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それに、まだ跡奉は「ストーカー」を攫いなおせていないかもしれない。あの会が解散し、息子夫婦が殺されてからもう五年が経つけど、あの会のニュースはまだ流れてこない。「ストーカー」は、警察の何回もの強制捜査でも見つからなかった施設の秘密の場所に閉じ込められたまま、今も見つかっていないんだと思う。実はとっくに跡奉に持って行かれていて、そもそも見つかる遺体が無いのかもしれないけれど。でも、「ストーカー」にされてしまったあのかわいそうな子の物があの施設に残されている限り、跡奉はあの子を攫えない。もし今でも、あの施設があの子の「家」であり続けているなら、あの会のことを詮索するのはもうやめたほうがいいんじゃないかと思う。 | それに、まだ跡奉は「ストーカー」を攫いなおせていないかもしれない。あの会が解散し、息子夫婦が殺されてからもう五年が経つけど、あの会のニュースはまだ流れてこない。「ストーカー」は、警察の何回もの強制捜査でも見つからなかった施設の秘密の場所に閉じ込められたまま、今も見つかっていないんだと思う。実はとっくに跡奉に持って行かれていて、そもそも見つかる遺体が無いのかもしれないけれど。でも、「ストーカー」にされてしまったあのかわいそうな子の物があの施設に残されている限り、跡奉はあの子を攫えない。もし今でも、あの施設があの子の「家」であり続けているなら、あの会のことを詮索するのはもうやめたほうがいいんじゃないかと思う。 | ||
止まっていた時間が動き、新しい手掛かりが見つかって、施設が再び根こそぎ捜査されたら、ついにあの子の遺体が施設の外に出されるかもしれない。あるいはその子のおもちゃや服が証拠品として押収されて、とにかくあの子と「痕跡」、そして施設は離れ離れにされてしまう。そうしたら、あの子は最後に残った「家」を失ってしまう。跡奉は喜んで、ついにその子を攫うでしょう。真実を知るのも大切かもしれないけれど、誘拐され、必死の思いで帰ってきたのに、親に偽者と呼ばれ、監禁され、拷問され、放置され、最後は飢えて死んだあの不幸な子のことを、もうそっとしておいてあげた方が良いと思う。あの子の正体が香織であるにしても、別の知らない子供であるにしても。跡奉の手元に戻って再びひどい拷問を永遠に受けることになるよりは、暗く狭い、苦痛と絶望の記憶に満ちたあの「家」の冷たい床の上であれ、朽ちて静かに眠る方が遥かにましでしょう。だから、私は誰にもあの会のことを詮索してほしくない。あの会の狂気を紐解くヒントを、誰にも見せたくない。そのきっかけを、万が一にも、誰にも与えたくない。そのために私は、あの会の悪事の証言を握り潰す。あの二枚目の手紙は、絶対に読まれないよう、確実に焼き捨てる。このノートと一緒に。 | |||
まったく、私は何を言っているのかしら。そんな可哀想な子は、きっと私の妄想の中にしかいないのに。さようなら、ノートさん。びっしり書かれた中身は全部、狂った老人の世迷言。あなたには手紙と一緒に灰になってもらいます。誰にも私の狂気が気づかれないように。誰にも二人の噂話ができないように。誰にもあの子が、これ以上辱められないように。 | まったく、私は何を言っているのかしら。そんな可哀想な子は、きっと私の妄想の中にしかいないのに。さようなら、ノートさん。びっしり書かれた中身は全部、狂った老人の世迷言。あなたには手紙と一緒に灰になってもらいます。誰にも私の狂気が気づかれないように。誰にも二人の噂話ができないように。誰にもあの子が、これ以上辱められないように。 | ||
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