いた口が塞がらない状態において,これら3つの弁別要素にどのような影響が自然に現れるのかについて,以下のことが考えられる。 # 発声の状態→開いた口が塞がらない状態でも声門に影響はないため,影響はない。 # 調音位置→開いた口が塞がらない状態においては,両唇を近づけての発音や,歯茎や硬口蓋などの一部の調音位置に舌を近づけての発音が自然なものではなくなるため,後舌面(舌の奥の方)での「'''舌背音'''」(「'''軟口蓋音'''」と「'''口蓋垂音'''」),そして「'''咽喉音'''」(「'''声門音'''」や「'''咽頭音'''」など)に限定される。 # 調音方法→特に影響はないが,「'''破裂音'''」に関しては,開いた口が塞がらない状態において声門の閉鎖に比較的時間がかかるため,その分の気流が同じ調音位置から「'''摩擦音'''」となって現れる。このため,破裂音は破擦化し,つまり「'''破擦音'''」となる。 このことから,開いた口が塞がらない状態における子音は,後舌面での舌背音と咽喉音に限定され,破裂音は破擦音となるといえるのである。これによって,日本語の子音にどのような影響が現れるのかについて,それぞれ考えていく。 ===== 第1項 両唇音・舌頂音・硬口蓋音 ===== 両唇音,舌頂音,硬口蓋音とは,簡潔に言えばそれぞれ「両方の唇を使って調音する音」,「舌の先端付近を歯茎などその付近に近づけて調音する音」,「舌の前の方の面を硬口蓋に近づけて調音する音」である。なお,日本語の舌頂音には「歯茎音」,「そり舌音」,「歯茎硬口蓋音」の3種類が存在する。 前述の通り,開いた口が塞がらない状態においては,両唇間を近づけたり,歯茎や硬口蓋の付近に舌を近づけたりする発音は極めて不自然なものとなる。このため,これら3つに分類される子音の調音位置は消失する。そうすると,つまりそれらの音は「調音器官が存在しない音」,すなわち母音に他ならないものになるのである。 なお,このように開いた口が塞がらないゆえに子音が母音となったとき,それは滑らかに異なる母音が変化して一つの母音とされるもの,つまり「'''二重母音'''」となる。このとき,元は子音だった母音の聞こえやすさの方が低くなるため,表記面においては後ろの母音のみでなされると考えられる。 母音の弁別要素は,先述の通り 1.唇の形 2.舌の形 3.顎の開閉度 の3つである。開いた口が塞がらない状態においては,1と2はそれぞれ非円唇,広母音および狭めの広母音に限定されるため,2.舌の形 を重視して母音を識別する必要がある。 では,これに基づき,それぞれの子音が開いた口が塞がらない状態においてどのような母音になるのかについて考えていく。 * '''両唇音''' 日本語の両唇音には以下の5つが存在する。 # '''両唇鼻音'''([m])→「ま/み/む/め/も」や両唇音の直前の「ん」に用いられる。 # '''無声両唇破裂音'''([p])→「ぱ/ぴ/ぷ/ぺ/ぽ」に用いられる。 # '''有声両唇破裂音'''([b])→「ば/び/ぶ/べ/ぼ」に用いられる。 # '''無声両唇摩擦音'''([ɸ])→「ふ」に用いられる。 # '''両唇接近音'''([β̞])→「わ」に用いられる。(稀に「を」にも用いられるが,本来は [o̞] である。) 舌の形についてだが,両唇音の発音に舌の形は関係していないため,それは直後の母音と同じ形になることがいえる。このため,これら5つの子音は直後の母音と同じ形の母音となる。なお,母音は元来有声であるが,もともとの子音の「無声か有声か」という発声の状態の別を考慮して,「無声母音」と「有声母音」に分けられるといえる。さらに,1のような「鼻音」とは,つまり「鼻から発する子音」ということであり,この性質は調音位置を失って母音となるとき「鼻から発する母音」すなわち「鼻母音」と化すという影響を与える。なお,これらはどの子音が調音位置を失って変化したどの母音にも共通する特徴である。 つまり,開いた口が塞がらない状態における両唇音は,直後の母音と同じ形の母音となる。 結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の両唇音について, * [p, ɸ] は [ḁ̈, æ̥, ɑ̥] の中で直後の母音と形が同じもので発音される * 「'''ぱ/ぴ/ぷ/ぺ/ぽ'''」「'''ふ'''」ではなく「'''は/へ/は/へ/は'''」「'''は'''」として表記される * [b, β̞] は[ä, æ, ɑ]の中で直後の母音と形が同じもので発音される * 「'''ば/び/ぶ/べ/ぼ'''」「'''わ'''」ではなく「'''あ/え/あ/え/あ'''」「'''あ'''」として表記される * [m]は[ä̃, æ̃, ɑ̃]の中で直後の母音と形が同じもので発音される * 「'''ま/み/む/め/も'''」ではなく「'''んぁ/んぇ/んぁ/んぇ/んぁ'''」として表記される とのことがいえる。 * '''歯茎音''' 日本語の歯茎音には以下の10つが存在する。 # '''歯茎鼻音'''([n])→「な/に/ぬ/ね/の」や歯茎音の直前の「ん」に用いられる。 # '''無声歯茎破裂音'''([t])→「た/て/と」に用いられる。 # '''有声歯茎破裂音'''([d])→「だ/で/ど」に用いられる。 # '''無声歯茎歯擦破擦音'''([t͡s])→「つ」に用いられる # '''有声歯茎歯擦破擦音'''([d͡z])→語頭や撥音の直後の「ざ/ず(づ)/ぜ/ぞ」に用いられる(例: 税 ['''d͡z'''e̞i]) # '''無声歯茎摩擦音'''([s])→「さ/す/せ/そ」に用いられる。 # '''有声歯茎摩擦音'''([z])→母音の直後の「ざ/ず(づ)/ぜ/ぞ」に用いられる(例: 痣 [ä'''z'''ä]) # '''歯茎はじき音'''([ɾ])→母音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」に用いられる(例: 空 [so̞'''ɾ'''ä] 話者によってはそり舌はじき音で置き換えられる) # '''歯茎側面はじき音'''([ɺ])→語頭や撥音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」に用いられる(例: ロバ ['''ɺ'''o̞bä]) # '''歯茎側面接近音'''([l])→撥音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」にしばしば用いられる(例: 半裸 [hän'''l'''ä]) 舌の形について,歯茎音では歯茎に舌の先端を近づけているが,最も舌が盛り上がっている場所は硬口蓋より少し奥である。なお,歯茎に舌の先端を近づけているということから,顎の開閉度は比較的狭くなることが分かる。よって,開いた口が塞がらない状態における歯茎音は,非円唇中舌狭めの広母音と同じ形の母音となる。 結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の歯茎音について, * [t, t͡s, s] は [ɐ̥]('''無声非円唇中舌狭めの広母音''') と発音される * 「'''た/て/と'''」「'''つ'''」「'''さ/す/せ/そ'''」ではなく「'''は/へ/は'''」「'''は'''」「'''は/は/へ/は'''」として表記される * [d, d͡z, z, ɾ, ɺ, l] は [ɐ]('''有声非円唇中舌狭めの広母音''')と発音される * 「'''だ/で/ど'''」「'''ざ/ず(づ)/ぜ/ぞ'''」「'''ら/り/る/れ/ろ'''」ではなく「'''あ/え/あ'''」「'''あ/あ/え/あ'''」「'''あ/え/あ/え/あ'''」として表記される * [n]は[ɐ̃]('''有声非円唇中舌狭めの広鼻母音''')と発音される * 「'''な/に/ぬ/ね/の'''」ではなく「'''んぁ/んぇ/んぁ/んぇ/んぁ'''」として表記される とのことがいえる。 * '''そり舌音''' 日本語のそり舌音には,この1つのみが存在する。 # '''そり舌はじき音'''([ɽ])→母音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」に用いられる(例: 空 [so̞'''ɽ'''ä] 話者によっては歯茎はじき音で置き換えられる) 舌の形については,ほぼ先述した歯茎音と変わらないのだが,そり舌音の舌の先端を反らすという特性上,「r」のような母音,すなわちR音性母音として発音されることになる。 結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語のそり舌音について, * [ɽ] は [ɐ˞]('''R音性非円唇中舌狭めの広母音''')と発音される * 「'''ら/り/る/れ/ろ'''」ではなく「'''あ/え/あ/え/あ'''」として表記される とのことがいえる。 * '''歯茎硬口蓋音''' 日本語の歯茎硬口蓋音には以下の4つが存在する。 # '''無声歯茎硬口蓋破擦音'''([t͡ɕ])→「ち」「ちゃ/ちゅ/ちょ」に用いられる # '''有声歯茎硬口蓋破擦音'''([d͡ʑ])→語頭や撥音の直後の「じ(ぢ)」「じゃ/じゅ/じょ(ぢゃ/ぢゅ/ぢょ)」に用いられる(例: 地獄 ['''d͡ʑ'''igo̞kɯ̹]) # '''無声歯茎硬口蓋摩擦音'''([ɕ])→「し」「しゃ/しゅ/しょ」に用いられる # '''有声歯茎硬口蓋摩擦音'''([ʑ])→母音の直後の「じ(ぢ)」「じゃ/じゅ/じょ(ぢゃ/ぢゅ/ぢょ)」に用いられる(例: アジ [ä'''ʑ'''i]) 舌の形について,歯茎硬口蓋音は歯茎音と硬口蓋音の中間ともとれるような形であるため,先述した歯茎音は中舌母音,後述する硬口蓋音は前舌母音であることから,前舌め母音の形であるといえる。なお,歯茎から硬口蓋に舌を近づけているということから,歯茎音,硬口蓋音と同様に顎の開閉度は比較的狭くなることが分かる。よって,開いた口が塞がらない状態における歯茎硬口蓋音は,非円唇前舌め狭めの広母音と同じ形の母音となる。 結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の歯茎硬口蓋音について, * [t͡ɕ, ɕ] は [ɐ̟̊]('''無声非円唇前舌め狭めの広母音''')と発音される * 「'''ち'''」「'''し'''」ではなく「'''へ'''」として表記される * [d͡ʑ, ʑ] は [ɐ̟]('''有声非円唇前舌め狭めの広母音''')と発音される * 「'''じ(ぢ)'''」ではなく「'''え'''」として表記される とのことがいえる。 * '''硬口蓋音''' 日本語の硬口蓋音には以下の3つが存在する。 # '''硬口蓋鼻音'''([ɲ])→「に」「にゃ/にゅ/にょ」に用いられることがある。硬口蓋音の直前の「ん」に用いられる。 # '''無声硬口蓋摩擦音'''([ç])→「ひ」「ひゃ/ひゅ/ひょ」に用いられる。 # '''硬口蓋接近音'''([j])→「や/ゆ/よ」に用いられる。 舌の形について,前舌母音の形になるといえる。というのも,そもそも前舌母音は舌が硬口蓋に近い母音であるというように定められているためである。なお,硬口蓋に舌を近づけているということから,顎の開閉度は比較的狭くなることが分かる。よって,開いた口が塞がらない状態における硬口蓋音は,非円唇前舌狭めの広母音と同じ形の母音となる。 結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の硬口蓋音について, * [ç, j] はそれぞれ [æ̥, æ]('''無声・有声非円唇前舌狭めの広母音''')と発音される * 「'''ひ'''」「'''や/ゆ/よ'''」ではなく,それぞれ「'''へ'''」,「'''えぁ/えぁ/えぁ'''」として表記される ** ヤ行の頭子音は半母音であり,さらに同じく頭子音が半母音である「わ」と違って,半母音である硬口蓋接近音が持続された母音である「い([i])」は開いた口が塞がらない状態で「え([æ])」となり,これは「あ([ä, ɑ])」とは異なる発音であるために,開いた口が塞がらない状態で発生する二重母音としては例外的に前の母音の聞こえやすさが比較的高くなるため,表記面においても「あ」と違う「えぁ」で示せるといえる。 * [ɲ] は [æ̃]('''有声非円唇前舌狭めの広鼻母音''')と発音される * 「'''に'''」ではなく「'''んぇ'''」として表記される とのことがいえる。 ===== 第2項 軟口蓋音・口蓋垂音・声門音 ===== 軟口蓋音,口蓋垂音,声門音とは,簡潔に言えばそれぞれ「舌の奥の方の面を 軟口蓋/口蓋垂 に近づけて調音する音」,「声帯を使って調音する音」である。 前述の通り,開いた口が塞がらない状態は,調音位置が消失して母音となる子音がしばしば存在するが,これらの音は舌の奥の面によって,またはさらに奥の調音器官を使って調音されるため,開いた口が塞がらないことによる調音位置への影響を受けないのである。このため,ここでは調音方法に着目しながら,それぞれの子音が開いた口が塞がらない状態においてどのような影響を受けるのか考えていく。 * '''軟口蓋音''' 日本語の軟口蓋音には以下の4つが存在する。 # '''無声軟口蓋破裂音'''([k])→「か/き/く/け/こ」に用いられる # '''有声軟口蓋破裂音'''([ɡ])→語頭や撥音の直後の「が/ぎ/ぐ/げ/ご」に用いられる(例: ゴザ ['''ɡ'''o̞zä] 撥音の直後では,話者によっては軟口蓋鼻音で置き換えられる) # '''軟口蓋鼻音'''([ŋ])→語中の「が/ぎ/ぐ/げ/ご」や軟口蓋音の直前の「ん」に用いられる(例: サンゴ [sä'''ŋ'''o̞] 語中・撥音とその直後では,話者によってはそれぞれ有声軟口蓋摩擦音・撥音と有声軟口蓋破裂音で置き換えられる) # '''有声軟口蓋摩擦音'''([ɣ])→語中や母音の直後の「が/ぎ/ぐ/げ/ご」に用いられる(例: アゴ [ä'''ɣ'''o̞] 語中では,話者によっては軟口蓋鼻音で置き換えられる) * '''口蓋垂音''' 日本語の口蓋垂音はこの1つのみが存在する。 # '''口蓋垂鼻音'''([ɴ])→語尾や,単発の場合の「ん」に用いられる。 * '''声門音''' 日本語の声門音にはこの1つのみが存在する。 # '''無声声門摩擦音'''([h])→「は/へ/ほ」に用いられる。 先述した通り,開いた口が塞がらない状態において破裂音は摩擦音を伴い,破擦音となる。しかし,これ以外のいかなる調音方法にも影響を及ぼさない。よって,開いた口が塞がらない状態における日本語の軟口蓋音,口蓋垂音,声門音では,破裂音が破擦化するのみである。 結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の軟口蓋音,口蓋垂音,声門音について, * [k, g] はそれぞれ [k͡x, ɡ͡ɣ]('''無声・有声軟口蓋破擦音''')と発音される * 「'''か/き/く/け/こ'''」ではなく,「'''くは/くへ/くは/くへ/くは'''」として表記される * 「'''が/ぎ/ぐ/げ/ご'''」は,有声軟口蓋破擦音が用いられる場合は「'''ぐが/ぐげ/ぐが/ぐげ/ぐが'''」として表記され,それ以外が用いられる場合では表記は変わらない * [ŋ, ɣ, ɴ, h] は,発音は変わらず,表記は母音のみが変わる とのことがいえる。
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