Sisters:WikiWiki麻薬草子/おすすめの本紹介という名の戦場

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まえがき編集

ねえ、おすすめの本なんか無い?

あなたもこう問われたことがあるのではないだろうか? そんな時あなたはどうするだろう? 最近読んで面白かった本を紹介する? それとも心にこれ1冊と決めている本がある?

私の場合、行動理念はたった一つ。「本格ミステリを布教すること」に全力を注ぐ。なぜなら、同趣味の人が私の交友関係の中に一人もいないからである!!

だから、私はその人に合ったミステリを紹介したい。もし気に入られなければ、その人はミステリから遠ざかってしまうかもしれない! それはできるだけ避けたい。

しかし、会話において熟考している暇などない。焦って結局は最近読んで印象に残っている本を安易に言ってしまうのがオチだ。

そこで、ここに分野別であらかじめリストアップしておけば、会話中であっても、適切な本を紹介できるのではないかと思い、今文を連ねているのである。

では参る。もしこの文を読んでいるあなたの琴線に触れるものがあれば、是非読んでみてほしい。

本をあまり読まない人向け編集

まずこんな人に本を薦めること自体難事ではある。ミステリなど尚更だ。しかし私は諦めぬ。ライトなミステリに絞れば、沼にはまってくれるかもしれない!

米澤穂信〈古典部〉シリーズ
「氷菓」から始まるシリーズ。学園もので年齢が近くて読みやすい。アニメも大ヒットし、漫画化、実写映画化もされているくらいだから、面白さは折り紙付きである。あらすじはざっと言うと、「省エネな男子高校生が、古典部の仲間に振り回されつつ、いやいや謎を解いていく」といった感じ。きっと「クドリャフカの順番」まで来たらもう引き返せないはず。「ふたりの距離の概算」と、「遠まわりする雛」所収の『心あたりのある者は』は一読の価値どころか三、四くらいはいけると思う。
石持浅海〈座間味くん〉シリーズの短編集
既刊は「心臓と左手」「玩具店の英雄」「パレードの明暗」「新しい世界で」の4冊。ただ私は恥ずかしながら前3作しか読んでないんですけれども。短編集だからするする読めるし、どれもレベルが高い。もし気に入れば、長編の「月の扉」と、同作者の「扉は閉ざされたまま」も是非に。
アガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」
名作、これに尽きる。私は「古いし、オチも知ってるし~」となめてたら想像よりずっと面白くて、読後に作者に土下座したくなりました。あと、アガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」「アクロイド殺し」「オリエント急行殺人事件」は、オチが公然の秘密のようになっているので、もしあなたが幸運にも未だトリックや結末を知らないというのであれば、ネタバレを食らわないよう可及的速やかにお読みいただくことを強くおすすめします。

ミステリをあまり読んだことのない人向け編集

このような人には、ミステリの醍醐味を知ってもらいたい。

綾辻行人「十角館の殺人」
多くの若者をミステリ沼にひきずり込んだ不朽の名作。かくいう私もその一員である。弊校図書館にも今年入荷されたので、読んでほしいなあ。同じ館シリーズの「時計館の殺人」「黒猫館の殺人」まではせめてたどり着いてほしい…! ただし、バラバラに読むとネタバレを食らう恐れがあるので、必ず刊行順に読むこと。ただMapilaplapは「最初の方は文章が読みづらい」と言っていた。でも最初だけだから! 頑張って!
綾辻行人「Another」
同作者のもう一つの代表作。アニメもヒットし、幅広い層にミステリの良さを広めたとして名高い傑作。ホラーとミステリが融合した作品で、面白いとしか言いようがない。是非に是非に。
鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」
歴史ミステリ短編集。歴史上の出来事に、意外な論理で新解釈を生み出していく、他では得られない感覚の本。ネタバレにはならないから言うけど、読めばあなたも邪馬台国は東北にあると信じるようになります。
井上真偽「探偵が早すぎる」
「巨額の遺産を相続した女の子を殺そうとする一族 vs 女の子が雇った事件を未然に防ぐ探偵」という話。百花繚乱のトリックと探偵の推理の対決がエグいよ! 頭脳戦好きな人は絶対読んでくれ。
井上真偽「その可能性はすでに考えた」
同作者の代表作をもう一つ。あらすじは、「ある事情から奇蹟(聖人が起こす人智を超越した現象)の存在を信じたい探偵が、ある不可解な事件をそれが奇蹟だと証明するために、人間によるトリックが弄された可能性を潰しまくる」といった感じ。複雑だけど、結局内容は「トンデモトリックを考えるvsそれを論理的に否定する」に終始します。そもそものトリック立案がすごい上に、探偵が紡ぐロジックもそれ以上にすごい。論理のドッグファイトというか、もうすごい。頭脳戦好きな人はこれも絶対読んでくれ。損はさせない。
青崎有吾〈裏染天馬〉シリーズ
最近の作品で学園ものだから、読みやすさはトップレベル。さらにキャラが立ってて面白い。なおかつロジカルな犯人当てが中心という素晴らしいシリーズ。フーダニットの面白さを存分に味わえる。ただし、短編集の「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」は日常の謎もので、長編とはそこが違うけど、これも面白いので無問題。私は最新刊「図書館の殺人」が一番好きです。
有栖川有栖〈学生アリス〉シリーズ
有栖川有栖作品はどれも端正で読みやすく良心的なので全部おすすめだけど、絞るなら初期の代表シリーズのこれ。「月光ゲーム」から連なるこれらは、長編は全部クローズドサークルものの犯人当て。マイベストミステリである、3作目の「双頭の悪魔」まで、せめて読んでほしい……。
相沢沙呼・梓崎優ほか「放課後探偵団」
なんか前にも書いたけど、めっちゃ良い。質が高すぎるアンソロジー。梓崎優『スプリング・ハズ・カム』だけでも読む価値が全然ある。全人類、これを読め。梓崎優つながりだと、「叫びと祈り」も超おすすめ。
相沢沙呼「マツリカ・マトリョシカ」
学園ミステリの里程標的傑作。キャラクター小説と本格ミステリが見事に融合されている。主人公の成長を描く普通の小説としても、二つの密室に挑む多重解決ミステリとしてもハイレベルで楽しめる。紡がれる華麗なロジックと大胆不敵な密室トリックは出色。一応シリーズ3作目だけど、前作を読んでいなくても大きな支障はないかと思う。とにかく読みやすくて完成度が高いので、是非読んで……。
米澤穂信「春期限定いちごタルト事件」
〈古典部〉シリーズに並ぶ、作者のもう一つの青春ミステリシリーズ、〈小市民〉シリーズの一作目。一般市民を目指して互恵関係にある二人が、しかし願いとは裏腹に、数々の日常の謎に出会ってしまう。キャラの造形が絶妙でいいし、読めばシリーズを追っかけたくなるはず。そして、私はこれ収録の短編『おいしいココアのつくり方』が大好きなんです……。いかにしておいしいココアが作れたのか、という世界一瑣末なんじゃないかと思うような不可能状況。しかし、それを巡る丁々発止の推理合戦は、謎のスケールなんて本格ミステリに関係ないんだと気づかせてくれた。最高の日常の謎短編。

本に慣れている人向け編集

ある程度長いとか難しい文章も読めるのであれば、薦めない理由がない作品。

北村薫「空飛ぶ馬」
文章はちょっと難しくなるし、教養があふれてて何言ってるかようわからん時もある。でも、語りが優しくて小説として超いいし、日常の謎のパイオニアとして読むべきだとも思うし、何より私は表題作が大好きです。他のみんなは『砂糖合戦』と『赤頭巾』こそ読むべきって言うんだ……。
エラリー・クイーン「Xの悲劇」
悲劇四部作の始めの一作。論理の妙をめっちゃ味わえます。有名なのは「Yの悲劇」だけど、私はこっちの方が好み。あとシリーズ最終巻「レーン最後の事件」は読む価値あると思ってるので、叶うならばシリーズ完走してほしい。古くて海外作品だから、読むのは体力使うと思うので、ほいほいとはおすすめできないのが残念なんです。
ジェフリー・ディーヴァー〈リンカーン・ライム〉シリーズ
作者は「ツイストの帝王」の異名を取る人で、これは超弩級ジェットコースターサスペンスシリーズです。どんでん返しに次ぐどんでん返しで楽しすぎる。外国作品でしかもだいぶ長い(単行本は余裕で枕より厚い、文庫本は上下巻)から物怖じするけど、ページをめくる手が止まらないので恐ろしいほど速く読み終わります。しかも既刊15作。これが15回も楽しめるだなんて! 2作目の「コフィン・ダンサー」は、もともと作者はこれでシリーズを終わるつもりだったらしく、全部詰め込んだ最高の一冊になっているので、「ボーン・コレクター」が面白かったら是非に。
島田荘司「占星術殺人事件」
ミステリ史に残る大トリックが印象的な名作。どのくらいすごいかというと、「金田一少年の事件簿」にパクられるくらい(' 一読の価値はある。
泡坂妻夫「しあわせの書」
「これ読んでないとか人生損してる」と確言できる一作。なぜならこの作品でしか味わえないものがあるから。あまり深く言うとネタバレになるので、君もネタバレを食らわないうちに読むんだ!
長沢樹「消失グラデーション」
これも学園もので、主人公が消えた被害者の謎を探偵役と共に追う話。読めば、刺さるものがあるはず。当時中1だった私は、ちょうどいい所で国語の授業が始まったのを克明に覚えております。くそがあああああ
浅倉秋成「教室が、ひとりになるまで」
いわゆる特殊設定ミステリで、ある能力を得た主人公が、同じく能力を得てクラスメイトを殺している人と対決する話。作者は「伏線の狙撃手」と言われていて、気持ちいい伏線回収を楽しめます。伏線って、いいよね。
市井豊「聴き屋の芸術学部祭」
日常の謎系の連作短編集。主人公は大学生で、文章は読みやすいタッチです。『からくりツィスカの余命』が一番世評は高い。私は『濡れ衣トワイライト』が一番好きです。
米澤穂信「さよなら妖精」「王とサーカス」
前者は、高校生が主人公の青春ミステリ。ユーゴスラビアから来た少女マーヤは、忘れ難い体験を残して去っていった。ユーゴ動乱が勃発した翌年、主人公たちはマーヤがユーゴスラビアの“どこ”に帰郷したのか推理する……。場所当てというミステリ的要素も勿論いいんだけど、何よりマーヤたち登場人物が良すぎる。何度だって読みたい、最高の一作。そして後者は、その続編。高校生が大人となって、新たな物語が始まる。ジャーナリズムの意義を問う骨太の作品でもあり、沁みる長編。大人になったら必ず再読しようと思っている。
ダン・ブラウン〈ラングドン教授〉シリーズ
特に「ダ・ヴィンチ・コード」が有名。暗号ミステリx歴史ミステリxジェットコースターサスペンスなシリーズ。海外でしかもちょっと長いけど、鬼つよリーダビリティのおかげで全然ものともせずに読めます。物語の面白さは「天使と悪魔」、暗号のハイレベルさは「ダ・ヴィンチ・コード」、ミステリ的要素は「インフェルノ」が、それぞれ好き。

ミステリをある程度読んでいる人向け編集

今のところそんな人いないのが悲しすぎる。そこの君、これになる気はないかい?

倉知淳「星降り山荘の殺人」
初学者でも全然いいとは思うけど、やっぱりちょっとはミステリに親しんでからがいいのかなと思う。吹雪の山荘×犯人当ての傑作。とても良い。
米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」
ダークミステリ短編集。『玉野五十鈴の誉れ』が特に名作の誉れ高い。あんま気負わず読んでほしいけど、私は鳥肌が立ちました。これが気に入れば、「満願」も是非。
ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」
表題作はもちろん、他にもいくつかどう考えても傑作な短編が収録されている。論理のアクロバットが楽しめます。
柄刀一「密室キングダム」
あるマジシャンの邸宅で起こる連続密室事件を、名探偵南美希風が解き明かす本格ミステリ。なんと密室が5個も出てくる、超重厚な一作。図書館で取り寄せたら想像の4倍分厚かったのはいい思い出です(' いかんせん長い。でもその分のクオリティはある。
大山誠一郎「密室蒐集家」
密室ものの連作短編集。作者は特徴的なトリックで有名で、一度ハマると癖になる。アリバイもので、ドラマ化もされた「アリバイ崩し承ります」もあるよ!
麻耶雄嵩「螢」
すごいです。なんと言ってもあの鬼気迫るようなクライマックス。誰かと共有してええええ。
法月綸太郞「法月綸太郞の功績」
稀に見る高水準な本格ミステリ短編集。現代日本ミステリを代表する『都市伝説パズル』も収録。私は『=Yの悲劇』が一番好きですね。
鮎川哲也「黒いトランク」
アリバイ崩しものの金字塔。鬼貫警部が一手一手犯人に近づいていくのがたまらない。鉄壁のアリバイが崩れた瞬間は楽しくって仕方がない。「黒い白鳥」もいいよ!
阿津川辰海「名探偵は嘘をつかない」
知性に殴られた。完成度がめちゃ高くて、いろんな魅力が詰まってる。読んでて超楽しかった。

信頼できる人向け編集

つまり、「こんな本紹介しても嫌われないだろう」と思っている人向けである('

歌野晶午〈密室殺人ゲーム〉シリーズ
ぐう鬼畜しか出てこねえ問題作。ただし品質は保証できる。「自分の考えたトリックを実践(=殺人)して、顔や声を互いに隠している仲間はそれを推理して当てる」という倫理観のバグったお話。でも面白いよ!
麻耶雄嵩「神様ゲーム」
麻耶雄嵩の作品を読んだことがないなんて人生損しています。この作品は初学者にぶつけたいけど理性で抑え込んでいる。メルカトル鮎シリーズも是非。やっぱ『答えのない絵本』はいいよ。
中山七里「連続殺人鬼カエル男」
めっちゃ面白いジェットコースターサスペンス。ただし殺害シーンが若干グロいので、人には薦めづらい。そこのシャブ中、どうです?

あとがき編集

さて、ここに書かせていただいたことで、急に聞かれても落ち着いて答えられそうです。ありがとうございます。

そして毎度のことですが、いかにも詳しいですよ、たくさん読んでますよみたいなこと書いてますけれど、実際そんなことないのでお気をつけください。

重ね重ねになりますが、もしこの文章を読んでいるあなたが、「これちょっと気になるなあ」というものがあれば、是非読んでみて! 絶対面白いとまでは言えないけど、ある程度の品質は保証できると思うので。

以上、ここまで私は、ひとつのユーモアもなく、あなたたちの目を癒すこともないような内容を、傲慢にも自己満足によって書き連ねてきました。にも拘らずこの記述を最後まで読んでくださったことに、深く感謝します。


P.S.今まで書いた中で、以下に列挙する作品は私が所持しているので、声をかけてくれれば貸しますよ!(布教の為なら労を惜しまない男'

  • 米澤穂信「氷菓」「愚者のエンドロール」「クドリャフカの順番」「遠まわりする雛」「ふたりの距離の概算」「いまさら翼といわれても」「さよなら妖精」
  • 綾辻行人「黒猫館の殺人」
  • 鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」
  • 青崎有吾「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
  • 有栖川有栖「双頭の悪魔」
  • 相沢沙呼・梓崎優ほか「放課後探偵団」
  • 相沢沙呼「マツリカ・マトリョシカ」
  • 北村薫「空飛ぶ馬」
  • ジェフリー・ディーヴァー「ウォッチメイカー」
  • 泡坂妻夫「しあわせの書」
  • 倉知淳「星降り山荘の殺人」
  • 歌野晶午「密室殺人ゲーム王手飛車取り」「密室殺人ゲーム2.0」
  • 麻耶雄嵩「神様ゲーム」