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『新本格ミステリを識るための100冊』の書影。

『新本格ミステリを識るための100冊 令和のためのミステリブックガイド』とは、佳多山大地の著書である。

概要

『新本格ミステリを識るための100冊 令和のためのミステリブックガイド』は、2021年に星海社から出版されたブックガイドである。1987年から起こった本格ミステリ復権ムーブメント、いわゆる新本格の時代の国内ミステリに焦点を当てた内容となっている。また、「はじめに」で著者の佳多山は、

この本は、まだうら若き十代の――せいぜい草臥れて二十代の読者に向けて書いています。

と書いている。

この本は、2011年に文芸誌『ファウスト』に掲載された、佳多山の「新本格を識るための100冊」という文章がもとになっている。新本格ミステリを大枠で捉えるために読むべき推理小説を100冊セレクトするという趣旨は、変わっていない。だが、選書は時代の流れに合わせて3分の1ほど変わっており、紹介文も充実している。また、島田荘司『占星術殺人事件』、竹本健治『匣の中の失楽』、殊能将之『ハサミ男』をそれぞれ題材とした短い評論が収録されている[1]

内容

この書籍はおおまかに10章に分かれており、それぞれ10冊ずつ、テーマにあった本の「あらすじ」と「ガイド」、「併読のススメ」が書かれている。それに加え先述した評論3編が主な内容である。

先に引用した通り、このブックガイドは現在の麻薬の常習者諸君にうってつけである。しかし、ガイドは充実しているが、紹介するためには少しは本の内容の核心に触れねばならない。それを避け、全く予備知識の無い状態で読みたいという人は、選ばれた本を後に列挙するので、ぜひ活用してほしい。

選出作品

この節では、『新本格ミステリを識るための100冊』に選出された作品を紹介する。「併読のススメ」欄においては、文中の「併読のススメ」に名前が出た作品を紹介する。なお、番号欄は便宜上1~100までつけられたものであり、『東西ミステリーベスト100』のような順位ではない。

第1章 第一世代の肖像

この章では、新本格草創期を代表する5人の作家の、デビュー作とそれ以外の代表作を紹介している。

番号 題名と作者 併読のススメ
1 綾辻行人『十角館の殺人 アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』
綾辻行人『時計館の殺人
2 歌野晶午『長い家の殺人』 パトリシア・ハイスミス『見知らぬ乗客』
ニコラス・ブレイク『血ぬられた報酬』
3 法月綸太郞『密閉教室』 法月綸太郞『一の悲劇』
4 有栖川有栖『月光ゲーム Yの悲劇'88』 鮎川哲也『黒いトランク』、『黒い白鳥』、『りら荘事件』
5 我孫子武丸『8の殺人』 ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』
我孫子武丸『0の殺人』
6 我孫子武丸『殺戮にいたる病』 『かまいたちの夜』(ゲームソフト)[2]
我孫子武丸『叙述トリック試論とか』
7 法月綸太郞『法月綸太郞の功績』 エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』、〈悲劇四部作〉[3]
8 歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』 歌野晶午『ブードゥー・チャイルド』、〈密室殺人ゲーム〉シリーズ[4]
9 綾辻行人『Another』 綾辻行人『Another エピソードS』、『Another 2001』、『緋色の囁き』、『霧越邸殺人事件』
10 有栖川有栖『鍵の掛かった男』 有栖川有栖『モロッコ水晶の謎』

第2章 今日もどこかで〈日常の謎〉

この章では、殺人等の犯罪が(少なくとも表立っては)登場しない「日常の謎」と呼ばれる作品を紹介している。

番号 題名と作者 併読のススメ
11 北村薫『空飛ぶ馬』 北村薫『夜の蟬』、『盤上の敵』
12 若竹七海『ぼくのミステリな日常』 若竹七海等『競作 五十円玉二十枚の謎』
13 加納朋子『掌の中の小鳥』 加納朋子『無菌病棟より愛をこめて』、『沙羅は和子の名を呼ぶ』
14 米澤穂信『氷菓』 米澤穂信〈小市民〉シリーズ[5]、『インシテミル』
佳多山大地『新本格ミステリの話をしよう』
15 倉知淳『夜届く 猫丸先輩の推測』 倉知淳『壺中の天国』
16 大倉崇裕『やさしい死神』 『刑事コロンボ』(テレビドラマ)
大倉崇裕〈福家警部補〉シリーズ[6]
17 大崎梢『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』 近藤史恵『タルト・タタンの夢』
天祢涼『境内ではお静かに』
水生大海『ひよっこ社労士のヒナコ』
18 門井慶喜『人形の部屋』 S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』、『カブト虫殺人事件』、「推理小説作法の二十則」
19 三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~』 梶山季之『せどり男爵数奇譚』
喜国雅彦『本棚探偵の冒険』
20 阿藤玲『お人好しの放課後 御出学園帰宅部の冒険』 西村京太郎『殺しの双曲線』

第3章 ザッツ・アバンギャルド!

この章では、実験的・批判的精神にあふれたいわゆる問題作を紹介している。

番号 題名と作者 併読のススメ
21 山口雅也『生ける屍の死』 山口雅也『奇偶』
22 麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲ソナタ 諸岡卓真『現代本格ミステリの研究』
23 北川歩実『猿の証言』 ロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人』
横溝正史『犬神家の一族』
北川歩実『真実の絆』
24 蘇部健一『六枚のとんかつ』 霞流一『首断ち六地蔵』、『牙王城の殺劇』
25 森博嗣『そして二人だけになった』 セバスチアン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』
26 飛鳥部勝則『砂漠の薔薇』 坂口安吾『不連続殺人事件』
27 初野晴『1/2の騎士』 首藤瓜於『脳男』
28 梓崎優『叫びと祈り』 梓崎優「スプリング・ハズ・カム」
法月綸太郞「都市伝説パズル」[7]
有栖川有栖「スイス時計の謎」
29 城平京『虚構推理』 アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』
30 相沢沙呼『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』 サラ・ウォーターズ『半身』

第4章 この国の“畏怖すべき”かたち

この章では、日本の風土や歴史を扱った作品を紹介している。

番号 題名と作者 併読のススメ
31 宮部みゆき『火車』 アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』
32 京極夏彦『姑獲鳥の夏』 アイラ・レヴィン『ブラジルから来た少年』、『死の接吻』
33 鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』 松本清張「陸行水行」、『古代史疑』
高木彬光『邪馬台国の秘密』
鯨統一郎『新・世界の七不思議』
34 高田崇史『QED 六歌仙の暗号』 梅原猛『隠された十字架』
高田崇史『QED ベイカー街の問題』
35 北森鴻『凶笑面 蓮丈那智フィールドファイルⅠ』 北森鴻「御蔭講」、「憑代忌」、『共犯マジック』
36 近藤史恵『桜姫』 近藤史恵〈サクリファイス〉シリーズ[8]
37 物集高音『吸血鬼の壜詰 第四赤口の会』 アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会1』
38 伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』 ウィリアム・L・デアンドリア『ホッグ連続殺人』
39 三津田信三『厭魅まじものの如き憑くもの』 三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』
40 阿部智里『烏に単は似合わない』 中町信『空白の殺意』、『奥只見温泉郷殺人事件』

脚注

  1. なお、この評論は題材作品のネタばらしを含むため、未読の人は注意されたい。
  2. 我孫子武丸がシナリオを担当した。
  3. 『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『Zの悲劇』、『レーン最後の事件』の4作。
  4. 既刊は『密室殺人ゲーム王手飛車取り』、『密室殺人ゲーム2.0』、『密室殺人ゲームマニアックス』の3作。
  5. 既刊は『春期限定いちごタルト事件』、『夏期限定トロピカルパフェ事件』、『秋期限定栗きんとん事件』、『巴里マカロンの謎』の4作。
  6. 既刊は『福家警部補の挨拶』、『福家警部補の再訪』、『福家警部補の報告』、『福家警部補の追及』、『福家警部補の考察』の5作。
  7. 第1章にて紹介された『法月綸太郞の功績』所収。
  8. 既刊は『サクリファイス』、『エデン』、『サヴァイヴ』、『キアズマ』、『スティグマータ』の5作。