「帝国主義のパパイヤ」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
28行目: 28行目:
――その思考が凍結した一瞬、俺は何か、バイブレーションのようなものと、「声」を聞いた気がした。振り向くと、そこには黄色いパパイヤがいて、俺はなぜか、そいつが悪魔のような笑みを浮かべていると思った。そして、「声」をもろに聞いてしまったんだ。それは、何百人もの子供が集まって、全く同じ周期で、一斉に鋭い笑い声を上げているような、とにかく徐々に大きくなって、俺の耳から脳みその中に入ろうとしてくる――まるで、そう、昆虫のような体つきで耳をこじ開けようとしてくる、狂った響きだった。そのまま意識を失いそうになったところで、やってきた仲間の一人がとっさに俺の耳のすぐそばで拳銃をぶっ放してくれて、なんとか助かったんだ。聴力を一時的に喪失した俺は、そのまま情けない声を上げて、階段を落っこちるようにその場を逃げ出した。今でもあのパパイヤの汚い黄色が脳裏にこびりついて取れないよ。</blockquote>
――その思考が凍結した一瞬、俺は何か、バイブレーションのようなものと、「声」を聞いた気がした。振り向くと、そこには黄色いパパイヤがいて、俺はなぜか、そいつが悪魔のような笑みを浮かべていると思った。そして、「声」をもろに聞いてしまったんだ。それは、何百人もの子供が集まって、全く同じ周期で、一斉に鋭い笑い声を上げているような、とにかく徐々に大きくなって、俺の耳から脳みその中に入ろうとしてくる――まるで、そう、昆虫のような体つきで耳をこじ開けようとしてくる、狂った響きだった。そのまま意識を失いそうになったところで、やってきた仲間の一人がとっさに俺の耳のすぐそばで拳銃をぶっ放してくれて、なんとか助かったんだ。聴力を一時的に喪失した俺は、そのまま情けない声を上げて、階段を落っこちるようにその場を逃げ出した。今でもあのパパイヤの汚い黄色が脳裏にこびりついて取れないよ。</blockquote>


「死の声」は大きな脅威であったが、振動によって這って動くパパイヤは、機動力に弱点を抱えていた。MIMCは光学迷彩装甲を改造し、即席の「ノイズキャンセリングスーツ」とエネルギー放射機銃P-72を装備して、物量によってパパイヤを対比に転じさせ、防音室であるレクリエーション室に閉じ込めることに成功した。マルマジカ=ディアスの証言によれば、このときパパイヤはすでに獲得的な「進化」を遂げつつあり、振動による動きはバッタのように俊敏なものになっていたという。かくして窮地に陥ったパパイヤだったが、このレクリエーション室で彼は最大の協力者を手に入れることとなる。MIMCの「精神感応活性化実験」「透視・念写活性化実験」「パイロキネシス活性化実験」など、ほとんどすべての実験に対して「第一級適合者」となったMIMCの最高傑作、メリンダ=シャンドリエである。早くから安楽死を法的に認めていたオランダ王国の中で、彼女はありふれた安楽死希望者だった。彼女を特別にしたのは、その唯一無二の「不死性」であった。
「死の声」は大きな脅威であったが、振動によって這って動くパパイヤは、機動力に弱点を抱えていた。MIMCは光学迷彩装甲を改造し、即席の「ノイズキャンセリングスーツ」とエネルギー放射機銃P-72を装備して、物量によってパパイヤを対比に転じさせ、防音室であるレクリエーション室に閉じ込めることに成功した。マルマジカ=ディアスの証言によれば、このときパパイヤはすでに獲得的な「進化」を遂げつつあり、振動による動きはバッタのように俊敏なものになっていたという。かくして窮地に陥ったパパイヤだったが、このレクリエーション室で彼は最大の協力者を手に入れることとなる。MIMCの「精神感応活性化実験」「透視・精神念写<ref>実際にイメージを紙上に出現させる「念写」とは異なり、イメージを人の意識に出現させるものである。</ref>活性化実験」など、ほとんどすべての実験に対して「第一級適合者」となったMIMCの最高傑作、'''メリンダ=シャンドリエ'''である。早くから安楽死を法的に認めていたオランダ王国の中で、彼女はありふれた安楽死希望者だった。彼女を特別にしたのは、その唯一無二の「不死性」である。医師による致死薬の投与を{{傍点|文章=耐え抜いてしまった}}後、彼女は戸籍上死亡していることを根拠に人権の保持を否定され、計82種類の致死毒を投与するプロジェクトの「主題」となった。この3年の試用期間を経て、高い程度の不死性が証明された彼女の身柄は、MIMCに購入され、オランダ王立研究室を離れることととなる。後にメリンダはパパイヤとの出会いをこう述懐している。
 
<blockquote>彼はまさに、私の王子様でした。あのとき、得体の知れない薬品によって変調させられていた私の精神にとって、この世界は茶色いマッシュルームの群れのように見えていました……ああ、おぞましい。思い出したくもありません。しかし、そのくすんだ茶色で粉吹きの世界に、彼は金色の輝きをまとって現れたのです。私はテレパシーを使えましたから、彼に話しかけることができました。「王子様、ここから出して!」と。彼はちょっと驚いたようでしたが、すぐにこう言いました。「もちろんさ、プリンセス・エスパー。とはいえ僕もピンチだ。二人で協力しよう」
 
 
こうして彼は、私の手枷や目隠し、その他32箇所の拘束具を振動で破壊してくれました。自由になった私はその日、たぶん人生で初めて笑いました。何せ窓の外の廊下には、あれほど憎かった検査官たちが{{傍点|文章=なんの変哲もなく}}死んでいるんですもの。そして、自分に与えられた力に、はじめて感謝しました。手枷にねじ止めされた鉄のサックさえ無ければ、壁越しの人間を狂気に陥れてしまうことでさえ、私の精神念写には容易いことなのです!</blockquote>
 
パパイヤに解放されたメリンダが、レクリエーション室周辺に詰めかけていた内部保全実行委員たちにパパイヤの「死の声」の幻覚を与えると、集団はパニックに陥って崩壊し、四方八方に散った。パパイヤとメリンダはその隙にレクリエーション室を脱出し、メリンダの透視能力の手引でMIMCの「活性化実験」に用いられている他の安楽死手術の同意者たちを次々に解放していった。こうして、パパイヤ最初の殺人から1時間29分後、パパイヤらはMIMC本部の主要三施設<ref>総合データセンター、拡張室、内部保全指揮室(モニタールーム)。</ref>を完全に掌握することに成功した。
8,864

回編集