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 シングルマザーの生活は苦しく、母は夜遅くまで働き詰めで、必然的に真澄は鍵っ子になった。給食費が払えないこともざらにあった。上履きやランドセルも、中古のものを使った。もちろん部活など簡単には入れないし、友達と遊ぶこともできなかった。真澄はクラスで孤立したのはごく自然なことだったと言えよう。いじめられるというわけではない、それどころか、皆優しく接してくれる。だがそこにそれ以上がないのだ。そういう人種のことを「あまりもん」と真澄は呼んでいる。「あまりもん」は「あまりもん」としか一緒に居られない。それも他のみんなが一緒にいるのとは訳が違う。味噌汁を飲み終えた時に底に残るちょびっとの中にいるような感じだ。そうして真澄は、ずっと「あまりもん」として生きていた。しかし、改善しない生活のままでも、二人は楽しく生活していた。母には可愛い盛りの娘がいて、娘には若くて美しい母がいたからだ。
 シングルマザーの生活は苦しく、母は夜遅くまで働き詰めで、必然的に真澄は鍵っ子になった。給食費が払えないこともざらにあった。上履きやランドセルも、中古のものを使った。もちろん部活など簡単には入れないし、友達と遊ぶこともできなかった。真澄はクラスで孤立したのはごく自然なことだったと言えよう。いじめられるというわけではない、それどころか、皆優しく接してくれる。だがそこにそれ以上がないのだ。そういう人種のことを「あまりもん」と真澄は呼んでいる。「あまりもん」は「あまりもん」としか一緒に居られない。それも他のみんなが一緒にいるのとは訳が違う。味噌汁を飲み終えた時に底に残るちょびっとの中にいるような感じだ。そうして真澄は、ずっと「あまりもん」として生きていた。しかし、改善しない生活のままでも、二人は楽しく生活していた。母には可愛い盛りの娘がいて、娘には若くて美しい母がいたからだ。
 その幸せな生活の歯車が狂いはじめたのは、真澄が高学年になった頃だっだ。すでに三十を超えていた母の肌は、急激に張りを失った。髪の潤いは日に増して消えていった。化粧が濃くなり、粉っぽくなった。仕事が減ったからか夜に家にいることが多くなり、家で飲むようになった。真澄が母の職業を察するようになったのもその頃だ。男の人が何人か家に来た。
 その幸せな生活の歯車が狂いはじめたのは、真澄が高学年になった頃だっだ。すでに三十を超えていた母の肌は、急激に張りを失った。髪の潤いは日に増して消えていった。化粧が濃くなり、粉っぽくなった。仕事が減ったからか夜に家にいることが多くなり、家で飲むようになった。真澄が母の職業を察するようになったのもその頃だ。男の人が何人か家に来た。
 最初は広告だった。豊胸手術の怪しげな広告が部屋のポストに入っていた。真澄が水道の請求書と一緒に部屋に持ち帰ってそれを机に置いた時、母はあまり関心を示さなかったのを今でも覚えている。いくらか経ち、真澄がその広告を忘れたくらいに、一つのパンフレットが机に置かれた。豊胸手術についての、近くの医院のものだ。それからお札だけ置いて夜の仕事に出かける回数が少しずつ増えていった。パンフレットは着実に増え、それとともに部屋は汚くなっていった。最初は片付けていた真澄も、ペースが間に合わなくなると諦めた。母の様子もみるみる変わっていった。真澄は母とほとんど顔を合わせなくなった。週に三日会えたら多い方といった具合だった。その上会う時は決まって酔っていて、躁状態で興奮しているか、でなければ鬱状態で、喋りかけても応答さえしないかの二択だった。躁状態の時は決まって豊胸手術の話ばかりした。「豊胸手術は五十万から、高かところでは百万くらいするとばってん、やっぱり高かところは違うんばい。うちも高か方がよかねぇ。安全なんやあ。安全やし形もよかし長持ちもする。……そうなんよずっとふとかままではおらられんとよ。……ばってんたっかれば長持ちするし、うちもそうするわ。体へん負担も少なかし……麻酔もしっかりしとーけん痛うもなかし。……そうそう豊胸手術って言うてんね何個も種類があるんばい。ほらここ、こん福岡んT医院やったのこん方法やったら入院までせんでもそん日で帰るる……ヒアルロン酸ってんば入るるんよ、ほら注射みたいやけんね、チューって。ばってん長持ちせんけん、うちゃこれで行こうと思うと、そうそう、シリコンバッグ……自然に仕上がるし。こん大阪んS美容外科に、K先生っていう先生がおってね、ハンサムで腕も良うてすっごか評判がよかと……。ここでやろうか迷うとう……」真澄は変わっていく母を不気味に感じて、距離を置いた。パンフレットはどんどん増え、県を跨いだ医院のパンフレットも増えた。中には東京のもあった。段々と鬱状態の時が増え、母は見るからに憔悴していくようだった。母は口癖のように「金ん足らん」と嘆いた。ゴミは、床を埋め尽くさんばかりに増えていった。真澄はそんな母を見るのが辛くて、部屋へと篭った。
 最初は広告だった。豊胸手術の怪しげな広告が部屋のポストに入っていた。真澄が水道の請求書と一緒に部屋に持ち帰ってそれを机に置いた時、母はあまり関心を示さなかったのを覚えている。いくらか経ち、真澄がその広告を忘れたくらいに、一つのパンフレットが机に置かれた。豊胸手術についての、近くの医院のものだ。それからお札だけ置いて夜の仕事に出かける回数が少しずつ増えていった。パンフレットは着実に増え、それとともに部屋は汚くなっていった。最初は片付けていた真澄も、ペースが間に合わなくなると諦めた。母の様子もみるみる変わっていった。真澄は母とほとんど顔を合わせなくなった。週に三日会えたら多い方といった具合だった。その上会う時は決まって酔っていて、躁状態で興奮しているか、でなければ鬱状態で、喋りかけても応答さえしないかの二択だった。躁状態の時は決まって豊胸手術の話ばかりした。「豊胸手術は五十万から、高かところでは百万くらいするとばってん、やっぱり高かところは違うんばい。うちも高か方がよかねぇ。安全なんやあ。安全やし形もよかし長持ちもする。……そうなんよずっとふとかままではおらられんとよ。……ばってんたっかれば長持ちするし、うちもそうするわ。体へん負担も少なかし……麻酔もしっかりしとーけん痛うもなかし。……そうそう豊胸手術って言うてんね何個も種類があるんばい。ほらここ、こん福岡んT医院やったのこん方法やったら入院までせんでもそん日で帰るる……ヒアルロン酸ってんば入るるんよ、ほら注射みたいやけんね、チューって。ばってん長持ちせんけん、うちゃこれで行こうと思うと、そうそう、シリコンバッグ……自然に仕上がるし。こん大阪んS美容外科に、K先生っていう先生がおってね、ハンサムで腕も良うてすっごか評判がよかと……。ここでやろうか迷うとう……」真澄は変わっていく母を不気味に感じて、距離を置いた。パンフレットはどんどん増え、県を跨いだ医院のパンフレットも増えた。中には東京のもあった。段々と鬱状態の時が増え、母は見るからに憔悴していくようだった。母は口癖のように「金ん足らん」と嘆いた。ゴミは、床を埋め尽くさんばかりに増えていった。真澄はそんな母を見るのが辛くて、部屋へと篭った。




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