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'''非自己叙述的''' | {{秀逸な記事|秀逸性=過去}}'''非自己叙述的'''とは、「ある言葉の意味がその言葉自身に反していること」を指す言葉である。本記事では、この言葉をかみ砕いて説明するとともに、伴って発生するパラドックスについても解説する。 | ||
==物語(一人の老人による語り)== | ==物語(一人の老人による語り)== | ||
君「<big>'''非自己叙述的'''</big>(heterological)」という言葉を知っているか? 知らないとな? 仕方のないやつめ、教えてやろう。非自己叙述的とは、「'' | 君「<big>'''非自己叙述的'''</big>(heterological)」という言葉を知っているか? 知らないとな? 仕方のないやつめ、教えてやろう。非自己叙述的とは、「''ある言葉の意味がその言葉自体と矛盾していること''」だ。たとえば"long"という言葉は「長い」を意味するが、この言葉の綴りはわずか4文字と、'''長くない'''。したがって"long"という言葉は'''非自己叙述的だ'''といえる。 | ||
< | 君この話は飽きたか。面白くないか。けども{{underline|文字列=しばし待て}}。ここからだ、面白くなるのは。さあ君、この問題について考えようじゃないか。 | ||
これを解くにあたって、重要なことがある。「'''すべての言葉は非自己叙述的であるか非自己叙述的でないかのどちらかである。'''」ということだ。おっと、当たり前だといって笑っちゃいけないぞ君。これはほんとうに大切なことだ。何せ……{{粛清されました}} | |||
本題に戻ろう。ではまず、「『非自己叙述的』は非自己叙述的である」と仮定して話を進めようか。「非自己叙述的」は非自己叙述的である。すなわち「非自己叙述的」はその言葉自体と矛盾した意味を持っている。よって「非自己叙述的」は'''非自己叙述的でない'''。 | <blockquote> | ||
むむ? いま、「非自己叙述的」は非自己叙述的だ、として話を進めたはずだ。しかしそこから、それを否定する結論が得られた。なぜだろうか? うーん。 | <span style="font-size:larger">「非自己叙述的」という言葉は非自己叙述的であるか?''</span> | ||
あるいは、最初の仮定が間違っていた、と考える方が自然であろう。今度は{{underline|文字列=他の可能性}}にかけるのだ――ところで先ほど、「'''すべての言葉は非自己叙述的であるか非自己叙述的でないかのどちらかである。'''」と述べた。となると{{underline|文字列=他の可能性}}とは、「『非自己叙述的』は非自己叙述的でない」ということじゃあないか! | </blockquote> | ||
では、そう仮定するとどうなるのだろうか? 「非自己叙述的」は非自己叙述的でない。つまり「非自己叙述的」はその言葉自体と矛盾した意味を持っていない。ゆえに、「非自己叙述的」は'''非自己叙述的である'''。 | |||
またもや仮定と矛盾する結論を導いてしまった。やあ君、どうしてこうなったのだ? 僕たちはすべての可能性を検討しきったのに、そのどれにおいても矛盾が生まれるだなんて……。 | これを解くにあたって、重要なことがある。「'''すべての言葉は非自己叙述的であるか非自己叙述的でないかのどちらかである。'''」ということだ。おっと、当たり前だといって笑っちゃいけないぞ君。これはほんとうに大切なことだ。何せ……{{粛清されました}} | ||
本題に戻ろう。ではまず、「『非自己叙述的』は非自己叙述的である」と仮定して話を進めようか。「非自己叙述的」は非自己叙述的である。すなわち「非自己叙述的」はその言葉自体と矛盾した意味を持っている。よって「非自己叙述的」は'''非自己叙述的でない'''。 | |||
むむ? いま、「非自己叙述的」は非自己叙述的だ、として話を進めたはずだ。しかしそこから、それを否定する結論が得られた。なぜだろうか? うーん。 | |||
あるいは、最初の仮定が間違っていた、と考える方が自然であろう。今度は{{underline|文字列=他の可能性}}にかけるのだ――ところで先ほど、「'''すべての言葉は非自己叙述的であるか非自己叙述的でないかのどちらかである。'''」と述べた。となると{{underline|文字列=他の可能性}}とは、「『非自己叙述的』は非自己叙述的でない」ということじゃあないか! | |||
では、そう仮定するとどうなるのだろうか? 「非自己叙述的」は非自己叙述的でない。つまり「非自己叙述的」はその言葉自体と矛盾した意味を持っていない。ゆえに、「非自己叙述的」は'''非自己叙述的である'''。 | |||
またもや仮定と矛盾する結論を導いてしまった。やあ君、どうしてこうなったのだ? 僕たちはすべての可能性を検討しきったのに、そのどれにおいても矛盾が生まれるだなんて……。 | |||
はっ! 君君、これ、'''パラドックスじゃないか!''' | はっ! 君君、これ、'''パラドックスじゃないか!''' | ||
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<br>「あ、帰らないで。また一つ疑問が湧いてきたの」 | <br>「あ、帰らないで。また一つ疑問が湧いてきたの」 | ||
<br>「ええ、なんだって?」 | <br>「ええ、なんだって?」 | ||
<br><big> | <br><big>「『非自己叙述的』って言葉は、非自己叙述的なのかしら」</big> | ||
<br>「えっとね……うーん? もし'''非自己叙述的だとする'''と……」 | <br>「えっとね……うーん? もし'''非自己叙述的だとする'''と……」 | ||
<br>「つまり、『非自己叙述的』という言葉はその意味がその言葉自身に反する、ってことだから……」 | <br>「つまり、『非自己叙述的』という言葉はその意味がその言葉自身に反する、ってことだから……」 | ||
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<br>「そんなことがあるの?」 | <br>「そんなことがあるの?」 | ||
<br>「いやいや、仮定がつねに正しいとは限らないじゃないか。もし仮定が間違っていたならば、矛盾が起こってもおかしくはないだろう?」 | <br>「いやいや、仮定がつねに正しいとは限らないじゃないか。もし仮定が間違っていたならば、矛盾が起こってもおかしくはないだろう?」 | ||
<br>「確かに。じゃあ仮定を変えてみよう。もし'''『非自己叙述的』が非自己叙述的でないとする''' | <br>「確かに。じゃあ仮定を変えてみよう。もし'''『非自己叙述的』が非自己叙述的でないとする'''と……?」 | ||
<br> | <br>「『非自己叙述的』という言葉はつまり、意味がその言葉自身に反しない、ということだね……」 | ||
<br> | <br>比路子さんは結論を導いた。「そうね。つまり、'''『非自己叙述的』は非自己叙述的である'''……」 | ||
<br> | <br>「何だって? <ruby>こんなこと<rt>・・・・・</rt></ruby>はありえないのに」ここへきて十荻君はうろたえた。 | ||
<br> <ruby>そのこと<rt>・・・・</rt></ruby> | <br> <ruby>そのこと<rt>・・・・</rt></ruby>に気づいて彼女もつぶやき返す。「これって……嘘……」 | ||
<br> そして彼らは言うのだった。「「私たち、入れ替わってる?」」<ref>ええっ、どこで入れ替わったのでしょうか? もう一度読んで考えてみましょう。</ref> | <br> そして彼らは言うのだった。「「私たち、入れ替わってる?」」<ref>ええっ、どこで入れ替わったのでしょうか? もう一度読んで考えてみましょう。</ref> | ||
==物語(若い論理学者の独りごと)== | ==物語(若い論理学者の独りごと)== | ||
この国もずいぶんと落ちこぼれたようだな。だいいちここの国民は頭が悪すぎる。言語とメタ言語の区別もつかないだなんて、ほんとうに困ったものだ。 | |||
うーん、いや、そのおかげで、猿でも[[分かんな~い|分かる]]ようなことを1時間か2時間喋るだけで金がもらえるようになったのか。それは大いに感謝しないと。最近の収入に限っては、もはやほとんど講演だもんね、笑っちゃうよ、ははっ。 | |||
[[ | [[ソーイエバ_(感動詞)|そういえば]]……明日も講演じゃないか。内容のおさらいでもしておこう。ノート、ノート。ああ、あった。 | ||
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****たとえるならば、「現在のフランス国王は74歳である」という文が常に偽となる(「74歳である」と仮定しても「74歳でない」と仮定しても、「現在のフランス国王」という言い方が間違っている<ref>現在のフランスに国王はいない。</ref>ため)ようなものである。 | ****たとえるならば、「現在のフランス国王は74歳である」という文が常に偽となる(「74歳である」と仮定しても「74歳でない」と仮定しても、「現在のフランス国王」という言い方が間違っている<ref>現在のフランスに国王はいない。</ref>ため)ようなものである。 | ||
</blockquote> | </blockquote> | ||
ノートにまとめるとこんなに短くなるけれど、本番は引き伸ばして喋ればいいんだもんね。楽なものさ。 | |||
==脚注== | ==脚注== | ||
<references /> | <references /> | ||
{{foot|ds=ひしこしよしゆつてき|cat=ロジック|cat2=自己言及|cat3=言葉}} | |||
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