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しかし、こういうミステリー小説にありがちな探偵は―――いなかった。奇妙なことに、この屋敷での殺人劇には、事件の解決に乗り出すハッチ帽を被った紳士など終ぞ現れなかったのだ。
しかし、こういうミステリー小説にありがちな探偵は―――いなかった。奇妙なことに、この屋敷での殺人劇には、事件の解決に乗り出すハッチ帽を被った紳士など終ぞ現れなかったのだ。


「えーっと、とりあえず自己紹介でもした方がいいんじゃないか?」
「えーっと、とりあえず自己紹介でもした方がいいんじゃないか? まあ、大抵みんな少なくとも顔見知りではあるだろうけど……。」


この屋敷・律家館のダイニングルームの静寂を破ったのは、律家律の実弟である<ruby>威山横<rt>いさんよこ</rt></ruby><ruby>世哉<rt>せや</rt></ruby>の一言であった。この部屋には、家のデカさのせいで永遠に迷子になり続けている週刊誌記者の<ruby>此井江<rt>このいえ</rt></ruby><ruby>浩杉<rt>ひろすぎ</rt></ruby>、および自室で眠っている令嬢、律家ラレを除いた、屋敷にいる六人が集合していた。
この屋敷・律家館のダイニングルームの静寂を破ったのは、律家律の実弟である<ruby>威山横<rt>いさんよこ</rt></ruby><ruby>世哉<rt>せや</rt></ruby>の一言であった。この部屋には、家のデカさのせいで永遠に迷子になり続けている週刊誌記者の<ruby>此井江<rt>このいえ</rt></ruby><ruby>浩杉<rt>ひろすぎ</rt></ruby>、および自室で眠っている令嬢、律家ラレを除いた、屋敷にいる六人が集合していた。
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困ったような顔をしたノレが、少し遅れてフォローを挟む。
困ったような顔をしたノレが、少し遅れてフォローを挟む。


「……彼は<ruby>橘地<rt>きっち</rt></ruby><ruby>凱<rt>がい</rt></ruby>。この館の使用人で……たまに発作で{{傍点|文章=こう}}なっちゃうの。」
「……一応私が代理ということで。彼は<ruby>橘地<rt>きっち</rt></ruby><ruby>凱<rt>がい</rt></ruby>。この館の使用人で……たまに発作で{{傍点|文章=こう}}なっちゃうの。」


事実、シャンデリアにぶら下がってブリッジをしながら肘と膝のそれぞれ片方を用いて次々に知恵の輪を粉々にしていく彼が、よもやこの大豪邸の使用人であるなんてのは、全く信じられないことであった。
事実、シャンデリアにぶら下がってブリッジをしながら肘と膝のそれぞれ片方を用いて次々に知恵の輪を粉々にしていく彼は、この大豪邸の使用人であった。


「そっちの警察の人は挨拶しないのか? 失礼な奴だな。俺はアインシュタインだってのに。」
「そっちの警察の人は挨拶しないのか? 失礼な奴だな。俺はアインシュタインだってのに。」
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「よし、反応は出なかったな、じゃあ次は弟さんの方から。」
「よし、反応は出なかったな、じゃあ次は弟さんの方から。」


「うい。えー、俺はまあ、母の話をしに行ったんだ。そろそろ認知症がやばいから、施設に預けたほうがいいかもしれないってな。飲み物は俺もコーヒーだったぜ。状態……うーん、流しは見てなかったけど、律が洗ったらしいマグカップを拭いてたのは覚えてる。あーあと、コーヒーマシーンのスイッチを切ってたから、少なくとも次出される飲み物はコーヒーじゃないだろう。こんなとこかな。」
「うい。えー、俺はまあ、母の話をしたよ。そろそろ認知症がやばいから、施設に預けたほうがいいかもしれないってな。飲み物は俺もコーヒーだったぜ。状態……うーん、流しは見てなかったけど、律が洗ったらしいマグカップを拭いてたのは覚えてる。あーあと、コーヒーマシーンのスイッチを切ってたから、少なくとも次出される飲み物はコーヒーじゃないだろう。こんなとこかな。」


「よし、これも無反応。じゃあ続いてそっちの……亜奈貴さんだっけ?」
「よし、これも無反応。じゃあ続いてそっちの……亜奈貴さんだっけ?」
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「よし。あー、じゃあ次は奥さんで。ウソ発見器の予備はちゃんとあるのでご安心を。」
「よし。あー、じゃあ次は奥さんで。ウソ発見器の予備はちゃんとあるのでご安心を。」


「……あ、はい、えっと、私はまあ……なんというか、とりとめのないどうでもいいような話をしました。今日は天気がいいね、とか。飲み物はミルクでした。あと……入るときに冷蔵庫からミルクを出してるところが見えたのは覚えてます。ちょっと早かったかな、って思って。あ、あと、私が出ていくときにコーヒーマシーンのスイッチを入れてました。それくらい……ですね。」
「……あ、はい、えっと、私はまあ……なんというか、とりとめのないどうでもいいような話をしに行きました。今日は天気がいいね、とか。飲み物はミルクでした。あと……入るときに冷蔵庫からミルクを出してるところが見えたのは覚えてます。ちょっと早かったかな、って思って。あ、あと、私が出ていくときにコーヒーマシーンのスイッチを入れてました。それくらい……ですね。」


「よし、無反応。じゃあ次は……その……そちらの方は……。」
「よし、無反応。じゃあ次は……その……そちらの方は……。」
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調子に乗って五百六回転アクセルまで成功させてしまった橘地は、遂にその口を開いた。
調子に乗って五百六回転アクセルまで成功させてしまった橘地は、遂にその口を開いた。


「はい。そうですね。私もノレ様と同様、大した目的があったわけではありませんでした。いただいた飲み物はホットミルクでしたね。部屋の状態はあまり観察しておりませんでしたが、コーヒーマシーンをオンにしていたことは記憶しています。」
「はい。そうですね。私もノレ様と同様、大した目的があったわけではありませんでしたが、ご主人様とお話がしたいなという事で書斎へ伺いました。いただいた飲み物はホットミルクでしたね。部屋の状態はあまり観察しておりませんでしたが、コーヒーマシーンをオンにしていたことは記憶しています。」


「え……!? え、あ、うん。はい。よし、無反応。無反応だったな。……うーむ、証言は集まったが……順番の特定は難しそうだな。ヒントがあまりにも少なすぎる。」
「え……!? え、あ、うん。はい。よし、無反応。無反応だったな。……うーむ、証言は集まったが……順番の特定は難しそうだな。ヒントがあまりにも少なすぎる。」
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