「利用者:Notorious/サンドボックス/ピカチュウプロジェクト」の版間の差分

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<br>「こないだ読んだ本にあって。ミステリーあたりはからっきしなんですよ」
<br>「こないだ読んだ本にあって。ミステリーあたりはからっきしなんですよ」
<br>「はっ、マジかよ」
<br>「はっ、マジかよ」
<br> 小島さんは鼻で笑った。お前がかよという顔をしている。
<br> 小島さんは鼻で笑った。お前がかよ、と顔が語っている。
<br>「小島さんはこういうの好きだったでしょう? 教えてくださいよ」
<br>「小島さんはこういうの好きだったでしょう? 教えてくださいよ」
<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
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==序==
==序==
「なあ國春兄さん、叙述トリックって知ってるか?」
「ねえ國春兄さん、叙述トリックって知ってる?」
<br>「急になんだよトシ。まあ知ってるけどさ」
<br>「急になんだよトシ。まあ知ってるけどさ」
<br> トシってのは俺、俊晴のあだ名だ。詳しくは覚えちゃいないが、お前と同様叙述トリックって言葉を何かの本で見たんだろう。國春兄さんとは年が離れててな、子供心には何でも知ってるすごい人に思えたのさ。
<br> トシってのは俺、俊晴のあだ名だ。詳しくは覚えちゃいないが、お前と同様叙述トリックって言葉を何かの本で見たんだろう。國春兄さんとは年が離れててな、子供心には何でも知ってるすごい人に思えたのさ。
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==破==
==破==
 その次の日の晩、夕飯の時間になって、母親に言われて俺は2階にいる兄貴を呼びに行った。兄貴の部屋をノックしようとしたところで、急にドアが開き、俺は鼻をしたたかにぶつけた。兄貴は笑いながら「すまんすまん」と謝ったが、こっちは痛いのなんの。不貞腐れたよ。鼻の頭に絆創膏を貼らないといけなかった。
 その次の日の晩、夕飯の時間になって、母親に言われて俺は2階にいる兄貴を呼びに行った。兄貴の部屋をノックしようとしたところで、急にドアが開き、俺は鼻をしたたかにぶつけた。兄貴は笑いながら「すまんすまん」と謝ったが、こっちは痛いのなんの。不貞腐れたよ。鼻の頭に絆創膏を貼らないといけなかった。
<br>  ともかく夕飯になった。そのときは俺と兄貴、親父とお袋の4人暮らしだった。はは、今と同じだな。お袋は専業主婦、親父は市議会議員だった。親父はその日もいつも通り「政治を〜」と理想を語っていた。だから母親が、
<br>  ともかく夕飯になった。そのときは俺と兄貴、親父とお袋の4人暮らしだった。はは、今と同じだな。お袋は専業主婦、親父は市議会議員だった。親父はその日もいつも通り「政治を〜」と理想を語っていた。だから母親が、
<br>「せっかくトシちゃんが賞状貰ってきたのに、お父さんったら政治、政治って、そればっかり。少しは気にかけてやってくださいよ」
<br>「せっかくトシちゃんが賞状貰ってきたのに、お父さんったら政治、政治ってそればっかり。少しは気にかけてやってくださいよ」
<br>と嗜めた。だが親父は、
<br>と嗜めた。だが親父は、
<br>「大丈夫だ、弟ってのは兄の背を見て育つんだ。だからトシも優秀に育ってるし、これからもそうだろう。な?」
<br>「大丈夫だ、弟ってのは兄の背を見て育つんだ。だからトシも優秀に育ってるし、これからもそうだろう。な?」
<br> 事実俺はそんな気にしてなかったから、適当に返事して終わったと思う。兄は教育通り優秀に育ったんだ。まあ俺がそうじゃないことは、お前らも知っての通りだ。
<br> 事実俺はそんなに気にしてなかったから、適当に返事して終わったと思う。兄は教育通り優秀に育ったんだ。まあ弟がそうじゃないことは、お前らも知っての通りだ。
<br> そしてその次の日の3時、俺は小遣いで買っといたプリンを食べようと、2階の自室からキッチンへ降りてきた。
<br> そしてその次の日の3時、俺は小遣いで買っといたプリンを食べようと、2階の自室からキッチンへ降りてきた。さあ食べようと冷蔵庫を開け放ったんだが、確かに2段目に入れといたはずのプリンがない。中を隅から隅まで探したが、ない。そこで横のゴミ箱を見ると、なんとプリンの空容器が捨ててあったのさ!
<br> それを見て幼き俺は愕然として落涙、この世の不条理を嘆いた…わけじゃあない。正直あんまショックは受けなかった。プリン大好きってわけじゃないし、小遣いは十分貰ってたから惜しくもなかった。たかがプリン1個くらいで家族を詰るような、狭量な男じゃなかったんだ、俺は。
<br> だが、ここで一つ疑問が残った。誰がプリンを食べたのだろう? 容器はゴミの上の方にあり、俺が昼飯のときにこぼしたレタスよりも上にある。でも、両親は昼飯の前から買い物に行っていて、まだ帰ってきていない。そして俺がレタスを捨てたとき、プリンのカップなんて無かった。なら、親が食べたのではない。そして、兄さんは珍しいことにプリンがとても苦手だ。食べるなんてことあり得ない…。
<br> そこまで考えたところで、自分が無駄な思考をしていたことに気づいた。落ち着いて考えれば、答えは歴然じゃあないか…。
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==転==
「おいそこ、無駄話するんじゃない!」
<br> そこまで小島さんが話したところで、高い椅子に座ったオヤジに注意された。三津田さんと京極さんはそそくさと箱詰め作業をし始める。まったく、いいところだったのに! あいつ、僕たちが働いてるのを見てるだけで給料が入るなんて…。工場勤めを辞められた暁には、あの仕事に転職しようかしら。まあ無理か。
<br> 小島さんが話を再開する気配はない。続きはお預けかあ。
<br> でも、プリンを食べたのは一体誰だろう? 僕はそのことばかりを考え続け、いつの間にか昼休憩の時間になっていた。
 
 昼飯食いながらでも話の続きを聞かせてもらおうと思ったが、小島さんは手早くリゾットをかきこむと、どこかに行ってしまった。京極さんはそれを見て、
<br>「ありゃ女だな。女に逢いに行くのさ」
<br>と顎をさすりながら言った。三津田さんも小指を立てて笑っている。まさかと思ったが、小島さんならあり得るかもしれない。
<br>「彼女さん、小島さんに相当入れ込んでるんすね」
<br>と言うと、2人のおじさんは揃って頷いた。この人らホントに中年か? ニヤケ面は中学生そのものだぞ?
 
 小島さんは仕事が再開する直前に戻って来た。よっしゃ話の続きをせがもうと身構えた矢先、残念ながら京極さんと三津田さんは離れた場所に増援に向かわされてしまった。2人のいないところで続きを聞くのは忍びない。だが…。
<br>「さっき聞いた話なんだが、叙述トリックにもいろいろあるらしいぜ」
<br> 葛藤していると、小島さんが突然口を開いた。
<br>「『'''意味なし叙述'''』ってのと『'''意味あり叙述'''』ってのがあるらしい」
<br>「さっきって、昼休みに?」
<br>「ああ」
<br>「もしかして、恋人?」
<br>「ん、さてはみっちゃんとゴクさんに入れ知恵されたな? あの爺さんたち、勘が鋭いからなぁ。すごいぜあの人らは」
<br> ならなぜこんな底辺の暮らしをしてるんだ。
<br>「まあそれはさておき、叙述トリックの説明だ。小説とかで叙述トリックが仕掛けられているとする。問題は、なぜ仕掛けられたのか、だ。」
<br> 何か小島さんのお兄さんが作中で話してた気がするな。
<br>「
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