「利用者:Notorious/サンドボックス/コンテスト」の版間の差分

き?
(の)
(き?)
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<br>「でも、あのドアを開けられれば、活動範囲が広がります。奥に何が待っていようと、突破口となるのは間違いないでしょう」
<br>「でも、あのドアを開けられれば、活動範囲が広がります。奥に何が待っていようと、突破口となるのは間違いないでしょう」
<br> 権田は深く頷いた。
<br> 権田は深く頷いた。
<br>「ドア以外のルート、たとえば壁や天井を破るというのも、あまり現実的な方法じゃないからな」
<br>「ドア以外のルート、たとえば壁や天井を破るというのは、あまり現実的な方法じゃないよな」
<br>「換気口や排水溝はどうです?」
<br>「換気口や排水溝はどうです?」
<br>「人が通るのはまず無理だな。他の何か、たとえばメッセージを書いた物を排水溝に流す、とかはどうだろう」
<br>「人が通るのはまず無理だな。他の何か、たとえばメッセージを書いた物を排水溝に流す、とかはどうだろう」
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<br>「倉庫には、文字通り食料の山がありますけど……」
<br>「倉庫には、文字通り食料の山がありますけど……」
<br>「{{傍点|文章=鉄の瓶や缶は小部屋を通せない}}。山はあるのに、その山をドアの前まで移せないんだよな」
<br>「{{傍点|文章=鉄の瓶や缶は小部屋を通せない}}。山はあるのに、その山をドアの前まで移せないんだよな」
<br> 小部屋の磁力のバリアの強さは、身をもって味わった。あのバリアがある限り、缶一つだってこの部屋に持ち込めない。あの小部屋は、{{傍点|文章=この部屋に物を移させないため}}にあるのだ。
<br> 小部屋の磁力のバリアの強さは、身をもって味わった。あのバリアがある限り、缶切り一本だってこの部屋に持ち込めない。あの小部屋は、{{傍点|文章=この部屋に物を移させないため}}にあるのだ。
<br>「向こうにある物には、徹底して鉄が使われている。食料、ボトル、缶切り、剃刀、トイレのスポンジ……。どれも踏み台には使えない。鉄でない物は、ほとんど固定されてしまっているし」
<br>「向こうにある物には、徹底して鉄が使われている。瓶、ボトル、缶切り、剃刀、トイレのスポンジ……。どれも踏み台には使えない。鉄でない物は、ほとんど固定されてしまっているし」
<br>「陶器の便座を砕くってのはどうです?」
<br>「陶器の便座を砕くってのはどうです?」
<br>「おっ、いいな。でも和式だからな……。綺麗に砕ければ10センチくらい稼げるかもな」
<br>「おっ、いいな。でも和式だからな……。綺麗に砕ければ10センチくらい稼げるかもな」
175行目: 175行目:
<br> ベッドを飛び降りて、権田は小部屋のドアを開け、すぐに閉めてすごすごと戻ってきた。そもそも、小部屋はドアがある壁から離れた位置にある。テンキーには、距離も高さも全然足りない。
<br> ベッドを飛び降りて、権田は小部屋のドアを開け、すぐに閉めてすごすごと戻ってきた。そもそも、小部屋はドアがある壁から離れた位置にある。テンキーには、距離も高さも全然足りない。
<br> いや、諦めるにはまだ早い。
<br> いや、諦めるにはまだ早い。
<br>「あのテンキー自体はどうです? 服か包帯で紐を作って、それをテンキーの上に引っ掛けるんです。テンキーを定滑車にして、紐の一方の端を引っ張ってもう一方にしがみついた一人を上に送るんです」
<br>「あのテンキー自体はどうです? 服か包帯で紐を作って、それをテンキーの上に引っ掛けるんです。テンキーを定滑車にして紐の一方の端を引っ張れば、もう一端が引き上げられる。それにしがみつけば、テンキー付近まで登れるかもしれません」
<br> 権田はしばし黙ってテンキーの方を見上げていたが、
<br> 権田はしばし黙ってテンキーの方を見上げていたが、
<br>「テンキーで出っ張っている部分はせいぜい5センチてなところだ。それに、プラスチックカバーは若干だが前の方に傾斜しているように見える。人一人を持ち上げる滑車としては、使えないだろうな」
<br>「テンキーの出っ張っている部分の幅は、せいぜい5センチてなところだ。それに、プラスチックカバーは若干だが前の方に傾斜しているように見える。人一人を持ち上げる滑車としては、使えないだろうな」
<br> と否定した。どうやら、このアイデアも不発のようだ。
<br> と否定した。どうやら、このアイデアも不発のようだ。


187行目: 187行目:
<br>「冷凍庫は無いし、気温が下がるのを待つというのも、全館空調だから厳しいかもしれませんね」
<br>「冷凍庫は無いし、気温が下がるのを待つというのも、全館空調だから厳しいかもしれませんね」
<br> 棒作戦も、難しい。他の方法を考えてみよう。
<br> 棒作戦も、難しい。他の方法を考えてみよう。
<br>「うーん……何かを投げてボタンを押すってのはどうです?」
<br>「うーん……何かを投げて、ボタンにぶつけて押すってのはどうです?」
<br>「順にボタンに当てるのは難易度が高すぎる。それに、プラスチックカバーがネックだ。あれを上げないとボタンを押せない」
<br>「順にボタンに当てるのは難易度が高すぎる。それに、プラスチックカバーがネックだ。あれを上げないとボタンを押せない」
<br>「真下から何かをぶつけてカバーを上げて、さらにタイミングよくボタンに物をぶつけるんです」
<br>「真下から何かをぶつけてカバーを上げて、さらにタイミングよくボタンに物をぶつけるんです」
<br>「野球のピッチャーも真っ青な計画だな。食料が尽きる前に成功すればいいが」
<br>「野球のピッチャーも真っ青な計画だな。食料が尽きる前に成功すればいいが」
<br>「食料は、たぶん5年は持ちますよ。毎日トライすれば、いつか成功するかも」
<br>「食料は、たぶん5年は持ちますよ。毎日トライし続ければ、いつか成功するかも」
<br>「何回間違えたら永久にロックされるみたいな設定が無いことを祈るか。他に妙案が思いつかなければ、試してみよう」
<br>「何回間違えたら永久にロックされるみたいな設定が無いことを祈るか。他に妙案が思いつかなければ、試してみよう」


230行目: 230行目:
<br> なぜ奴らは僕らを攫い、閉じ込めたのか。
<br> なぜ奴らは僕らを攫い、閉じ込めたのか。
<br>「ここにはモニターが無いので、きっとデスゲームは始まりませんね」
<br>「ここにはモニターが無いので、きっとデスゲームは始まりませんね」
<br>「デスゲームをするとはっきり伝えてくれた方がマシだったかもしれんなあ。せめて狙いを置き手紙にでも<ruby>認<rt>したた</rt></ruby>めてくれればよかったのに」
<br>「せめて目的を置き手紙にでも<ruby>認<rt>したた</rt></ruby>めてくれればよかったのに」
<br> 冗談はさておいて、犯人グループの目的を想像してみる。
<br> 冗談はさておいて、犯人グループの目的を想像してみる。
<br>「普通は、身代金目的とかでしょうけど……」
<br>「人を拐かす理由。普通は、身代金目的とかでしょうけど……」
<br>「もしそうなら、こんな手厚い待遇しなくてもいいよな。椅子とかに縛り付けて、どっかの廃墟に放り込んでりゃいいんだから」
<br>「もしそうなら、こんな手厚い待遇しなくてもいいよな。椅子とかに縛り付けて、どっかの廃墟に放り込んでりゃいいんだから」
<br>「人を攫う目的なら色々ありそうですけど、こんな建物に中途半端に閉じ込めておく理由がわかりませんね」
<br>「人を攫う目的なら色々ありそうですけど、こんな建物に中途半端に閉じ込めておく理由がわかりませんね」
252行目: 252行目:
<br>「何か、真っ当に被験者を募れないような実験だから、こうやって無理やり人を攫ってきてるんじゃ?」
<br>「何か、真っ当に被験者を募れないような実験だから、こうやって無理やり人を攫ってきてるんじゃ?」
<br>「もしそうなら、なかなか明るい想像はできないな……」
<br>「もしそうなら、なかなか明るい想像はできないな……」
<br> 今からもっと非人道的な仕打ちが、被験者たる僕らに加えられるのかもしれない。
<br> 今からもっと非人道的な仕打ちが、モルモットである僕らに加えられるのかもしれない。
<br>「これが実験なら、この建物もその内容に即した構造をしているってことになるな」
<br>「これが実験なら、この建物もその内容に即した構造をしているってことになるな」
<br>「どんな実験なんでしょうね?」
<br>「どんな実験なんでしょうね?」
265行目: 265行目:
<br> 権田はもう寝入ったのか、ぐうぐうという寝息が聞こえてきた。僕は頭が冴えていて、全然眠れそうになかった。数々の疑問が渦巻いて、脳内をぐるぐると回っている。
<br> 権田はもう寝入ったのか、ぐうぐうという寝息が聞こえてきた。僕は頭が冴えていて、全然眠れそうになかった。数々の疑問が渦巻いて、脳内をぐるぐると回っている。
<br> 僕らはなぜ閉じ込められているのか? 実験ならば、それはどんな実験なのか? この建築物の構造の意味は?
<br> 僕らはなぜ閉じ込められているのか? 実験ならば、それはどんな実験なのか? この建築物の構造の意味は?
<br> 疑問の奔流はとどまるところを知らず、このままだととてもじゃないが眠れそうになかったので、僕は必死に気を逸らせた。
<br> 疑問の奔流はとどまるところを知らず、このままだととてもじゃないが眠れそうにないので、僕は必死に気を逸らせた。
<br> いつもなら、勤務を終えて寮に帰っている頃だろうか。いかんせん時計が無いため、今何時なのか全くわからない。ひょっとしたら、体内時計を狂わせるタイプの実験かもしれない。建物の構造や鍵の掛け方に疑問は残るが。
<br> いつもなら、勤務を終えて寮に帰っている頃だろうか。いかんせん時計が無いため、今何時なのか全くわからない。ひょっとしたら、体内時計を狂わせるタイプの実験かもしれない。建物の構造や鍵の掛け方に疑問は残るが。
<br> つらつらと思惟していると、連想は連想を呼び、だんだんと気分が落ち着いてきた。全く無関係なことを考えていると、ゆっくりと眠気に侵食されていく。もうしばらくすれば眠れる。そう思って意識を再び思索に飛ばした、その時だった。
<br> つらつらと思惟していると、連想は連想を呼び、だんだんと気分が落ち着いてきた。全く無関係なことを考えていると、ゆっくりと意識が眠気に侵食されていく。もうしばらくすれば眠れる。そう思って意識を再び思索に飛ばした、その時だった。


 はっとした。まさか。
 はっとした。まさか。
295行目: 295行目:
 トイレの床に缶は置いたまま、僕は最初の部屋に戻った。後ろを権田がついてくる。先刻のディスカッションのように、僕らはベッドに座った。ただし、権田はベッドの上で胡座をかいているが、僕は端に腰掛け、横を向いた。
 トイレの床に缶は置いたまま、僕は最初の部屋に戻った。後ろを権田がついてくる。先刻のディスカッションのように、僕らはベッドに座った。ただし、権田はベッドの上で胡座をかいているが、僕は端に腰掛け、横を向いた。
<br>「それで、佐藤は何に気がついたんだ?」
<br>「それで、佐藤は何に気がついたんだ?」
<br> 真っ直ぐに権田が問いかけてくる。僕は俯いた。どこから話せばいいのだろうか? こんな残酷なことを、どうやって伝えればいいというのだ? 迷った末に、僕は口を開いた。
<br> 真っ直ぐに権田が問いかけてくる。僕は俯いた。どこから話せばいいのだろうか? こんな残酷なことを、どうやって伝えればいいというのだ?
<br> 迷った末に、僕は口を開いた。
<br>「気づいたのは、脱出方法です。でも、とてもやろうとは思えない方法です。覚悟して、聞いてくれますか?」
<br>「気づいたのは、脱出方法です。でも、とてもやろうとは思えない方法です。覚悟して、聞いてくれますか?」
<br> 権田は驚いた顔をしたが、黙って頷いた。
<br> 権田は驚いた顔をしたが、黙って頷いた。
309行目: 310行目:
<br>「取るのは、踏み台戦法をひねった方法です。足りない1メートルを、稼ぐ方法があるんです」
<br>「取るのは、踏み台戦法をひねった方法です。足りない1メートルを、稼ぐ方法があるんです」
<br>「しかし、ここにあるものでは、どれも高さが足りないという結論に至ったじゃないか」
<br>「しかし、ここにあるものでは、どれも高さが足りないという結論に至ったじゃないか」
<br>「その通りです。ここにあるものでは、1メートルに届かない。だから、{{傍点|文章=ここに無いものを使う}}んです」
<br>「その通りです。ここにあるものだけでは、5メートルに届かない。だから、{{傍点|文章=ここに無いものも使う}}んです」
<br>「外から何かを調達する方法があるのか?」
<br>「外から何かを調達する方法があるのか?」
<br>「そうじゃありません。{{傍点|文章=今ここには無いけど}}、{{傍点|文章=後でここに現れるものを使う}}んです」
<br>「そうじゃありません。{{傍点|文章=今は無いけど}}、{{傍点|文章=後でここに現れるものを使う}}んです」
<br>「どういうことだ?」
<br>「どういうことだ?」
<br>「まだわかりませんか⁈」
<br>「まだわかりませんか⁈」
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<br>「でも……え……そんな……」
<br>「でも……え……そんな……」
<br>「だから言ったでしょう。とてもやろうとは思えない方法だと」
<br>「だから言ったでしょう。とてもやろうとは思えない方法だと」
<br> 権田は絶句していた。でも、僕は事実を押し通さねばならない。
<br> 権田は絶句していた。僕は開き直ったように、極力あっけらかんと言った。
<br>「これでわかったでしょう? この建造物の正体は、{{傍点|文章=セックスしないと出られない部屋}}なんですよ」
<br>「それに、脱出に必要かなんて関係なく、僕が我慢できた気はしませんし。何せ、ドタイプな美女と二人っきりなんですから」
<br>「セッ……そんな……」
<br>「ド……そんな……」
<br> 権田の整った顔が赤く染まったのが、闇の中でも見えた。思わず僕は権田の両肩を掴んで、マットレスに押し倒す。ボブカットの黒髪がふわりとシーツに広がり、ぱっちりした両眼が驚きに揺れる。いくら鍛え上げているとはいえ女の細腕では、同じく警察官の僕を押し退けることはできない。僕は、権田の腰にまたがった。権田が小さく声を洩らす。マットレスが軋み、薄着の下の乳房が魅力的に揺れる。
<br> 権田の整った顔が赤く染まったのが、闇の中でも見えた。思わず僕は権田の両肩を掴んで、マットレスに押し倒す。ボブカットの黒髪がふわりとシーツに広がり、ぱっちりした両眼が驚きに揺れる。いくら鍛え上げているとはいえ女の細腕では、同じく警察官の僕を押し退けることはできない。僕は、権田の腰にまたがった。権田が小さく声を洩らす。マットレスが軋み、薄着の下の乳房が魅力的に揺れる。
<br>「これが、脱出する唯一の方法なんです。……先輩、いいですか?」
<br>「これが、脱出する唯一の方法なんです。……先輩、いいですか?」
<br> ほのかな灯りの下、権田の目の奥が、微かに揺らいだ。
<br> ほのかな灯りの下、権田の目の奥が、微かに揺らいだ。
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