「叙述トリック」の版間の差分

64 バイト除去 、 3年5月16日 (ゐ)
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<br> 時々小島さんが本を読んでいるのを見るが、大体推理小説なのだ。どうやらそういう系統の新人賞に応募したこともあるらしい。
<br> 時々小島さんが本を読んでいるのを見るが、大体推理小説なのだ。どうやらそういう系統の新人賞に応募したこともあるらしい。
<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
<br> 見ると、京極さんと三津田さんがもぞもぞと起き出していた。2人とももう、おじさんというよりおじいさんといった方がしっくりくる歳だ。京極さんは身長が低くて小太り、三津田さんは対照的にのっぽで痩せぎすな体型をしている。話し方も、三津田さんは二回りほど年下の僕にも丁寧語を使うが、京極さんはゴリゴリの関西弁で、対照的だ。
<br> 見ると、京極さんと三津田さんがもぞもぞと起き出していた。2人とももう、おじさんというよりおじいさんといった方がしっくりくる歳だ。京極さんは身長が低くて小太り、三津田さんは対照的にのっぽで痩せぎすな体型をしている。話し方も、三津田さんは三回りほど年下の僕にも丁寧語を使うが、京極さんはゴリゴリの関西弁で、対照的だ。
<br>「おはようございます」
<br>「おはようございます」
<br>「なんや2人とも偉う起きるんが早いなあ」
<br>「なんやふたりとも偉う起きるんが早いなあ」
<br> いつも同じ時間に起きていると、アラームなぞ無くとも自然と目が覚めてしまうものだ。僕は変わり映えのしない一日の到来に溜め息を吐くと、布団を畳むために立ち上がった。
<br> いつも同じ時間に起きていると、アラームなぞ無くとも自然と目が覚めてしまうものだ。僕は変わり映えのしない一日の到来に溜め息を吐くと、布団を畳むために立ち上がった。
<br>「あれは俺が小6になりたての4月の出来事だった」
<br>「あれは俺が小6になりたての4月の出来事だった」
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<br>「どうだケン、兄さんが何したかはわかったか?」
<br>「どうだケン、兄さんが何したかはわかったか?」
<br>「うん!」
<br>「うん!」
<br>「はは、そら良かった。さすが俺の弟だな。よし、あれ、ギターが引っかかって、ギリ通れない…くそ」
<br>「はは、そら良かった。さすが俺の弟だな。よし、あれ、ギターが引っかかって、ギリ通れない……くそ」
<br> そこでバキッと嫌な音がした。
<br> そこでバキッと嫌な音がした。
<br>「ああ、俺のギター! 高かったのに!!」
<br>「ああ、俺のギター! 高かったのに!!」
187行目: 187行目:
<br>「でも、小島さんちは4人家族だって言ってたじゃないですか」
<br>「でも、小島さんちは4人家族だって言ってたじゃないですか」
<br> 兄が2人いるなら家族は5人いないとおかしくなる。すると三津田さんは足し算に見事正解した孫を見るような顔をした。
<br> 兄が2人いるなら家族は5人いないとおかしくなる。すると三津田さんは足し算に見事正解した孫を見るような顔をした。
<br>「その通りですが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけです。{{傍点|文章=上の兄}}、{{傍点|文章=つまりプリンが嫌いな兄は}}、{{傍点|文章=もう一人暮らしを始めた頃だった}}のではないですかね。そう、{{傍点|文章=丁度その年の4月から}}」
<br>「その通りですが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけです。{{傍点|文章=上の兄}}、{{傍点|文章=つまりプリンが嫌いな兄は}}、{{傍点|文章=もう一人暮らしを始めた頃だった}}のではないですかね。そう、丁度その年の4月から」
<br>「父親の『何かと心労の絶えない時期』っちゅうのは{{傍点|文章=長兄の大学受験}}とかやろな。それに、食卓に{{傍点|文章=お誕生席}}があったのも、5人暮らしの名残やろう。4人家族なら、2人ずつ向かい合って座ればええんやからな」
<br>「父親の『何かと心労の絶えない時期』っちゅうのは長兄の大学受験とかやろな。それに、食卓にお誕生席があったのも、5人暮らしの名残やろう。4人家族なら、2人ずつ向かい合って座ればええんやからな」
<br> なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
<br> なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
<br>「ふむ、それは気づきませんでした。ですが、私は次男の名前が分かりますよ。おそらく『<ruby>政治<rt>{{傍点|文章=せいじ}}</rt></ruby>』というんでしょう。どうです、ケンくん?」
<br>「ふむ、それは気づきませんでした。ですが、私は次男の名前が分かりますよ。おそらく『<ruby>政治<rt>せいじ</rt></ruby>』というんでしょう。どうです、ケンくん?」
<br>「ああ、その通りだ。ちなみに漢字も、まんま専制政治の政治だよ」
<br>「ああ、その通りだ。ちなみに漢字も、まんま専制政治の政治だよ」
<br> 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。一方、僕は釈然としない。
<br> 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。一方、僕は釈然としない。
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