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 日付もとっくに変わった頃、S大学の心霊サークルに所属する彼らは、S県D地方のさびれた山で軽自動車を走らせていた。


「いやあ、やっぱ山奥って雰囲気が違うよなあ。本当に何か出るんじゃね?」
「ぎゃはは、ないない。ユーレイなんているわけねえだろ!」
「マサシったら、オバケとか信じちゃってんのー? ほんと子供なんだから!」
 心霊サークルと銘打ってはいるものの、彼らの実態は単なる夜遊び集団だ。会費で酒とタバコと線香花火を買い込み、たまにネットで話題の心霊スポットに出向いては近所迷惑な騒ぎ声を上げるという生産性のない活動をしている。
「ケンゴにヒトミまで……ホラー映画ではそういう奴が最初に死ぬんだぜ。」
「おいおい、そんなことより、ここが例の廃墟じゃねえか?」
「ほんとだー! やっとついたあー!」
 車をほとんど舗装されていない路地に停め、三人は廃墟に近づいていった。冷たく不気味な風が辺りを覆うが、彼らはそれを気にも留めない。
「じゃ、ここの『いわく』でも紹介しますか。」
「よっ、待ってました! マサシの怪談話!」
「もうそんなのいいから早く酒飲もうぜー。」
「時は遡ること数十年前……この家には幸せな一家が暮らしていたという。しかしある時やってきた殺人鬼は、息子が間違ってドアを開けてしまったのをいいことに家の中に侵入、そして家族を次々惨殺! 残された息子が描いた、ドアの覗き窓越しに見た記憶の中の犯人の絵は、魚眼レンズのリアルで不気味な歪みようから、『検索してはいけない画像』として今なおネットで語り継がれているのだ……。」
「ぎゃははは、しょーもねー! どう考えても嘘だろ!」
「あはは、何それウケるんですけど!」
 彼らは大笑いしながら、まずは廃墟の扉にスプレー缶で下品ないたずら書きをして、それからドアを開けて中に入る。ぎいぎいと嫌な音が鳴るが、彼らはそれを気にも留めない。
「おじゃましまーっす! うおお、クローゼットでけえ!」
「何よマサシもノリノリじゃん、ウケる。」
「おっ、まさかこれ、例のドアスコープなんじゃね?」
 ケンゴが見つけたのは、マサシの話に出てきたドアの覗き窓だった。ひとしきり笑った後、ヒトミがいかにもわざとらしい口調で言う。
「もしかして、外に殺人鬼がいるんじゃない……!?」
「ぎゃはは、ヤベーってそれ! ちょっと見てみようぜ!!」
 片目をドアスコープにあてがった瞬間、ケンゴは息を呑み――
「何もいねえええええ!!!」
「あはははは! なんもいないのかよ!!!」
 笑いが収まった後、マサシの頭には一つの疑問が浮かんだ。
「なあ、あの話ではさ、生き残った息子は最初にドアの覗き窓越しに殺人鬼を見たってことになってたよな。」
「どうしたん急に。」
「でもさ、ドアの覗き窓の位置的に、小さい子供がそんなことできるワケなくね? 下には靴があるんだから踏み台も持ってこないだろうし。」
「んまあ確かにそうだな。じゃあ何だ、父親とかが頭おかしくなって幼児退行したりしたんじゃねえの?!」
「あははは! じゃあそいつ、今もこの家に潜んでるかもね、なーんて!」
 突如として聞こえてきた知らない誰かの低い声に、三人の笑い声は一瞬にして止まった。
「今、玄関にいるよ。」
 クローゼットが内側から開かれる。

3年2月13日 (I) 01:01時点における版

 日付もとっくに変わった頃、S大学の心霊サークルに所属する彼らは、S県D地方のさびれた山で軽自動車を走らせていた。

「いやあ、やっぱ山奥って雰囲気が違うよなあ。本当に何か出るんじゃね?」

「ぎゃはは、ないない。ユーレイなんているわけねえだろ!」

「マサシったら、オバケとか信じちゃってんのー? ほんと子供なんだから!」

 心霊サークルと銘打ってはいるものの、彼らの実態は単なる夜遊び集団だ。会費で酒とタバコと線香花火を買い込み、たまにネットで話題の心霊スポットに出向いては近所迷惑な騒ぎ声を上げるという生産性のない活動をしている。

「ケンゴにヒトミまで……ホラー映画ではそういう奴が最初に死ぬんだぜ。」

「おいおい、そんなことより、ここが例の廃墟じゃねえか?」

「ほんとだー! やっとついたあー!」

 車をほとんど舗装されていない路地に停め、三人は廃墟に近づいていった。冷たく不気味な風が辺りを覆うが、彼らはそれを気にも留めない。

「じゃ、ここの『いわく』でも紹介しますか。」

「よっ、待ってました! マサシの怪談話!」

「もうそんなのいいから早く酒飲もうぜー。」

「時は遡ること数十年前……この家には幸せな一家が暮らしていたという。しかしある時やってきた殺人鬼は、息子が間違ってドアを開けてしまったのをいいことに家の中に侵入、そして家族を次々惨殺! 残された息子が描いた、ドアの覗き窓越しに見た記憶の中の犯人の絵は、魚眼レンズのリアルで不気味な歪みようから、『検索してはいけない画像』として今なおネットで語り継がれているのだ……。」

「ぎゃははは、しょーもねー! どう考えても嘘だろ!」

「あはは、何それウケるんですけど!」

 彼らは大笑いしながら、まずは廃墟の扉にスプレー缶で下品ないたずら書きをして、それからドアを開けて中に入る。ぎいぎいと嫌な音が鳴るが、彼らはそれを気にも留めない。

「おじゃましまーっす! うおお、クローゼットでけえ!」

「何よマサシもノリノリじゃん、ウケる。」

「おっ、まさかこれ、例のドアスコープなんじゃね?」

 ケンゴが見つけたのは、マサシの話に出てきたドアの覗き窓だった。ひとしきり笑った後、ヒトミがいかにもわざとらしい口調で言う。

「もしかして、外に殺人鬼がいるんじゃない……!?」

「ぎゃはは、ヤベーってそれ! ちょっと見てみようぜ!!」

 片目をドアスコープにあてがった瞬間、ケンゴは息を呑み――

「何もいねえええええ!!!」

「あはははは! なんもいないのかよ!!!」

 笑いが収まった後、マサシの頭には一つの疑問が浮かんだ。

「なあ、あの話ではさ、生き残った息子は最初にドアの覗き窓越しに殺人鬼を見たってことになってたよな。」

「どうしたん急に。」

「でもさ、ドアの覗き窓の位置的に、小さい子供がそんなことできるワケなくね? 下には靴があるんだから踏み台も持ってこないだろうし。」

「んまあ確かにそうだな。じゃあ何だ、父親とかが頭おかしくなって幼児退行したりしたんじゃねえの?!」

「あははは! じゃあそいつ、今もこの家に潜んでるかもね、なーんて!」

 突如として聞こえてきた知らない誰かの低い声に、三人の笑い声は一瞬にして止まった。

「今、玄関にいるよ。」

 クローゼットが内側から開かれる。