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 深く、深く。それは公園の砂場からコンクリートの底を暴き出すのに等しい、あるいは空気を掴んで空をよじ登ろうとするのにも似た、途方もない道のりだった。重い水の層を剥がし、その間に体を潜り込ませる。もはや宇宙飛行士には何も見えていない。それでも、深海を満たす虚空を、恐怖した。それは、何か未知の怪物が出てくるかもしれないというありきたりな恐怖ではなく、ただ純粋に、何も出てくることができない闇への本質的な恐怖だった。宇宙には星があったが、深海にはそれがなかった。ただ均質的な黒が、宇宙飛行士の眼球を覆った。
 深く、深く。それは公園の砂場からコンクリートの底を暴き出すのに等しい、あるいは空気を掴んで空をよじ登ろうとするのにも似た、途方もない道のりだった。重い水の層を剥がし、その間に体を潜り込ませる。もはや宇宙飛行士には何も見えていない。それでも、深海を満たす虚空を、恐怖した。それは、何か未知の怪物が出てくるかもしれないというありきたりな恐怖ではなく、ただ純粋に、何も出てくることができない闇への本質的な恐怖だった。宇宙には星があったが、深海にはそれがなかった。ただ均質的な黒が、宇宙飛行士の眼球を覆った。


 
 しかし、目が慣れていくにつれ、ここにも僅かな光が届いていることに気づいた。海は、無限に連なる背景を屈折させて重ね塗りするキャンバスだ。単色に見える黒は、深い濃淡を緻密に組み合わせてつくられた、この惑星の透視図だった。その無限に重なった色の中から、宇宙飛行士は、わずかな歪みを捉えた。ある意味では自然の完全な調和性を毀損するそれは、しかしはっきりとその存在を主張する、文明という歪みだった。宇宙飛行士は、もはやそこに向かうほかなかった。
 
 海中のすべてが、その海底の神殿の方へ沈んでいた。自由に海を遊泳する「魚」の群れだけが、まるでオーロラのように、この深海を越えて上に向かっている。それ以外は、海そのものでさえ、埃となって海底に層をなした。悠久の時を越え、海の中に休眠する神殿は、世界すべてを代表する遺産であるといっても大げさではないほどに、この場の時間と空間を支配していた。宇宙飛行士は息を呑む。あの浮島の住民たちの運命は、どれほど残酷なものなのだろうか。海の上に揺られる彼らは、心底浮かばれないことだろう。固まった絵の具のわずかな光沢が、ようやく絵画の三次元性を思い出させてくれるように、神殿は宇宙飛行士に多くの洞察を与えた。ただ青黒い四角形に表される地図は、その奥にこんなものを隠していたのだ。
 
 この惑星にとって、地図はもっとも残酷だった。地図は美しいこの惑星をただ平面的に切り取り、彼らの海底の繁栄を置き去りにする。浮島はただ浅薄に二次元世界を漂流するだけだった。その住民は、すべてに見放されていた。
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