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Mapilaplap (トーク | 投稿記録) 編集の要約なし |
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<br> 僕は黙って横に座る。彼は空を見上げた。辺りは日が暮れる前の、闇が染み出してくるような、この時間特有の気配がしていた。何者かがゆっくりと、しかし確実に光を束ねて、明日へと運んでいくのだ。 | <br> 僕は黙って横に座る。彼は空を見上げた。辺りは日が暮れる前の、闇が染み出してくるような、この時間特有の気配がしていた。何者かがゆっくりと、しかし確実に光を束ねて、明日へと運んでいくのだ。 | ||
<br> 僕は彼に向けて言葉を放つ。 | <br> 僕は彼に向けて言葉を放つ。 | ||
<br> | <br>「君に話したいことがある。多分一方的に話すことになるけど、聞いてもらっていいかい?」 | ||
<br> 彼は親の機嫌を伺う雛鳥のような、痛々しい笑顔で答えた。 | <br> 彼は親の機嫌を伺う雛鳥のような、痛々しい笑顔で答えた。 | ||
<br>「もちろん。君の好きなようにすればいい」 | <br>「もちろん。君の好きなようにすればいい」 | ||
<br> | <br> 彼はいつもそういう笑い方をする。痛々しく笑うのだ。その痛々しさがどこから来るか、僕は知らない。時々考えてみることがある。彼の笑顔に痛々しさを見るのは、僕が彼に痛々しい負い目があるからなのではないか、と。でもその度に僕は思う。彼の笑顔にあるその痛々しさは、彼に生まれつき備え付けられていた物なのかもしれないと。もともと僕は彼にその負い目を感じる前から彼と過ごしてきた。しかしその時が訪れるより前の彼の笑顔を、僕はどうしても思い出せないのだ。僕はこの問答を幾度となく繰り返してきたのだが、答えに辿り着くような気配は全くない。むしろより混乱していくように感じる。僕は彼の笑顔を見るたびにそういったことを考えてしまう。 | ||
<br> 僕は最初のひと言を話し始めようと、息を吸った。しかしそれは緩やかに空を切った彼の手によって止められてしまう。 | <br> 僕は最初のひと言を話し始めようと、息を吸った。しかしそれは緩やかに空を切った彼の手によって止められてしまう。 | ||
<br>「悪い。少し散歩に行かないか」 | <br>「悪い。少し散歩に行かないか」 |
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