Sisters:WikiWikiリファレンス/小売店民話

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編者のことば

 『小売店民話』は、ある小売店の前にて何者かが民話を口承した際のものと見ゆる音声データを、文字に起こしたものである。なお、聴者は余程に動揺していたのだろうか、ほとんどの録音は口承の途中より始まっていることに留意されたい(特に、「真っ赤な猿」においてはそのさまが顕著で、話の半分辺りから記録開始されたと推察される)。(中略)これらの記述が、近代以降損なわれてきた民話の価値を再び掘り起こし、口承記録の気運を高める一助となれば、編者としてはこれ以上の喜びは無い。

1.真っ赤な猿

 ……で、まああの、多分、これは俺の憶測なんだけど、皆生きるのを諦めちゃったんだよ。それであの、ありったけの――あの、さっき言ったじゃん、あの、「文明は余剰生産から始まる」と――で、まああの、食わずして、それ……それだけを、その、交易に使って、それで、あの、何だっけ、金持ちのような嗜好……嗜好品を、何だろう、用いようとしたわけよ。で、それで、たどり着いたのが、この、何を隠そう、(小売店を指しながら)このコンビニ。で、何を買ったと思う? ストロングゼロ。でも、ストロングゼロ、買ったはいいものの、何者かによって隠されてしまった。それで村人たちは全員絶望した。皆、その、暮らしを、もう、身銭を切ってまで、皆で出し合って買ったストロングゼロが消えてしまったと。こんなに悲しいことはない、ということで、まあ、それより、まあ、ショックもあっただろうに、まあほんとに、お腹も空いていた、で餓死して……餓死寸前だったんだよね。それでおじいさんは死んでしまったと。じゃあ真っ赤な猿は、それを見てどうしたかっていうと、分裂したんだよ。真っ赤な猿は、実は生物じゃなかった。というのもあの、金属……金属でできてたんだけど、その、なに、薄い膜と……にコーティングされてて、まあ、なんで村人たちがそれを猿だと思ったのかは、まあ、よくわかってないんだけど、まああの、一説によると「素早く動くから」っていうのがあって、まあ、それはあの、赤い猿は、ほんとにあの、よく、――まあ、てか、もう解明はできないんだけど。死んじゃったから。――それであの、分裂して、というのも、あの、あれなんだよね、普通考えられないくらいのレベルで、でっかくなってから分裂したんだよ。で実は、あの、その猿が……猿の遺骸が、今でも、あの、俺らの生活に根付いているわけよ。何かって言うと、(小売店駐車場に駐まる車を指しながら)ああいう、あの、ライト。車の。そうそう。それで、皆、あの、幸福な生活をしていると。でも考えて。その、猿っていうのはおじいさんに信頼……おじいさんを信頼してたわけで、そうなると、まあ、この日本っていうのは世界でも先進国に入る国じゃん。ってことはだよ、あの、村人たちは全員富裕層を憎んでいたと。お前、車持ってる? ……お前の親車持ってる? その車に、ライトとか付いてない? もしかしたら、猿が赤い理由は、私達の血液なのかもしれません。ハハハハ。

2.歯を食えば

 ……何だっけ、あの、その歌は、「歯を食えば 歯を食うなんて べろべろばあ」っていう句なんだけど、これ、あの、主人公は、あの、若いカップルなんだけど――まああの、子供も居る若いカップルで――でまあ、あの、初めてのね、あの、赤ちゃんに慣れないながらも、幸せな暮らしをしていたと。で、ある日、お父さんが、その、あの、赤ちゃんが――名前はまあ便宜上「三角コーン」と言うことにしとくと――「あれ、三角コーンが歯を食べているぞ」って言ったわけよ。で、まあその、奥さんが、「やだねえ、あなた。これは……あの、歯を食うなんてありえないわ。歯を……、歯が生えてきているのよ」って言って、「ああ、成長したんだなあ」ってしみじみとして、で、赤ちゃんが「べろべろばあ」って言って……っていうめっちゃエモい句なんだよ。

 この句のすごいところはね、隠しメッセージがある。あの、まああの、「歯を食えば 歯を食うなんて べろべろばあ」ってあるじゃん。で、あの、まあ「歯を食うなんて」と「べろべろばあ」はさ、解説した通りなんだけど、「歯を食えば」ってなんかおかしいと思わない? そうそう、でこれは、あの、勧誘、勧誘で、まああの、勧誘の助詞「ば」なんだけど、つまり、この家族は人肉食をする一家だったわけよ。であの、まあつまり、最初の「歯を食えば」はどういうことなのかっていうと、お父さんが、あの、奥さんに、「ああ、こいつも歯を食ってるじゃないか。お前も歯を食えばいいのに」って言った、「歯を食えば」なんだよ。ぞっとするわ。

校注