「Sisters:WikiWikiリファレンス/開いた口が塞がらない状態における日本語の音韻解明」の版間の差分
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# 発声の状態→開いた口が塞がらない状態でも声門に影響はないため,影響はない。 | # 発声の状態→開いた口が塞がらない状態でも声門に影響はないため,影響はない。 | ||
# 調音位置→開いた口が塞がらない状態においては,両唇を近づけての発音や,歯茎や硬口蓋などの一部の調音位置に舌を近づけての発音が自然なものではなくなるため,後舌面(舌の奥の方)での「'''舌背音'''」(「'''軟口蓋音'''」と「'''口蓋垂音'''」),そして「'''咽喉音'''」(「'''声門音'''」や「'''咽頭音'''」など)に限定される。 | # 調音位置→開いた口が塞がらない状態においては,両唇を近づけての発音や,歯茎や硬口蓋などの一部の調音位置に舌を近づけての発音が自然なものではなくなるため,後舌面(舌の奥の方)での「'''舌背音'''」(「'''軟口蓋音'''」と「'''口蓋垂音'''」),そして「'''咽喉音'''」(「'''声門音'''」や「'''咽頭音'''」など)に限定される。 | ||
# 調音方法→特に影響はないが,「'''破裂音'''」に関しては,開いた口が塞がらない状態において声門の閉鎖に比較的時間がかかるため,その分の気流が同じ調音位置から「'''摩擦音''' | # 調音方法→特に影響はないが,「'''破裂音'''」に関しては,開いた口が塞がらない状態において声門の閉鎖に比較的時間がかかるため,その分の気流が同じ調音位置から「'''摩擦音'''」となって現れる。このため,破裂音は破擦化し,つまり「'''破擦音'''」となる。 | ||
このことから,開いた口が塞がらない状態における子音は,後舌面での舌背音と咽喉音に限定され,破裂音は破擦音となるといえるのである。これによって,日本語の子音にどのような影響が現れるのかについて,それぞれ考えていく。 | このことから,開いた口が塞がらない状態における子音は,後舌面での舌背音と咽喉音に限定され,破裂音は破擦音となるといえるのである。これによって,日本語の子音にどのような影響が現れるのかについて,それぞれ考えていく。 | ||
===== 第1項 両唇音・舌頂音・硬口蓋音 ===== | ===== 第1項 両唇音・舌頂音・硬口蓋音 ===== | ||
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* [ŋ, ɣ, ɴ, h] は,発音は変わらず,表記は母音のみが変わる | * [ŋ, ɣ, ɴ, h] は,発音は変わらず,表記は母音のみが変わる | ||
とのことがいえる。 | とのことがいえる。 | ||
=== 第4章 おわりに === | === 第4章 おわりに === | ||
==== 第1節 結論 ==== | ==== 第1節 結論 ==== |
2年5月6日 (来) 14:09時点における版
開いた口が塞がらない状態における日本語の音韻解明 ~あえはくはへがははがんぁあえ~
第1章 はじめに
第0節 用語の定義
思考を進めるより先に,研究対象をきっちり定義しておくことは,非常に重要である。以下に用語とその定義を掲げる。
- 開いた口が塞がらない - 目の前にジャスティン・ビーバーがテレポートしてきたときに驚いて開けるくらいの口,すなわち,出来る限り大きく開けた口の8割程度の大きさに口を開けているさま。
- 開いた口が塞がらない語 - 「開いた口が塞がらない状態で発声した日本語」を,その音韻(など)の違いから日本語とは別物だとして扱ったときの言語のこと。
これらの用語がこのレポートに出てくる場合,それらはすべて上の定義で使われると考えてよい。
第1節 研究の動機
ある放課後,すれ違った男性が友人と政治批判をしつつ「責任逃れか。全く,開いた口が塞がらないね」などと言うのが聞こえた。
我々はここに違和感を覚えた。彼は「全く」と言った。「まったく」の「ま」とは,口を一度完全に閉じなければ発声できない音だ。にもかかわらず,彼は「開いた口が塞がらない」とも言った。これは明らかな大嘘である。
我々の違和感の原因は分かった。しかし,「彼はすぐバレるような嘘をついたのだ」と片付ける前に,次なる疑問が浮かんだ。
「では,『開いた口が塞がらない』状況下で,人々はどのような日本語を話すのだろうか?」
気にならない方がおかしいというものだ。よって,この機会に検証したいと思った。
第2節 研究の目的
この研究は,純然たる科学である音声学のもとに,実際に「開いた口が塞がらない」状況にある人間が,どのように日本語の音韻を表現するのかについて明らかにするものである。具体的には,
- 開いた口が塞がらない状態での,通常の日本語の音韻を表現する発音
- その発音の,国際音声記号(IPA)や通常の日本語の形態を用いた表記
- 開いた口が塞がらないときの直し方
などを調べていく。
第3節 研究の方法
本節では,研究の原則及び手順を示す。
この研究の目的のうち最たるものとは,開いた口が塞がらない語の音韻を解明することである。
当然ながら,得られた音韻は真なる事実と的確たる推論によるものでなければならない。具体的には,国際音声学協会(IPA)公認の音声学体系を前提,つまり起点とし,また直感ではなく客観的な根拠に基づいて推論していく。
とはいえ,今後この言語が発展するには,その音韻の「正しさ」について大衆の納得・共感が得られるべきである。結論が単なる机上の空論となってしまうことは避けなければならない。よって一般的な思考手順「仮説→検証」あるいは「これのような気がするなあ→でもなぜだろうなあ」を原則とし,自然で素直な思考を目指す。具体的には,問いに対する「直感的な予想」をはじめに掲げ(→第2章),その予想がなぜ直感と合致するのだろうか,という視点を持って検証していく*1。
*1…むろん,直感を絶対的に信じる姿勢を取るわけではない。検証の過程で予想のとある箇所が別の箇所と矛盾することが判明した場合,解釈をねじ曲げて矛盾を回避することよりも,むしろその箇所を修正することを我々は積極的に考えるだろう。
第2章 仮説
開いた口が塞がらない語の音韻について,「仮説」を表として以下に掲げる。これは「知人数名で口を開いて発声してまとめた,洗練されていない直感的予想」であって,検証の起点を仮定する目的を持つにすぎず,正確性と統一性は保証されない。したがって,この後の検証によって一部または全部が否定される可能性を持つものである。
あ | あ | い | い | う | う | え | え | お | お |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
か | うぁ | き | うぃ | く | う | け | うぇ | こ | うぉ |
が | うぁ | ぎ | うぃ | ぐ | う | げ | うぇ | ご | うぉ |
さ | は | し | ひ | す | ふ | せ | へ | そ | ほ |
ざ | は | じ | ひ | ず | ふ | ぜ | へ | ぞ | ほ |
た | は | ち | ひ | つ | ふ | て | へ | と | ほ |
だ | は | ぢ | ひ | づ | ふ | で | へ | ど | ほ |
な | あ | に | い | ぬ | う | ね | え | の | お |
は | は | ひ | ひ | ふ | ふ | へ | へ | ほ | ほ |
ば | は | び | ひ | ぶ | ふ | べ | へ | ぼ | ほ |
ぱ | は | ぴ | ひ | ぷ | ふ | ぺ | へ | ぽ | ほ |
ま | あ | み | い | む | う | め | え | も | お |
や | いぁ | ゆ | いぅ | よ | いぉ | ||||
ら | うぁ | り | うぃ | る | う | れ | うぇ | ろ | うぉ |
わ | うぁ | ||||||||
ん | ん |
第3章 検証と考察
第1節 考察の流れ
この研究では,音声学の観点から,開いた口が塞がらない状態の日本語の変化,主に発音と表記について考える。音声学とは,人間による音声について研究する学問であり,ここでは音声学の中でも「発音」を主とする分野である調音音声学に基づいていく。
まず発音について,ここでは「単音」,つまりそれぞれ一つずつ絶対的に存在する音声に着目して考えていく。つまり,例えば「あっかんべー」という文字列を「[ä]/[kː ]/[ä]/[m]/[b]/[e̞ː ]」と区切って,それぞれの音の特徴などを踏まえ,開いた口が塞がらないことによる影響を考えるということだ。
そして表記について,ここでは「音素」,つまりある言語において同じものであるとされる音声の集合に着目して,変化した発音を日本語として捉え直していく。例えば,文字列「アンパン」について,音声として捉えれば,実際には違う音([ämpäɴ])であるにもかかわらず,日本語では二つの「ン」は同一と見なされる(/aɴpaɴ/)。これが音素の特徴であり,これによって日本語には本来存在しない音声をも日本語で表すことができるのである。
また,日本語には,「モーラ」と呼ばれる音の単位が存在する。これは「拍」とも言い換えられ,単独で音節をつくる「自立モーラ」と,単独で音節をつくれない「特殊モーラ」の二種類が存在する。日本語における自立モーラには,「あ」「か」等の直音と,「きゃ」「くゎ」等の拗音*1があり,特殊モーラには促音「っ」,長音「ー」,撥音「ん」がある*2。ここで日本語話者が注意すべきであることは,特に特殊モーラに関して,これらは必ずしもある一つの音声と対応しているわけではないということだ。例えば促音は,実際には長子音(長く発音される子音)の前半を切り取って1モーラとしたものであり,単独で音声を表すことはない。このように,あくまでも開いた口が塞がらない状態における一方的な日本語の変化を考えることには,音素やモーラのような特定の言語(ここでは日本語)の話者の間に共通する概念ではなく,確固たる表記基準を持つ「単音」を中心に考えていく。
では,母音と子音,そしてそれらの弁別要素から音声を分類し,発音と表記についての,開いた口が塞がらない状態における影響について考えていく。
*1…子音が口蓋化(舌の前面を口腔内の上部に近づけて調音する音になること)または円唇化(唇を丸めて調音する音になること)されていて,かつそれに対立する,子音が口蓋化も円唇化もされていない直音が存在するもののことである。例えば,拗音の「しゃ」は直音の「さ」と対立する口蓋化した音である。しかし,開いた口が塞がらない状態においては,口蓋化も円唇化も自然に発声することはできないため,拗音と直音の対立は消失し,これによって直音と拗音という2つの概念も消失し,その結果「直音」とされていたもののみが残る。
*2…なお,促音・長音については,それぞれ長子音・長母音の一部であり,開いた口が塞がらない状態でもこれらは存在するため,開いた口が塞がらない場合においても何ら変化はない。
第2節 日本語の母音
まず,母音とは「調音位置が存在しない音」のことである。つまり,気流(肺からの息の通り道)を一切妨げずに発する音,ということである。日本語の母音には,「あ」「い」「う」「え」「お」で表される5種類が存在している。
音声学上,母音は 1.唇の形 2.舌の形 3.顎の開閉度 の3つの特徴によって弁別される。例えば日本語の「あ」の音は,「唇が丸まっておらず,舌が口腔内で中ほどに位置し,顎の開き具合が広い母音」,つまり「非円唇中舌広母音」のように表される。
ここで,開いた口が塞がらない状態において,これら3つの弁別要素にどのような影響が自然に現れるのかについて,以下のことが考えられる。
- 唇の形→丸まることのない「非円唇」に限定される。
- 舌の形→開いた口が塞がらない状態でも舌の形は自由であるため,影響はない。
- 顎の開閉度→常に広くなり,「広母音」および「狭めの広母音」に限定される。
このことから,開いた口が塞がらない状態における母音は,非円唇かつ広母音および狭めの広母音であるものに限定されるといえるのである。これによって,日本語の母音にどのような影響が現れるのかについて,それぞれ考えていく。
「あ」は非円唇中舌広母音([ä])である。非円唇の広母音であって,これが影響を受けることはないため,「あ」は開いた口が塞がらない状況においても,発音・表記ともに変わらない。
「い」は非円唇前舌狭母音([i])である。非円唇であるが広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「い」は非円唇前舌狭めの広母音([æ])として発音され,その発音が本来の日本語のこれと近しいために「え」として表記される。
「う」は弱めの円唇後舌狭母音([ɯ̹])である。弱かれ円唇であり,さらに広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「う」は,非円唇後舌広母音([ɑ])として発音され,その発音が本来の日本語のこれと近しいために「あ」として表記される。
「え」は非円唇前舌中央母音([e̞])である。「い」と同様に非円唇であるが広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「え」は,「い」と同じく非円唇前舌狭めの広母音([æ])として発音され,「え」として表記される。
「お」は円唇後舌中央母音([o̞])である。「う」とほぼ同様に円唇であり,さらに広母音ではない。このため,開いた口が塞がらない状況における「お」は,「う」と同じく非円唇後舌広母音([ɑ])として発音され,「あ」として表記される。
結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の母音は,
- [ä, i, ɯ̹, e̞, o̞]ではなく[ä, æ, ɑ, æ, ɑ]と発音される
- 「あ/い/う/え/お」ではなく「あ/え/あ/え/あ」として表記される
ということができる。
第3節 日本語の子音
まず,子音とは,「調音位置が存在する音」のことである。つまり,母音とは逆に気流をどこかで妨げて発する音,ということである。日本語では子音を単独で表すことはできないが,強いて言うなら「『か』の頭子音」,「『さ』の頭子音」など,約30種類が存在している。
音声学上,子音は 1.発声の状態 2.調音位置(気流をどこで妨げるのか) 3.調音方法(気流をどう妨げるのか) の3つの特徴によって弁別される。例えば日本語の「か」の頭子音は,「声帯が振動しておらず,軟口蓋(口腔内の上奥にある柔らかい部分)で気流が妨げられ,その妨げの種類が『完全な閉鎖を急に開放するもの』である子音」,つまり「無声軟口蓋破裂音」のように表される。
ここで,開いた口が塞がらない状態において,これら3つの弁別要素にどのような影響が自然に現れるのかについて,以下のことが考えられる。
- 発声の状態→開いた口が塞がらない状態でも声門に影響はないため,影響はない。
- 調音位置→開いた口が塞がらない状態においては,両唇を近づけての発音や,歯茎や硬口蓋などの一部の調音位置に舌を近づけての発音が自然なものではなくなるため,後舌面(舌の奥の方)での「舌背音」(「軟口蓋音」と「口蓋垂音」),そして「咽喉音」(「声門音」や「咽頭音」など)に限定される。
- 調音方法→特に影響はないが,「破裂音」に関しては,開いた口が塞がらない状態において声門の閉鎖に比較的時間がかかるため,その分の気流が同じ調音位置から「摩擦音」となって現れる。このため,破裂音は破擦化し,つまり「破擦音」となる。
このことから,開いた口が塞がらない状態における子音は,後舌面での舌背音と咽喉音に限定され,破裂音は破擦音となるといえるのである。これによって,日本語の子音にどのような影響が現れるのかについて,それぞれ考えていく。
第1項 両唇音・舌頂音・硬口蓋音
両唇音,舌頂音,硬口蓋音とは,簡潔に言えばそれぞれ「両方の唇を使って調音する音」,「舌の先端付近を歯茎などその付近に近づけて調音する音」,「舌の前の方の面を硬口蓋に近づけて調音する音」である。なお,日本語の舌頂音には「歯茎音」,「そり舌音」,「歯茎硬口蓋音」の3種類が存在する。
前述の通り,開いた口が塞がらない状態においては,両唇間を近づけたり,歯茎や硬口蓋の付近に舌を近づけたりする発音は極めて不自然なものとなる。このため,これら3つに分類される子音の調音位置は消失する。そうすると,つまりそれらの音は「調音器官が存在しない音」,すなわち母音に他ならないものになるのである。
なお,このように開いた口が塞がらないゆえに子音が母音となったとき,それは滑らかに異なる母音が変化して一つの母音とされるもの,つまり「二重母音」となる。このとき,元は子音だった母音の聞こえやすさの方が低くなるため,表記面においては後ろの母音のみでなされると考えられる。
母音の弁別要素は,先述の通り 1.唇の形 2.舌の形 3.顎の開閉度 の3つである。開いた口が塞がらない状態においては,1と2はそれぞれ非円唇,広母音および狭めの広母音に限定されるため,2.舌の形 を重視して母音を識別する必要がある。
では,これに基づき,それぞれの子音が開いた口が塞がらない状態においてどのような母音になるのかについて考えていく。
- 両唇音 日本語の両唇音には以下の5つが存在する。
- 両唇鼻音([m])→「ま/み/む/め/も」や両唇音の直前の「ん」に用いられる。
- 無声両唇破裂音([p])→「ぱ/ぴ/ぷ/ぺ/ぽ」に用いられる。
- 有声両唇破裂音([b])→「ば/び/ぶ/べ/ぼ」に用いられる。
- 無声両唇摩擦音([ɸ])→「ふ」に用いられる。
- 両唇接近音([β̞])→「わ」に用いられる。(稀に「を」にも用いられるが,本来は [o̞] である。)
舌の形についてだが,両唇音の発音に舌の形は関係していないため,それは直後の母音と同じ形になることがいえる。このため,これら5つの子音は直後の母音と同じ形の母音となる。なお,母音は元来有声であるが,もともとの子音の「無声か有声か」という発声の状態の別を考慮して,「無声母音」と「有声母音」に分けられるといえる。さらに,1のような「鼻音」とは,つまり「鼻から発する子音」ということであり,この性質は調音位置を失って母音となるとき「鼻から発する母音」すなわち「鼻母音」と化すという影響を与える。なお,これらはどの子音が調音位置を失って変化したどの母音にも共通する特徴である。
つまり,開いた口が塞がらない状態における両唇音は,直後の母音と同じ形の母音となる。
結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の両唇音について,
- [p, ɸ] は [ḁ̈, æ̥, ɑ̥] の中で直後の母音と形が同じもので発音される
- 「ぱ/ぴ/ぷ/ぺ/ぽ」「ふ」ではなく「は/へ/は/へ/は」「は」として表記される
- [b, β̞] は[ä, æ, ɑ]の中で直後の母音と形が同じもので発音される
- 「ば/び/ぶ/べ/ぼ」「わ」ではなく「あ/え/あ/え/あ」「あ」として表記される
- [m]は[ä̃, æ̃, ɑ̃]の中で直後の母音と形が同じもので発音される
- 「ま/み/む/め/も」ではなく「んぁ/んぇ/んぁ/んぇ/んぁ」として表記される
とのことがいえる。
- 歯茎音 日本語の歯茎音には以下の10つが存在する。
- 歯茎鼻音([n])→「な/に/ぬ/ね/の」や歯茎音の直前の「ん」に用いられる。
- 無声歯茎破裂音([t])→「た/て/と」に用いられる。
- 有声歯茎破裂音([d])→「だ/で/ど」に用いられる。
- 無声歯茎歯擦破擦音([t͡s])→「つ」に用いられる
- 有声歯茎歯擦破擦音([d͡z])→語頭や撥音の直後の「ざ/ず(づ)/ぜ/ぞ」に用いられる(例: 税 [d͡ze̞i])
- 無声歯茎摩擦音([s])→「さ/す/せ/そ」に用いられる。
- 有声歯茎摩擦音([z])→母音の直後の「ざ/ず(づ)/ぜ/ぞ」に用いられる(例: 痣 [äzä])
- 歯茎はじき音([ɾ])→母音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」に用いられる(例: 空 [so̞ɾä] 話者によってはそり舌はじき音で置き換えられる)
- 歯茎側面はじき音([ɺ])→語頭や撥音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」に用いられる(例: ロバ [ɺo̞bä])
- 歯茎側面接近音([l])→撥音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」にしばしば用いられる(例: 半裸 [hänlä])
舌の形について,歯茎音では歯茎に舌の先端を近づけているが,最も舌が盛り上がっている場所は硬口蓋より少し奥である。なお,歯茎に舌の先端を近づけているということから,顎の開閉度は比較的狭くなることが分かる。よって,開いた口が塞がらない状態における歯茎音は,非円唇中舌狭めの広母音と同じ形の母音となる。
結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の歯茎音について,
- [t, t͡s, s] は [ɐ̥](無声非円唇中舌狭めの広母音) と発音される
- 「た/て/と」「つ」「さ/す/せ/そ」ではなく「は/へ/は」「は」「は/は/へ/は」として表記される
- [d, d͡z, z, ɾ, ɺ, l] は [ɐ](有声非円唇中舌狭めの広母音)と発音される
- 「だ/で/ど」「ざ/ず(づ)/ぜ/ぞ」「ら/り/る/れ/ろ」ではなく「あ/え/あ」「あ/あ/え/あ」「あ/え/あ/え/あ」として表記される
- [n]は[ɐ̃](有声非円唇中舌狭めの広鼻母音)と発音される
- 「な/に/ぬ/ね/の」ではなく「んぁ/んぇ/んぁ/んぇ/んぁ」として表記される
とのことがいえる。
- そり舌音 日本語のそり舌音には,この1つのみが存在する。
- そり舌はじき音([ɽ])→母音の直後の「ら/り/る/れ/ろ」に用いられる(例: 空 [so̞ɽä] 話者によっては歯茎はじき音で置き換えられる)
舌の形については,ほぼ先述した歯茎音と変わらないのだが,そり舌音の舌の先端を反らすという特性上,「r」のような母音,すなわちR音性母音として発音されることになる。
結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語のそり舌音について,
- [ɽ] は [ɐ˞](R音性非円唇中舌狭めの広母音)と発音される
- 「ら/り/る/れ/ろ」ではなく「あ/え/あ/え/あ」として表記される
とのことがいえる。
- 歯茎硬口蓋音 日本語の歯茎硬口蓋音には以下の4つが存在する。
- 無声歯茎硬口蓋破擦音([t͡ɕ])→「ち」「ちゃ/ちゅ/ちょ」に用いられる
- 有声歯茎硬口蓋破擦音([d͡ʑ])→語頭や撥音の直後の「じ(ぢ)」「じゃ/じゅ/じょ(ぢゃ/ぢゅ/ぢょ)」に用いられる(例: 地獄 [d͡ʑigo̞kɯ̹])
- 無声歯茎硬口蓋摩擦音([ɕ])→「し」「しゃ/しゅ/しょ」に用いられる
- 有声歯茎硬口蓋摩擦音([ʑ])→母音の直後の「じ(ぢ)」「じゃ/じゅ/じょ(ぢゃ/ぢゅ/ぢょ)」に用いられる(例: アジ [äʑi])
舌の形について,歯茎硬口蓋音は歯茎音と硬口蓋音の中間ともとれるような形であるため,先述した歯茎音は中舌母音,後述する硬口蓋音は前舌母音であることから,前舌め母音の形であるといえる。なお,歯茎から硬口蓋に舌を近づけているということから,歯茎音,硬口蓋音と同様に顎の開閉度は比較的狭くなることが分かる。よって,開いた口が塞がらない状態における歯茎硬口蓋音は,非円唇前舌め狭めの広母音と同じ形の母音となる。
結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の歯茎硬口蓋音について,
- [t͡ɕ, ɕ] は [ɐ̟̊](無声非円唇前舌め狭めの広母音)と発音される
- 「ち」「し」ではなく「へ」として表記される
- [d͡ʑ, ʑ] は [ɐ̟](有声非円唇前舌め狭めの広母音)と発音される
- 「じ(ぢ)」ではなく「え」として表記される
とのことがいえる。
- 硬口蓋音 日本語の硬口蓋音には以下の3つが存在する。
- 硬口蓋鼻音([ɲ])→「に」「にゃ/にゅ/にょ」に用いられることがある。硬口蓋音の直前の「ん」に用いられる。
- 無声硬口蓋摩擦音([ç])→「ひ」「ひゃ/ひゅ/ひょ」に用いられる。
- 硬口蓋接近音([j])→「や/ゆ/よ」に用いられる。
舌の形について,前舌母音の形になるといえる。というのも,そもそも前舌母音は舌が硬口蓋に近い母音であるというように定められているためである。なお,硬口蓋に舌を近づけているということから,顎の開閉度は比較的狭くなることが分かる。よって,開いた口が塞がらない状態における硬口蓋音は,非円唇前舌狭めの広母音と同じ形の母音となる。
結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の硬口蓋音について,
- [ç, j] はそれぞれ [æ̥, æ](無声・有声非円唇前舌狭めの広母音)と発音される
- 「ひ」「や/ゆ/よ」ではなく,それぞれ「へ」,「えぁ/えぁ/えぁ」として表記される
- ヤ行の頭子音は半母音であり,さらに同じく頭子音が半母音である「わ」と違って,半母音である硬口蓋接近音が持続された母音である「い([i])」は開いた口が塞がらない状態で「え([æ])」となり,これは「あ([ä, ɑ])」とは異なる発音であるために,開いた口が塞がらない状態で発生する二重母音としては例外的に前の母音の聞こえやすさが比較的高くなるため,表記面においても「あ」と違う「えぁ」で示せるといえる。
- [ɲ] は [æ̃](有声非円唇前舌狭めの広鼻母音)と発音される
- 「に」ではなく「んぇ」として表記される
とのことがいえる。
第2項 軟口蓋音・口蓋垂音・声門音
軟口蓋音,口蓋垂音,声門音とは,簡潔に言えばそれぞれ「舌の奥の方の面を 軟口蓋/口蓋垂 に近づけて調音する音」,「声帯を使って調音する音」である。
前述の通り,開いた口が塞がらない状態は,調音位置が消失して母音となる子音がしばしば存在するが,これらの音は舌の奥の面によって,またはさらに奥の調音器官を使って調音されるため,開いた口が塞がらないことによる調音位置への影響を受けないのである。このため,ここでは調音方法に着目しながら,それぞれの子音が開いた口が塞がらない状態においてどのような影響を受けるのか考えていく。
- 軟口蓋音 日本語の軟口蓋音には以下の4つが存在する。
- 無声軟口蓋破裂音([k])→「か/き/く/け/こ」に用いられる
- 有声軟口蓋破裂音([ɡ])→語頭や撥音の直後の「が/ぎ/ぐ/げ/ご」に用いられる(例: ゴザ [ɡo̞zä] 撥音の直後では,話者によっては軟口蓋鼻音で置き換えられる)
- 軟口蓋鼻音([ŋ])→語中の「が/ぎ/ぐ/げ/ご」や軟口蓋音の直前の「ん」に用いられる(例: サンゴ [säŋo̞] 語中・撥音とその直後では,話者によってはそれぞれ有声軟口蓋摩擦音・撥音と有声軟口蓋破裂音で置き換えられる)
- 有声軟口蓋摩擦音([ɣ])→語中や母音の直後の「が/ぎ/ぐ/げ/ご」に用いられる(例: アゴ [äɣo̞] 語中では,話者によっては軟口蓋鼻音で置き換えられる)
- 口蓋垂音 日本語の口蓋垂音はこの1つのみが存在する。
- 口蓋垂鼻音([ɴ])→語尾や,単発の場合の「ん」に用いられる。
- 声門音 日本語の声門音にはこの1つのみが存在する。
- 無声声門摩擦音([h])→「は/へ/ほ」に用いられる。
先述した通り,開いた口が塞がらない状態において破裂音は摩擦音を伴い,破擦音となる。しかし,これ以外のいかなる調音方法にも影響を及ぼさない。よって,開いた口が塞がらない状態における日本語の軟口蓋音,口蓋垂音,声門音では,破裂音が破擦化するのみである。
結論として,開いた口が塞がらない状況における日本語の軟口蓋音,口蓋垂音,声門音について,
- [k, g] はそれぞれ [k͡x, ɡ͡ɣ](無声・有声軟口蓋破擦音)と発音される
- 「か/き/く/け/こ」ではなく,「くは/くへ/くは/くへ/くは」として表記される
- 「が/ぎ/ぐ/げ/ご」は,有声軟口蓋破擦音が用いられる場合は「ぐが/ぐげ/ぐが/ぐげ/ぐが」として表記され,それ以外が用いられる場合では表記は変わらない
- [ŋ, ɣ, ɴ, h] は,発音は変わらず,表記は母音のみが変わる
とのことがいえる。
第4章 おわりに
第1節 結論
第3章の時点で,日本語に存在するすべてのモーラが,開いた口が塞がらない語への各種モーラに置換可能になったといえる。本節では,それを「結論」として五十音図にまとめ,本研究の成果を一覧されたい。
あ | あ[ä] | い | え[æ] | う | あ[ɑ] | え | え[æ] | お | あ[ɑ] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
か | くは[k͡xä] | き | くへ[k͡xæ] | く | くは[k͡xɑ] | け | くへ[k͡xæ] | こ | くは[k͡xɑ] |
が | ぐが/が[ɡ͡ɣä]/[ŋä][ɣä] | ぎ | ぐげ/げ[ɡ͡ɣæ]/[ŋæ][ɣæ] | ぐ | ぐが/が[ɡ͡ɣɑ]/[ŋɑ][ɣɑ] | げ | ぐげ/げ[ɡ͡ɣæ]/[ŋæ][ɣæ] | ご | ぐが/が[ɡ͡ɣɑ]/[ŋɑ][ɣɑ] |
さ | は[ɐ̯̊ä] | し | へ[ɐ̟̯̊æ] | す | は[ɐ̯̊ɑ] | せ | へ[ɐ̯̊æ] | そ | は[ɐ̯̊ɑ] |
ざ | あ[ɐ̯ä] | じ | え[ɐ̟̯æ] | ず | あ[ɐ̯ɑ] | ぜ | え[ɐ̯æ] | ぞ | あ[ɐ̯ɑ] |
た | は[ɐ̯̊ä] | ち | へ[ɐ̟̯̊æ] | つ | は[ɐ̯̊ɑ] | て | へ[ɐ̯̊æ] | と | は[ɐ̯̊ɑ] |
だ | あ[ɐ̯ä] | ぢ | え[ɐ̟̯æ] | づ | あ[ɐ̯ɑ] | で | え[ɐ̯æ] | ど | あ[ɐ̯ɑ] |
な | んぁ[ɐ̯̃ä] | に | んぇ[ɐ̯̃æ][æ̯̃æ] | ぬ | んぁ[ɐ̯̃ɑ] | ね | んぇ[ɐ̯̃æ] | の | んぁ[ɐ̯̃ɑ] |
は | は[hä] | ひ | へ[hæ] | ふ | は[hɑ] | へ | へ[hæ] | ほ | は[hɑ] |
ば | あ[ä̯ä] | び | え[æ̯æ] | ぶ | あ[ɑ̯ɑ] | べ | え[æ̯æ] | ぼ | あ[ɑ̯ɑ] |
ぱ | は[ä̯̊ä] | ぴ | へ[æ̯̊æ] | ぷ | は[ɑ̯̊ɑ] | ぺ | へ[æ̯̊æ] | ぽ | は[ɑ̯̊ɑ] |
ま | んぁ[ä̯̃ä] | み | んぇ[æ̯̃æ] | む | んぁ[ɑ̯̃ɑ] | め | んぇ[æ̯̃æ] | も | んぁ[ɑ̯̃ɑ] |
や | えぁ[æ̯ä] | ゆ | えぁ[æ̯ɑ] | よ | えぁ[æ̯ɑ] | ||||
ら | あ[ɐ̯ä][ɐ̯˞ ä] | り | え[ɐ̯æ][ɐ̯˞ æ] | る | あ[ɐ̯ɑ][ɐ̯˞ ɑ] | れ | え[ɐ̯æ][ɐ̯˞ æ] | ろ | あ[ɐ̯ɑ][ɐ̯˞ ɑ] |
わ | あ[ä̯ä] | ||||||||
ん | ん[ä̃][æ̃][ɑ̃][ɐ̃][ŋ][ɴ] |
ところで日本語の仮名遣いは,1968年7月1日の昭和61年内閣告示第1号「現代仮名遣い」によって定義されている。日本語と開いた口が塞がらない語の仮名が相互に変換可能となった今,開いた口が塞がらない語に同様のものがあっても良いのではなかろうか。我々はそのように考え,開いた口が塞がらない語で「あえはくはへがははがあんぁえがぐげんあえくはんぁあくはえんぁえぁあああ」を作成した。
ここにその日本語訳「開いた口が塞がらない語仮名遣いの要領」を掲げ,開いた口が塞がらない語の適切な仮名遣いを定義したい。
開いた口が塞がらない語仮名遣いの要領(日本語訳)
一 漢字は使わない。 二 かなの使い方は,だいたい発音通りにする。助詞もこれに準ずる。日本語の「言う」も,「えあ」と書かないで,「えぁあ」と書く。 したがって,今後日本語五十音図の「あ」「え」「く」「は」「へ」「ん」を除くア行,カ行その他全行のかな,「ぁ」「ぇ」「っ」を除く捨て仮名,ならびに「が」「ぐ」「げ」を除くガ行,ザ行,ダ行,バ行及びパ行のかなは使わない。 三 長音は,それぞれのかなで書き表す。 |
第2節 印象
開いた口が塞がらない語の音韻はすでに解明されたわけであるが,実に平和な言語が出来たなあと感じる。もはや,「世界の公用語は英語」「最も母語話者数の多いのは中国語」「最も習得が難しい言語の一つは日本語」「最も完成された人工言語は恐らくロジバン」に続いて「最も平和な言語は開いた口が塞がらない語」と言っても良いのではなかろうか。我々がそのように思う理由を以下に示す。ただし,あくまで感想である。
○話者が話者である
だいいち開いた口が塞がらない語というのは,その言語的特徴のまえに,話者の民族性それ自体が平和そのものである。2021年8月現在この言語の話者が存在したことは無いが,もし存在するとすれば,彼らについてどのようなことが言えるだろうか。考えてもみてほしい。開いた口が塞がらない語の話者とは,イコール口を開けたまま発話行為を試みるような人々だ。何と呑気なことか。これは批判ではない。彼らには平和的な性質があるのだ。
○攻撃的な意思が伝わりづらい
開いた口が塞がらない語の文字の種類はきわめて少ない。これにより,同音の語が膨大に存在することが考えられ,意思を伝えにくい言語であるといえる。さらに,人は自らへのメッセージを好意的に受け取るものだ。たとえば,日本人は「やっぱしね」をわざわざ「やっぱ/しね」と区切って解釈しようとはしない。口を開けたまま話す呑気な民族ともなれば,たとえ他者にいささか攻撃的になる者は居るかもしれないにしても,情報を都合よく解釈するというその傾向はさらに強まるだろう。従って開いた口が塞がらない語では,攻撃的な意思は好意的な意思として解釈されやすいため,悪口を言う労力が大きく,ゆえにそのような苦労を選択するような人々は淘汰されていく。具体例としては以下のケースがある。
「死んじまえ」→「へんえんぁえ」→「真理なり」,「真理なれ」,「戦意ない」,「繊維の美」
「しょうもない」と思われたかもしれない――では,「この言語では喧嘩も戦争もできない」と言うとご共感いただけるだろうか?
○ほとんどの機能性構音障がい者にとってバリアフリーである
成人の機能性構音障害のほとんどが該当する「側音化構音障害」という発音障害があるが,これは構音の際,口の真ん中から息を出すところを側面から出してしまい,口を小さく開けるイ段の音や拗音などが正しく発音できなくなるものだという。これらの音はほとんどの言語に存在するが,開いた口が塞がらない語にはこれが無い。よって側音化構音障害を持っている人と持っていない人との区別がなく,そのバリアフリーさからも平和的な特徴がうかがえる。
以上のことから,開いた口が塞がらない語は平和な言語であると考える。
第3節 反省と今後の課題
研究を反省して,「日本語の仮名→日本語の音(IPA)→開いた口が塞がらない語の音(IPA)」の段階の変換まではほとんど客観的に進められたように思えるが,その後の「開いた口が塞がらない語の音(IPA)→開いた口が塞がらない語の仮名」の変換は,日本語のネイティブスピーカーとして感覚的に進めてしまったと感じた。例えば,日本語の「か」がIPAでは [kä] であることと,[kä] という発音が開いた口が塞がらない状態では [k͡xä] となることについては自信を持って説明できるが,[k͡xä] という発音が仮名表記で「くは」となるのは正確なのかと問われれば,答えに詰まる――「そう信じているのです」と答えるしかない。
また,特にラ行音,ワ行音などに膨大に存在する異音(=母語話者の意識上は区別されないが,音声学的には別物の音)を,厳密に全て調べきれなかったことが悔やまれる。調べきっても結論は変わらないかもしれないが,我々はそのことを証明する手段を持たない。
このように,研究を反省して細かく見ると,主観的だと思われる結論がいくつかあることを自覚する。
また,以下を今後の課題として意識する。専ら,本研究の結果の正確性向上と本研究を進める過程で生じた新たな疑問の解決に係るものである。
【正確性向上】
- 開いた口が塞がらない語の発音のサンプルを用意し(IPA が分かっているためこれは直ちに実行可能),それを多数の日本語話者に聞いてもらって直感で仮名表記を書かせる。その結果を総合し,現在のものよりも正確な,つまり話者の感覚に近い仮名遣いを導出すること
- 有声両唇摩擦音 [β],有声そり舌破裂音 [ɖ],硬口蓋はじき音 [ɟ̆] を含む13個以上の未検証異音の検証をすること
【新たな疑問】
- 開いた口が塞がらない語話者は本当に,「あ」と「お」など仮名表記では同一になっている音を識別しないのだろうか。=日本語話者の耳では識別できないが,開いた口が塞がらない語話者も同様だと言えるだろうか。(識別するとすれば,第一節に掲げた仮名遣いを修正しなければならない)。
第4節 感想
この研究によって,特に気になっていた「開いた口が塞がらない語の音韻」が解明できたことに,達成感を感じる。さらに,そのような成果が「一つひとつの音素について検証していく」という地道な作業の結果として生まれたことに,大いに感動している。
また,この研究を通じて,音声学に係る知識量が何倍にも増えた。これはぜひとも今後に生かしていきたい。(芯)
この研究を通じて,やはり体系化された知識,すなわち学問,および科学は素晴らしいものであると実感させられた。「開いた口が塞がらない状態の日本語はどうなるか」という,荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい問いにさえ,それに答えるための論理的な研究の土台となる体系的知識としての「科学」が存在し,そのうえこれによって実際にこの問いにある一つの答えを示すことができてしまったのである。
この研究における科学,つまり言語学に属する音声学は,狭義における科学である自然科学ではなく,「人文科学」といわれるものである。しかしながら先述の通り,私はこれらによる人間の研究成果である体系的知識が,人間のいかなる知的好奇心をも満たす土台となることができるという事実から,改めて,科学,もとい「サイエンス」が人間の最大の発明の一つであることを深く再認識し,大いに驚き,そのあまり開いた口が塞がらない。(キュアラプラプ)
第5節 参考文献
International Phonetic Association -国際音声学会
IPA 国際音声字母(記号) -東京外国語大学
現代仮名遣い -文化庁