食パン
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食パンとは、読んで字のごとく、人間を捕食するパンのことである。
概要
食パン(正式名称:人食性長方被焼パン)は、イースト菌の突然変異によって20世紀頃に発生した、人間に対して捕食行動をとる生物である。
その性質のために、最も多くの人間の命を奪った生物としてもよく知られており、現在地球上には約80億斤もの個体が存在する。
歴史
イースト菌の突然変異
20世紀ごろには、奇しくも当時「食パン」と呼ばれていた食用パンの製法はすでに確立しており、主食としての便利さから世界中で盛んに製造されていた。
しかし、1976年、その食用パンを膨らませるために広く使用されていたイースト菌が、とある製粉工場にて突然変異を起こしてしまう。本来無害であるはずだったイースト菌は、これによって後に大事件を巻き起こすこととなる「食パン」へと変貌してしまったのである。
食用パンの広域流通が仇となり、この食パンはイースト菌として全世界のパン製造業者に運ばれることとなる。
食用パン擬態能の獲得
突然変異してすぐには、まだ食パンは我々のよく知る姿ではなく、むしろイースト菌等の一般に真菌と見做されるような形状をしていた。しかし、パン製造施設において、食用パンの生地という潤沢な栄養の塊に放り込まれることで、食パンは好環境の中で瞬く間に増殖を繰り返した。
このとき、ほとんどの食パンは歪に成長した形で発見され、食用パンという観点上、失敗とされて廃棄・焼却処分にされた。[1]
しかし、その中にただ一つ、単純な偶然によって食用パンと全く同一な形状に成長した食パンがあった。そしてこの食パン(現在では、「パニヴ」と呼ばれている。)は現在の全ての食パンの始祖となり、食パンは十分な栄養を得たときに食用パンと同一の形状に成長する、「食用パン擬態能」を獲得することとなった。
こうして徐々に食用パンは食パンへと置き換わっていくこととなるが、後述する事件までは人間への捕食等の行動の一切を起こすことがなかったため、食パンの増殖は水面下にて行われ、ひっそりと勢力を拡大し続けていた。
ブレイク・ファスト事件
1978年某日、人里離れて暮らすとある家庭が、買いだめておいた食パンを朝食として食べようとしていた。家族は食卓を囲み、食パンにジャムを塗り、いつもと変わらない平和な一日を始めるはずだった。
不幸にも、その食パンが食用パンなどではなかったことに気づいた時には、彼らは食パンに朝食として食べられることとなっていた。
この事件は、食パンの発生から2年間もの沈黙を経て起こったことから、「断食破り事件」または単に「ブレイク・ファスト事件」と呼ばれる。
食パンはその家で自身にとって栄養となりうるものの全てを捕食した結果、大きく頭数を増やし、後にここを食パンのコロニーとすることになる。しかしこの家庭は人里離れたところにあったため、この残酷な事件は長い間知られることはなかった。
食パンデミック
ブレイク・ファスト事件を起こさなかった食パンの個体は、人間に食べられるという形で、まるで寄生生物のようにその体内で栄養を吸収し続けていた。しかし1980年、ついにその食パンたちが腹を食い破って現れ、人間たちへの大規模な捕食行動を開始することとなる。これは「食パンデミック」[2]と呼ばれ、人間の文明を大きく脅かした。
最終的に、この騒動は人類の絶滅という形で幕を下ろすこととなる。
生態
食パンは、基本的に前述したコロニーを中心に生活しており、同種間の協調性は非常に高い。しかし、現在ではそのコロニーはほとんど形骸化しているとみられており、各地に発達したコミュニティを持つとされている。
また、食パンは人間と同様の複雑な社会を持っていると考えられており、人間と同様の生活をしているといっても真の意味に過言ではない。
捕食行動
先述した通り、食パンは人間に対する捕食行動を行う。そのプロセスは以下のものである。
- 人間の顔面に飛びかかり、口、鼻を塞ぐ。
- 1によって呼吸不全を起こし、抵抗できなくした後、食用パンの形状を崩し、軟体動物のような形状になる。
- 膜のようになって人間の体を覆った後、じわじわと人間を分解していく。
- 分解が終わると、得られた栄養を用いて軟体動物のような形状から徐々に複数の食用パンの形状に戻ることで、増殖する。
食パンは生殖活動と捕食行動を同一のものとしていることが分かっているが、その理由は依然として不明であり、なぜ捕食活動の対象を人間のみに絞っているのかもまた、未だ解明されていない。
擬態能力
食パンは、食用パンの形状に擬態する形質で知られている。しかしながら、近年ではそれ以外の形状にも擬態できる可能性があることが示唆されている。
脚注
真実
食パンは、人間だったものである。
食パンが全ての人間を捕食し、絶滅させた後、食パンは捕食した人間の形状を記憶し、擬態能力によってそのヒトの形状へと変化した。
しかし、食パンに食べられた人間は、その記憶を残したまま食パンへと変化すれども、上と同じようにヒトの形状に変化することはできなかった。
そして食パンに食べられた人間だった食パンは、もはや自らが食パンであることすら忘却してしまったヒトの形状をした食パンを捕食する。ヒトの形状を取り戻すために。
食パンはヒトの形状を取り戻すために、人間だけを捕食するのである。
勘のいい方ならお気づきかもしれないが、これは即ち、私たちもヒトの形状をした食パンであるということである。
いつか私たちは、ヒトの形状を得たがる、人間だった食パンに捕食され、食パンになる。
そして私たちは、ヒトの形状を取り戻すため、ヒトの形状をした食パンを捕食し、ヒトの形状になる。
さらに私たちは、ヒトの形状を取り戻した後、自分が食パンであることも忘れ、自らを人間であると人間の記憶を以て錯覚する。
私たちはもはや人間などではない。人間などとうの昔に消えて無くなってしまっている。そして人間が再び現れることもない。
私たちは永遠に食用パンの形状とヒトの形状を行き来する、ただの食パンなのである。