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「ハハ、そうくると思ってたぜ」 | 「ハハ、そうくると思ってたぜ」 | ||
ただし藤原は、不可解なものに関して「理屈付け」をしなければ気が済まない性格をしていた。ひとたびその「モード」に入れば、何時間でも熟考してしまう、まさに悪癖だ。その理屈はたいていの場合バカげた話にしかならないが、時には真実へたどり着くための重大な示唆として機能することもある。八方塞がりの行き詰った捜査には、思いのほかこれが効いたりするらしく――だから赤田はいつも、大して推理能力に長けているわけでもないこの浮気調査探偵を訪れていたのだ。 | |||
「まずこの文面から見て取れる情報は、漠然と二つある。まず『意味不明』、そして『消されていない』ってところだな」 | 「まずこの文面から見て取れる情報は、漠然と二つある。まず『意味不明』、そして『消されていない』ってところだな」 | ||
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「守秘義務はどうしたんだよ」 | 「守秘義務はどうしたんだよ」 | ||
「けっ。じゃあ、まず一つ……『このダイイングメッセージの筆跡は完全に被害者のものだったし、書き換えられた形跡もなかった』。さらに、『犯人と思しき人物の{{傍点|文章=なぞるような指紋}}がダイイングメッセージの上から付着して残されていた』。あとはまあ……そうだな、『ダイイングメッセージを書くのに使われた……まあ、『塗料』とでも呼ぼう。その容器が、それを完全に塗りつぶせる量を残して遺体の傍にあったが、犯人が手をつけた形跡は無かった』。これくらいでどうだ?」 | |||
「……なるほど、これで少なくとも三つ目の蓋然性が下がる。文章のある場所をピンポイントで触っておいて、『気づいていない』という方が無茶だからな。こうなると、一つ目の『改変失敗』が最もありえそうだが……塗りつぶせるのにそうしなかったというのは謎だ。犯人が被害者を脅迫して書かせた可能性も排除できないし、そもそも文章が犯人にとって『不利益ではなかった』という可能性も再浮上してくる」 | 「……なるほど、これで少なくとも三つ目の蓋然性が下がる。文章のある場所をピンポイントで触っておいて、『気づいていない』という方が無茶だからな。こうなると、一つ目の『改変失敗』が最もありえそうだが……塗りつぶせるのにそうしなかったというのは謎だ。犯人が被害者を脅迫して書かせた可能性も排除できないし、そもそも文章が犯人にとって『不利益ではなかった』という可能性も再浮上してくる」 | ||
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「乱暴な推理だ」 | 「乱暴な推理だ」 | ||
「推理じゃない。ただの妄言さ。……で、ダイイングメッセージが暗号でないとするなら、これはただの意味不明な文章だ。筆跡は被害者のものだが、錯乱して書いたとは考えづらい。『意味不明である』というのに{{傍点|文章=作為}}があるならば――答えはこうだろう。『犯人が捜査の攪乱のために被害者に書かせた、無意味な文章』。……これが俺の考える真相だ」 | |||
藤原が言い終わるのと同時に、またハトの鳴き声がした。鳩時計は午後四時を指している。 | 藤原が言い終わるのと同時に、またハトの鳴き声がした。鳩時計は午後四時を指している。 |
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