利用者:Notorious/サンドボックス/消滅の悪魔

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3年7月27日 (黃) 23:45時点におけるNotorious (トーク | 投稿記録)による版 (ふうう)

 目の前には、おじいちゃんのタンスがある。背伸びしたぼくと同じくらい背が高い、立派なタンスだ。でも、それだけじゃない。これは「からくりダンス」という、ワクワクするようなものなのだ。  ぼくはおじいちゃんちに遊びに来ていた。毎年夏休みになったら、ぼくの家族はここに来る。電車で何時間も旅をして、田んぼばかりのこの村を訪れるのだ。電車の旅は疲れるけど、駅に迎えに来てくれているおばあちゃんの胸に飛び込めば、そんな疲れなんて吹き飛んでしまう。それを見て、おじいちゃんもしわを深くしてニコニコ笑ってくれるのだ。  今、この家にはぼくとおじいちゃんしかいない。お父さんとお母さんは買い物に行ってしまったし、おばあちゃんもお友達とゲートボールをするそうなのだ。野球ならぼくもよくやるし、本当はぼくもついていきたかったのだが、「おじいちゃんがさびしがるから」と言われて、しかたなく留守番をしている。  しかし、とうのおじいちゃんは、椅子に座って新聞を広げたまま昼寝をしている。全然さびしがってないじゃないか。ほら、鼻ちょうちんがふくれている。  そういうわけで、ぼくはひまになった。そこで、ぼくはおじいちゃんのからくりダンスにいどむことにした。  はじめてからくりダンスのことを聞いたのは、小学校に入学したばかりのときだから、もう三年くらい経つだろうか。おじいちゃんが「見ろ、佑介。これはからくりダンスといってな、面白いんじゃぞ」と手を引いてくれた。それを聞いたぼくは「それってどんな踊り?」と聞いて、おばあちゃんが大笑いしていたのを覚えている。  今は、からくりダンスはからくりがあるタンスのことだと知っている。それに、このからくりダンスの開け方さえも、ぼくはわかってしまうのだ。  とは言っても、おじいちゃんに教えてもらったわけじゃない。実はおじいちゃんは最近、もの忘れがひどくなっているのだ。あまりひどくなると、家族の顔さえも忘れてしまうらしい。書道が上手で、ぼくの習字の宿題をつきっきりで教えてくれるおじいちゃん。そんなおじいちゃんがぼくのことを忘れてしまうなんて、考えられないけど、そういう病気らしいのだ。  そしておじいちゃんは、一年くらい前から、いろんなメモを残すようになった。たとえば、玄関の小さな絵には「高校二年の早苗作。地区大会で金賞」と、食卓に飾られている写真には「京子、早苗と。錦帯橋にて」と、部屋にあるぼくがプレゼントした折り鶴には「佑介作。私の七十六の誕生祝い」と、おじいちゃん得意の達筆で書かれた紙が貼られている。忘れたくない思い出を、今のうちにメモしておくのだそうだ。ぼくは、メモが増えると思い出がたくさん目に見えるようで楽しいけれど、メモをすることで「もう忘れて大丈夫」と言われているようで、少しさびしくもなる。  そんなわけで、この家はメモで満ちている。そのうちのひとつが、このタンスに貼られているメモだ。その紙には、こんなことが書かれている。

 絡繰箪笥の開け方 一、右下の取っ手を半回転させる。二、出てきたつまみを引いて……

 おじいちゃんは、このからくりダンスの開け方も、忘れないうちにメモしておいたのだろう。ぼくはこれを見て、からくりダンスを開けようと思う。きっと、秘密のスペースが中にはあって、なにかビッグなものが隠されているのだ。財宝かもしれないし、秘密の文書かもしれない。おじいちゃんが実は超お金持ちで、一億円とかが入ってたら、どうしよう? 想像するだけでワクワクが止まらない。ぼくはメモにしたがって、からくりダンスを開けてみることにした。  まず、一番右下の取っ手を回してみる。力を込めると、確かに時計回りにぐるりと回った。すると、タンスの右側面から、小さな突起が飛び出してきた。取っ手を戻すと突起も引っ込む。おお、やっぱり楽しいぞ。しばらく取っ手をくいくい回して遊ぶ。  次は、突起を引き出して、かくんと折る。すると、突起はハンドルに早変わりだ。このハンドルを三周だけ回す。そして、一番上の引き出しを開けてみると、横の壁がずれて、中に新たなつまみが姿を現している。今度はこのつまみを左にずらす。どこかに引っかかっていたのか、なかなか動かなかったが、どうにかこうにかずらし終わった。  残るはあとツーステップ。下から二番目の引き出しの中にある隠し扉が、さっきので開くようになったらしい。しかし、その隠し扉がなかなか見つからない。引き出しの壁中をさすったり叩いたりして、ようやく五センチ四方くらいの扉を見つけた。それを開くと、木の出っ張りがあった。いよいよ大詰めだ。最後にこのボタンを押す。すると、かすかにパカリという音が聞こえた。ドキドキしながら一番下の引き出しを開けると、底が外れていた。やった! このからくりダンスは二重底になっていたのだ。そして、秘密のスペースがついに開いたのだ。  想像の答え合わせをするときが来た。からくりダンスに隠されているものは、財宝か、機密文書か、それとも大金なのか。ぼくは胸を高鳴らせて、引き出しの底を