「利用者:キュアラプラプ/サンドボックス/丙」の版間の差分

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===2 駄段々===
===2 駄段々===


 突如、人々のざわめく声が歓声になる。彼らの視線の先には、、エスカレータを堂々とした足取りで歩いて降りてくる、迷彩柄のズボンを履いた上裸の巨漢がいた。サーカスの主催者、クリームパンダの登場だ。
 突如、人々のざわめく声が歓声になる。彼らの視線の先には、エスカレータを堂々とした足取りで歩いて降りてくる、迷彩柄のズボンを履いた上裸の巨漢がいた。サーカスの主催者、クリームパンダの登場だ。


「ビャハハハハ! 今日も元気がいいなあ、市民たち!」
「ビャハハハハ! 今日も元気がいいなあ、市民たち!」


 クリームパンダの獣のような大声が響くが、しかしそれにも負けない歓声がモールを埋め尽くした。彼は満足そうに目を細め、マイクを持ち、醜悪なウインクをさらした。
 クリームパンダの獣のような大声が響くが、しかしそれにも負けない歓声がモールを埋め尽くす。彼は満足そうに目を細め、マイクを持ち、醜悪なウインクをさらした。


「さあて、今日のサーカスの演目は先週告知した通り……久々の『賭け駄段々』だ! 舞台はもちろん、このでくのぼうのエスカレーター!」
「さあて、今日のサーカスの演目は先週告知した通り……久々の『賭け駄段々』だ! 舞台はもちろん、このでくのぼうのエスカレーター!」
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「まあ待ってくれ、凶暴な市民たち。まずは『駄段々』の説明だ。ここでは前にも何回かやっているから、知っている人も多いと思うが、一応説明させてくれ。このゲームは地下賭博場で作られ、大流行したゲームのひとつだ。ギャンブルで脳みその報酬系が腐ったごろつきどもは、刺激を求めて何度も地下賭博場に出向くだろう? それである時、奴らはついに地上の入口から地下賭博場へと続く長い階段を歩いて降りる時間すら退屈に思うようになっちまったらしい。こうして考え出されたのが、階段とトランプだけを使って遊べるこのゲーム、『駄段々』ってわけだ。
「まあ待ってくれ、凶暴な市民たち。まずは『駄段々』の説明だ。ここでは前にも何回かやっているから、知っている人も多いと思うが、一応説明させてくれ。このゲームは地下賭博場で作られ、大流行したゲームのひとつだ。ギャンブルで脳みその報酬系が腐ったごろつきどもは、刺激を求めて何度も地下賭博場に出向くだろう? それである時、奴らはついに地上の入口から地下賭博場へと続く長い階段を歩いて降りる時間すら退屈に思うようになっちまったらしい。こうして考え出されたのが、階段とトランプだけを使って遊べるこのゲーム、『駄段々』ってわけだ。


 ルールを説明しよう。このゲームの勝利条件は、『階段を下りきること』! 簡単だろう? ただし、逆に階段を上りきってしまうと敗北になる。ゲーム開始時は、そもそも階段を上りきった場所から始めるから例外だが、その場合もさらにそこから上昇するような移動をしてしまえば敗北だ。で、段の移動は、もちろん勝手にやっていいわけじゃない。ただの階段駆け下り競争になっちまうからな。ここでトランプを使うんだ。プレイヤーは、七枚のランダムなカードで構成された手札をゲーム開始時に受け取る。そして、各ターンにそれぞれ一回ずつ『数字カード』を使うことで階段を上り下りするんだ。『数字カード』は<ruby>A<rt>エース</rt></ruby>から10の数札に<ruby>J<rt>ジャック</rt></ruby>を加えたもので、プレイヤーは宣言した『数字カード』にある数字の分だけ移動でき、同じカードは何度でも使うことができる。ああ、もちろんJは11に相当する。ここで気をつけるのは、それが黒のカード、つまりスペードかクラブのカードなら階段を下る方向に移動し、逆に赤のカード、つまりハートかダイヤのカードなら階段を上る方向に移動するってところだ。ややこしいだろう?」
 ルールを説明しよう。このゲームの勝利条件は、『階段を下りきること』! 簡単だろう? ただし、逆に階段を上りきってしまうと敗北になる。ただし、ゲーム開始時はそもそも階段を上りきった場所から始めるから例外だ。それで……そう、段の移動は、もちろん勝手にやっていいわけじゃない。ただの階段駆け下り競争になっちまうからな。ここでトランプを使うんだ。プレイヤーは、七枚のランダムなカードで構成された手札をゲーム開始時に受け取る。そして、各ターンにそれぞれ一回ずつ『数字カード』を使うことで階段を上り下りするんだ。『数字カード』は<ruby>A<rt>エース</rt></ruby>から10の数札に<ruby>J<rt>ジャック</rt></ruby>を加えたもので、プレイヤーは宣言した『数字カード』にある数字の分だけ移動でき、同じカードは何度でも使うことができる。ああ、もちろんJは11に相当する。ここで気をつけるのは、それが黒のカード、つまりスペードかクラブのカードなら階段を下る方向に移動し、逆に赤のカード、つまりハートかダイヤのカードなら階段を上る方向に移動するってところだ。ややこしいだろう? ちなみに、ゲーム開始時に赤のカードを使うことはできない。当然だが、上がる段がないからな」


 そう言うと、クリームパンダは懐からカードをいくつか取り出し、動きを実演してみせた。ハートの3なら3段上昇、クラブの1なら1段下降。次に彼が観客に見せびらかしたのは――
 そう言うと、クリームパンダは懐からカードをいくつか取り出し、動きを実演してみせた。ハートの3なら3段上昇、クラブの1なら1段下降。次に彼が観客に見せびらかしたのは――


「よおし、見ろ、これぞキングだ! 『数字カード』以外のカード、つまり<ruby>Q<rt>クイーン</rt></ruby>、<ruby>K<rt>キング</rt></ruby>、そして<ruby>JK<rt>ジョーカー</rt></ruby>は、駄段々では『特殊カード』と呼ばれる。こいつらの特徴の一つは、『数字カード』とは違って、自分のターンじゃなくてもお構いなしに発動できることだ。ただし、使うときにはカードの絵を明確に相手に見せた上で、階段の真上の方にぶん投げないといけない。面白いだろ? ずいぶん妙だが、大事なルールだ。覚えておいてくれ。ちなみに、何らかの理由でぶん投げられたカードは、その次のターンからはプレイヤーの誰でも勝手に拾っていい。で、こっからが本題だ。『特殊カード』は色が黒とか赤とかに関係なく、その名の通り強力な特殊効果を持つ。まずは……QとK。女王と王だ。こいつをぶん投げるってのが何を意味してるか、頭脳明晰な市民諸君にはもうお分かりだろう――{{傍点|文章=革命だ}}!」
「よおし、見ろ、これぞキングだ! 『数字カード』以外のカード、つまり<ruby>Q<rt>クイーン</rt></ruby>、<ruby>K<rt>キング</rt></ruby>、そして<ruby>JK<rt>ジョーカー</rt></ruby>は、駄段々では『特殊カード』と呼ばれる。こいつらの特徴の一つは、『数字カード』とは違って、自分のターンじゃなくてもお構いなしに発動できることだ。ただし、使うときにはカードの絵を明確に相手に見せた上で、階段のどこかにぶん投げないといけない。面白いだろ? ずいぶん妙だが、大事なルールだ。覚えておいてくれ。ちなみに、何らかの理由でぶん投げられたカードは、その次のターンからはプレイヤーの誰でも勝手に拾っていい。で、こっからが本題だ。『特殊カード』は色が黒とか赤とかに関係なく、その名の通り強力な特殊効果を持つ。まずは……QとK。女王と王だ。こいつをぶん投げるってのが何を意味してるか、頭脳明晰な市民諸君にはもうお分かりだろう――{{傍点|文章=革命だ}}!」


 瞬間、まるで火がついたように、観客席からブーイングの大合唱が飛ぶ。もちろんクリームパンダはこんな{{傍点|文章=不適切}}なことを賛美しているわけではないし、観客も彼のことを本心から批判しているわけではない。これはクリームパンダお馴染みのブラックジョークであり、いわばお約束なのだ。彼は何かカードゲームを持ってくるとき、いつも「革命」の要素が入ったものを選んできては、露悪的にそれを見せつける。――これが暗に「思想監督」の一端を担っているのは、言うまでもないことだ。
 瞬間、まるで火がついたように、観客席からブーイングの大合唱が飛ぶ。もちろんクリームパンダはこんな{{傍点|文章=不適切}}なことを賛美しているわけではないし、観客も彼のことを本心から批判しているわけではない。これはクリームパンダお馴染みのブラックジョークであり、いわばお約束なのだ。彼は何かカードゲームを持ってくるとき、いつも「革命」の要素が入ったものを選んできては、露悪的にそれを見せつける。――これが暗に「思想監督」の一端を担っているのは、言うまでもないことだ。
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 ……こういう疑問はもっともだ。しかし、『駄段々』の本性はここからなんだ。覚えてるか? 『特殊カードを使用するとき、そのカードの絵を明確に相手に見せた上で、階段の真上の方にぶん投げないといけない』というルールがある。なのに、『数字カード』を使用するときには、別にそんなことをする必要はないよな。実は、これにはちゃんと理由があるんだよ。{{傍点|文章=『数字カード』を使うとき、ちゃんと嘘をつけるようにするため}}さ! そう、『数字カード』を使うときには、嘘をついてもいいんだ。このゲームの基本は、相手を出し抜いて速くゴールするために、嘘の数字を張りまくるというところにある。
 ……こういう疑問はもっともだ。しかし、『駄段々』の本性はここからなんだ。覚えてるか? 『特殊カードを使用するとき、そのカードの絵を明確に相手に見せた上で、階段の真上の方にぶん投げないといけない』というルールがある。なのに、『数字カード』を使用するときには、別にそんなことをする必要はないよな。実は、これにはちゃんと理由があるんだよ。{{傍点|文章=『数字カード』を使うとき、ちゃんと嘘をつけるようにするため}}さ! そう、『数字カード』を使うときには、嘘をついてもいいんだ。このゲームの基本は、相手を出し抜いて速くゴールするために、嘘の数字を張りまくるというところにある。


 もちろん、嘘が出てくるからには、いわゆる『ダウト要素』が存在する。相手が宣言した『数字カード』が嘘だと思ったとき、プレイヤーはこう叫ぶ――『駄段々』! そう、これこそが、このゲームの名前にもなっている一番の目玉要素なんだ。『駄段々』を受けたプレイヤーは、必ず宣言した『数字カード』を実際に相手に見せないといけない。それができない場合――つまり宣言したものが嘘だった場合、そいつは手札の中で最も数が大きい『数字カード』を階段の真上の方にぶん投げ、なおかつ『駄段々』を行ったプレイヤーと階段上の位置を交換しなければならない。かなり重いペナルティだ。嘘を指摘したプレイヤーの位置によっては、振り出しに戻ってしまうことだってありえる。
 もちろん、嘘が出てくるからには、いわゆる『ダウト要素』が存在する。相手が宣言した『数字カード』が嘘だと思ったとき、プレイヤーはこう叫ぶ――『駄段々』! そう、これこそが、このゲームの名前にもなっている一番の目玉要素なんだ。『駄段々』を受けたプレイヤーは、必ず宣言した『数字カード』を実際に相手に見せないといけない。それができない場合――つまり宣言したものが嘘だった場合、そいつは手札の中で最も数が大きい『数字カード』を階段のどっかにぶん投げ、なおかつ『駄段々』を行ったプレイヤーと階段上の位置を交換しなければならない。かなり重いペナルティだ。嘘を指摘したプレイヤーの位置によっては、振り出しに戻ってしまうことだってありえる。


 だが、『駄段々』を行う方にももちろんリスクはある。もしも『駄段々』を受けたプレイヤーが、宣言した『数字カード』を実際に持っていた場合――つまり嘘なんてついていなかった場合、今度は『駄段々』を行ったやつの方が、手札の中で最も数が大きい『数字カード』を階段の真上の方にぶん投げないといけないんだ。こんな風に、ハイリスク・ハイリターンだからこそ、『駄段々』に駆け引きが生まれてくるってわけだな。……ああ、それと、もう一つ大事なことがあった。あるプレイヤーが『数字カード』を宣言し、それによる移動で勝利条件が満たされる――つまりゴールが成立するようなときに、そいつが『駄段々』を受け、それが成功したならば――つまり、そのプレイヤーが嘘をついていたことが明らかになったならば――そいつは即座に敗北のペナルティを負わされてしまうんだ。簡単に言うと、嘘でゴールしようとしたのがバレたら即敗北ってことだ。気をつけないといけないな。
 だが、『駄段々』を行う方にももちろんリスクはある。もしも『駄段々』を受けたプレイヤーが、宣言した『数字カード』を実際に持っていた場合――つまり嘘なんてついていなかった場合、今度は『駄段々』を行ったやつの方が、手札の中で最も数が大きい『数字カード』を階段のどっかにぶん投げないといけないんだ。こんな風に、ハイリスク・ハイリターンだからこそ、『駄段々』に駆け引きが生まれてくるってわけだな。……ああ、それと、もう一つ大事なことがあった。あるプレイヤーが『数字カード』を宣言し、それによる移動で勝利条件が満たされる――つまりゴールが成立するようなときに、そいつが『駄段々』を受け、それが成功したならば――つまり、そのプレイヤーが嘘をついていたことが明らかになったならば――そいつは即座に敗北のペナルティを負わされてしまうんだ。簡単に言うと、嘘でゴールしようとしたのがバレたら即敗北ってことだ。気をつけないといけないな。


 ……ふう、退屈なルールの説明は、これでおしまいだ。狂暴な市民たちよ、よく耐えてくれたな。ここからは、お前たちの見たいものを思う存分見せてやる!」
 ……ふう、退屈なルールの説明は、これでおしまいだ。狂暴な市民たちよ、よく耐えてくれたな。ここからは、お前たちの見たいものを思う存分見せてやる!」


 クリームパンダはそう言って、はげた頭の横で拍手を二回響かせた。観客が総立ちで拳を突き上げる中、一階のステージに現れた思想者の男、あるいは{{傍点|文章=今日の獲物}}と呼ぶべきか、彼は二人の軍人に前後を囲まれ、麻の縄で胴と腕を後ろ手に縛られていた。
 クリームパンダはそう言って、はげた頭の横で拍手を二回響かせた。観客が総立ちで拳を突き上げる中、一階のステージに現れた思想者の男、あるいは{{傍点|文章=今日の獲物}}と呼ぶべきか、彼は二人の国家憲兵軍人に前後を囲まれ、麻の縄で胴と腕を後ろ手に縛られていた。


===3 ショーの幕開け===
===3 ショーの幕開け===
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「ビャハハハハ、まったく面白いやつだな。そんなお前の気概に免じて、ハンデをやろう。お前が先攻で良いぜ」
「ビャハハハハ、まったく面白いやつだな。そんなお前の気概に免じて、ハンデをやろう。お前が先攻で良いぜ」


「……よし、じゃあ俺は『数字カード』の黒の5を使おう」
「……よし、じゃあ俺は『数字カード』の黒の4を使おう」


 男はそのまま5段下降した。この停止したエスカレーターのステップは全部で50段で、よほどの強運で手札に大きい数字のカードが上から順に集まっているでもない限り、必ずどこかで嘘をつく必要がある。ゲームを盛り上げるには、うってつけの階段だった。ただし、場の浮かれた空気とは裏腹に、あるいはその陽気さが異常なものであることを示すだけかもしれないが、エスカレーターにはところどころにべったりと血がついていた。以前の『賭け駄段々』で殺された思想者のものだ。クリームパンダがおどけた表情で観客席を笑わせている間に、男はターンエンドを宣言した。
 男はそのまま4段下降した。この停止したエスカレーターのステップは全部で50段で、よほどの強運で手札に大きい数字のカードが上から順に集まっているでもない限り、必ずどこかで嘘をつく必要がある。ゲームを盛り上げるには、うってつけの階段だった。ただし、場の浮かれた空気とは裏腹に、あるいはその陽気さが異常なものであることを示すだけかもしれないが、エスカレーターにはところどころにべったりと血がついていた。以前の『賭け駄段々』で殺された思想者のものだ。クリームパンダがおどけた表情で観客席を笑わせている間に、男はターンエンドを宣言した。


「俺様は黒の4だ。おっと、お前の真上だな。これはラッキーだ」
「俺様は黒の3だ。おっと、お前の真上だな。これはラッキーだ」


 スキップしながら階段を4段下った後、クリームパンダは突然ズボンのポケットから二丁の銃を取り出し、真下の男をじっと見てこう言った。
 スキップしながら階段を3段下った後、クリームパンダは突然ズボンのポケットから二丁の銃を取り出し、真下の男をじっと見てこう言った。


「なあ、思想者よ、取引をしないか? 俺は銃を二丁持っているから、『駄段々』のルールのせいで階段を自由に動けないにもかかわらず、遠距離からお前を殺すことができる。だがお前は手ぶらだ。俺を殺すことが難しい。……これじゃあ不公平だよな? 不公平なのは良くない。だから取引をしよう。なあに、簡単な取引さ! もしお前の手札にQかKがあるのなら、それを全て俺によこしてくれ。お前のような思想者が『革命』を起こせるカードを持つなんて、危なっかしいったらありゃしないからな。そうしたら、俺は代わりにこの二丁の拳銃のうち一丁をお前にやる。どうだ? もちろん、銃は本物だ」
「なあ、思想者よ、取引をしないか? 俺様は銃を二丁持っているから、『駄段々』のルールのせいで階段を自由に動けないにもかかわらず、遠距離からお前を殺すことができる。だがお前は手ぶらだ。俺様を殺すには心もとない。……これじゃあ不公平だよな? 不公平なのは良くない。だから取引をしよう。なあに、簡単な取引さ! もしお前の手札にQかKがあるのなら、それをすべて俺様によこしてくれ。お前のような思想者が『革命』を起こせるカードを持つなんて、危なっかしいったらありゃしないからな。そうしたら、俺様は代わりにこの二丁の拳銃のうち一丁をお前にやる。それに、カードの数が減ってしまうのも不公平だから、お前が俺様に渡したカードと同じ枚数、俺様もお前にカードを渡す。どうだ? もちろん、銃は本物だ」


 そう言って、クリームパンダは二丁の銃を真上に向け、引き金を引いた。撃鉄の鋭い金属音と空気の振動が、観客席を沸かす。
 そう言って、クリームパンダは二丁の銃を真上に向け、引き金を引いた。撃鉄の鋭い金属音と空気の振動が、観客席を沸かす。
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「ほう。ずいぶんと優しいんだな。……分かった。取引に乗ろう」
「ほう。ずいぶんと優しいんだな。……分かった。取引に乗ろう」


 男はKを一枚、真上のクリームパンダに渡した。クリームパンダは得意の芝居がかった表情でそれを受け取り、拳銃を男に渡す。
 男はKを一枚、真上のクリームパンダに渡した。クリームパンダは得意の芝居がかった表情でそれを受け取り、拳銃と赤の10を男に渡す。


「ああ、言うのを忘れていた。ただし一つの条件として、この取引でお前が嘘をついていたなら……直ちに殺す。つまり、お前の手札に俺に渡したK以外の『革命』を起こせるカードが残っていたならば、お前を射殺する! じゃあ、答え合わせの時間といこうか」
「ああ、言うのを忘れていた。ただし一つの条件として、この取引でお前が嘘をついていたなら……直ちに殺す。つまり、お前の手札に俺に渡したK以外の『革命』を起こせるカードが残っていたならば、お前を射殺する! じゃあ、答え合わせの時間といこうか」


 クリームパンダは、観客席にJKを見せびらかした。真下のプレイヤーにカードの効果を押し付けるルールによって、男の手札を開示するのだ。このとき、観客の誰もがこう思っていた――「1ターン」に賭けた者の勝利だ!
 クリームパンダは、観客席にJKを見せびらかした上で、エスカレーターの下方向にそのカードを投げ飛ばした。真下のプレイヤーにカードの効果を押し付けるルールによって、男の手札を開示するのだ。このとき、観客の誰もがこう思っていた――「1ターン」に賭けた者の勝利だ!


 ――なぜこの「賭け駄段々」が、勝者がどちらかについての賭けをしないのか。その答えは単純で、{{傍点|文章=これは出来レースだから}}だ。この「駄段々」のゲームの展開は、全てクリームパンダに仕組まれている。そもそも、「指や歯を手札にしたばば抜き」だとか、そういうほとんど残虐な刑に違わないようなサーカスが各地で行われている中で、このクリームパンダの「賭け駄段々」だけがただの「殺されるかもしれないゲーム」だなんていう{{傍点|文章=うまい話}}はないに決まっている。これはゲームの形を借りた単なる殺人ショーなのだ。これを可能にするのが、{{傍点|文章=手札の操作}}であった。クリームパンダに配られる手札、そして思想者に配られるカードは、事前に決められたものだった。クリームパンダの手札は「Qが三枚、JK、黒の4、赤の10、赤の9」、そして思想者の手札は「Kが二枚、黒の5が二枚、赤のJが二枚、赤の10が一枚」だ。これによって作られる最初の見せ場が、この「取引」だった。
 ――なぜこの「賭け駄段々」が、勝者がどちらかについての賭けをしないのか。その答えは単純で、{{傍点|文章=これは出来レースだから}}だ。この「駄段々」のゲームの展開は、すべてクリームパンダに仕組まれている。そもそも、「指や歯を手札にしたばば抜き」だとか、そういうほとんど残虐な刑に違わないようなサーカスが各地で行われている中で、このクリームパンダの「賭け駄段々」だけがただの「殺されるかもしれないゲーム」だなんていう{{傍点|文章=うまい話}}はないに決まっている。これはゲームの形を借りた単なる殺人ショーなのだ。これを可能にするのが、{{傍点|文章=手札の操作}}であった。クリームパンダに配られる手札、そして思想者に配られるカードは、事前に決められたものだった。クリームパンダの手札は「Qが三枚、JK、黒の3、赤の10、赤の9」、そして思想者の手札は「Kが二枚、黒の4が二枚、赤のJが二枚、赤の10が一枚」だ。これによって作られる最初の見せ場が、この「取引」だった。


 思想者の手札の中の{{傍点|文章=使える}}「数字カード」は、実質的に二枚の黒の5だけだ。赤のJや赤の10は、思想者がどの段にいようとも――ゲーム開始時、黒の5を使ったときの5段目、二枚目の黒の5を使ったときの10段目――かならず階段を上りきり、敗北になってしまう。だから、思想者は一ターン目には必ず黒の5を使う。そこに、黒の4を使ったクリームパンダがやって来て、「取引」を持ちかけるのだ。パンダの実銃にも怖気づかず、このゲームにひょっとすると勝てるかもしれないと思っている傲慢な思想者は、この取引を持ち掛けられたとき、それを断るか、あるいは二枚のKのうち一枚だけを渡す。もし残ったKで「革命」を起こせたら、例の赤のJや10を使って、ひといきにこのゲームに勝利できるかもしれないからだ。無論、クリームパンダは思想者の「革命」を打ち消せる分のQを持っているからそんなことは起こりえないし、そもそもこういう無礼を働いた時点で、思想者はJKによってその{{傍点|文章=分かりきった手札}}を公開され、殺されるのだ。……今起ころうとしていることは、まさにそのパターンだった。
 思想者の手札の中の{{傍点|文章=使える}}「数字カード」は、実質的に二枚の黒の4だけだ。赤のJや10は、思想者がどの段にいようとも――ゲーム開始時はもとより、黒の4を使ったときの4段目、二枚目の黒の4を使ったときの8段目では、階段を上りきるという敗北条件を満たしてしまうから――使えない。だから、思想者は一ターン目には必ず黒の4を使う。そこに、黒の3を使ったクリームパンダがやって来て、「取引」を持ちかけるのだ。ちなみに、クリームパンダの手札の赤の10と9は、この取引でKと交換するカードとして用意されている。なぜこの組み合わせなのかといえば、先程の赤のJや10と同様、「使えないから」だ。さて、パンダの実銃にも怖気づかず、このゲームにひょっとすると勝てるかもしれないと思っている傲慢な思想者は、この取引を持ち掛けられたとき、それを断るか、あるいは二枚のKのうち一枚だけを渡す。もし残ったKで「革命」を起こせたら、例の赤のJや10を使って、ひといきにこのゲームに勝利できるかもしれないからだ。無論、クリームパンダは思想者の「革命」すべてを打ち消せる分のQを持っているからそんなことは起こりえないし、そもそもこういう無礼を働いた時点で、思想者はJKによってその{{傍点|文章=分かりきった手札}}を公開され、殺される。……今起ころうとしていることは、まさにそのパターンだった。


 しかし驚くべきことに、男がにやけ面で公開した、七枚からKを引いて計六枚の手札は――黒の5が一枚、赤のJが二枚、赤の10、そして赤の9だった。
 しかし驚くべきことに、男がにやけ面で公開した七枚の手札は――黒の5が二枚、赤のJが二枚、赤の10が二枚、そして{{傍点|文章=赤の9が一枚}}だった。


===4 <ruby>戦況激化<rt>エスカレーション</rt></ruby>===
===4 <ruby>戦況激化<rt>エスカレーション</rt></ruby>===
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