「叙述トリック」の版間の差分

1,017 バイト追加 、 3年5月16日 (ゐ)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(2人の利用者による、間の7版が非表示)
1行目: 1行目:
{{秀逸な記事|秀逸性=今月}}
{{秀逸な記事|秀逸性=伝説}}
==起==
==起==
「ねえ小島さん、'''叙述トリック'''って知ってます?」
「ねえ小島さん、'''叙述トリック'''って知ってます?」
<br>「急になんだよタケ。まあ知ってるけどさ」
<br>「急になんだよタケ。まあ知ってるけどさ」
<br> 冬の早朝6時15分、僕はいつもより少し早く目覚めてしまい、同じく起きていた小島さんにこの質問をぶつけたのだった。小島さんは30歳くらいで、彫りの深い顔に髭が似合うダンディな人だ。
<br> 冬の早朝6時15分、僕はいつもより少し早く目覚めてしまい、同じく起きていた小島さんにこの質問をぶつけたのだった。小島さんは35歳くらいで、彫りの深い顔に髭が似合うダンディな人だ。
<br>「なんでそんなこと聞くんだ?」
<br>「なんでそんなこと聞くんだ?」
<br>「こないだ読んだ本にあって。ミステリーあたりはからっきしなんですよ」
<br>「こないだ読んだ本にあって。ミステリーあたりはからっきしなんですよ」
<br> 僕はしばらく前にトラブルを起こして大学を退学になり、今は男4人で同居している。ルームシェアだと思えばましだけど…誰が進んで野郎共と一つ屋根の下で住むものか。4人というのは、僕と小島さん、そして京極さんと三津田さん。皆僕より年上だ。あとの2人はまだぐっすり寝こけている。いささか肌寒い。
<br> 僕はしばらく前にトラブルを起こして大学を退学になり、今は男4人で同居している。ルームシェアだと思えばましだけど……誰が進んで野郎共と一つ屋根の下で住むものか。4人というのは、僕と小島さん、そして京極さんと三津田さん。皆僕より年上だ。あとの2人はまだぐっすり寝こけている。部屋はいささか肌寒い。
<br>「はっ、マジかよ」
<br>「はっ、マジかよ」
<br> 小島さんは鼻で笑った。お前がかよ、と顔が語っている。
<br> 小島さんは鼻で笑った。お前がかよ、と顔が語っている。
12行目: 12行目:
<br> 時々小島さんが本を読んでいるのを見るが、大体推理小説なのだ。どうやらそういう系統の新人賞に応募したこともあるらしい。
<br> 時々小島さんが本を読んでいるのを見るが、大体推理小説なのだ。どうやらそういう系統の新人賞に応募したこともあるらしい。
<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
<br> 見ると、京極さんと三津田さんがもぞもぞと起き出していた。2人とももう、おじさんというよりおじいさんといった方がしっくりくる歳だ。京極さんは身長が低くて小太り、三津田さんは対照的にのっぽで痩せぎすな体型をしている。話し方も、三津田さんは二回りほど年下の僕にも丁寧語を使うが、京極さんはゴリゴリの関西弁で、対照的だ。
<br> 見ると、京極さんと三津田さんがもぞもぞと起き出していた。2人とももう、おじさんというよりおじいさんといった方がしっくりくる歳だ。京極さんは身長が低くて小太り、三津田さんは対照的にのっぽで痩せぎすな体型をしている。話し方も、三津田さんは三回りほど年下の僕にも丁寧語を使うが、京極さんはゴリゴリの関西弁で、対照的だ。
<br>「おはようございます」
<br>「おはようございます」
<br>「なんや2人とも偉う起きるんが早いなあ」
<br>「なんやふたりとも偉う起きるんが早いなあ」
<br> いつも同じ時間に起きていると、アラームなぞ無くとも自然と目が覚めてしまうものだ。僕は変わり映えのしない一日の到来に溜め息を吐くと、布団を畳むために立ち上がった。
<br> いつも同じ時間に起きていると、アラームなぞ無くとも自然と目が覚めてしまうものだ。僕は変わり映えのしない一日の到来に溜め息を吐くと、布団を畳むために立ち上がった。
<br>「あれは俺が小6になりたての4月の出来事だった」
<br>「あれは俺が小6になりたての4月の出来事だった」
<br> そう言って小島さんは話し始めた。
<br> そう小島さんは話し始めた。


==序==
==序==
23行目: 23行目:
「ねえ亮二兄さん、叙述トリックって知ってる?」
「ねえ亮二兄さん、叙述トリックって知ってる?」
<br>「急になんだよケン。まあ知ってるけどさ」
<br>「急になんだよケン。まあ知ってるけどさ」
<br> ケンってのは俺、健児のあだ名だ。詳しくは覚えちゃいないが、お前と同様叙述トリックって言葉を何かの本で見たんだろう。亮二兄さんとは年が離れててな、子供心には何でも知ってるすごい人に思えたのさ。
<br> ケンってのは俺、小島健児のあだ名だ。詳しくは覚えちゃいないが、お前と同様叙述トリックって言葉を何かの本で見たんだろう。亮二兄さんとは年が離れててな、子供心には何でも知ってるすごい人に思えたのさ。
<br> 兄さんは少し難しい言葉遣いで、説明を始めた。
<br>「叙述トリックっていうのはな、'''作者が読者に仕掛けるトリック'''のことだ。そしてそれは必然的に、'''文字媒体であるが故の特性を利用するもの'''になる」
<br>「叙述トリックっていうのはな、'''作者が読者に仕掛けるトリック'''のことだ。そしてそれは必然的に、'''文字媒体であるが故の特性を利用するもの'''になる」
<br>「作者が読者に?」
<br>「作者が読者に?」
<br>「そうだ。普通のトリックってのは、'''犯人が被害者やら探偵やらに仕掛けるもの'''だろう? ほら、例えば」
<br>「そうだ。普通のトリックってのは、'''犯人が被害者やら探偵やらに仕掛けるもの'''だろう? ほら、例えば」
<br> そこで椅子が軋む音が微かに聞こえた。兄さんは立ち上がったみたいだった。俺はベッドに座ったまま黙って話を聞いていた。
<br> そこで椅子の軋む音が微かに聞こえた。兄さんは立ち上がったみたいだった。俺はベッドに座ったまま黙って話を聞いていた。
<br>「頭で想像しながら聞くんだぞ。ここには俺の部屋のドアがある。部屋の中に死体が転がってると思え。そして俺はこの部屋を密室にしようとする。そこで、俺は長い長い、部屋のドアから向かいの壁くらいの長さの氷の棒を持ってくる。あくまで例だから、『どこから?』とかは考えなくていいぞ」
<br>「頭で想像しながら聞くんだぞ。ここには俺の部屋のドアがある。部屋の中に死体が転がってると思え。そして俺はこの部屋を密室にしようとする。そこで、俺は長い長い、部屋のドアから向かいの壁くらいの長さの氷の棒を持ってくる。あくまで例だから、『どこから?』とかは考えなくていいぞ」
<br> まさにそう質問しようとしていた俺は慌てて口を噤んだ。兄さんはエアーで簡易トリックを実演し始めたようだ。
<br> まさにそう質問しようとしていた俺は慌てて口を噤んだ。兄さんはエアーで簡易トリックを実演し始めたようだ。
33行目: 34行目:
<br>「んん? ちょっと待ってよ兄さん」
<br>「んん? ちょっと待ってよ兄さん」
<br> 一旦頭を整理しないと。黙って兄さんの言うことをトレースしていると、階下からはお袋の笑い声が聞こえてきた。我が家は一軒家とはいえ、部屋と部屋の間の壁が薄いのだ。
<br> 一旦頭を整理しないと。黙って兄さんの言うことをトレースしていると、階下からはお袋の笑い声が聞こえてきた。我が家は一軒家とはいえ、部屋と部屋の間の壁が薄いのだ。
<br> 少し時間をおいて、兄さんが聞いた。
<br>「どうだ?」
<br>「どうだ?」
<br>「うん、何となくわかったよ」
<br>「うん、何となくわかったよ」
<br>「じゃあ説明を続けるぞ。とりあえずこのギターを氷の棒と思って立てかけよう。そうしたら…、よっと、部屋の外へ出ると同時に氷の棒を放す!」
<br>「じゃあ説明を続けるぞ。とりあえずこのギターを氷の棒と思って立てかけよう。そうしたら……よっと、部屋の外へ出ると同時に氷の棒を放す!」
<br> ゴトッとギターが倒れる音がした。
<br> ゴトッとギターが倒れる音がした。
<br>「こうすると、氷がつっかえ棒となって、ドアは開かなくなる。密室ができるわけだ。あとは鍵が掛かっているように見せかけて、氷が溶けるのを待ってドアを破り突入した瞬間鍵を閉めれば、密室の完成というわけだ! まあ床が濡れているのをどうにかして誤魔化さないといけないんだけどな」
<br>「こうすると、氷がつっかえ棒となって、ドアは開かなくなる。密室ができるわけだ。あとは鍵が掛かっているように見せかけて、氷が溶けるのを待ってドアを破り突入した瞬間鍵を閉めれば、密室の完成というわけだ! まあ床が濡れているのをどうにかして誤魔化さないといけないんだけどな」
<br> 正直後半はよく理解できなかったが、兄さんが見事に密室を作り上げたのがすごいと感嘆したよ。今思えば子供騙しの穴だらけなトリックだけどね。
<br> 正直後半はよく理解できなかったが、兄さんが見事に密室を作り上げたのがすごいと感嘆したよ。今思えば子供騙しの穴だらけなトリックだがな。
<br>「どうだケン、兄さんが何したかはわかったか?」
<br>「どうだケン、兄さんが何したかはわかったか?」
<br>「うん!」
<br>「うん!」
<br>「はは、そら良かった。さすが俺の弟だな。よし、あれ、ギターが引っかかって、ギリ通れない…くそ」
<br>「はは、そら良かった。さすが俺の弟だな。よし、あれ、ギターが引っかかって、ギリ通れない……くそ」
<br> そこでバキッと嫌な音がした。
<br> そこでバキッと嫌な音がした。
<br>「ああ、俺のギター! 高かったのに!!」
<br>「ああ、俺のギター! 高かったのに!!」
51行目: 53行目:
<br>「花子!」
<br>「花子!」
<br> 俺はすぐに答えた。口紅が落ちてたなら犯人は女じゃないか! ところが兄さんは言った。
<br> 俺はすぐに答えた。口紅が落ちてたなら犯人は女じゃないか! ところが兄さんは言った。
<br>「ブブー、残念! 口紅が落ちているということは犯人は女。でも実は、次郎が女で、花子が男だったんです! というわけで正解は次郎でした!」
<br>「ブブー、残念! 口紅が落ちているということは犯人は女。でも実は、次郎は女で、花子は男だったんです! というわけで正解は次郎でした!」
<br> 俺は唖然としていた。だって、そんなことないだろ? すると兄さんは少し焦ったような声で付け足した。
<br> 俺は唖然としていた。だって、そんなことないだろ? すると兄さんは少し焦ったような声で付け足した。
<br>「まあ、これは適当に作っただけだから。ちゃんとしたやつは、もっと丁寧に伏線が張られていて納得できるから安心しろ。こんな風に、'''作者が読者を直接騙す'''のが、叙述トリックだ」
<br>「まあ、これは適当に作っただけだから。ちゃんとしたやつは、もっと丁寧に伏線が張られていて納得できるから安心しろ。こんな風に、'''作者が読者を直接騙す'''のが、叙述トリックだ」
<br>「作者が読者を騙す…」
<br>「作者が読者を騙す……」
<br>「そしてそれは'''フェアでなくちゃいけない'''。さっきの例で行くと、途中で『花子は三郎の<ruby><rt>、</rt></ruby>だ』と書いてあるのに、最後になって『花子は男なんです!』と言っちゃあダメだ。整合性が取れないだろ? ただし語り手が勘違いしているなどの事情があれば構わないから、'''三人称の地の文で虚偽を書いてはいけない'''とされるのが一般的だな」
<br>「そしてそれは'''フェアでなくちゃいけない'''。さっきの例で行くと、途中で『花子は三郎の{{傍点|文章=}}だ』と書いてあるのに、最後になって『花子は男なんです!』と言っちゃあダメだ。整合性が取れてないだろ? ただし語り手が勘違いしているなどの事情があれば構わないから、'''三人称の地の文で虚偽を書いてはいけない'''とされるのが一般的だな」
<br> 当時の俺は分かったような分からないような感じだったが、疑問は残った。
<br> 当時の俺はわかったようなわからないような感じだったが、疑問は残った。
<br>「なんでそんなことするの?」
<br>「なんでそんなことするの?」
<br>「まあ、理由は大きく分けて2つだろうな。
<br>「まあ、理由は大きく分けて2つだろうな。
<br> 1つは、'''ミステリの難易度を上げるため'''だ。ミステリには、犯人とかを当てる作者vs読者のバトルっていう一面があるんだ。どうしても勝ちたい作者が、こんなトリックを仕掛けるんだ。お前もさっき正解できなかっただろ? そういうことだ。
<br> 1つは、'''ミステリの難易度を上げるため'''だ。ミステリには、犯人とかを当てる、作者vs読者のバトルっていう一面があるんだ。どうしても勝ちたい作者が、こんなトリックを仕掛けるんだ。お前もさっき正解できなかっただろ? そういうことだ。
<br> 2つ目は、'''読者を驚かせるため'''だ。さっき俺の話を聞いたお前は驚いたろ? 世の中には、驚かされるのが楽しいっていう変な人種がいるんだ。そいつらを喜ばせるために作者は叙述トリックを仕掛けるのさ。
<br> 2つ目は、'''読者を驚かせるため'''だ。さっき俺の話を聞いたお前は驚いたろ? 世の中には、驚かされるのが楽しいっていう変な人種がいるんだ。そいつらを喜ばせるために作者は叙述トリックを仕掛けるのさ。
<br> おっと、長く喋り過ぎたな。もう小学生は寝る時間だ。じゃあ、おやすみ」
<br> おっと、長く喋り過ぎたな。もう小学生は寝る時間だ。じゃあ、おやすみ」
78行目: 80行目:
<br> 午前10時、僕たちは作られた商品をひたすら箱に詰める作業をしていた。コンベアーに乗った石鹸を片っ端から紙の箱に入れ、蓋を閉じる。ロボットでもできるだろと思うが、嘆いても詮方ない。単純作業ここに極まれりだ。まったく、暇で暇でしょうがない。
<br> 午前10時、僕たちは作られた商品をひたすら箱に詰める作業をしていた。コンベアーに乗った石鹸を片っ端から紙の箱に入れ、蓋を閉じる。ロボットでもできるだろと思うが、嘆いても詮方ない。単純作業ここに極まれりだ。まったく、暇で暇でしょうがない。
<br>「ねえ小島さん、朝の続きを話してくださいよ」
<br>「ねえ小島さん、朝の続きを話してくださいよ」
<br> そこで僕は、小島さんに話の続きをするよう催促した。少しでもこの時間を有意義に使いたいという思いが芽生えてしまったのだ。叙述トリックの説明はあらかた終わったと思うんだが、続きとは何だろう? 横の京極さんと三津田さんも、目を輝かせて小島さんを見つめている。この人たちホントに50代か? 目の輝きは小学生だぞ?
<br> そこで僕は、小島さんに話の続きをするよう催促した。少しでもこの時間を有意義に使いたいという思いが芽生えてしまったのだ。叙述トリックの説明はあらかた終わったと思うんだが、続きとは何だろう? 横の京極さんと三津田さんも、目を輝かせて小島さんを見つめている。この人たちホントに50代か? 目の輝きは小学生のそれだぞ?
<br> 小島さんは「しゃあねえなあ」と言いつつも、どこか楽しげに続きを話し始めた。
<br> 小島さんは「しゃあねえなあ」と言いつつも、どこか楽しげに続きを話し始めた。


==破==
==破==
<font face="Tahoma">
<font face="Tahoma">
 その次の日の晩、夕飯の時間になって、お袋に言われて俺は2階の自室にいる兄貴を呼びに行った。兄貴の部屋をノックしようとしたところで、急にドアが開き、俺は鼻をしたたかにぶつけた。兄貴は笑いながら「すまんすまん」と謝ったが、こっちは痛いのなんの。不貞腐れたよ。鼻の頭に絆創膏を貼らないといけなかった。
 その次の日、昼飯の時間になって、お袋に言われて俺は2階の自室にいる兄貴を呼びに行った。兄貴の部屋をノックしようとしたところで、急にドアが開き、俺は鼻をしたたかにぶつけた。兄貴は笑いながら「すまんすまん」と謝ったが、こっちは痛いのなんの。不貞腐れたよ。鼻の頭に絆創膏を貼らないといけなかった。
<br> ともかく夕飯になった。そのときは俺と兄貴、親父とお袋の4人暮らしだった。はは、今と同じだな。お袋は専業主婦、親父は市議会議員だった。俺は食卓のお誕生席で黙々と白飯を食ってた。兄さんには無邪気に接していたんだが、他の家族、特に親父の前でははしゃげなかった。今思えば、この時既に親に少し苦手意識を持ってたのかもしれないな。
<br> ともかく昼食になった。そのときは俺と兄貴、親父とお袋の4人暮らしだった。はは、今と同じだな。お袋は専業主婦、親父は市議会議員だった。俺は食卓のお誕生席で黙々と白飯を食ってた。兄さんには無邪気に接していたんだが、他の家族、特に親父の前でははしゃげなかった。今思えば、この時既に親に少し苦手意識を持ってたのかもしれないな。
<br> そんなことは露ほども知らない、何かと心労の絶えない時期を通り抜けた親父は、陽気に「政治は~、政治を~」と理想を語っていた。だからお袋が、
<br> そんなことは露ほども知らない、何かと心労の絶えない時期を通り抜けた親父は、とにかく機嫌が良かった。俺がレタスをこぼしても、いつもと違ってこの日は何も言われなかった覚えがある。ずっと陽気に「政治は~、政治を~」と理想を語っていたよ。だからお袋が、
<br>「せっかくケンちゃんが賞状貰ってきたのに、お父さんったら政治、政治ってそればっかり。少しは気にかけてやってくださいよ」
<br>「せっかくケンちゃんが賞状貰ってきたのに、お父さんったら政治、政治ってそればっかり。少しは気にかけてやってくださいよ」
<br>と嗜めた。だが親父は、
<br>と嗜めた。だが親父は、
<br>「気にかけてるよ。それに、弟ってのは兄の背を見て育つもんだ。だからトシも優秀に育ってるし、これからもそうだろう。な?」
<br>「気にかけてるよ。それに、弟ってのは兄の背を見て育つもんだ。だからお前も優秀に育ってるし、健児もそうなるだろう。な、健児?」
<br> 事実俺はそんなに気にしてなかったから、適当に返事して終わったと思う。親父が言うように、兄は教育通り優秀に育ったんだ。まあ弟がそうじゃないことは、あんたらも知っての通りだ。
<br> 事実、親父が褒めるかどうかなんて俺は気にしてなかったから、適当に返事して終わったと思う。親父が言うように、兄は教育通り優秀に育ったんだ。まあ弟がそうじゃないことは、あんたらも知っての通りだ。
<br> そしてその次の日の午後3時、俺は小遣いで買っといたプリンを食べようと、2階の自室からキッチンへ降りてきた。さあ食べようと冷蔵庫を開け放ったんだが、確かに2段目に入れといたはずのプリンがない。中を隅から隅まで探したが、ない。そこで横のゴミ箱を見ると、なんとプリンの空容器が捨ててあったのさ!
<br> 俺は飯を食い終わったあとも、食卓でテレビを眺めていた。兄貴は早々に自室にひっこんでいて、俺はひとりで買い物に行く両親を見送った。安っぽいドラマに飽きた俺も、まもなく2階の自分の部屋に戻った。悲劇はこのあと起こったわけだ。
<br> それを見て幼き俺は愕然として落涙、この世の不条理を嘆いた…わけじゃあない。正直あんまショックは受けなかった。プリン大好きってわけじゃないし、小遣いは十分貰ってたから惜しくもなかった。たかがプリン1個くらいで家族を詰るような、狭量な男じゃなかったんだ、俺は。
<br> 何時間か経った午後3時、俺は小遣いで買っといたプリンを食べようと、2階からキッチンへ降りてきた。さあ食べようと冷蔵庫を開け放ったんだが、確かに2段目に入れといたはずのプリンがない。中を隅から隅まで探したが、ない。そこで横のゴミ箱を見ると、なんとプリンの空容器が捨ててあったのさ!
<br> だが、ここで一つ疑問が残った。誰がプリンを食べたのだろう? 容器はゴミの上の方にあり、俺が昼飯のときにこぼしたレタスよりも上にある。ということは、プリンは昼飯より後に食われたってことだ。でも、両親は昼飯の前から買い物に行っていて、まだ帰ってきていない。その日は子供だけで冷凍食品をチンして食べたんだ。そして俺がレタスを捨てたとき、プリンのカップなんて無かった。なら、親が食べたのではない。そして、兄さんは珍しいことにプリンがとても苦手なんだ。食べるなんてこと絶対にあり得ない。今日は客も一切来ていない…。
<br> それを見て幼き俺は愕然として落涙、この世の不条理を嘆いた……わけじゃあない。正直あんまショックは受けなかった。プリン大好きってわけじゃないし、小遣いは十分貰ってたから惜しくもなかった。たかがプリン1個くらいで家族を詰るような、狭量な男じゃなかったんだ、俺は。
<br> そこまで考えたところで、自分が無駄な思考をしていたことに気づいた。落ち着いて考えれば、答えは歴然じゃあないか…。
<br> だが、ここで一つ疑問が残った。誰がプリンを食べたのだろう? 容器はゴミの上の方にあり、俺が昼飯のときにこぼしたレタスよりも上にある。加えて、昼飯のあとに俺は食卓にいた。その時にプリンを食べているやつがいれば、さすがに気づく。つまり、プリンが食べられたのは、俺がこの食卓を離れた後ということだ。しかし、両親は買い物からまだ帰ってきていない。なら、親が食べたのではない。そして、兄さんは珍しいことにプリンがとても苦手なんだ。食べるなんてこと絶対にあり得ない。今日は客も一切来ていない……。
<br> そこまで考えたところで、自分が無駄な思考をしていたことに気づいた。落ち着いて考えれば、答えは歴然じゃあないか……。
</font>
</font>


==転==
==転==
「おいそこ、無駄話するんじゃない!」
「おいそこ、無駄話するんじゃない!」
<br> そこまで小島さんが話したところで、高い椅子に座ったオヤジに注意された。三津田さんと京極さんはそそくさと箱詰め作業をし始める。まったく、いいところだったのに! あいつ、僕たちが働いてるのを見てるだけで給料が入るなんて…。工場勤めを辞められた暁には、あの仕事を目指そうかしら。まあ無理か。
<br> そこまで小島さんが話したところで、高い椅子に座ったオヤジに注意された。三津田さんと京極さんはそそくさと箱詰め作業をし始める。まったく、いいところだったのに! あいつ、僕たちが働いてるのを見てるだけで給料が入るなんて……。工場勤めを辞められた暁には、あの仕事を目指そうかしら。まあ無理か。
<br> 小島さんが話を再開する気配はない。続きはお預けかあ。
<br> 小島さんが話を再開する気配はない。続きはお預けかあ。
<br> でも、プリンを食べたのは一体誰だろう? 僕はそのことばかりを考え続け、いつの間にか昼休憩の時間になっていた。
<br> でも、プリンを食べたのは一体誰だろう? 僕はそのことばかりを考え続け、いつの間にか昼休憩の時間になっていた。
106行目: 109行目:
<br>と顎をさすりながら言った。三津田さんも小指を立てて笑っている。まさかと思ったが、小島さんならあり得るかもしれない。なんてったって顔がいい。
<br>と顎をさすりながら言った。三津田さんも小指を立てて笑っている。まさかと思ったが、小島さんならあり得るかもしれない。なんてったって顔がいい。
<br>「もしそうなら、彼女さん、小島さんに相当入れ込んでるんすね」
<br>「もしそうなら、彼女さん、小島さんに相当入れ込んでるんすね」
<br>と言うと、2人のおじさんは揃って頷いた。この人らホントに中年か? ニヤケ面は中学生そのものだぞ?
<br>と言うと、2人のおじさんは揃って頷いた。この人らホントに中年か? ニヤケ面は中学生のそれそのものだぞ?


 小島さんは仕事が再開する直前に戻って来た。よっしゃ話の続きをせがもうと身構えた矢先、残念ながら京極さんと三津田さんは離れた場所に増援に向かわされてしまった。2人のいないところで続きを聞くのは忍びない。だが…。
 小島さんは仕事が再開する直前に戻って来た。よっしゃ話の続きをせがもうと身構えた矢先、残念ながら京極さんと三津田さんは離れた場所に増援に向かわされてしまった。2人のいないところで続きを聞くのは忍びない。だが……。
<br>「さっき聞いた話なんだが、叙述トリックにもいろいろあるらしいぜ」
<br>「さっき聞いた話なんだが、叙述トリックにもいろいろあるらしいぜ」
<br> 葛藤していると、小島さんが突然口を開いた。
<br> 葛藤していると、小島さんが突然口を開いた。
117行目: 120行目:
<br>「ん、さてはみっちゃんとゴクさんに入れ知恵されたな? あの爺さんたち、勘が鋭いからなぁ。すごいぜあの人らは」
<br>「ん、さてはみっちゃんとゴクさんに入れ知恵されたな? あの爺さんたち、勘が鋭いからなぁ。すごいぜあの人らは」
<br> ならなぜこんな底辺の暮らしをしてるんだ。もっとも、僕が言えたことじゃないが。
<br> ならなぜこんな底辺の暮らしをしてるんだ。もっとも、僕が言えたことじゃないが。
<br>「まあそれはさておき、叙述トリックの説明だ。小説とかで叙述トリックが仕掛けられているとする。問題は、なぜ仕掛けられたのか、だ。」
<br>「まあそれはさておき、叙述トリックの説明だ。小説とかで叙述トリックが仕掛けられているとする。問題は、なぜ仕掛けられたのか、だ」
<br> 何か小島さんのお兄さんが話の中で言ってた気がするな。
<br> 何か小島さんのお兄さんが話の中で言ってた気がするな。
<br>「もし読者を驚かせるためだけに仕掛けられたものなら、それは『意味なし叙述』だ。でも、犯人当てとかの要素として組み込まれたものならば、作品の成立に不可欠だから、『意味あり叙述』となる」
<br>「もし読者を驚かせるためだけに仕掛けられたものなら、それは『意味なし叙述』だ。でも、犯人当てとかの要素として組み込まれたものならば、作品の成立に不可欠だから、『意味あり叙述』となる」
<br>「えーっと、小島さんのお兄さんの話に合わせると…読者を驚かせるためのものが意味なし叙述、ミステリの難易度を上げるためのものが意味あり叙述ってことですか」
<br>「えーっと、小島さんのお兄さんの話に合わせると……読者を驚かせるためのものが意味なし叙述、ミステリの難易度を上げるためのものが意味あり叙述ってことですか」
<br>「そうだ。よく覚えてるな。まあミステリ的な仕掛けに限らずとも、小説の主題に関わるなら意味あり叙述だとする人もいるらしい。そもそもこれらの概念自体が最近提唱されたもので、定義は人によってまちまちなんだと」
<br>「そうだ。よく覚えてるな。まあミステリ的な仕掛けに限らずとも、小説の主題に関わるなら意味あり叙述だとする人もいるらしい。そもそもこれらの概念自体が最近提唱されたもので、定義は人によってまちまちなんだと」
<br> むむむ、要するに驚かせるためだけか否か、ってことか。というか、彼女さんに会う貴重な時間を使ってこんなこと聞いてきてくれたのかよ。もっと別のこと話しなさいよ。
<br> むむむ、要するに驚かせるためだけか否か、ってことか。というか、彼女さんに会う貴重な時間を使ってこんなこと聞いてきてくれたのかよ。もっと別のこと話しなさいよ。
160行目: 163行目:
<br>「まあまあ落ち着けって。出題者が解説するのもなんかヤだから、ゴクさんとみっちゃんに任せてもいいかい?」
<br>「まあまあ落ち着けって。出題者が解説するのもなんかヤだから、ゴクさんとみっちゃんに任せてもいいかい?」
<br> 呼ばれた2人は顔を見合わせると、同時に右の拳を突き出した。
<br> 呼ばれた2人は顔を見合わせると、同時に右の拳を突き出した。
<br>「じゃんけんほい!」
<br>「「じゃんけんほい!」」
<br> 勝者は三津田さん。頭を抱えて悔しがる京極さんを尻目に、得意そうに話し始めた。
<br> 勝者は三津田さん。頭を抱えて悔しがる京極さんを尻目に、得意そうに話し始めた。
<br>「タケくん、今までのケンくんの話には叙述トリックが仕掛けられていたんですよ」
<br>「タケくん、今までのケンくんの話には叙述トリックが仕掛けられていたんですよ」
168行目: 171行目:
<br>「じゃあタケくん、ギターを使った密室トリックを思い出してください。こら、ゴクさん、じゃんけんに負けた人に解答権はありませんよ」
<br>「じゃあタケくん、ギターを使った密室トリックを思い出してください。こら、ゴクさん、じゃんけんに負けた人に解答権はありませんよ」
<br> 得意気に口を開きかけた京極さんを制して、三津田さんは説明を始めた。
<br> 得意気に口を開きかけた京極さんを制して、三津田さんは説明を始めた。
<br>「あのトリックは、ドアが内開きだから成立するものです。外開きならつっかえ棒なんてできませんからね。つまりこの事実から解ることは、''小島さんのお兄さんの部屋の扉は内開き''だということです」
<br>「あのトリックは、ドアが内開きだから成立するものです。外開きならつっかえ棒なんてできませんからね。つまりこの事実から解ることは、{{傍点|文章=小島さんのお兄さんの部屋の扉は内開き}}だということです」
<br> 全く予期していなかった方向に話が転がっている。それがプリンと何の関係があるんだ? 三津田さんは微笑んで説明を続けた。
<br> 全く予期していなかった方向に話が転がっている。それがプリンと何の関係があるんだ? 三津田さんは微笑んで説明を続けた。
<br>「でも幼き頃のケンくんが鼻に傷を負ったとき…」
<br>「でも幼き頃のケンくんが鼻に傷を負ったとき……」
<br> その瞬間、ようやく三津田さんの言わんとしていることが理解できた。
<br> その瞬間、ようやく三津田さんの言わんとしていることが理解できた。
<br>「''ドアは外開きだった''!」
<br>「{{傍点|文章=ドアは外開きだった}}!」
<br> 僕は思わず叫んでしまった。なぜこんなことに気づかなかったんだろう? 小島さんは相変わらずニコニコしている。すると京極さんが口を挟んできた。
<br> 僕は思わず叫んでしまった。なぜこんなことに気づかなかったんだろう? 小島さんは相変わらずニコニコしている。すると京極さんが口を挟んできた。
<br>「どっちの場合も、部屋は兄の自室やと明言されとる。部屋に扉が二つもあるっちゅうのは考えづらいやろう」
<br>「どっちの場合も、部屋は兄の自室やと明言されとる。部屋に扉が二つもあるっちゅうのは考えづらいやろう」
<br> 三津田さんは京極さんを止めるのを諦めたらしい。
<br> 三津田さんは京極さんを止めるのを諦めたらしく、話を続行した。
<br>「ということは、導きやすい結論はこれです。''小島さんに兄は2人いるんです''
<br>「ということは、導きやすい結論はこれです。{{傍点|文章=小島さんに兄は2人いるんです}}


「兄が、2人…?」
「兄が、2人…?」
<br> 一瞬思考が止まる。そんなことあり得るのか? 戸惑う僕を尻目に、2人は解説を続けた。
<br> 一瞬思考が止まる。そんなことあり得るのか? 戸惑う僕を尻目に、2人は解説を続けた。
<br>「始めに出てきた兄とその後の兄は別人なんです。厳密に言うと、''『幼いケンくんに叙述トリックの解説をした兄』と『ケンくんに怪我をさせ、笑った兄』は別人''ということですね。そして''プリンを好かないのは前者、プリンを食べたのは後者''というわけです」
<br>「始めに出てきた兄とその後の兄は別人なんです。厳密に言うと、『{{傍点|文章=幼いケンくんに叙述トリックの解説をした兄}}』{{傍点|文章=と}}『{{傍点|文章=ケンくんに怪我をさせ}}、{{傍点|文章=笑った兄}}』{{傍点|文章=は別人}}ということですね。そして{{傍点|文章=プリンを好かないのは前者}}、{{傍点|文章=プリンを食べたのは後者}}というわけです」
<br>「気いつけて聞いとると、『兄さん』と『兄貴』ちゅうて呼び分けとったで。ケンは3兄弟だっちゅうことやないかな」
<br>「気いつけて聞いとると、『兄さん』と『兄貴』ちゅうて呼び分けとったで。{{傍点|文章=ケンは3兄弟}}だっちゅうことやないかな」
<br> 話の展開が急過ぎて理解が追いつかない。僕の頭には当然の疑問が生まれた。
<br> 話の展開が急過ぎて理解が追いつかない。僕の頭には当然の疑問が生まれた。
<br>「でも、小島さんちは4人家族だって言ってたじゃないですか」
<br>「でも、小島さんちは4人家族だって言ってたじゃないですか」
<br> 兄が2人いるなら家族は5人いないとおかしくなる。すると三津田さんは足し算に見事正解した孫を見るような顔をした。
<br> 兄が2人いるなら家族は5人いないとおかしくなる。すると三津田さんは足し算に見事正解した孫を見るような顔をした。
<br>「その通りですが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけです。''上の兄、つまりプリンが嫌いな兄は、もう一人暮らしを始めた頃だった''のではないですかね。そう、丁度その年の4月から」
<br>「その通りですが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけです。{{傍点|文章=上の兄}}、{{傍点|文章=つまりプリンが嫌いな兄は}}、{{傍点|文章=もう一人暮らしを始めた頃だった}}のではないですかね。そう、丁度その年の4月から」
<br>「父親の『何かと心労の絶えない時期』っちゅうのは長兄の大学受験とかやろな。それに、食卓にお誕生席があったのも、5人暮らしの名残やろう。4人家族なら、2人ずつ向かい合って座ればええんやからな」
<br>「父親の『何かと心労の絶えない時期』っちゅうのは長兄の大学受験とかやろな。それに、食卓にお誕生席があったのも、5人暮らしの名残やろう。4人家族なら、2人ずつ向かい合って座ればええんやからな」
<br> なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
<br> なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
<br>「ふむ、それは気づきませんでした。ですが、私は次男の名前が分かりますよ。おそらく『<ruby>政治<rt>せいじ</rt></ruby>』というんでしょう。どうです、ケンくん?」
<br>「ふむ、それは気づきませんでした。ですが、私は次男の名前が分かりますよ。おそらく『<ruby>政治<rt>せいじ</rt></ruby>』というんでしょう。どうです、ケンくん?」
<br>「ああ、その通りだ。ちなみに漢字も、ちゃんとまつりごとだよ」
<br>「ああ、その通りだ。ちなみに漢字も、まんま専制政治の政治だよ」
<br> 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。一方、僕は釈然としない。
<br> 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。一方、僕は釈然としない。
<br>「じゃあ、最初の場面で小島さんとお兄さんが話してたのはどういうことです? 亮二お兄さんの部屋に2人ともいたじゃないですか」
<br>「じゃあ、最初の場面で小島さんとお兄さんが話してたのはどういうことです? 亮二お兄さんの部屋に2人ともいたじゃないですか」
<br> とここで、僕の脳裏にある仮説が閃いた。
<br> と、ここで僕の脳裏にある仮説が閃いた。
<br>「あ、もしかして、小島さんはお兄さんの家に遊びに行ったところだったってことですか?」
<br>「あ、もしかして、小島さんはお兄さんの家に遊びに行ったところだったってことですか?」
<br> しかし京極さんは渋い顔をした。
<br> しかし京極さんは渋い顔をした。
<br>「残念やが、『我が家』ゆう記述がある。ケンは間違いなく自分の家におったんや」
<br>「残念やが、『{{傍点|文章=我が家}}』ゆう言及がある。ケンは間違いなく自分の家におったんや」
<br>「なら一人暮らししているお兄さんとどうやって話したんですか?」
<br>「なら一人暮らししているお兄さんとどうやって話したんですか?」
<br> 京極さんは頭を掻きながら事も無げに言った。
<br> 京極さんは頭を掻きながら事も無げに言った。
<br>「''ありゃあ電話やろ''
<br>「{{傍点|文章=ありゃあ電話やろ}}
<br> え…。唖然とする僕に、三津田さんは優しく語りかけた。
<br> え……。唖然とする僕に、三津田さんは優しく語りかけた。
<br>「実は、''同じ部屋にいるという記述はない''んですよ」
<br>「実は、{{傍点|文章=同じ部屋にいるという記述はない}}んですよ」
<br>「でも電話って…ええ? 言われてみればあり得なくもないのか…?」
<br>「でも電話って……ええ? 言われてみればあり得なくもないのか……?」
<br> 確かにその時代には携帯電話は普及し始めていただろうけれども。京極さんは手を叩いて、話をまとめにかかった。
<br> 確かにその時代には携帯電話は普及し始めていただろうけれども。京極さんは手を叩いて、話をまとめにかかった。
<br>「つまり、プリンを平らげた犯人は両親やないとわかった時点で、残る選択肢は政治兄しかあらへんかったんや。『無駄な思考』っちゅうのは、もう巣立った亮二兄を考えの範疇に入れとったことやな」
<br>「つまり、プリンを平らげた犯人は両親やないとわかった時点で、{{傍点|文章=残る選択肢は政治兄しかあらへんかった}}んや。『無駄な思考』っちゅうのは、{{傍点|文章=もう巣立った亮二兄を考えの範疇に入れとった}}ことやな」
<br>「というわけで、プリンを食べた犯人は、政治お兄さんだとわかるんです」
<br>「というわけで、プリンを食べた犯人は、政治お兄さんだとわかるんです」
<br> 三津田さんと京極さんはこうして説明を締めくくった。
<br> 三津田さんと京極さんはこうして説明を締めくくった。
2,232

回編集