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赤毛の子供の腕が触れた。最後に残った触覚が、慌ててそれを認識した。赤毛の子供は、わけのわからない言葉で何かをつぶやいた後、目を閉じて、子守歌を歌いはじめた。それと同時に、水面は顎のあたりをかすめはじめた。黒髪の子供は、自分の声に自分の意志で意味を込めているつもりだったが、ふと、自分が喉の奥をふるわせて、息の気流を何重にも包んで口から出した音は、最初からずっと「助けて」とだけ叫んでいたのかもしれないと思った。わけのわからない言葉は、意味を離れても、旋律を離れても、その声が届いたというただそれだけの理由で、黒髪の子供を救った。岩の密室が地下水に充填されていくにつれ、息はどんどん浅くなる。赤毛の子供の歌声がふるえる。黒髪の子供の肩もふるえた。子守歌は二番に入り、二人の舌の上には水が侵入してきた。声は水の中で球体になった息を乗り捨てて、水そのものを振動させはじめた。ろれつの回らない歌詞と、でたらめにこね回された波長とで、子守歌は醜くくぐもった。それでも、その声は美しかった。赤毛の子供の額が触れた。二人の目は自然に閉じていたし、それ以外のすべての感覚も、まさに閉じられようとしていたところだった。もちろん誰から言うでもなく、二人は最後に大きな息を吸って、水中に互いの体を引き込んだ。最後に、薄い瞼の奥から、ちらと光の点が透けて見えた気がした。そのおかげで、この洞窟の完全な暗闇が思い出された。それから最後の一息さえ離れて、声が水中にこう言った――「ありがとう」 | 赤毛の子供の腕が触れた。最後に残った触覚が、慌ててそれを認識した。赤毛の子供は、わけのわからない言葉で何かをつぶやいた後、目を閉じて、子守歌を歌いはじめた。それと同時に、水面は顎のあたりをかすめはじめた。黒髪の子供は、自分の声に自分の意志で意味を込めているつもりだったが、ふと、自分が喉の奥をふるわせて、息の気流を何重にも包んで口から出した音は、最初からずっと「助けて」とだけ叫んでいたのかもしれないと思った。わけのわからない言葉は、意味を離れても、旋律を離れても、その声が届いたというただそれだけの理由で、黒髪の子供を救った。岩の密室が地下水に充填されていくにつれ、息はどんどん浅くなる。赤毛の子供の歌声がふるえる。黒髪の子供の肩もふるえた。子守歌は二番に入り、二人の舌の上には水が侵入してきた。声は水の中で球体になった息を乗り捨てて、水そのものを振動させはじめた。ろれつの回らない歌詞と、でたらめにこね回された波長とで、子守歌は醜くくぐもった。それでも、その声は美しかった。赤毛の子供の額が触れた。二人の目は自然に閉じていたし、それ以外のすべての感覚も、まさに閉じられようとしていたところだった。もちろん誰から言うでもなく、二人は最後に大きな息を吸って、水中に互いの体を引き込んだ。最後に、薄い瞼の奥から、ちらと光の点が透けて見えた気がした。そのおかげで、この洞窟の完全な暗闇が思い出された。それから最後の一息さえ離れて、声が水中にこう言った――「ありがとう」 | ||
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蛍が様子を見にきたのは、二人がちょうど沈んでしまったところだった。蛍は、この声が赤毛の子供を呼びよせようとしていたのだという自分の推理が見事に正解したように思えて、少しうれしかった。増水の勢いはみるみるうちに増していき、獰猛な水たちは死骸に集る小動物のようにぎらぎらと蠢き、威嚇の奇声をあげはじめた。住人である蛍は、この洞窟で周期的にこういう水の満ち引きが起きることを誰よりもよく理解していたので、自分まで水に飲み込まれてしまわないうちに洞窟を出ることにした。蛍の火花の体は、洞窟のするどいバリケードでさえ、いとも簡単にすり抜けることができた。角を左に曲がると、にっくき太陽の光があたりを包み始めた。岸壁は徐々に藍色に、また暗い灰色になり始めて、不格好だった。白い光にさらされて、立ち込める石のほこりがきらきらと輝く。洞窟の入り口を通過して、日向に入ってしまう直前、蛍は振り返って愛する洞窟を見た。水はあの光を拒む角に攻撃的に体をぶちかまし、獣にも似た低姿勢でこちらを追いかけてきている。それはまさしく、洞窟の唾液だった。 | |||
日向に出るのは半日ぶりで、蛍は自分の影の存在を思い出した後、焼けるような暑さにうなだれた。体をひるがえし、小さい羽をすばやく振り回して、砂浜のすぐ近くの森へと向かう。空を我が物顔で飛び回る鳥は、代わり映えしない声色でうっとうしく鳴いていた。これに比べたら、あの子供の声はやはり素晴らしいものだったと蛍は思う。人間はその声で自分の願いをかなえることさえできるのだと知り、蛍は実のところ感嘆していたのだ。もしも自分が人間の声を手に入れたら、いったい何をしようか、蛍はいろいろなことを考えた。あの洞窟をもっと広くするとか、自分の光を太陽にも負けないくらいに強くするとか、いっそのこと太陽を空から追い出してしまってもいい。そういうふうに気持ちのいい、自分のためだけの世界のことを考えると、蛍はなんだか楽しい気持ちになった。それはちょうど、魔法使いを夢見る子供と同じようなことなのだろう。 | |||
蛍が休む木陰の上空には、身を乗り出してまで地表を覗き込んでくる太陽が、飽きもせずに君臨している。時間はちょうど正午だった。気づくとあたりには大人の人間が大勢いて、やはり何かの声を出していた。どうやら、仲間の誰かを捜しているらしい。たぶんあの子供のうちのどちらかなのだろう。しかしここで、蛍はひとつ疑問に思った。どちらにせよ彼らは洞窟の奥に沈んでしまっているから、二人を捜し出すことは不可能だ。それなのに、あの大人たちはどうして声を出しているのだろう。もしかすると、実のところ、声に出してもかなわないような願いもあるのだろうか。そう思うと、蛍が声に抱いていた憧れは、少し色褪せてしまったように感じられた。誰かの名前を呼ぶ声は、海岸一面にもんどりをうつ波の騒音や、風に吹かれて昆虫のように体をこすりつける草と葉の雑音、見栄っ張りな鳥獣たちの甲高い大騒ぎにかき消され、次第に区別がつかなくなった。 |
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