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「この先は僕らの世界じゃない。きっと魔女の世界だ」
「この先は僕らの世界じゃない。きっと魔女の世界だ」
「そうね。すごく楽しみ」
「そうね。すごく楽しみ」
 二人は再びキスをした。この接吻は少なからず、現実との訣別を記念したものだったと言えよう。実に細やかなキスだ。
 二人は再びキスをした。この接吻は少なからず、現実との訣別を記念したものだったと言えよう。細やかなキスだ。
 手を繋いだ二人はその暗闇の中へ、勇敢さに似た若さで進んでいった。
 手を繋いだ二人はその暗闇の中へ、勇敢さに似た若さで進んでいった。


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「特別なものを見に来たんだろ?」
 
 僕は真っ新な原稿用紙に向かって呟いた。
 
「やめてくれ。ここにはないんだ」
 
 静が、んーと唸りながら上体を起こして僕の腿に手を置き、どうしたの? と聞く。
 
「なんでもないよ」
 
 と僕が言うとそう、と言ってすぐにまた眠りに落ちた。彼女のずり落ちた毛布を掛け直すと、僕は外に出た。
 閑静な住宅地を抜けると、アーケード街。この先に行くと、すぐ駅に出る。
 
 


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 ゆったりとして健康的な寝息が颯の前髪を優しく揺らし、そして頬をくすぐった。素敵な朝の微睡みに、夢と現の境目を、繋がれた小舟のように行き来していた颯は、そのくすぐったさで目を開いた。ひとつの染みもない真っ白で薄いレースカーテンは、まだ少しだけ夜の涼しさを保持した風に吹かれて揺れ、真夏の朝の、あの燃えるようなはじまりの日の光が、隙間からちらちらと顔を覗かせている。
 ゆったりとして健康的な寝息が澪の前髪を優しく揺らし、そして颯の頬をくすぐった。素敵な朝の微睡みに、夢と現の境目を、繋がれた小舟のように行き来していた颯は、そのくすぐったさで目を開いた。ひとつの染みもない真っ白で薄いレースカーテンは、まだ少しだけ夜の涼しさを保持した風に吹かれて揺れ、真夏の朝の、あの燃えるようなはじまりの日の光が、隙間からちらちらと顔を覗かせている。
 爽やかな光に目を慣らした颯は、ベッドの中の少女の顔を見た。繊細な造形が朝日に照らされ、彼女の瑞々しい若さが裸に剥かれている。
 爽やかな光に目を慣らした颯は、ベッドの中の少女の顔を見た。繊細な造形が朝日に照らされ、彼女の瑞々しい若さが裸に剥かれている。
 颯は澪の頬に手を触れた。
 颯は澪の頬に手を触れた。
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 少年の自然な独占欲を孕んだ好意はそんな拙い回想で悦に入るのだった。その拙さに気がついた颯の頬には赤が挿し、彼は咳払いをしつつ目を瞑った。あまり見たことのない表情をしている颯を見て、澪は口一杯にパンを詰めながら、どうしたの? と、不明瞭に言った。こっちは暑いね、と第一ボタンを開けた夏服の襟をパタパタさせながら、颯は目を逸らして言った。
 少年の自然な独占欲を孕んだ好意はそんな拙い回想で悦に入るのだった。その拙さに気がついた颯の頬には赤が挿し、彼は咳払いをしつつ目を瞑った。あまり見たことのない表情をしている颯を見て、澪は口一杯にパンを詰めながら、どうしたの? と、不明瞭に言った。こっちは暑いね、と第一ボタンを開けた夏服の襟をパタパタさせながら、颯は目を逸らして言った。
 食事を終えると、二人は食器を持って台所へ向かった。颯はスポンジに洗剤をつけると、食器をごしごしと洗って、ついた泡を丹念に流し、水切りかごに置いた。調味料の片づけを終えた澪は清潔な布巾を取り出して、中の食器を綺麗に拭き上げた。皿は全部、もとあった場所に収まった。
 食事を終えると、二人は食器を持って台所へ向かった。颯はスポンジに洗剤をつけると、食器をごしごしと洗って、ついた泡を丹念に流し、水切りかごに置いた。調味料の片づけを終えた澪は清潔な布巾を取り出して、中の食器を綺麗に拭き上げた。皿は全部、もとあった場所に収まった。
 食後、ソファでゆっくりするのにも飽きると、二人は家の捜索に取り掛かった。自分たちがここにいることは間違いではないが、でもそれは不思議なことだ。二人はそう言った真実を、肌で感じ取ることに長けていた。
 食後、特に必要も感じなかったから、二人はリビングで、思い思いに過ごした。颯はリビングの壁の本棚を物色した。複数言語の本がばらばらに並べられていて、半分は全く読めなかった。英語の本は多かったけれど、日本語の本は少なかった。颯は本棚から「転位のための十篇」を取り出すと、ソファに座り、読み始めた。澪は食卓の洋風椅子の背もたれに体の前面から覆い被さるように逆に座って、リビングについた掃き出し窓の外を見ていた。視界の右では、颯が熱心にページを捲っている。窓からは清らな風が吹いて、颯の前髪が揺れる。澪はぼんやりとそれを見つめていた。
 小雨が降りはじめた。颯は本をリビングテーブルに置いた。二人は家の捜索に取り掛かった。自分たちがここにいることは間違いではないが、でもそれは不思議なことだ。二人はそう言った真実を、肌で感じ取ることに長けていた。
 まず最初に、二人が起きた寝室の隣に、ほとんど同じ規格の寝室があるのを二人は見つけた。いくつかの会話の後、颯は今日、ここで寝ることが確定した。
 
 


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