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(き) |
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頬に、固く冷たい感触。四肢にも、冷たさを感じる。胸に体重がかかっており、呼吸が少し苦しい。そう思うと、みるみるうちに息のしづらさが強く感じられるようになって、意識が覚醒した。 | 頬に、固く冷たい感触。四肢にも、冷たさを感じる。胸に体重がかかっており、呼吸が少し苦しい。そう思うと、みるみるうちに息のしづらさが強く感じられるようになって、意識が覚醒した。 | ||
<br> | <br> とにかく僕は床でうつ伏せになっているのだろう。交番の仮眠室のベッドから転がり落ちたのか、あるいは寮の床でつい寝落ちてしまったのか。しかし、開けた目に飛び込んできた景色は、それらの予想が現実と違っていることを雄弁に語っていた。塵一つ落ちていない、真っ白な床。交番でも寮の自室でもない、見覚えのない風景だ。 | ||
<br> | <br> 両手を床につけ、腕立て伏せの要領で身を起こした。伸ばしきっていた脚を畳み、その場に胡座をかく。視点が高くなったことで、周りがよく見えるようになった。正面には、床と同じく白い壁が聳え立っている。そして、壁には細い切れ目が入っている。それはまっすぐ上に走り、直角に曲がって床と平行になり、今度は真下へと伸び、壁を長方形に切り取っている。 | ||
<br> これは、ドアか。すぐには気づけなかったのは、理由があった。大きいのだ。ドアの上端は天井間際にあり、床から5メートルほどの高さにある。天井もそれほど高いのだ。それに、ノブがない。しかし、ドアの上端ギリギリに位置している何か。四角いし何か書かれているようだが、あれは……テンキー? | <br> これは、ドアか。すぐには気づけなかったのは、理由があった。大きいのだ。ドアの上端は天井間際にあり、床から5メートルほどの高さにある。天井もそれほど高いのだ。それに、ノブがない。しかし、ドアの上端ギリギリに位置している何か。四角いし何か書かれているようだが、あれは……テンキー? | ||
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<br>「おい、落ち込んでじゃねえ。ドアを破れないか試してみるぞ」 | <br>「おい、落ち込んでじゃねえ。ドアを破れないか試してみるぞ」 | ||
<br> 権田はドアの前で仁王立ちして言った。僕は慌てて立ち上がり、権田に並ぶ。せーのでドアに肩から体当たりした。鈍い音が響く。何度も並んでタックルを繰り返す。 | <br> 権田はドアの前で仁王立ちして言った。僕は慌てて立ち上がり、権田に並ぶ。せーのでドアに肩から体当たりした。鈍い音が響く。何度も並んでタックルを繰り返す。 | ||
<br> | <br> 2分後、僕らは肩を押さえて床に倒れていた。ドアは1ミリだって揺らがない。破るなんて、到底できそうもなかった。蝶番もこちらからは見えず、ドアごと外すという手も使えない。このドアを開けるには、暗証番号を打ち込むほかなさそうだ。 | ||
<br>「……先輩、倉庫から救急箱取ってきます」 | <br>「……先輩、倉庫から救急箱取ってきます」 | ||
<br>「おう……」 | <br>「おう……」 | ||
僕は痛む肩を押さえて倉庫へと歩いた。さっき見つけた救急箱を一つ持ち、ついでに水の瓶も一本掴み、引き返す。倉庫を出て廊下を渡り、小部屋へと入ったときだった。ぐんと横に手が引っ張られ、たまらず引き倒される。続いて、ゴンッという衝撃音。すぐに小部屋の向こうのドアが開き、権田が現れた。 | |||
<br>「大丈夫か、何があった⁈」 | <br>「大丈夫か、何があった⁈」 | ||
<br> 倒れた僕に駆け寄ってくる。しかし、僕は横の壁をぼんやりと見遣っていた。僕の視線を追って、権田がそれに気づいた。 | <br> 倒れた僕に駆け寄ってくる。しかし、僕は横の壁をぼんやりと見遣っていた。僕の視線を追って、権田がそれに気づいた。 |
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