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<br> 僕は思わず叫んでしまった。小島さんは相変わらずニコニコしている。すると京極さんが口を挟んできた。
<br> 僕は思わず叫んでしまった。小島さんは相変わらずニコニコしている。すると京極さんが口を挟んできた。
<br>「どっちの場合も、部屋は兄の自室やと明言されとる。部屋に扉が二つもあるっちゅうのは考えづらいやろう」
<br>「どっちの場合も、部屋は兄の自室やと明言されとる。部屋に扉が二つもあるっちゅうのは考えづらいやろう」
<br> 三津田さんは京極さんを止めるのを諦めたらしい。
<br>「ということは、導きやすい結論はこれです。<ruby>小島さんに兄は2人いるんです<rt>、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>」
<br>「ということは、導きやすい結論はこれです。<ruby>小島さんに兄は2人いるんです<rt>、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>」
「兄が、2人…?」
<br> 一瞬思考が止まる。そんなことあり得るのか? 戸惑う僕を尻目に、2人は解説を続けた。
<br>「始めに出てきた兄とその後の兄は別人なんです。厳密に言うと、『<ruby>幼いケンくんに叙述トリックの解説をした兄<rt>、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>』<ruby>と<rt>、</rt></ruby>『<ruby>ケンくんに怪我をさせ<rt>、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>笑った兄<rt>、、、、</rt></ruby>』<ruby>は別人<rt>、、、</rt></ruby>ということですね。そして<ruby>プリンを好かないのは前者<rt>、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>プリンを食べたのは後者<rt>、、、、、、、、、、、</rt></ruby>というわけです」
<br>「気いつけて聞いとると、『兄さん』と『兄貴』ちゅうて呼び分けとったで。ケンは3兄弟だっちゅうことやないかな」
<br> 話の展開が急過ぎて理解が追いつかない。僕の頭には当然の疑問が生まれた。
<br>「でも、小島さんちは4人家族だって言ってたじゃないですか」
<br> 兄が2人いるなら家族は5人いないとおかしくなる。すると三津田さんは足し算に見事正解した孫を見るような顔をした。
<br>「その通りですが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけです。<ruby>上の兄<rt>、、、</rt></ruby>、<ruby>つまりプリンが嫌いな兄は<rt>、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>もう一人暮らしを始めた頃だった<rt>、、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>のではないですかね。そう、その年の4月から」
<br>「『何かと心労の絶えない時期』っちゅうのは長兄の大学受験とかやろな。それに、ダイニングにお誕生席があったのも、5人暮らしの名残やろう」
<br> なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
<br>「ふむ、それは気づきませんでした。ですが、私は次男の名前が分かりますよ。多分『<ruby>政治<rt>せいじ</rt></ruby>』というんでしょう、どうです、ケンくん?」
<br>「ああ、その通りだ。ちなみに漢字も、ちゃんとまつりごとだよ」
<br> 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。一方、僕は釈然としない。
<br>「じゃあ、最初の場面で小島さんとお兄さんが話してたのはどういうことです? 亮二お兄さんの部屋に2人ともいたじゃないですか」
<br>「ありゃあ<ruby>電話<rt>、、</rt></ruby>やろ」
<br> 京極さんは事も無げに言う。
<br>「<ruby>同じ部屋にいるという記述は<rt>、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>実はない<rt>、、、、</rt></ruby>んですよ」
<br>「でも電話って…ええ? 言われてみればあり得なくもないのか…?」
<br> 確かにその時代には携帯電話は普及し始めていただろうけれども。
<br>「ガキん頃のケンは、プリンを平らげた犯人は両親やないとわかった時点で、政治兄しか選択肢があらへんかったんや。『無駄な思考』っちゅうのは、もう巣立った亮二兄を考えの範疇に入れとったことやな」
<br>「というわけで、プリンを食べた犯人は、政治お兄さんだとわかるんです」
<br> 三津田さんと京極さんはこうして説明を締めくくった。

2年3月19日 (I) 14:56時点における版

「ちょっ、終わり?」
 思わず大きな声が出てしまった。
「どういうことですか。お兄さんはプリン嫌いなんでしょう? 説明してくださいよ」
「まあまあ落ち着けって。出題者が解説するのもなんかヤだから、ゴクさんとみっちゃんに任せてもいいかい?」
 呼ばれた2人は顔を見合わせると、同時に右の拳を突き出した。
「じゃんけんほい!」
 勝者は三津田さん。頭を抱えて悔しがる京極さんを尻目に、得意そうに話し始めた。
「タケくん、今までのケンくんの話には叙述トリックが仕掛けられていたんですよ」
 そのくらいは見当がついている。そうでもないと、急にプリンの話になった理由がわからない。
「では、それは何なのか。叙述トリックというのは、きちんと伏線を辿れば見破れるようになっているんですよ」
「その伏線っていうのは?」
「じゃあタケくん、ギターを使った密室トリックを思い出してください。こら、ゴクさん、じゃんけんに負けた人に解答権はありませんよ」
 得意気に口を開きかけた京極さんを制して、三津田さんは説明を始めた。
「あのトリックは、ドアが内開きだから成立するものです。外開きならつっかえ棒なんてできませんからね。つまりこの事実から解ることは、小島さんのお兄さんの部屋の扉は内開き、、、、、、、、、、、、、、、、、、だということです」
 全く予期していなかった方向に話が転がっている。三津田さんは微笑んで説明を続けた。
「でも幼き頃のケンくんが鼻に傷を負ったとき…」
 その瞬間、ようやく三津田さんの言わんとしていることが理解できた。
ドアは外開きだった、、、、、、、、、!」
 僕は思わず叫んでしまった。小島さんは相変わらずニコニコしている。すると京極さんが口を挟んできた。
「どっちの場合も、部屋は兄の自室やと明言されとる。部屋に扉が二つもあるっちゅうのは考えづらいやろう」
 三津田さんは京極さんを止めるのを諦めたらしい。
「ということは、導きやすい結論はこれです。小島さんに兄は2人いるんです、、、、、、、、、、、、、、

「兄が、2人…?」
 一瞬思考が止まる。そんなことあり得るのか? 戸惑う僕を尻目に、2人は解説を続けた。
「始めに出てきた兄とその後の兄は別人なんです。厳密に言うと、『幼いケンくんに叙述トリックの解説をした兄、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、ケンくんに怪我をさせ、、、、、、、、、、笑った兄、、、、は別人、、、ということですね。そしてプリンを好かないのは前者、、、、、、、、、、、、プリンを食べたのは後者、、、、、、、、、、、というわけです」
「気いつけて聞いとると、『兄さん』と『兄貴』ちゅうて呼び分けとったで。ケンは3兄弟だっちゅうことやないかな」
 話の展開が急過ぎて理解が追いつかない。僕の頭には当然の疑問が生まれた。
「でも、小島さんちは4人家族だって言ってたじゃないですか」
 兄が2人いるなら家族は5人いないとおかしくなる。すると三津田さんは足し算に見事正解した孫を見るような顔をした。
「その通りですが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけです。上の兄、、、つまりプリンが嫌いな兄は、、、、、、、、、、、、もう一人暮らしを始めた頃だった、、、、、、、、、、、、、、、のではないですかね。そう、その年の4月から」
「『何かと心労の絶えない時期』っちゅうのは長兄の大学受験とかやろな。それに、ダイニングにお誕生席があったのも、5人暮らしの名残やろう」
 なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
「ふむ、それは気づきませんでした。ですが、私は次男の名前が分かりますよ。多分『政治せいじ』というんでしょう、どうです、ケンくん?」
「ああ、その通りだ。ちなみに漢字も、ちゃんとまつりごとだよ」
 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。一方、僕は釈然としない。
「じゃあ、最初の場面で小島さんとお兄さんが話してたのはどういうことです? 亮二お兄さんの部屋に2人ともいたじゃないですか」
「ありゃあ電話、、やろ」
 京極さんは事も無げに言う。
同じ部屋にいるという記述は、、、、、、、、、、、、、実はない、、、、んですよ」
「でも電話って…ええ? 言われてみればあり得なくもないのか…?」
 確かにその時代には携帯電話は普及し始めていただろうけれども。
「ガキん頃のケンは、プリンを平らげた犯人は両親やないとわかった時点で、政治兄しか選択肢があらへんかったんや。『無駄な思考』っちゅうのは、もう巣立った亮二兄を考えの範疇に入れとったことやな」
「というわけで、プリンを食べた犯人は、政治お兄さんだとわかるんです」
 三津田さんと京極さんはこうして説明を締めくくった。