利用者:Notorious/サンドボックス/消滅の悪魔

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1年8月3日 (I) 13:44時点におけるNotorious (トーク | 投稿記録)による版 (比尾山大噴火 〜噴火)

記事名「比尾山大噴火」

儂は消滅の悪魔じゃ。この世には悪魔が多く存在する。人を襲うもの、人と共存するもの、人を利用するもの、さまざまじゃ。そして悪魔は、それぞれある物事と対応しておる。儂の場合は「消滅」じゃ。「林檎」、「狐」、「呪い」、「銃」…。悪魔はありとあらゆるものに対応しておる。なぜなら、悪魔は人の恐怖から生まれるからじゃ。
林檎の悪魔は、人間の林檎に対する恐怖から生まれ、力を得る。狐の悪魔は狐への恐怖から、といった具合にな。そして、人間の恐怖が大きいものほど、悪魔の力は強くなる。林檎に恐怖する人間は少ないじゃろう。だが、銃を恐れる人間は多い。だから、林檎の悪魔は弱く、銃の悪魔は強いのじゃ。銃の悪魔を引き合いに出すのは少し極端じゃったかもしれんの。なにせ奴は数十秒で何万人もの人を殺せるのじゃからな…。
じゃが、悪魔の力の源は、何も人間の恐怖だけではない。他の悪魔からの恐怖もそうじゃ。強い悪魔は弱い悪魔を統べ、力を増していく。その過程で悪魔同士の争いも起こる。そして、ある最悪の事態になったとき、あやつが現れる。あやつは他の悪魔に強烈に恐れられ、巨大な力を持つ悪魔じゃ。その理由は、強いからだけではない。その特殊な性質、あやつに喰われた悪魔は、その根源となる存在ごと消えてしまうことゆえじゃ。
例えば、林檎の悪魔があやつに喰われれば、「林檎」というものはこの世から完全に消え、無かったことにされるのじゃ。当然、人や悪魔の記憶からも消え失せる。一部の例外を除いてな。
一つは、彼女だ。強大な力を持つ彼女は、あやつに喰われてしまった悪魔たちの、あやつと戦う姿を覚えておる。しかし、この世から消えた物事までは、彼女といえど覚えておらん。それを覚えているものを、儂は一人だけ知っておる。何を隠そう、儂自身じゃ。
儂は、「消滅」への恐怖から力を得ておる。この「消滅」は、あやつに喰われた悪魔のこの世からの消滅のことじゃ。悪魔のあやつへの恐怖はあやつの力となるが、あやつの起こす消滅への恐怖は、儂の力となる。つまり儂は、悪魔の恐怖から生まれた悪魔というわけじゃ。
消滅への恐怖は、自らが消滅しかけておるとき、最も強くなる。当然のことじゃ。お主がのうのうと昼寝しておるときと、大型トラックに今にも轢かれそうになっておるとき、どちらが大型トラックへの恐怖が大きいかは自明じゃ。何が言いたいかというと、儂の力となる恐怖は、あやつに喰われそうになった悪魔のものがほとんどだということじゃ。そして、「あやつに喰われそうになった悪魔」は「あやつに喰われた悪魔」と同義じゃ。あやつに勝ったものを儂は寡聞にして知らん。
そして、恐怖が悪魔に流れ込むとき、そのものの記憶もともに入ってくるのじゃ。大型トラックの悪魔には、轢き殺された人の記憶を、恐怖とともに得る。そして悪魔の消滅への恐怖が力として儂に流れ込むとき、その悪魔の記憶や情報も儂に入ってくる。大型トラックの悪魔ではなく、それがあやつに喰われた悪魔なら…。勘のいい者は儂が何を言わんとしているかもうわかったじゃろう。つまり、儂はあやつに喰われてこの世から消えた物事を、唯一覚えているものなのじゃ。なぜ儂の記憶だけが消えぬのかは、はっきりとはわからん。じゃが、儂があやつへの恐怖から生まれた悪魔じゃということが関係しているのじゃあないかのう。人の世とは異なり、悪魔には理由なぞ重要ではない。結果が全てじゃ。儂は覚えておる。それだけで十分じゃあないかのう?
前置きが長くなったのう。では、儂しか覚えとらん、かつて莫大な恐怖を集めた物事の話を始めようか。まずは、比尾山大噴火じゃ。

概要

比尾山大噴火とは、1784年1月21日、現群馬県嬬恋村と長野県軽井沢町及び御代田町にまたがる山、比尾山が噴火した出来事じゃ。なお、日時は旧暦に揃えておる。これは有史以来世界最大級の噴火で、犠牲者は直接的なものだけでも50万人以上にのぼる。
また、比尾山大噴火の悪魔とともに、比尾山の悪魔もあやつに喰われた。じゃから、比尾山という山は今ではなくなっておる。しかし、比尾山になぞらえて名付けられた、神垣内比尾という小さな山が神垣内連峰にあった。利尻富士のようなものじゃ。神垣内比尾はあるが本家が消えたため、次第に神垣内比尾は「比尾山」と呼ばれるようになり、現在でもそれは残っておる。

小噴火

そろそろ本題に移るとするか。いよいよ噴火の話じゃ。とその前に話さねばならぬことがある。

1783年7月8日、比尾山が噴火を起こした。見出しは「小噴火」としておるが、あくまで「大噴火」と区別するためで、お主が想像するような小規模の噴火じゃあない。火山爆発指数はVEI4と、そうそうない規模じゃ。
噴火は3日に及び、火砕流やそれに伴う泥流で、1500人以上の犠牲者を出した。
ここで、少し珍しいことが起こったのじゃ。前にも言ったとおり、比尾山大噴火の悪魔と比尾山の悪魔はあやつに喰われた。じゃが、比尾山小噴火の悪魔は喰われておらん比尾山は消えたが、この小噴火自体は消えなかったのじゃ。結果的に、この小噴火は浅間山の天明噴火として知られるようになる。詳しいことは後に話すとしよう。

大噴火

小噴火は、ほとんど正しく伝わっておるから、儂が詳しく語ることじゃあない。さて、ようやく大噴火の話じゃ。

噴火前

比尾山は、高さ3149mととても高い活火山じゃった。そして、比尾山の地下には、大きなマグマ溜まりがあった。これが小噴火を起こしたのじゃ。じゃが実は、その直下には更に巨大なマグマ溜まりがあったのじゃ。鏡餅のような形を思い浮かべてくれ。
ところでマグマには、さまざまなガスが溶け込んでおる。そしてマグマは地中深くにあるため、とても高圧じゃ。比尾山の小噴火で、上のマグマ溜まりは空になった。それで終われば、こんな大量の犠牲は出なかったんじゃがのう。
小噴火が起こした揺れで、翌84年1月21日、二つのマグマ溜まりの間の岩盤が崩落した。超高圧がかかっていたマグマは、空間が広がったことで一気に減圧された。するとマグマに溶け込んでいたガスが一瞬で発泡し、マグマ溜まり自体が爆発した。いわゆる破局噴火というやつじゃ。

噴火

午前9時11分、比尾山は噴火した。山の上層を吹き飛ばして莫大な量の火山噴出物が飛び出した。火山爆発指数は最大のVEI8。噴火の轟音は九州地方まで聞こえたという。噴煙柱は直径500m、高さ60kmに達した。小噴火の火山灰のせいで薄暗い中、山を突き破り立ち昇る赤黒い巨柱は、とてつもなく暴力的で、かつ神々しかった。神の怒りを具現化したような、そんな姿じゃった。儂は噴火を覚えておるからのう。まあ、もともとは他人の記憶じゃがの。噴火を呆然と見ていた彼は、家ほどもある噴石がまっすぐ飛んでくるのに気づくまで、恐怖なんて微塵も感じとらんかったのう。
火山礫や火山弾は半径10km範囲を襲った。小噴火で周りの集落に人は少なくなっておったが、小噴火の被害が比較的少なかった南側で、多く被害が出た。これによる死者は218人
噴煙柱はしばらく高く昇り続けたが、やがて自重に耐えきれなくなり、崩壊が始まった。その体積は1000立方キロメートル。噴火の4分12秒後のことじゃ。