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<big>'''第一章 めっちゃデカい屋敷と死体'''</big>
<big>'''第一章 めっちゃデカい屋敷と死体'''</big>


──二月二十日・深夜──
 ──二月二十日・深夜──


二月二十日午前一時、めっちゃデカい屋敷に悲鳴が響き渡った。
 二月二十日午前一時、めっちゃデカい屋敷に悲鳴が響き渡った。


八名しかいない屋敷の中で、その主人である資産家<ruby>律家<rt>りつけ</rt></ruby><ruby>律<rt>りつ</rt></ruby>の遺体が発見されたのだ。
 八名しかいない屋敷の中で、その主人である資産家<ruby>律家<rt>りつけ</rt></ruby><ruby>律<rt>りつ</rt></ruby>の遺体が発見されたのだ。


しかし、こういうミステリー小説にありがちな探偵は―――いなかった。奇妙なことに、この屋敷での殺人劇には、事件の解決に乗り出すハッチ帽を被った紳士など終ぞ現れなかったのだ。
 しかし、こういうミステリー小説にありがちな探偵は――いなかった。奇妙なことに、この屋敷での殺人劇には、事件の解決に乗り出すハッチ帽を被った紳士など終ぞ現れなかったのだ。


「えーっと、とりあえず自己紹介でもした方がいいんじゃないか? まあ、大抵みんな少なくとも顔見知りではあるだろうけど一応……。」
「えーっと、とりあえず自己紹介でもした方がいいんじゃないか? まあ、大抵みんな少なくとも顔見知りではあるだろうけど一応……。」


この屋敷・律家館のダイニングルームの静寂を破ったのは、律家律の実弟である<ruby>威山横<rt>いさんよこ</rt></ruby><ruby>世哉<rt>せや</rt></ruby>の一言であった。この部屋には、週刊誌記者の<ruby>此井江<rt>このいえ</rt></ruby><ruby>浩杉<rt>ひろすぎ</rt></ruby>、および律とノレの娘である律家ラレを除いた、屋敷にいる六人が集合していた。
 この屋敷・律家館のダイニングルームの静寂を破ったのは、律家律の実弟である<ruby>威山横<rt>いさんよこ</rt></ruby><ruby>世哉<rt>せや</rt></ruby>の一言であった。この部屋には、被害者の律家律と、週刊誌記者の<ruby>此井江<rt>このいえ</rt></ruby><ruby>浩杉<rt>ひろすぎ</rt></ruby>、および律とノレの娘である律家ラレを除いた、事件発生時に屋敷にいた五人、そしてやってきた警察官一人の計六人が集合していた。


「まあ、まず俺からかな。俺は威山横世哉。……旧姓は律家世哉。知っての通り律の弟だ。うう……兄貴い……。」
「まあ、まず俺からかな。俺は威山横世哉。……旧姓は律家世哉。知っての通り律の弟だ。うう……兄貴い……。」
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「……あー、もしもし? 聞こえてますか? 電話越しですけど、一応僕も。此井江浩杉です。今一応そっちに向かってるんですけど、三回くらい同じ景色のところを通過してますね。ここは一体どこなんですかね? え、ちょっとこの家広すぎません?」
「……あー、もしもし? 聞こえてますか? 電話越しですけど、一応僕も。此井江浩杉です。今一応そっちに向かってるんですけど、三回くらい同じ景色のところを通過してますね。ここは一体どこなんですかね? え、ちょっとこの家広すぎません?」


人々が順番に自己紹介をしていく中、突如として放たれた奇声は場の雰囲気を大きく変えた。
 人々が順番に自己紹介をしていく中、突如として放たれた奇声は場の雰囲気を大きく変えた。


「じひいっ! ぎぁぁぁぁあじざざさざじじざじざじじぎぎぎぎかぎぎじざささぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいぁぃぃぃぃぃぁあぁぁぁ」
「じひいっ! ぎぁぁぁぁあじざざさざじじざじざじじぎぎぎぎかぎぎじざささぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいぁぃぃぃぃぃぁあぁぁぁ」


困ったような顔をしたノレが、少し遅れてフォローを挟む。
 困ったような顔をしたノレが、少し遅れてフォローを挟む。


「……一応私が代理ということで。彼は<ruby>橘地<rt>きっち</rt></ruby><ruby>凱<rt>がい</rt></ruby>。この館の使用人で……たまに発作で{{傍点|文章=こう}}なっちゃうの。」
「……一応私が代理ということで。彼は<ruby>橘地<rt>きっち</rt></ruby><ruby>凱<rt>がい</rt></ruby>。この館の使用人で……たまに発作で{{傍点|文章=こう}}なっちゃうの。」


事実、シャンデリアにぶら下がってブリッジをしながら肘と膝のそれぞれ片方を用いて次々に知恵の輪を粉々にしていく彼は、紛れもなくこの大豪邸の使用人であった。
 事実、シャンデリアにぶら下がってブリッジをしながら肘と膝のそれぞれ片方を用いて次々に知恵の輪を粉々にしていく彼は、紛れもなくこの大豪邸の使用人であった。


「そっちの警察の人は挨拶しないのか? 失礼な奴だな。俺はアインシュタインだってのに。」
「そっちの警察の人は挨拶しないのか? 失礼な奴だな。俺はアインシュタインだってのに。」
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「いやあ申し訳ない、パトカーがあまりに遅かったもんでな。我慢できなくて仲間を置いて走って来たんだ。」
「いやあ申し訳ない、パトカーがあまりに遅かったもんでな。我慢できなくて仲間を置いて走って来たんだ。」


このあまりの荒唐無稽さに、アナーキストとキチガイ以外の全員が、彼が警察官であるというのを疑わしく思った。しかし、体からにじみ出る肉体の強靭さのオーラだけはまさしく本物であり、下手に刺激したら普通に殺される可能性があるので、みんな知らんぷりをしている。
 このあまりの荒唐無稽さに、アナーキストとキチガイ以外の全員が、彼が警察官であるというのを疑わしく思った。しかし、体からにじみ出る肉体の強靭さのオーラだけはまさしく本物であり、下手に刺激したら普通に殺される可能性があるので、みんな知らんぷりをしている。


「では、捜査に協力してもらおうか。分かっているとは思うが、お前ら全員が容疑者だ。一人一人、今までの状況を簡単に教えてくれ。」
「では、捜査に協力してもらおうか。分かっているとは思うが、お前ら全員が容疑者だ。一人一人、今までの状況を簡単に教えてくれ。」


「……あーあー、もしもし? じゃあ、まあ第一発見者の僕から行きましょう。そもそもは週刊誌記者として、良い感じのゴシップとか持ってないかなあと思って律家律氏に会いに来たんですよ。あ、もちろんアポは取ってますよ? んでまあ、大した情報も得られなかったんでそのまま帰ろうとしたら、どうにも玄関にたどり着けない。何時間も右往左往して、なんと結局律さんに取材した書斎に戻ってきちゃったんですね。このままじゃ埒が明かないし、家主である律さんに道を聞いて帰ろう、と思って部屋に入ったら……えーと、まあ……胸に包丁が刺さって死んでました。……で、警察に電話して、あとはまあ、はい、そうですね、アポ取りの時に電話した履歴が残ってたので、そこからラレさんにも電話して、今に至る、って感じですね。」
「……あーあー、もしもし? じゃあ、まあ第一発見者の僕から行きましょう。そもそもは週刊誌記者として、良い感じのゴシップとか持ってないかなあと思って律氏に会いに来たんですよ。あ、もちろんアポは取ってますよ? んでまあ、大した情報も得られなかったんでそのまま帰ろうとしたら、どうにも玄関にたどり着けない。何時間も右往左往して、なんと結局律さんに取材した書斎に戻ってきちゃったんですね。このままじゃ埒が明かないし、家主である律さんに道を聞いて帰ろう、と思って部屋に入ったら……えーと、まあ……胸に包丁が刺さって死んでました。……で、警察に電話して、あとはまあ、はい、そうですね、アポ取りの時に電話した履歴が残ってたので、そこからラレさんにも電話して、今に至る、って感じですね。」


「……その電話をもらった私が、律の書斎に行って、それで……此伊江さんの言う通り……あ、う、本当に……本当に死んじゃってて……ううっ、それから……このダイニングルームに来た、の……。みんなにこのことを伝えるために。残りの四人はダイニングルームで各々くつろいでいたから。あ、娘のラレは既に自室で寝ていたわ。……ううっ。」
「……その電話をもらった私が、律の書斎に行って、それで……此伊江さんの言う通り……あ、う、本当に……本当に死んじゃってて……ううっ、それから……このダイニングルームに来た、の……。みんなにこのことを伝えるために。残りの四人はダイニングルームで各々くつろいでいたから。あ、娘のラレは既に自室で寝ていたわ。……ううっ。」


漂う悲愴感の中、全く空気を読めない稀代の嘘つきは続ける。
 漂う悲愴感の中、全く空気を読めない稀代の嘘つきは続ける。


「いーや違うね。お前は嘘つきだ! なぜなら俺はダイニングルームで{{傍点|文章=寛いでなんかいなかった}}。インドの人民を想い、瞑想をしてたからだ! なんてったって俺はガンジーだからな!」
「いーや違うね。お前は嘘つきだ! なぜなら俺はダイニングルームで{{傍点|文章=寛いでなんかいなかった}}。インドの人民を想い、瞑想をしてたからだ! なんてったって俺はガンジーだからな!」


沈黙。
 ――沈黙。


「宇曾都てめえ……私刑に処すぞ。そもそもお前瞑想なんてしてなかったろ。……てか、どう考えても殺したのお前だろ! 逆恨みで殺したんだろお前え! 私刑! 私刑!」
「宇曾都てめえ……私刑に処すぞ。そもそもお前瞑想なんてしてなかったろ。……てか、どう考えても殺したのお前だろ! 逆恨みで殺したんだろお前え! 私刑! 私刑!」


暴れる亜奈秋を静止しながらも、卦伊佐はその言葉に食らいついた。
 暴れる亜奈秋を静止しながらも、卦伊佐はその言葉に食らいついた。


「ほう……! 詳しく聞かせてもらいたい。」
「ほう……! 詳しく聞かせてもらいたい。」
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「イエス! 私刑! 私刑! 準備は良いかてめえら!」
「イエス! 私刑! 私刑! 準備は良いかてめえら!」


しかし宇曾津は、声を荒らげて反論する。
 しかし宇曾津は、声を荒らげて反論する。


「おいおい待て待て待ちやがれ絶世の馬鹿ども、このエジソンに向かってなんて口の利き方だ。動機の話をするんならお前らにもデケえのがあるだろうが!」
「おいおい待て待て待ちやがれ絶世の馬鹿ども、このエジソンに向かってなんて口の利き方だ。動機の話をするんならお前らにもデケえのがあるだろうが!」
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「じひじひひいっ!? うあうあああうあふさふあっしゅああさうさふさうああああ!!!!」
「じひじひひいっ!? うあうあああうあふさふあっしゅああさうさふさうああああ!!!!」


ダイニングルームには怒号と奇声が飛び交い、とても有意義とは思えない口論が白熱していく。しびれを切らした卦伊佐は、質問を変えることにした。
 ダイニングルームには怒号と奇声が飛び交い、とても有意義とは思えない口論が白熱していく。しびれを切らした卦伊佐は、質問を変えることにした。


「じゃあ、事件発生までの被害者の行動を知ってる人はいるか?」
「じゃあ、事件発生までの被害者の行動を知ってる人はいるか?」
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「いや、夫はとても几帳面な人で、自分の書斎に来る人の順番まで決めちゃうほどだったの。だからもしかしたら、最後に書斎に行った人が分かれば、犯人が分かるんじゃないかな……って。確か今日は、ここにいたラレ以外の全員が書斎に行ってたわよね。」
「いや、夫はとても几帳面な人で、自分の書斎に来る人の順番まで決めちゃうほどだったの。だからもしかしたら、最後に書斎に行った人が分かれば、犯人が分かるんじゃないかな……って。確か今日は、ここにいたラレ以外の全員が書斎に行ってたわよね。」


全員が頷く。うち一人は、ブリッジしながらヘドバンしていると形容する方が適切だが。
 全員が頷く。うち一人は、ブリッジしながらヘドバンしていると形容する方が適切だが。


「なるほど……まあ取り敢えず、その書斎に案内してくれないか。」
「なるほど……まあ取り敢えず、その書斎に案内してくれないか。」


「……もしもし? あの……ついでに僕も探してくれませんかね? この調子だと餓死しちゃいますよ……。」
 卦伊佐とノレが書斎に赴き、ダイニングルームには醜く言い争いをする三人と、シャンデリアを揺らしながら発狂するキチガイだけが残った。
 
卦伊佐とノレが書斎に赴き、ダイニングルームには醜く言い争いをする三人と、シャンデリアを揺らしながら発狂するキチガイだけが残った。


<big>'''第二章 几帳面すぎる男'''</big>
<big>'''第二章 几帳面すぎる男'''</big>
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「これは驚いた。書斎というからには、現代レトロ趣味で集めた紙製の本とか、インク入りのペン……確かボールペンとか言ったか。ああいうのが散らかったデスクがあるような部屋を想像していたが……。」
「これは驚いた。書斎というからには、現代レトロ趣味で集めた紙製の本とか、インク入りのペン……確かボールペンとか言ったか。ああいうのが散らかったデスクがあるような部屋を想像していたが……。」


大理石の白を基調とした書斎には、流し台や食器棚、ドリップ式コーヒーメーカーが据え付けられており、この部屋に初めて入った者にはキッチンだとしか思えない。
 大理石の白を基調とした書斎には、流し台や食器棚、ドリップ式コーヒーメーカーが据え付けられており、この部屋に初めて入った者にはキッチンだとしか思えない。


ただしこの部屋は、書斎だろうがキッチンだろうが紛う方なき殺人現場だ。部屋の中心にあるテーブルには向かい合わせに椅子が二脚。そして、奥の方の椅子から転げ落ちるようにして倒れていたのが、律家律の遺体だった。激しく抵抗した痕跡が残っており、左胸にはナイフが刺さっている。
 ただしこの部屋は、書斎だろうがキッチンだろうが紛う方なき殺人現場だ。部屋の中心にあるテーブルには向かい合わせに椅子が二脚。そして、奥の方の椅子から転げ落ちるようにして倒れていたのが、律家律の遺体だった。激しく抵抗した痕跡が残っており、左胸にはナイフが刺さっている。


「っ……。」
「っ……。」
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「そうか。じゃあ、遺体の状態を確認させていただこう。」
「そうか。じゃあ、遺体の状態を確認させていただこう。」


そう言って、卦伊佐は手早く検分を終わらせた。
 そう言って、卦伊佐は手早く検分を終わらせた。


「死因は外傷による心破裂。被害者はナイフを持った犯人を前に抵抗したものの、心臓を一突き、即死だ。凶器に指紋はついていないから、手袋でも使ったんだろう。死後硬直が始まっているが、まだピークには達していない、死亡したのは十九日の午後、八~十時あたりだろうな。」
「死因は外傷による心破裂。被害者はナイフを持った犯人を前に抵抗したものの、心臓を一突き、即死だ。凶器に指紋はついていないから、手袋でも使ったんだろう。死後硬直が始まっているが、まだピークには達していない、死亡したのは十九日の午後、八~十時あたりだろうな。」
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「ああ、そうね、ネモー!」
「ああ、そうね、ネモー!」


ノレがそう呼ぶと、クソデカ屋敷に似つかわしいクソデカ大型犬、ネモが書斎の隅の方から現れた。背の丈は、ガタイの良い卦伊佐をも優に超えている。
 ノレがそう呼ぶと、クソデカ屋敷に似つかわしいクソデカ大型犬、ネモが書斎の隅の方から現れた。背の丈は、ガタイの良い卦伊佐をも優に超えている。


「書斎に行く順番が回ってくると、夫が派遣したネモがやって来て、それを教えてくれるの。ネモったら頭が良いから、写真を見せられるだけでその人を識別できちゃうのよ。」
「書斎に行く順番が回ってくると、夫が派遣したネモがやって来て、それを教えてくれるの。ネモったら頭が良いから、写真を見せられるだけでその人を識別できちゃうのよ。」
133行目: 131行目:
「……なるほど。」
「……なるほど。」


「そうねえ……。うん……夫はね、本当に几帳面な人だったわ。起きたらまず20秒間顔を洗う、使った食器は流しに一つだけ残しておき、増え次第すぐに洗って交換する。ネクタイピンの位置は毎日10分くらいかけて調整してたし、お辞儀の角度だって完璧になるまで練習してた。ほんと、馬鹿げてるわ。でも、どんなに忙しくても朝食は家族で一緒にとってくれた。特別な日には仕事をほっぽり出して、みんなで遊んだわよね。ねえ、覚えてる? 律……。」
「そうねえ……。うん……夫はね、本当に几帳面な人だったわ。起きたらまず20秒間顔を洗う、使った食器は流しに一つだけ残しておき、増え次第すぐに洗って交換する。ネクタイピンの位置は毎日10分くらいかけて調整してたし、お辞儀の角度だって完璧になるまで練習してた。ほんと、馬鹿げてるわ。律……。」
 
ネモは、いつの間にか眠ってしまっていた。


――深夜二時、再び六人がダイニングルームに集まった。一人は未だ電話越しだったが。
 ネモは、いつの間にか眠ってしまっていた。


「……もしもしー? 聞こえてます? いやーちょっと、諦めてダイニングルームに帰ってるじゃないですか! マジで希望がないんですよこっちは! 早く僕を見つけて!!」
 ――深夜二時、再び六人がダイニングルームに集まった。未だに電話越しの奴を含めると七人である。


「えー、まあ、そういうわけで、各自書斎に行ったときのこと、特に{{傍点|文章=その時間}}や{{傍点|文章=部屋の状態}}を、今度は覚えているだけ精細に話してほしい。」
「えー、まあ、そういうわけで、各自書斎に行ったときのこと、特に{{傍点|文章=その時間}}や{{傍点|文章=部屋の状態}}を、今度は覚えているだけ精細に話してほしい。」
「……ちょっと! 無視しないで!」


「嘘の証言を防ぐために、まあ、なんだ、所謂ウソ発見器ってやつを持ってきた。もちろん23世紀の技術によって、大幅に性能は向上しているんだが、残念ながら科学捜査倫理法のせいで犯行についての直接の質問に使うことはできない。あと、わざと何かをぼかしたり隠していることも感知できない。あくまでも嘘かどうかを発見するマシーンだからな。」
「嘘の証言を防ぐために、まあ、なんだ、所謂ウソ発見器ってやつを持ってきた。もちろん23世紀の技術によって、大幅に性能は向上しているんだが、残念ながら科学捜査倫理法のせいで犯行についての直接の質問に使うことはできない。あと、わざと何かをぼかしたり隠していることも感知できない。あくまでも嘘かどうかを発見するマシーンだからな。」


一気に室内の緊張感が増す。これには橘地も、ブリッジしたまま硬直していた。
 一気に室内の緊張感が増す。これには橘地も、ブリッジしたまま硬直していた。


「じゃあ、まずは此井江からだ。声紋鑑定タイプなので、電話越しでも大丈夫だぞ。」
「じゃあ、まずは此井江からだ。声紋鑑定タイプなので、電話越しでも大丈夫だぞ。」


「……あーはい、分かりました。えー、まあさっきも言った通り、僕は取材のために書斎に行きましたね。あ、そうそう、アポ取りの時にノレさんにミルクとコーヒーどっちが好きかって聞かれて、どういうことなんだろうと思ってたんですけど、飲み物出すための質問だったんですね。僕はコーヒーを飲みました。すいませんが、時間は覚えてませんね……えー、で、部屋の状態……部屋の状態ねえ……うーん、流しにマグカップがあったはずです。それ以外は全然注目してませんでしたね。あ! あと、部屋を出てから廊下の方で取材したことのメモを見返してたんですけど、その時に亜奈秋さんが書斎に入っていくのを見ました。このくらいですかね。あと、早く助けてください。」
「……あーはい、分かりました。えー、まあさっきも言った通り、僕は取材のために書斎に行きましたね。あ、そうそう、アポ取りの時にノレさんにミルクとコーヒーどっちが好きかって聞かれて、どういうことなんだろうと思ってたんですけど、飲み物出すための質問だったんですね。僕はコーヒーを飲みました。すいませんが、時間は覚えてませんね……えー、で、部屋の状態……部屋の状態ねえ……うーん、流しにマグカップがあったはずです。それ以外は全然注目してませんでしたね。あ! あと、部屋を出てから廊下の方で取材したことのメモを見返してたんですけど、その時に亜奈秋さんが書斎に入っていくのを見ました。このくらいですかね。」


「よし、反応は出なかったな、じゃあ次は弟さんの方から。」
「よし、反応は出なかったな、じゃあ次は弟さんの方から。」
161行目: 155行目:
「ええ。亜奈秋よ。私は……その……せ、世間話をしに行ったのよ。」
「ええ。亜奈秋よ。私は……その……せ、世間話をしに行ったのよ。」


瞬間、ウソ発見器から警告音が放たれた。卦伊佐はニヤニヤしながら言う。
 瞬間、ウソ発見器から警告音が放たれた。卦伊佐はニヤニヤしながら言う。


「おっと、あんた大丈夫か? なあに、誤作動ってこともあるからな。どうなんだ?」
「おっと、あんた大丈夫か? なあに、誤作動ってこともあるからな。どうなんだ?」
169行目: 163行目:
「亜奈秋……うう……。」
「亜奈秋……うう……。」


世哉の目は潤い、卦伊佐をはじめ他の人たちはめっちゃ気まずくなった。橘地でさえもがあまりの気まずさに耐え兼ね、ブリッジを解除してトリプルアクセルした。
 世哉の目は潤い、卦伊佐をはじめ他の人たちはめっちゃ気まずくなった。橘地でさえもがあまりの気まずさに耐え兼ね、ブリッジを解除してトリプルアクセルした。


「……まあ、その話は今は良いわ。とにかくそれで書斎に行ったの。時間は……確か九時頃だったかしら。飲み物はミルクだったわ。あ、そうそう、確かに私も、部屋に入る前に廊下にいる記者の人を見たわ。」
「……まあ、その話は今は良いわ。とにかくそれで書斎に行ったの。時間は……確か九時頃だったかしら。飲み物はミルクだったわ。あ、そうそう、確かに私も、部屋に入る前に廊下にいる記者の人を見たわ。」
177行目: 171行目:
「おう。まあ、コペルニクスである俺にしてみれば……。」
「おう。まあ、コペルニクスである俺にしてみれば……。」


ウソ発見器がけたたましく嘶いた。橘地は驚きのあまり、五回転アクセルを成功させた。
 ウソ発見器がけたたましく嘶いた。橘地は驚きのあまり、五回転アクセルを成功させた。


「何でバレた!? 何で嘘ってバレた!? ……まあいい。くっくっく……! そうだ! 俺はコペルニクスじゃない。本当はアリストテレスだからな!」
「何でバレた!? 何で嘘ってバレた!? ……まあいい。くっくっく……! そうだ! 俺はコペルニクスじゃない。本当はアリストテレスだからな!」


しかしこの時、怒りのあまりウソ発見器を破壊した卦伊佐が放った殺気は、宇曾都のいたずら心をへし折ってしまった。卦伊佐は彼にウソ発見器よりも大きな恐怖を与えたのである。23世紀に入って人間の行動が科学技術のもたらした機能を超克したのは、これが初めてのことであった。
 しかしこの時、怒の表情をたたえてウソ発見器を破壊した卦伊佐が放った殺気は、宇曾都のいたずら心をへし折ってしまったようだった。卦伊佐は彼にウソ発見器よりも大きな恐怖を与えたらしく、23世紀に入って人間の行動が科学技術のもたらした機能を超克したのは、これが初めてのことであるとみられる。


「はい……あの……はい……まあうまい事騙して金をむしり取ってやろうとしてました……時間……曖昧だけどまあ……十時前くらいでしたかね……飲み物はコーヒーっした……あと……はい……俺の時も律家さんはマグカップを拭いてました……はい……。」
「はい……あの……はい……まあうまい事騙して金をむしり取ってやろうとしてました……時間……曖昧だけどまあ……十時前くらいでしたかね……飲み物はコーヒーっした……あと……はい……俺の時も律家さんはマグカップを拭いてました……はい……。」
191行目: 185行目:
「よし、無反応。じゃあ次は……その……そちらの方は……。」
「よし、無反応。じゃあ次は……その……そちらの方は……。」


調子に乗って五百六回転アクセルまで成功させてしまった橘地は、遂にその口を開いた。
 調子に乗って五百六回転アクセルまで成功させてしまった橘地は、遂にその口を開いた。


「はい。そうですね。私もノレ様と同様、大した目的があったわけではありませんでしたが、ご主人様とお話がしたいなという事で、八時半ごろに書斎へ伺いました。いただいた飲み物はホットミルクでしたね。部屋の状態はあまり観察しておりませんでしたが、冷蔵庫から氷を出していたことは記憶しています。」
「はい。そうですね。私もノレ様と同様、大した目的があったわけではありませんでしたが、ご主人様とお話がしたいなという事で、八時半ごろに書斎へ伺いました。いただいた飲み物はホットミルクでしたね。部屋の状態はあまり観察しておりませんでしたが、冷蔵庫から氷を出していたことは記憶しています。」
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「あー、それなんだが……俺がパトカーを飛び出して地面に着陸したとき、そのあまりの衝撃で地盤が崩落してしまったんだ。おそらく今で救助が完了したくらいだろう。もう少しでみんな来るんじゃないか?」
「あー、それなんだが……俺がパトカーを飛び出して地面に着陸したとき、そのあまりの衝撃で地盤が崩落してしまったんだ。おそらく今で救助が完了したくらいだろう。もう少しでみんな来るんじゃないか?」


このあまりの荒唐無稽さに、アナーキストとキチガイ以外の全員が、彼に対して疑念というより恐怖を抱いた。しかし、超合金でできたウソ発見器をベコベコにへこますその剛力は銃砲の何倍も強力なものであり、下手に刺激したら普通に殺される可能性があるので、みんな知らんぷりを維持した。
 このあまりの荒唐無稽さに、アナーキストとキチガイ以外の全員が、彼に対して疑念というより恐怖を抱いた。しかし、超合金でできたウソ発見器をベコベコにへこますその剛力は銃砲の何倍も強力なものであり、下手に刺激したら普通に殺される可能性があるので、みんな知らんぷりを維持した。


「あー、最後に書斎に招かれた人はいったい誰だったんだ!?」
「あー、最後に書斎に招かれた人はいったい誰だったんだ!?」


文章だと分かりづらいが、卦伊佐は今、めちゃくちゃ深夜なのにも関わらずめちゃくちゃデカい声を出した。しかし誰も彼を注意することはできない。もしこれを指摘したら、腕力によって鼓膜を破壊されてしまうかもしれないからだ。そう思わせるほどの気迫が、確かに彼にはあるのだから。
 文章だと分かりづらいが、卦伊佐は今、めちゃくちゃ深夜なのにも関わらずめちゃくちゃデカい声を出した。しかし誰も彼を注意することはできない。もしこれを指摘したら、腕力によって鼓膜を破壊されてしまうかもしれないからだ。そう思わせるほどの気迫が、確かに彼にはあるのだから。


――探偵のいない事件は、ここに来て膠着状態に陥った。
 ――探偵のいない事件は、ここに来て膠着状態に陥った。


<big>'''第三章 ゴルディアスの結び目(使いたいだけ)を斬る'''</big>
<big>'''第三章 ゴルディアスの結び目(使いたいだけ)を斬る'''</big>
213行目: 207行目:
「何してるのー?」
「何してるのー?」


止まったダイニングルームの時間を動かしたのは、律家ラレだった。どうやらウソ発見器の警告音やら卦伊佐の大声やらのせいで目を覚ましてしまったらしい。部屋に入って来た彼女を、ノレは優しく抱き上げる。
 止まったダイニングルームの時間を動かしたのは、律家ラレだった。どうやらウソ発見器の警告音やら卦伊佐の大声やらのせいで目を覚ましてしまったらしい。部屋に入って来た彼女を、ノレは優しく抱き上げる。


「ごめんね、起きちゃった? でも、明日も学校なんだから、もう寝ないとダメよ。」
「ごめんね、起きちゃった? でも、明日も学校なんだから、もう寝ないとダメよ。」


しかしラレは、この奇妙な状況が気になって仕方ないようだった。
 しかしラレは、この奇妙な状況が気になって仕方ないようだった。


「最後にパパの部屋に行った人を探してるの? なんで警察の人がいるの? どういうこと?」
「最後にパパの部屋に行った人を探してるの? なんで警察の人がいるの? どういうこと?」
223行目: 217行目:
「え、あ、そ、それは……あの、そう、そうよ。パパの部屋に忘れ物があって、そう、誰かがお金を落としちゃったみたいなの。で、えっと、パパは……もう寝ちゃったから、だからあの、来た人の順番を推理してるのよ。警察の人は……お客さん。ただのお客さんよ。」
「え、あ、そ、それは……あの、そう、そうよ。パパの部屋に忘れ物があって、そう、誰かがお金を落としちゃったみたいなの。で、えっと、パパは……もう寝ちゃったから、だからあの、来た人の順番を推理してるのよ。警察の人は……お客さん。ただのお客さんよ。」


なかなかに無理やりな筋書きだが、ラレは納得してくれたらしい。ただし、これはより面倒な結果を招いた。
 なかなかに無理やりな筋書きだが、ラレは納得してくれたらしい。ただし、これはより面倒な結果を招いた。


「面白そう! 私にもやらせてよ!」
「面白そう! 私にもやらせてよ!」
231行目: 225行目:
「お、お嬢ちゃんもやってみるか?」
「お、お嬢ちゃんもやってみるか?」


卦伊佐は謎に面白がって、聴取したばかりの証言のメモをラレに渡す。画面を数秒眺めたのち彼女は、自慢げに言い放った。
 卦伊佐は謎に面白がって、聴取したばかりの証言のメモをラレに渡す。画面を数秒眺めたのち彼女は、自慢げに言い放った。


「ママ、コノイエさん、秋ちゃん、凱兄、ウソツさん、世哉おじさん。この順番ね。」
「ママ、コノイエさん、秋ちゃん、凱兄、ウソツさん、世哉おじさん。この順番ね。」
237行目: 231行目:




一同、唖然とする。アイコンタクトでめっちゃ訴えかけられているのを感じたノレは、困惑しながらも口を開いた。
 一同、唖然とする。アイコンタクトでめっちゃ訴えかけられているのを感じたノレは、困惑しながらも口を開いた。


「えーとー……どうしてそう思ったの?」
「えーとー……どうしてそう思ったの?」
243行目: 237行目:
「ふふ、仕方ないなあ。教えてあげよう。」
「ふふ、仕方ないなあ。教えてあげよう。」


ラレは超ドヤ顔で説明を始めた。
 ラレは超ドヤ顔で説明を始めた。


「私はヒントの多いママを軸に考えたわ。まず、入るときに冷蔵庫からミルクが出されていたことから、{{傍点|文章=直前に出された飲み物がミルクではないことが分かる}}。直前の飲み物がミルクだった場合、次もミルクはホットミルクにしないといけないんだから、わざわざ一旦冷蔵庫に入れる意味なんてないもの。そして、帰り際に氷が出されていたことから、{{傍点|文章=次に出る飲み物がコーヒーであることも分かる}}わね。うちのコーヒーメーカーはドリップ式だから、出てくるのはホットコーヒーになる。ここから急冷式のアイスコーヒーにするには、当然冷やすための氷が必要になるわ。
「私はヒントの多いママを軸に考えたわ。まず、入るときに冷蔵庫からミルクが出されていたことから、{{傍点|文章=直前に出された飲み物がミルクではないことが分かる}}。直前の飲み物がミルクだった場合、次もミルクはホットミルクにしないといけないんだから、わざわざ一旦冷蔵庫に入れる意味なんてないもの。そして、帰り際に氷が出されていたことから、{{傍点|文章=次に出る飲み物がコーヒーであることも分かる}}わね。うちのコーヒーメーカーはドリップ式だから、出てくるのはホットコーヒーになる。ここから急冷式のアイスコーヒーにするには、当然冷やすための氷が必要になるわ。
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「……もしもし? あの、ちょっと待ってくださいよ、全っ然分かりませんって。」
「……もしもし? あの、ちょっと待ってくださいよ、全っ然分かりませんって。」


此井江の言葉に全員が激しく頷く。
 此井江の言葉に全員が激しく頷く。


「もう、ちゃんと説明するってば。だからつまり、このときママの前の人と後の人の組み合わせは二通りしかないの。ママの前に四人、後に一人のときと、前に三人、後に二人のとき。そしてこの二つの場合で、ウソツさんの順番は取り敢えずそれぞれ一通りずつに定まるわ。
「もう、ちゃんと説明するってば。だからつまり、このときママの前の人と後の人の組み合わせは二通りしかないの。ママの前に四人、後に一人のときと、前に三人、後に二人のとき。そしてこの二つの場合で、ウソツさんの順番は取り敢えずそれぞれ一通りずつに定まるわ。
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 これで、{{傍点|文章=ママの前に四人、後に一人のとき}}の全ての場合が成立しないことが分かった。じゃあ次は、{{傍点|文章=ママの前に三人、後に二人のとき}}を考えてみましょう。」
 これで、{{傍点|文章=ママの前に四人、後に一人のとき}}の全ての場合が成立しないことが分かった。じゃあ次は、{{傍点|文章=ママの前に三人、後に二人のとき}}を考えてみましょう。」


橘地の脳味噌は熱暴走し、コトコトという音を立て始めた。しかしラレは意に介さず続行する。
 橘地の脳味噌は熱暴走し、コトコトという音を立て始めた。しかしラレは意に介さず続行する。


「さっきと同じように考えると、このとき、一番目の人は『ミルクを飲んだ誰か』、ニ番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』、三番目の人は『コーヒーを飲んだ世哉おじさん』、四番目の人は『ミルクを飲んだママ』、五番目の人は『コーヒーを飲んだ誰か』、六番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』となる。この中でウソツさんであり得る人は、二、五、六番目の人になるわ。
「さっきと同じように考えると、このとき、一番目の人は『ミルクを飲んだ誰か』、ニ番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』、三番目の人は『コーヒーを飲んだ世哉おじさん』、四番目の人は『ミルクを飲んだママ』、五番目の人は『コーヒーを飲んだ誰か』、六番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』となる。この中でウソツさんであり得る人は、二、五、六番目の人になるわ。
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「うむ……ん? でもこれだと……」
「うむ……ん? でもこれだと……」


卦伊佐は首を傾げた。しかしその佇まいは完全に喧嘩の前に首の骨をパキパキするやべえ奴だったので、みんな普通にビビった。
 卦伊佐は首を傾げた。しかしその佇まいは完全に喧嘩の前に首の骨をパキパキするやべえ奴だったので、みんな普通にビビった。


「そ、そうよ。ママの直前に人がいるとき、全ての場合で矛盾が発生する。ということは必然的に、ママの直前には誰もいなかった……つまり、{{傍点|文章=ママは一番最初の人だった}}ということになる。『直前に出された飲み物がミルクではない』――これは『直前に出された飲み物がコーヒーである』というだけでなく、『直前に出された飲み物が{{傍点|文章=無い}}』」という可能性も含んでいるもの。
「そ、そうよ。ママの直前に人がいるとき、全ての場合で矛盾が発生する。ということは必然的に、ママの直前には誰もいなかった……つまり、{{傍点|文章=ママは一番最初の人だった}}ということになる。『直前に出された飲み物がミルクではない』――これは『直前に出された飲み物がコーヒーである』というだけでなく、『直前に出された飲み物が{{傍点|文章=無い}}』」という可能性も含んでいるもの。
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 ――だから順番は、最初に言ったように『ママ、コノイエさん、秋ちゃん、凱兄、ウソツさん、世哉おじさん』の並びになるってわけ。」
 ――だから順番は、最初に言ったように『ママ、コノイエさん、秋ちゃん、凱兄、ウソツさん、世哉おじさん』の並びになるってわけ。」
 全員が、世哉の方を見つめる。口を開いたのは、卦伊佐だった。
 「……ふむ、確かにこれが正解らしい。とすると、犯人はお前だな。」
 世哉は目を見開いた。
 「ちょっ、待て! 俺は殺してねえよ! そもそも――」
 「じゃあ、私は別の事件の現場に行かなくてはならんから、そろそろ失礼するぞ。容疑者をそのままにしておくのは危険だから、こいつは責任を持って私が預かっておく。警察が流石にそろそろ来るだろうから、それまで待機しておいてくれ。」
 喚く世哉を小指と薬指でつかんで、卦伊佐は勢いよく律家館を飛び出した。発生したソニックブームが、シャンデリアをコマみたいなことにしていった。ダイニングルームに残された五人と、未だに電話越しの一人は、ビビった。
 翌朝の新聞が────死者六名を告げた。
<big>'''第四章 殺人を知らない探偵'''</big>
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