武姥・鬼気効果
キィーッキィッキィッ。なんじゃ、旅の者か? そんなら今夜は、ここへ泊っていくといい……。
なあに、悪いようにはしねえさ。……あんたを見てるとな、息子を思い出すんだ。わしの息子を……。
夕食の席
どうじゃ、わしの飯もなかなか美味いモンだろう? まだまだ腕は衰えねえさ。
時に……お主、「ブーバ・キキ効果」を知っておるか? キッキッキッ、まあまずは下の画像を見とくれ。
ここに示された二つの図形のうち、あんたはどっちが「ブーバ」でどっちが「キキ」だと思うかね?
キキキッ、そうかいそうかい。なあに、わしはあんたがどっちを選ぼうが構わんよ。本当さ。
……つまり「ブーバ・キキ効果」ってんのは、この問題で「左がブーバで右がキキ」と答えるやつらが何故だかすこぶる多くなっちまうって現象だ。不思議なことに、言語も文化も何もかもが違うところであろうとも、結果は同じになるんだと。
その理由は曰く「音象徴」……まあなんだ、つまり音がもともと持っとる特徴が、何かしら言葉に意味を与えてるってとこだ。
キッキッキッキッキ……「つまらねえ」って顔をしとるな。まあいい。寝床は用意しとるから、もうさっさと寝入っちまって、明日早くに出ていくことだ。
ジョギ……ジョギ……
ジャギッ ジャギッ
ガチャン
ジャッキン
シャキン ヒュバッ
ビタァン!
ジャラッ ジャラッ
ブウウウウウン……
寝室
キキキッ……キッキッキッキッ……!
包丁……よし。ダガーナイフ……よし。アサルトライフル……よし。西洋剣……よし。鎖鎌……よし。そして、ライトセーバー……よし!
……おい
見たな……このわしの「鬼」の姿を……!
キッキッキッ……キィーッキィッキィッ! そうじゃ! わしは最初からお前を取って食らうつもりだったんじゃ!
とくと見ておけ! このアサルトライフルの威力を! 覚悟おッ!!!
……ああ、またわしは……人を殺そうとしているのか……。
分からぬ。わしにはわしが分からぬ。昔はこんなことしておらんかったはずじゃ。一体いつからわしは「鬼」になったんじゃ……?
もしや、わしはもとから「鬼」だったのか……?
なあ、お主。教えてはくれまいか。わしは……本当のわしは、ただの山に住む「姥」なのか……それとも残虐な「鬼」なのか……!
ああ、そうか。そうじゃ……わしは鬼などではなかった……。
ありがとう、ありがとうな。お前さんまで殺してしまうところじゃった。
お主は本当に……息子に似ておるの。幼い頃には何をするにもひっついてきて、可愛いもんじゃった。
……ああ、だが、皮肉じゃのう。わしをこんなにしてしまったのは、その息子であるというのに……。
もう、帰っておくれ。ここには二度と近寄るんじゃないぞ。
ああ、今日もだめだったか。「武姥・鬼気効果」……道のりは遠そうだな。
だが、それでも、確実に進んでいる! 「鬼のオーラ」は達成してるんだ!
……そろそろだ! そろそろ鬼になってくれるはずなんだ……!
待ってろよ……俺を気狂いだと罵った学会の連中! 俺は必ず見返してやるからな! ハハハハハ!
……それにしても……「認知症になったら息子の顔すら忘れてしまう」って本当のことだったんだな。
まあ、研究に協力してもらってる手前、とやかく言える立場でもないけどな!
大丈夫だ、大丈夫。必ず実験は成功する……! さて、明日は金棒でも持ってこようかな。
END1: 鬼にも涙、鬼は嗤う。
ああ、そうじゃ。そうじゃ! わしは鬼だった! ずっと鬼だった!
さあ、殺すぞ殺すぞ殺すぞお! 死にさらせい!!!
……ぐうっ……馬鹿な……こ、これは……毒……ガス……うっ
やったあ……やったあ、やったあ! やったああ!
ついにやったぞ! 証明したんだ! 今、写ってるよな!? ほら見ろ、鬼だ! 鬼の死体! 鬼になってるんだ!
ハハハハハ……! 学会の奴ら……俺を否定した学会の奴ら……見ろ! 鬼になったぞ! 鬼になった!
重武装をした老婆は……鬼のオーラを纏い……ついには鬼そのものになる……!
「武姥・鬼気効果」は実在したんだ!!! 俺の言ったとおりの形で!
ありがとう、みんな! ありがとう、母さん! 今まで俺を支えてくれた人たち……本当にありがとう!
俺はついに、やったんだ! あいつらを、見返してやったんだあ!!! アハハハハハハ!!!
END2: 老婆の屍、狂った男。