「利用者:Notorious/サンドボックス/消滅の悪魔」の版間の差分

校了
編集の要約なし
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<br>ウェアーが話し始めた。
<br>ウェアーが話し始めた。
<br>「ミスター・言伝とは、昨日仲良くなったから、気になっていたんダ。しかし、朝はおろか昼になっても、客室から出てこなイ。どこか別の部屋にいるのかと探していたんだが、結局は彼の客室にいるだろうと思って、さっきみんなと入ってみたというわけサ。」
<br>「ミスター・言伝とは、昨日仲良くなったから、気になっていたんダ。しかし、朝はおろか昼になっても、客室から出てこなイ。どこか別の部屋にいるのかと探していたんだが、結局は彼の客室にいるだろうと思って、さっきみんなと入ってみたというわけサ。」
<br>「ところで、ガイシャさんは、どちらの方なんです?」
<br>「ところで、ウェアーさんは、どちらの方なんです?」
<br>「タイ系アメリカ人だヨ。この飛行機で日本からアメリカに戻って、会社の経営に戻るんだ。」
<br>「タイ系アメリカ人だヨ。この飛行機で日本からアメリカに戻って、会社の経営に戻るんだ。」
<br>その会社とは、とある悪名高いマフィア組織である。ウェアーがその首領であることは、皆知っている。ただ、怖いので言い出せない。
<br>その会社とは、とある悪名高いマフィア組織である。ウェアーがその首領であることは、皆知っている。ただ、怖いので言い出せない。
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「最後は俺だな。通報を受けて、ちょうど空港にいたもんだから、急いでこの飛行機に乗り込んだ。どうやったかは、まあ皆見たとおりだ。」
「最後は俺だな。通報を受けて、ちょうど空港にいたもんだから、急いでこの飛行機に乗り込んだ。どうやったかは、まあ皆見たとおりだ。」
<br>レスラーの次に怖い警察官である。梅丹は犯人が鳥尾でない可能性を考え、身震いした。卦伊佐は事件が起きた後に機内に飛び込んできたため、無論犯人でない。だから、鳥尾以外の人物が犯人である場合、この機に居合わせた六人のうち、半分が異常者ということになる。
<br>レスラーの次に怖い警察官である。梅丹は犯人がウェアーでも鳥尾でもない可能性を考え、身震いした。卦伊佐は事件が起きた後に機内に飛び込んできたため、無論犯人でない。だから、ウェアーと鳥尾以外の人物が犯人である場合、この機に居合わせた六人のうち、過半数が人を殺せそうな危険人物ということになる。いや、すでに半分がそんな感じだから、あんま変わらないのだが。
<br>「後で現場の検分をさせてもらうぞ。」
<br>「後で現場の検分をさせてもらうぞ。」
<br>「あ、僕もご一緒してもいいですか?」
<br>「あ、僕もご一緒してもいいですか?」
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<br>「でも古文なのは同じなので、大丈夫です!」
<br>「でも古文なのは同じなので、大丈夫です!」


ここまでお読みになった読者の中には、何か違和感を抱いた人もいるかもしれない。そう、梅丹逞は古語を一切理解していないのだ。これは、ただ単に国語の授業を寝て過ごし続けたせいで、古語の存在を知らないからなのである。
ここまでお読みになった読者の中には、何か違和感を抱いた人もいるかもしれない。そう、梅丹ティコナンは古語を一切理解していないのだ。これは、彼なりの信念というわけではなく、ただ単に国語の授業を寝て過ごし続けたせいで、古語の存在を知らないからなのである。


何てダメなやつなんだ。
何てダメなやつなんだ。


そうこうしているうちに、あっという間に夕方になった。
そうこうしているうちに、あっという間に夕方になった。乗客は、機のシステムが自動的に出す機内食を食べた。卦伊佐は、死んだ言伝の分を食べた。倫理観など、空腹には屈してしまうのである。
 
そして、一同は済し崩しに解散となった。この機は翌朝にはJFK空港に着く。皆が一つの場所に集まって夜を明かすことも提案されたが、全員がベッドと枕が無いとよく寝られないことを理由に却下された。 <s>なんて都合のいい!</s>
 
梅丹が部屋に戻る前、本霞が話しかけてきた。
<br>「ねえ、探偵さん」
<br>「ああ、本さん。何ですか?」
<br>「探偵さんは、古語を知らないの?」
<br>「コゴ? 何です、それ。」
<br>「国語の授業、ちゃんと受けてた?」
<br>「も、もちろんですよ! 授業中に寝るなんてこと、す、するわけがないじゃないですか!」
<br>本は微かに笑うと、一冊の本(これは人名でなく書物という意味だ)を差し出した。
<br>「古文の教科書です。お貸しします。明日には返してくださいね」
<br>「ああ、ありがとう」
礼を言って受け取ると、彼女は踵を返して客室に戻っていった。
 
梅丹も自分の客室に戻った。窓の外はもうすっかり暗く、自分の顔が鏡のように映っているだけだった。目を逸らしてベッドに飛び込むと、手の中にある本を開いた。これでコゴとやらを学べるらしい。梅丹は、読書灯をつけ、教科書の斜め読みを始めた。
 
 
──一時間後、部屋から梅丹が飛び出してきた。慌てた様子の探偵は、大声で叫んだ。
<br>「ダイイングメッセージが解けた! 犯人がわかったぞ!」
<br>その手には、古文の教科書が固く握られていた。


'''第四章 快刀乱麻を断つ(使いたいだけ)'''
'''第四章 快刀乱麻を断つ(使いたいだけ)'''
みたび、乗客たちは中央キャビンに集まっていた。しかし、空気は今までになく緊迫していた。
「さて、僕は先ほどダイイングメッセージを解読し、犯人が誰かという解答に辿り着きました。それを今から発表しようと思います。」
皆が、思い思いの声をかけた。
<br>「本当ですカ⁈」
<br>「誰なんだ、早く教えろ!」
<br>「これで大丈夫になるんだね!」
<br>「あたしが取り押さえるわ!」
<br>「その本、私が貸した……。」
「まあまあ皆さん落ち着いて。すぐ説明しますから。」
<br>梅丹はそう言うと、解決を始めた。
「あのダイイングメッセージは、結論から言うと、犯人の名前を示しています。そして、解読を助けてくれたのは、これでした。」
<br>「……古文の教科書?」
<br>「はい。恥ずかしながら、僕は今まで古文の知識が全然なかったんです。いえ、それにはよんどころない事情がありまして、決して授業中寝ていたなんてことは無いんですが……。」
<br>「古文がどう関わってくるんだ? 歌詞を古語に訳したら、メッセージが浮かび上がってくる、とか?」
<br>「いえ、もっとシンプルなことです。そして、着目すべきは、題名でも歌詞でも、ましてやボーカロイドでもない。真のメッセージは、{{傍点|文章=アーティストの名前}}だったんです。」
<br>「それって……」
<br>「そう、言伝さんが伝えたかったメッセージはたった三文字。『{{傍点|文章=なきそ}}』、これだけです。」
<br>場がどよめいた。
<br>「し、しかし探偵さん、それがどういう意味を持ってるんだ?」
<br>「確かに、これだけでは何のことかわかりません。しかし、『なきそ』と言う文字列と、{{傍点|文章=これ}}を絡めると、意味が見えてきませんか?」
<br>そう言って、梅丹は{{傍点|文章=古文の教科書}}を掲げた。
<br>「ああっ! 『な〜そ』!」
<br>誰かが叫んだ。梅丹はニヤリと笑った。
<br>「そのとおり。禁止を表す句です。そして、間に入るのは、動詞の連用形。『なきそ』という文字列を{{傍点|文章=古文と解釈する}}と、意味が浮かび上がってくる。そのとき、『き』は動詞の連用形でなくてはならない。あるじゃないですか、活用表が『こ・き・く・くる・くれ・こ(こよ)』の動詞が。」
<br>「『{{傍点|文章=来}}』!」
<br>衝撃が一同に走った。
<br>「こう考えると、メッセージの意味は歴然です。『なきそ』とはつまり、『来るな』という意味。来るな、来るのをやめろ、来る・止める……。」
<br>全員がハッとした。一人に全員の視線が集まる。
<br>「そう。言伝さんが告発した犯人。それはあなたですね、{{傍点|文章=大流来止}}さん。」
「ち、ちがっ」
<br>その瞬間、大流の体がふっ飛び、壁に叩きつけられた。鳥尾が、張り手を食らわせたのだった。大流は泡をふいて倒れたが、鳥尾はさらに大流に馬乗りになった。
<br>「取り押さえるっ!」
<br>一同は恐怖に硬直していたが、卦伊佐が慌てて駆け寄った。
<br>「もう十分だ! 死んじまうぞ!」
<br>気絶した大流を連れ、鳥尾と卦伊佐はどこかへと去っていった。
<br>「ともあれ、一件落着ですね! 今夜はよく眠れそうです。」
<br>残された面々は、それぞれの部屋へと引き揚げた。もちろん梅丹は、借りた本を本霞に返すのを忘れなかった。
翌朝の新聞が────かぐや号の墜落を告げた。




'''第五章 古語を知らない探偵'''
'''第五章 古語を知らない探偵'''
……ううっ、痛い……もう助からないのか、俺は……
{{傍点|文章=あいつ}}、俺を刺しやがった……なんでだ、なんでだよ……くそっ……
どうにかして、知らせねえと……{{傍点|文章=あいつ}}が犯人だって……
……はっ! これだ!
パソコンは、ほっときゃロックされちまう……伝わるか……? いや、賭けるしかねえ
ううっ 動け、体! あれをタップするだけだろっ! いててて、あああっ、
はあっ よし! うっ、限界か……
うぐっ ふうっ ふう はあ  痛え、痛えよ……
頼む、伝わってくれ……古文だ、古文だよ……
『な〜そ』、禁止、「〜するな」、知ってるだろ?
待て、連用形の『き』は、他にもないか?
はっ、カ変の『来』……!
いや、だが……
『{{傍点|文章=な〜そ}}』{{傍点|文章=は}}、{{傍点|文章=サ変動詞とカ変動詞には}}、{{傍点|文章=例外的に未然形に接続する}}
カ変の『来』なら、「{{傍点|文章=なこそ}}」となるから、
{{傍点|文章=古語を知っていれば}}、{{傍点|文章=誤解の余地はない}}
『な〜そ』に入る「き」はこれだけ……
授業でやったろ? 頼むぞ……俺のメッセージはこうだ……!
なきそ……{{傍点|文章=な着そ}}……{{傍点|文章=着るな}}……
{{傍点|文章=Don’t wear}}……{{傍点|文章=首領・ウェアー}}
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