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利用者:Notorious/サンドボックス/コンテスト
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===遍歴=== <ruby>志仁田<rt>しにた</rt></ruby><ruby>少女風<rt>がーりー</rt></ruby>は、死にたがっていた。その理由は定かでない。親子関係の不和とも、学校でのいじめとも、ただぼんやりした不安とも言われている。 他の「死にたい」と言っている多くの人とは異なり、志仁田は自殺を試みた。それも繰り返し。しかし、志仁田は死ななかった。それは土壇場で怖気づいたとか、他の人に助けられたとかが原因ではない。志仁田は不可抗力によって自殺に失敗したのである。 16歳の頃、志仁田は初めて自殺を試みた。手段は、オーソドックスな飛び降りであった。志仁田は近くの大型スーパーに赴き、駐車場となっている屋上にのぼった。そして、三階相当のそこから、アスファルトの路面へと落下した。叩きつけられた瞬間、志仁田は「これは死んだろ!」と内心快哉を叫んだが、快哉を叫べるということは生きているのだと気づき、落胆した。志仁田は見事飛び降りたが、しかし志仁田の身体は頑強すぎて傷ひとつ負っていなかった。念のため搬送された病院の13階相当の屋上から、翌日飛び降りてもみたが、結果は変わらなかった。 次に、志仁田は首吊りを試した。ホームセンターで買った麻縄を家の梁に結わえ、作った輪っかに首を通した。椅子を蹴ったはいいものの、一向に苦しくならないことに志仁田は気づいた。期待を込めて30分ほどその姿勢を維持してみたものの、帰宅した母に「あんた何してんの?」と言われただけだった。志仁田の首は堅固すぎて頸動脈も気道も締まらなかったのだ。仕方なく麻縄を取り、これどうしようか、捨てようかな、いやいつか使えそうだな、とっておくか、と思って縄は志仁田の家の片隅に置かれ、以来一度も使われていない。 その後、志仁田はカッターナイフで手首を切ろうとした。風呂に入るついでにカッターを持ち込み、浴槽の上に掲げた手首に刃を当てた。しかし、志仁田の手首は頑丈で刃は通らなかった。押し引きしたり叩きつけたり数分格闘してみたが、どうしようもなさそうなので、ついでとばかりにカッターで腕の産毛を剃って、志仁田は風呂を出た。出るのが遅いと母に言われ、少し申し訳なく思った。 17歳の夏、志仁田は溺死を試みた。近所の川に出かけ、両手両足を紐で結んだのち、芋虫みたいに身をよじってどうにかこうにか橋の欄干を乗り越えた。水中に体が沈み、じきに息が持たなくなる。数分のうちにたまらず水を吸い込んでしまい、志仁田は「これは逝ける!」と思った。しかし、鼻が異物を排除しようと反射的に咳を行い、ものすごい勢いで水を噴出した。すると一帯の水が吹き飛び、息ができるようになってしまった。数十秒待つと川の上流からまた水が流れてくるが、強靭な肺機能のせいで同じことしか起こらなかった。なお、周辺の家の洗濯物が多く濡れ、志仁田は母に痛烈に叱られた。 その次は、オーバードーズを試してみた。志仁田は父がかつて使っていた睡眠薬をこっそり持ち出し、食卓にて二瓶を一気に飲み下した。しばらくして猛烈な嘔気と睡魔に襲われ、志仁田は「今度こそ死んだな」と朦朧とする意識のなか思った。しかし、近所に住む幼馴染・<ruby>品瀬<rt>しなせ</rt></ruby><ruby>琢内<rt>たくない</rt></ruby>が謎の虫の知らせを感じ、志仁田宅へ飛び込んできて、催吐、胃洗浄、迅速な通報など、超絶適切な処置を施した結果、志仁田はことなきを得た。病院で意識を回復したあと、品瀬から何か色々言われたが、志仁田は次の自殺方法に思いを巡らせていた。 これ以降も、志仁田は幾度も幾度も自殺に挑戦した。トラックの前に飛び込んだが車体がひしゃげて運転手が病院送りになり、包丁で喉と目を突いたが刃が欠けたので母に小言を言われる前に研ぎ、目張りして練炭を焚いたが飛んできた品瀬に窓をぶち割られ、高層ビルの屋上から飛んでみるも地面に小さなクレーターができただけに終わり、はしか患者が集まる隔離病棟に乱入し深呼吸を繰り返すも激つよ免疫が病原体を抹殺して発病に至らず、海へと飛び込んでみるも川同様に水を吹き飛ばしてしまいモーセの海割りならぬ志仁田の海穿ち(間欠的)を披露してしまい、近所の爺さんの物置からパクった農薬を飲むも一秒も経たないうちに品瀬が窓を砕いて現れ最強手当てをし、その窓ガラスの破片で太腿の動脈を切ろうとするも硬い皮膚に阻まれ、そのまま病院へと速やかに送られた。このように、志仁田は自殺に失敗し続けた。しかし、やがて転機が訪れる。 長径11km、短径9kmの紡錘型をした小惑星89112E。それがまもなく地球に衝突するというニュースを志仁田がテレビで見たのは、志仁田が17歳の年末だった。人々の混乱を予防するため、各国政府は衝突一時間前にその知らせを発表したという。衝突予測地点は、ちょうど志仁田の家の近所だった。志仁田は喜び勇んで衝突地点へと向かう。その途中、向かいの家から出てきた品瀬が涙ながらに何か話しかけてきたが、自分は志仁田の替え玉であり志仁田本人は隣町の川辺で毒を飲んでいるという旨の嘘をつくと、品瀬はあっという間に隣町へとすっ飛んでいった。志仁田は万全の構えで衝突地点に仁王立ちし、上空の煌めく光点が落ちてくるのを待った。そして二十分後、耳をつんざく轟音と目を潰すほどの閃光とすべてを灼くような熱とともに隕石が落ちてきた。志仁田は注意深く隕石の真下に立ち、衝突の直前には念のためちょっとジャンプまでしてみた。 小惑星は志仁田に衝突した。そのエネルギーの莫大なあまり、無数の破片に小惑星は砕かれて飛び散った。破片は360°全方位に四散したが、そのどれもが第一宇宙速度に達し、すべての破片は高度2mのところをぐるぐると回り始め、[https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ダイソン球 ダイソン球]みたいになった。一方の志仁田は頭が痛くクラクラし、「これはもうちょっとで逝ける!」と心が昂った。そんな中、ダイソン球のごとく破片が上空を飛び回っているので、志仁田は次々とジャンプして頭をぶつけ、その衝撃で破片は粉微塵になり、志仁田は衝撃の微細さに不満を覚えた。結局破片がすべて志仁田によって粉にされるまで丸2日かかり、それまで地球の人々は腰をかがめて過ごすことを余儀なくされた。志仁田は最初の衝突と二日寝ずにいたことによって頭がめちゃくちゃ痛み、「死ねる!」と思いながら意識を失ったが、約13時間後に目を覚まし、その時には多少首が痛む程度だった。なお、その間中、品瀬はずっと志仁田を探して隣町を彷徨していた。やがてテレビニュースで隕石衝突を阻止したヒーローとして志仁田が映っているのを見、目を覚ましたばかりの志仁田を号泣しながら手当てした。 こうして志仁田は最良の機会を逸し、自殺成功の望みを失った。もはや自殺には希望が持てない。しかし、その時、ある呪われた料理の存在を知る。そう、いまさらである。志仁田は自殺の最後の望みを、いまさらに賭けたのである。 もはや一般的な手法では命を絶てないのは明らかだった。しかし、食したものに相次いで不幸が訪れるこの料理ならば、あるいは。もしこれでも死ねなかったら諦めようと覚悟を決め、志仁田少女風はいまさら自殺に挑んだ。 志仁田には勝算があった。今まで外傷系の自殺は己の体が阻んできたが、毒物系は結構いい線を行っている。ならなぜ死ねなかったのかといえば、品瀬の存在である。彼がなぜかめちゃくちゃ志仁田の危機を察知し、なぜかめちゃくちゃ上手い医療処置を施すため、志仁田は死ねなかった。しかし、今や志仁田は品瀬を遠ざける方法を知っていた。志仁田はいまさらの制作に向けて着々と準備を進めていった。そして、奇しくもいまさら誕生と同日である2月2日、18歳の誕生日。志仁田はいまさら自殺を敢行する。 {{vh|vh=100}} 「たっくん」 「あっ、ママ!」 「大きくなったわね」 「うん! ママ、しさしぶりだ!」 「ひさしぶり、だよ。ひさしぶりね、たっくん」 「しさしぶり!」 「ふふっ」 「あのねあのね! たっくんごさいになったの!」 「おめでとう、たっくん」 「えへへへ、そうだ! ママもいっしょに、けえきたべようよ! パパがかってきてくれるんだって!」 「そうね、でもそれはできないかもしれないわ」 「……そうなの?」 「うん。……でも、その代わり、プレゼントをあげましょうね」 「ぷれぜんと! やった! なになに?」 「たっくんは何がほしい?」 「うーん……」 「したいことでもいいわ」 「じゃあ、ママとしろくまこうえんであそびたい!」 「ごめんね、ママがなにかすることはできないわ」 「えーなんで? なんでよ?」 「……ごめんね」 「うーん……じゃあ、おとなになったら、がーりーちゃんとけっこんしたい!」 「へえ……いいわね。でも、それはその子が決めることよ」 「そっかあ……」 「でも、代わりに、その子を大人になるまで守ってあげるわ」 「まもる?」 「そう。その子を、元気な18歳に育ててあげる」 「そしたら、けっこんできる?」 「たっくんが頑張れば、できるかも」 「やったあ!」 「でも、守ってあげるのは17歳までよ。18歳の誕生日からは……」 「からは?」 「たっくんが守ってあげるんだよ、いいね?」 「わかった! ありがとうママ!」 「うん……。じゃあ、もう、行くわね」 「えっ、もういっちゃうの?」 「そろそろ時間みたい」 「そっかあ……」 「じゃあ、元気でね、たっくん」 「……ママ!」 「なあに?」 「もしけえきがたべられるようになったら、きてね!」 「……うん、そうするわ」 「ゆびきりげんまんだよ!」 「ええ。ゆびきりげんまん」 {{vh|vh=100}}
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