「利用者:キュアラプラプ/サンドボックス/乙」の版間の差分

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 その洞窟の中には、もちろん何の灯りもなかったから、奥に進めば進むほど暗くなっていく。そして、ある角を右に曲がったとき、外の光はついにほんの一片さえ届かなくなる。この蛍は、それが好きだった。蛍ならば誰しもが持つ、夜を独占したいという欲求が、この蛍にも当然あった。光のドレスで着飾って、空のすべてをレッドカーペットにする、彼らにとって唯一かつ最高の芸術は、しかしさまざまな妨害にあってきた。一日おきにすべての地平を席巻し、まさしく圧倒的な明るさでもって、彼らの同じ光としてのプライドを踏みつけにする太陽の光は言うまでもなく、あるときには普遍的な絶対美を象徴する無欠の真円を、またあるときには今にもぽっきり折れてしまいそうなくらい華奢で繊細な弧を描く月の光は、その目まぐるしく豊かな表情で蛍たちをこけにしてきたし、負けず嫌いの蛍たちが群れという生物の特権を駆使して光のダイナミクスを演出しようとしたときも、遥か遠くにめざとく浮かんでいる星々が、すかさず星座を作って空の全てを覆い隠してしまった。こうして自信を失った蛍たちのドレスは、ほつれたところから引き裂かれ、生ごみのようにぼとぼと落ちる。レッドカーペットは太った毛虫のようなおぞましい姿に変貌し、のたうち回って彼らの芸術を拒否してしまうのだ。
 その洞窟の中には、もちろん何の灯りもなかったから、奥に進めば進むほど暗くなっていく。そして、ある角を右に曲がったとき、外の光はついにほんの一片さえ届かなくなる。この蛍は、それが好きだった。蛍ならば誰しもが持つ、夜を独占したいという欲求が、この蛍にも当然あった。光のドレスで着飾って、空のすべてをレッドカーペットにする、彼らにとって唯一かつ最高の芸術は、しかしさまざまな妨害にあってきた。一日おきにすべての地平を席巻し、まさしく圧倒的な明るさでもって、彼らの同じ光としてのプライドを踏みつけにする太陽の光は言うまでもなく、あるときには普遍的な絶対美を象徴する無欠の真円を、またあるときには今にもぽっきり折れてしまいそうなくらい華奢で繊細な弧を描く月の光は、その目まぐるしく豊かな表情で蛍たちをこけにしてきたし、負けず嫌いの蛍たちが群れという生物の特権を駆使して光のダイナミクスを演出しようとしたときも、遥か遠くにめざとく浮かんでいる星々が、すかさず星座を作って空の全てを覆い隠してしまった。こうして自信を失った蛍たちのドレスは、ほつれたところから引き裂かれ、生ごみのようにぼとぼと落ちる。レッドカーペットは太った毛虫のようなおぞましい姿に変貌し、のたうち回って彼らの芸術を拒否してしまうのだ。
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