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「こっちは妻の威山横<ruby>亜奈秋<rt>あなあき</rt></ruby>。大切なお義兄さんを殺した奴は、ゴリゴリの私刑に処そうと思っているわ」
「こっちは妻の威山横<ruby>亜奈秋<rt>あなあき</rt></ruby>。大切なお義兄さんを殺した奴は、ゴリゴリの私刑に処そうと思っているわ」


「……私は几帳男の妻、律家ノレよ。一応、この家のナースでもあるけど……とてもお喋りなんかできる気持ちじゃないわ」
「……私は几帳男の妻、律家ノレよ。一応、この家のナースでもあるけど……とてもお喋りなんかできる気持ちじゃないわ。……あと、私の娘、ラレは今部屋で寝ているわ」


「俺ぁ<ruby>有曾津<rt>うそつ</rt></ruby><ruby>王<rt>きんぐ</rt></ruby>。本名はガリレオ・ガリレイだ。俺のことは信用していいぜ」
「俺ぁ<ruby>有曾津<rt>うそつ</rt></ruby><ruby>王<rt>きんぐ</rt></ruby>。本名はガリレオ・ガリレイだ。俺のことは信用していいぜ」
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 「ママ、容疑者ってどういうこと? 世哉おじさんは何か悪い事したの?」
 「ママ、容疑者ってどういうこと? 世哉おじさんは何か悪い事したの?」


 「ラレ……ううん、何も無いわよ。もうこんなこと忘れて、早く寝ましょう」
 「ラレ……ううん、何も無いわよ。もうこんなこと忘れて、早く寝ましょう。かわいいお顔にクマができちゃうわ!」


 ダイニングルームに残された五人の間に、沈黙が流れる。未だに電話越しの一人は、どこか安堵したようにため息をついた。
 ダイニングルームに残された五人の間に、沈黙が流れる。未だに電話越しの一人は、どこか安堵したようにため息をついた。
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 橘地が言った通り、ラレは律家館の玄関から外に飛び出していた。ちょうどいくつかのパトカーが到着した頃だった。
 橘地が{{傍点|文章=最悪の場合}}に備えて願った通り、ラレは律家館の玄関から外に飛び出していた。ちょうどいくつかのパトカーが到着した頃だった。


「まったく卦伊佐さんったら、ホント勘弁してほしいよ。あの人の一挙手一投足がどれだけの二次災害を及ぼすか……ってあれ? おい、子供がこっちに走ってくるぞ!」
「まったく卦伊佐さんったら、ホント勘弁してほしいよ。あの人の一挙手一投足がどれだけの二次災害を及ぼすか……ってあれ? おい、子供がこっちに走ってくるぞ!」
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「……胸糞悪い質問ね。私の答えなんてどうでもいいでしょ」
「……胸糞悪い質問ね。私の答えなんてどうでもいいでしょ」


「へっ、まあいい、とにかく……そう、さっきの事件だ。大方お前はついにあいつを脅迫し……そこで何があったは知らないが、お前は几帳男を殺害した。計画は台無しになって焦ったお前は、そこに転がってる此井江をも脅し、とにかく威山横世哉に罪を擦り付けることにしたんだろう。几帳男の財産全てを奪おうとしていたお前にとって、世哉に多額の遺産が渡ることを阻止するのに最もいい方法は、彼を殺人犯に仕立て上げて『相続欠格』を適用させることだったからな。……尤も、{{傍点|文章=卦伊佐のやつが世哉を保護した}}今となっちゃあ無理な話だが」
「へっ、まあいい、とにかく……そう、さっきの事件だ。大方お前はついにあいつを脅迫し……そこで何があったは知らないが、お前は几帳男を殺害した。計画は台無しになって焦ったお前は、そこに転がってる此井江をも脅し、とにかく威山横世哉に罪を擦り付けることにしたんだろう。几帳男の財産全てを奪おうとしていたお前にとって、世哉に多額の遺産が渡ることを阻止するのに最もいい方法は、彼を殺人犯に仕立て上げて『相続欠格』を適用させることだったからな。それに運よく、お前を除けば世哉は最後の訪問者だった。だから最後の書斎に行った人物が犯人であるという流れを作り、彼を追い詰めようとした……尤も、{{傍点|文章=卦伊佐のやつが世哉を保護した}}今となっちゃあ無理な話だが」


 策に嵌められていたのはこちら側だった――ノレは唇を噛んだ。
 策に嵌められていたのはこちら側だった――ノレは唇を噛んだ。
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 有曾津――正確には、SSI-1931――は、破けた表皮の内側にケーブルを覗かせながら続ける。
 有曾津――正確には、SSI-1931――は、破けた表皮の内側にケーブルを覗かせながら続ける。


「律家ノレこそが犯人であると俺が確信したのは――俺にあの{{傍点|文章=ウソ探知機と同じシステムが搭載されている}}からだ。勿論、この判定結果を同僚の人間――例えば卦伊佐とかに言うことはできない。司法に影響を及ぼしちまうらしいからな。だが……俺の中だけで黙って捜査に役立てることなら許される。さっきお前がスイッチを持っていないという{{傍点|文章=ことだけ}}分かったのも、これのおかげだ」
「律家ノレこそが犯人であると俺が確信したのは――俺にあの{{傍点|文章=ウソ発見器と同じシステムが搭載されている}}からだ。勿論、この判定結果を同僚の人間――例えば卦伊佐とかに言うことはできない。司法に影響を及ぼしちまうらしいからな。だが……俺の中だけで黙って捜査に役立てることなら許される。さっきお前がスイッチを持っていないという{{傍点|文章=ことだけ}}分かったのも、これのおかげだ」


 しばらく両者は沈黙した。地下の空間の崩壊は勢いを増していて、生き埋めも目前に迫ってきている。
 しばらく両者は沈黙した。地下の空間の崩壊は勢いを増していて、生き埋めも目前に迫ってきている。
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「あの{{傍点|文章=推理}}はびっくりしたわ。あの子があんなことをするなんて、全く予想外だった。まあ、あれのせいで卦伊佐が世哉を連れていく口実を得てしまったといえば、それまでだけど」
「あの{{傍点|文章=推理}}はびっくりしたわ。あの子があんなことをするなんて、全く予想外だった。まあ、あれのせいで卦伊佐が世哉を連れていく口実を得てしまったといえば、それまでだけど」


「……爆発の前、俺は橘地にお願いして、」
「……爆発の前、俺は橘地に地下の爆破装置のことを話して、ラレを家の外へ出してくれるよう頼んだ。まあこれは人助けとかじゃなく、お前がラレを人質にするようなことがあったときに、『三原則』第一項のせいで手出しできなくなるのを防ぐためだ。……その最中、おそらく亜奈秋が激情に駆られてラレを襲ったんだろう、彼女の悲鳴が聞こえてきた。橘地はすぐさま助けに向かい、その間に俺はここへ来たわけだ。それで……警察の無線では、たった今この家の外で少女を保護したとあった。要するに、律家ラレは無事だってことだ」


「それを私に言ってどうするの。私は……私はラレを、几帳男から金を巻き上げるための道具にしようとしていたのよ!?」


*ラレ;ノレへの"嘘"
「……俺の中のウソ発見器システムは、お前が最初に口にした言葉に――その中の『私の娘、ラレ』という言葉に――ちっとも反応しなかったんだ」
 
 ノレは深く息をつく。
 
「少なくともお前にとって……ラレは本当にお前の娘だったってことだ」
 
 意を決したように、ノレは喋り始めた。
 
「私にも……私にも分からないの。私が、ラレのことを、どう思っているのか……。最初は計画のための道具としか思っていなかった。でも今は、なぜだか……」
 
 地下空間の酸素は薄くなっていき、瓦礫の落ちる音がやけに大きく響く。
 
「几帳男を脅迫しに行った時ね、あいつは何を勘違いしたのか、私にこう謝ってきたの――『許してくれ、ほんの出来心だったんだ、{{傍点|文章=ラレを犯してしまったのは}}!』って。その時……自分でも訳が分からないほど、頭に血が上っちゃって、それで……刺し殺した」
 
 有曾津は何も言わず、ただ息を呑んだ。
 
「その後ラレに聞いてみたけど……本当に酷かった。……ラレはとっても純粋で……もうすぐ中学生になるっていうのに{{傍点|文章=殺人という概念さえよく分かっていない}}ほどなの。それを……それをあんな風に最悪な形で使うっていうのが本当に許せなかった。あの子を守ってあげたい、そう思ったの。でも……私にそんな資格なんてないから。だから……私には、もう……分からないの。」
 
 ――再び、沈黙が流れた。そしてそれは、ついに破られることがなかった。
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