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Mapilaplap (トーク | 投稿記録) (和漢な〜い) |
Mapilaplap (トーク | 投稿記録) 編集の要約なし |
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<br> 異変が起きたのはそれから四日後、調査最終日のことだった。帰路に向かう筈の三隻の船は予定時刻を過ぎて尚、全く動き出さなかった。この情報は混乱を避けるため、一部の関係者のみに共有された。私はこの報を聞いた後、しばらく放心状態で安楽椅子に座り込んでいた。この異変が自らの失態によるものでないことを祈るばかりだった。 | <br> 異変が起きたのはそれから四日後、調査最終日のことだった。帰路に向かう筈の三隻の船は予定時刻を過ぎて尚、全く動き出さなかった。この情報は混乱を避けるため、一部の関係者のみに共有された。私はこの報を聞いた後、しばらく放心状態で安楽椅子に座り込んでいた。この異変が自らの失態によるものでないことを祈るばかりだった。 | ||
<br> それから六日後、この異変を隠蔽しきれなくなった主要観測研究所が、特別編隊の遅延を発表した矢先のことだった。突如航海軌道上に、一隻の船が出現した。燃料が予定より幾分減っていたが、目立った外傷もほとんど無い、三隻のうちの一隻であった。その時点で各観測システムは巨大宇宙船の近くに停留し続ける三隻の船を確認し続けており、我々はひどく困惑した。各研究所は協力しながら、あらゆる方法を駆使して事態の分析に努めた。そしてある研究者の一人が一つの仮説を提唱した。それは、我々が確認している三隻の停泊した宇宙船は巨大宇宙船の認識偽造装置によるものであり、あの巨大宇宙船自体が罠で、我々の使者を捕縛する目的だったのではないか、というものだった。 | <br> それから六日後、この異変を隠蔽しきれなくなった主要観測研究所が、特別編隊の遅延を発表した矢先のことだった。突如航海軌道上に、一隻の船が出現した。燃料が予定より幾分減っていたが、目立った外傷もほとんど無い、三隻のうちの一隻であった。その時点で各観測システムは巨大宇宙船の近くに停留し続ける三隻の船を確認し続けており、我々はひどく困惑した。各研究所は協力しながら、あらゆる方法を駆使して事態の分析に努めた。そしてある研究者の一人が一つの仮説を提唱した。それは、我々が確認している三隻の停泊した宇宙船は巨大宇宙船の認識偽造装置によるものであり、あの巨大宇宙船自体が罠で、我々の使者を捕縛する目的だったのではないか、というものだった。 | ||
<br> | <br> 背筋が凍った。生きた心地がしなかった。きっと携わった者皆そうだったに違いない。基地の会議室はその日、沈黙が支配した。我々は偽の、当たり障りのない報告書と三隻が無事に帰還する動画を作成し、予告していた時より二日遅れの帰還、ということで大々的に大衆に公開した。それを終えた後に我々が出来ることは、その一隻が銀河系に帰還し、通信可能な状態になるのを待つだけであった。 | ||
<br> 出発から七週間。ついに船が銀河系内に帰還した。主要観測研究所はすぐに連絡を取った。飛行士は憔悴しきった様子だったが、さすがは人類の代表者というべきか、冷静な受け答えが可能で、危機的状況にも関わらず、余すことなく報告をした。 | <br> 出発から七週間。ついに船が銀河系内に帰還した。主要観測研究所はすぐに連絡を取った。飛行士は憔悴しきった様子だったが、さすがは人類の代表者というべきか、冷静な受け答えが可能で、危機的状況にも関わらず、余すことなく報告をした。 | ||
<br> 三隻は概ね予定通りに航行していた。途中に障害は何もなく、全てはつまらない旅で終わる筈だった。目的の船まであと五十光年と言ったところだった。突如電子弾が船を襲い、急に操縦が効かなくなった三隻は宇宙に放り出された形となった。何らかの電波攻撃を受けたのだろうと彼は言った。次に無数の偵察機が三隻を囲んだ。そこから分析不可能なエネルギーによって拘束された彼らは巨大宇宙船の内部へと連行されそうになった。間近で見た巨大宇宙船は我々が観測していたものより数倍大きく、未知の動力によって運営され、技術力も我々と遜色ない水準にあった。またそれに内蔵された認識妨害装置によって我々の観測は歪められていたと言うことが判明した。戦意を全く喪失してもおかしくない状況だったのにも関わらず、彼らは冷静だった。他の二人の協力もあり、機転をきかせつつ拘束を解くと、彼一人だけどうにか抜け出したのだと言う。この間二時間ほど。そこから無我夢中で操縦桿を握り、追っ手を振り切りながら命からがら逃げ回った。巨大宇宙船付近に敷かれた包囲網は凄まじく、燃料を浪費し時間も掛かったが、彼は発見された地点へとワープを成功させ、逃れることができた。その間彼は複数の連絡方法で和平交渉を試みたが、どれも認識されないようであった。追っ手は掃討し追跡の跡もなく、いくつかのサンプルも手に入れた、とのことだ。残してきた二人のことを思い出しているからだろう。悔しそうに語る彼の言葉には我々の涙を誘うものがあった。「地球に真っ直ぐ帰って来るといい。最高級の褒賞が君を待っている」我々は目一杯の労いの言葉を彼に掛けた。我々を困惑させる要素はより増えたが、情報もまた増えた。彼が送信した船体情報と、巨大宇宙船付近での映像は鮮明で素晴らしい手がかりとなった。この奇妙な現象をどうにか説明しようと、研究者たちは躍起になって議論した。連絡が取れるようになってから八時間後、到着の時はやってきた。 | <br> 三隻は概ね予定通りに航行していた。途中に障害は何もなく、全てはつまらない旅で終わる筈だった。目的の船まであと五十光年と言ったところだった。突如電子弾が船を襲い、急に操縦が効かなくなった三隻は宇宙に放り出された形となった。何らかの電波攻撃を受けたのだろうと彼は言った。次に無数の偵察機が三隻を囲んだ。そこから分析不可能なエネルギーによって拘束された彼らは巨大宇宙船の内部へと連行されそうになった。間近で見た巨大宇宙船は我々が観測していたものより数倍大きく、未知の動力によって運営され、技術力も我々と遜色ない水準にあった。またそれに内蔵された認識妨害装置によって我々の観測は歪められていたと言うことが判明した。戦意を全く喪失してもおかしくない状況だったのにも関わらず、彼らは冷静だった。他の二人の協力もあり、機転をきかせつつ拘束を解くと、彼一人だけどうにか抜け出したのだと言う。この間二時間ほど。そこから無我夢中で操縦桿を握り、追っ手を振り切りながら命からがら逃げ回った。巨大宇宙船付近に敷かれた包囲網は凄まじく、燃料を浪費し時間も掛かったが、彼は発見された地点へとワープを成功させ、逃れることができた。その間彼は複数の連絡方法で和平交渉を試みたが、どれも認識されないようであった。追っ手は掃討し追跡の跡もなく、いくつかのサンプルも手に入れた、とのことだ。残してきた二人のことを思い出しているからだろう。悔しそうに語る彼の言葉には我々の涙を誘うものがあった。「地球に真っ直ぐ帰って来るといい。最高級の褒賞が君を待っている」我々は目一杯の労いの言葉を彼に掛けた。我々を困惑させる要素はより増えたが、情報もまた増えた。彼が送信した船体情報と、巨大宇宙船付近での映像は鮮明で素晴らしい手がかりとなった。この奇妙な現象をどうにか説明しようと、研究者たちは躍起になって議論した。連絡が取れるようになってから八時間後、到着の時はやってきた。 | ||
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<br> あれほど大規模かつ高精度の認識偽装装置を作ることのできる文明が、どうしてこの船を捕まえるに至らなかったのか。どうして一隻だけ取り逃したのか。ああ、我々人類の叡智……それを持ってしてもこの不気味な昆虫の撲滅には至らなかった……。確か少し前までこんなものがあった。殺虫剤の一種だが設置しておくだけで一帯の同種を根絶させることができるというものだ。餌を置き、毒を混ぜ、それを仲間へと伝染させ、種ごと根絶やしにする悪夢のような装置……。 | <br> あれほど大規模かつ高精度の認識偽装装置を作ることのできる文明が、どうしてこの船を捕まえるに至らなかったのか。どうして一隻だけ取り逃したのか。ああ、我々人類の叡智……それを持ってしてもこの不気味な昆虫の撲滅には至らなかった……。確か少し前までこんなものがあった。殺虫剤の一種だが設置しておくだけで一帯の同種を根絶させることができるというものだ。餌を置き、毒を混ぜ、それを仲間へと伝染させ、種ごと根絶やしにする悪夢のような装置……。 | ||
<br> もしあの巨大宇宙船が、あらかじめ文明の芽吹きそうな場所に設置し、それがある程度まで発展した時に効率良く排除する装置だとしたら……。 | <br> もしあの巨大宇宙船が、あらかじめ文明の芽吹きそうな場所に設置し、それがある程度まで発展した時に効率良く排除する装置だとしたら……。 | ||
<br> | <br> はっと顔をあげ、まさに着陸しようとする英雄の船を見た。船体情報は隅々までチェックを施した。何通りの方法でスキャンにかけた。しかしあの地球外文明は認識偽装に長けている。現に我々の観測機は今も、M110において止まる三隻の船を観測し続けている。 | ||
<br> 船が地面についたその時、船倉の部分がぴかりと光った。それから衝撃を感じる間も無く、地球は原子レベルにまで崩壊した。その爆発は銀河系をもすぐに呑み込み、全てを灼熱の気体へと変貌させた。それは人類が生まれ落ちて以来経験したことのない大きさの莫大なエネルギーで、その営為を残らず消し飛ばすには十分すぎるものだった。 | <br> 船が地面についたその時、船倉の部分がぴかりと光った。それから衝撃を感じる間も無く、地球は原子レベルにまで崩壊した。その爆発は銀河系をもすぐに呑み込み、全てを灼熱の気体へと変貌させた。それは人類が生まれ落ちて以来経験したことのない大きさの莫大なエネルギーで、その営為を残らず消し飛ばすには十分すぎるものだった。 | ||
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<br>「選択した惑星は現在存在いたしません」 | <br>「選択した惑星は現在存在いたしません」 | ||
<br> 船の中に無慈悲な声が響いた。彼は呆然と画面を見つめた。 | <br> 船の中に無慈悲な声が響いた。彼は呆然と画面を見つめた。 | ||
<br> | <br> そこからの記憶は朧げだった。生まれ育った故郷が失われてしまったと言われたとして、誰がその事実をすんなり受け入れることができるだろう? 無我夢中で船を漕ぎ、彼は遂に銀河系に到達した。しかしそこには見慣れた星々は無く、真っ白な炎が燃え続ける巨大で虚な空間があるだけであった。燃料はもう使い果たした。度重なる無理が祟ったせいか、彼はもう何も考えられないでいた。 | ||
<br> レーダーが追手を察知し、けたたましい警告音を上げた。しかし、彼は動くことができなかった。 | <br> レーダーが追手を察知し、けたたましい警告音を上げた。しかし、彼は動くことができなかった。 | ||
<br> 涙でぼやけた灼熱に燃える故郷は、なぜか母親の腹の中の景色を彼に思い出させた。彼は嗚咽を漏らしながら、最後の人間としての勤めを果たすかのように、自爆装置の赤いボタンを押した。 | <br> 涙でぼやけた灼熱に燃える故郷は、なぜか母親の腹の中の景色を彼に思い出させた。彼は嗚咽を漏らしながら、最後の人間としての勤めを果たすかのように、自爆装置の赤いボタンを押した。 |
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