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 しかし、ひとたび都市の外に目を向けると、状況は一変する。新たな元首が大手を振って推し進めたのが、いわゆる{{傍点|文章=内国植民地}}の建設だった。彼女は最初、「労働者と農民の有機的な団結」を掲げ、都市の各工業区に国家周縁の地方自治体を対応づけたのち、内需の充実を名目にした「自給自足」の制度を導入した。これによって、地方は工業区に食料やエネルギー資源を含む一次産品を輸出し、対する工業区はそれらを加工した消費財を地方に輸出するという構図が出来上がる。この工業区と地方自治体の連合が、俗に「サンドイッチ」と呼ばれるようになったのは、ある風刺画がきっかけだった。その絵はちょうど、第一身分と第二身分が平たい岩の上から第三身分を踏みつけにするフランス革命の風刺画と同じような構図をしていて、上のパンには「都市労働者」、下のパンには「農民」、そして具のハムには「自由経済」と文字が書かれているものだった。下のパンは薄く萎れていて、上のパンはでっぷりとしているものの緑の{{傍点|文章=かび}}が描き込まれている。実際のところ、「サンドイッチ」の経済の全権は、すべて工業区の方に握られていた。それに、かの元首は軍隊を行政監督者として用い、地方の住民を厳しく支配した。経済合理化の御旗のもとに、地方住民の権利は次々に奪われていき、地方はただ資源、あるいは市場としてしかみなされなくなったのだ。
 しかし、ひとたび都市の外に目を向けると、状況は一変する。新たな元首が大手を振って推し進めたのが、いわゆる{{傍点|文章=内国植民地}}の建設だった。彼女は最初、「労働者と農民の有機的な団結」を掲げ、都市の各工業区に国家周縁の地方自治体を対応づけたのち、内需の充実を名目にした「自給自足」の制度を導入した。これによって、地方は工業区に食料やエネルギー資源を含む一次産品を輸出し、対する工業区はそれらを加工した消費財を地方に輸出するという構図が出来上がる。この工業区と地方自治体の連合が、俗に「サンドイッチ」と呼ばれるようになったのは、ある風刺画がきっかけだった。その絵はちょうど、第一身分と第二身分が平たい岩の上から第三身分を踏みつけにするフランス革命の風刺画と同じような構図をしていて、上のパンには「都市労働者」、下のパンには「農民」、そして具のハムには「自由経済」と文字が書かれているものだった。下のパンは薄く萎れていて、上のパンはでっぷりとしているものの緑の{{傍点|文章=かび}}が描き込まれている。実際のところ、「サンドイッチ」の経済の全権は、すべて工業区の方に握られていた。それに、かの元首は軍隊を行政監督者として用い、地方の住民を厳しく支配した。経済合理化の御旗のもとに、地方住民の権利は次々に奪われていき、地方はただ資源、あるいは市場としてしかみなされなくなったのだ。


 こうして、国内の中核と周縁の間には、帝国と植民地の関係に全く異ならない状況が生まれた。その仕組みは、すこぶるうまく機能した。――ただしこの元首は、そこにあぐらをかくことはなく、むしろ地方の「思想監督」に病的なまでの神経質さを発揮した。それは、彼女が抑圧された地域住民によって革命を起こされるという{{傍点|文章=へま}}を強く恐れたためなのだろう。ともかく、これが「サーカス」誕生の経緯であった。「サーカス」は、危険な革命思想者を侮辱し、いたぶる娯楽産業だ。これらのショーは地方各地で興行され、たちまち大きな人気を博すようになった。{{傍点|文章=思想者}}はたいてい、ひどく意地悪なゲームで遊ばされる。ある者には指や歯を手札にしたばば抜き、またある者には脱穀機との手押し相撲……古典的なライオンとの決闘さえ行われる。
 こうして、国内の中核と周縁の間には、帝国と植民地の関係に全く異ならない状況が生まれた。その仕組みは、すこぶるうまく機能した。――ただしこの元首は、そこにあぐらをかくことはなく、むしろ地方の「思想監督」に病的なまでの神経質さを発揮した。それは、彼女が抑圧された地域住民によって革命を起こされるという{{傍点|文章=へま}}を強く恐れたためなのだろう。ともかく、これが「サーカス」誕生の経緯であった。それは、危険な革命思想者を侮辱し、いたぶる娯楽産業だ。これらのショーは地方各地で興行され、たちまち大きな人気を博すようになった。{{傍点|文章=思想者}}はたいてい、ひどく意地悪なゲームで遊ばされる。ある者には指や歯を手札にしたばば抜き、またある者には脱穀機との手押し相撲……古典的なライオンとの決闘さえ行われる。


 そして、このさびれたショッピングモールもまた、今日行われる「サーカス」の会場だった。
 そして、このさびれたショッピングモールもまた、今日行われるサーカスの会場だった。


 一階のフードコートの中央にはウッドデッキ調のステージが置かれており、そこから三つのフロアの中央を貫くように吹き抜けがある。どのフロアもテナントはまばら
 一階のフードコートの中央にはウッドデッキ調のステージが置かれており、そこから三つのフロアの中央を貫くように吹き抜けがある。どのフロアもテナントはまばらで、普段はほとんど廃墟のようにも見えるこの商業施設は、しかしサーカスの日にだけはその熱気を取り戻した。古代ローマの愚民政策「パンとサーカス」
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