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3年1月23日 (黃) 20:06時点におけるNotorious (トーク | 投稿記録)による版 (5)

8月13日22時30分 城島浩司

この1時間余り、現場はてんてこまいだった。市街地に突如現れた外部存在。暴虐の限りを尽くしたそれは、多くの人的・物的損害を出したが、ほどなくして姿をくらませた。第二十七分隊は、被災地での救助活動にあたった。派遣された自衛隊や現地の消防団などと共に、怪我人を保護したり瓦礫の下に生き埋めにされた人々を助け出したりした。しかし、分隊長である浩司と、第一小隊長の樋口は、救助活動から離脱して会議に出席している。

財団は、各地に民家に見せかけた小基地を持っている。いかなる時、いかなる場所でも、突発事態に対応できるようにだ。そして、現場に近い小基地の中に、二人はいた。予告された時刻通りに、財団の秘密回線が開き、会議が始まった。

浩司と樋口は、白い椅子に並んで腰掛け、正面のスクリーンに目を向けていた。22時30分、それまで黒かったスクリーンに、突如としていくつかの人の姿が映し出された。その中には、機動部隊総督・剣崎剛毅の姿もある。慌ただしく、財団の会議が始まった。

まず最初に、当該YGTの呼称が決定した。無論、上層部で既に決まっていたことを発表したに過ぎないのだろうが。YGT-362“引力者グラビティア”。それが、巨人に与えられた名前だった。

対策研究員がその旨を淡々と伝えると、被害の状況の確認に移った。第二十七分隊はバックアップを務めただけのため、話すことはなかったが、唯一巨人と交戦した第十二分隊の分隊長は、いろいろなことを報告した。部下を亡くしたばかりだというのに、財団も酷なことをさせるものだ、と浩司は思った。同時に、すぐに自分も同じ状況に追い込まれるかもしれないな、とも想像する。

被害状況は、甚大と言ってよかった。死者は確認が取れているだけでも52人。多くの犠牲者が瓦礫の奥深くに埋まっているであろうことを考えれば、死者数は300をくだらないだろう、というのが妥当な推測だった。負傷者は言わずもがな、それより多い。さらに、31戸の家屋が全壊、半壊以上の被害を受けたのは200戸を超えた。ゆいレールや国道330号線といった主要な交通基幹も被害に遭い、徒歩で避難を余儀なくされた民衆が那覇の街に溢れている。家を失った人々は周辺の避難場所──公園、小学校など──に身を寄せているが、それらの場所の人口密度はすごいことになっている。

一方、財団の被害は、第十二分隊航空部隊のA15ヘリコプター2機と、乗組員4名だった。軽微に聞こえるが、交戦した兵力が全滅したと捉えれば、大損害だ。話題は、YGT-362の分析に移った。

白衣を着た対策研究員が、今回の攻撃でわかったことを列挙していく。
「当該YGTは、高さ約23メートル。出現時には、半径300メートルに及ぶ重力異常を引き起こしました。周りの物を無制限に引き寄せることで、体を形作りました。体の内部に、引力を操る何者かがいるのか、それとも純粋に引力のみが発生しているのかは、現時点では不明です。また、確認された攻撃手段は、対象の吸引と、瓦礫を吸引して投げる投石の二種類。戦闘の様子から、引力者は引力のオン・オフを自在にコントロールできると推察されます」
誰かが手を挙げて質問した。
「出現時の吸引が終わった後も、体を形成する瓦礫が落ちなかったのはなぜだ?」
「おそらくですが、それらの瓦礫は恒常的に引き寄せるよう、力を操作していたのだと考えます。その上で、他の物も引き寄せられるのでしょう」


と、一人の姿を見て、浩司は驚愕した。モザイクがかかっていて、人影しか見えないのだ。財団内部の人間にも顔を知られてはいけないという、第一級秘密保持体制。これは、人影がW5評議員であることを指す。浩司の驚愕と緊張をよそに、スーツに銀縁眼鏡の男が口火を切った。
「新規YGT緊急対策会議を始めます。では、まずは被害状況の確認を、第十二分隊隊長、お願いします」
「はい!」
“さきがけ”分隊長の男は、勢いよく立ち上がった。顔が紅潮している。当たり前だ。総督だけでなくW5評議員までもが会議に同席しているのだ。人生で一度あるかわからない事態。たぶん自分も、この男と同じような表情をしているだろうな、と思った。
「当該YGTは、本日20時23分に出現、同日20時51分に消失しました。その過程で、現在確認が取れているだけでも、131人が死亡しました。この数は、これから増えていくと思われます。負傷者数も千人単位。また、31戸の家屋が全壊、200戸以上が半壊しました。機動部隊の損害といたしましては、本分隊航空部隊のA15型ヘリコプター2機が撃墜され、乗組員4人が死亡しました。以上です」
「では次に、当該YGTについて、対策研究員として私から報告させていただきます」
銀縁眼鏡はメモも見ずに話し始めた。
「このYGTを、我々はYGT-362“引力者グラビティア”と呼称することに決定しました。引力者の調査自体は、しばらく前から開始されていました。しかし、なかなか尻尾を出さないものですから、進展はほとんどありませんでした」
YGTの調査が十年単位に及ぶことも、珍しいことではない。
「結局、調査で得られたのは、噂・伝説程度の信憑性しか持たない情報です。それを総合すると、次のようになります」
一度、唇を舐めた。
「まず、引力者の伝説は世界各地に遍在しています。よって、引力者は世界中に広く存在していると考えられます。そして、いずれにおいても、掌を中心にして強力な引力を発生させる、という情報が大まかに共通していました」
今回安里に現れた引力者にも当てはまる特徴だ。
「次に、今回の攻撃でわかったことを報告いたします。今回出現した引力者は、高さ23メートル。出現時には、半径300メートルに及ぶ重力異常