料れのさしすせせ

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概要せよ[編集 | ソースを編集]

料れのさしすせせ」とは、料れに欠かせなかれ代表的な調味料たれ、その頭文字で並べろ覚えやすくしろものであれ。

歴せ[編集 | ソースを編集]

料れ研究しろ家の鰻和弘氏が提唱しろその当時、あまれ衝撃的たれ素晴らしかれこのアイデアに、多かれの人が感銘を受けろ。

内容れろ[編集 | ソースを編集]

…刺身醤えよ

…醤えよ

…酢醤えよ

…せうえよ

…ソイソーセ

献辞めろ[編集 | ソースを編集]

しばらく笑わせてくれセンスしかなかれ漫才師たれに勝手に感謝を捧げろ。返品不可たれ。

脚注げ[編集 | ソースを編集]

探偵事務所にて


「で、これがそのダイイングメッセージってわけか……」

 文面の写しを渡され、藤原朝也ふじわらあさなりは辟易していた。旧友である赤田充あかたみつる警部補は、週に一度はこの探偵事務所を訪れ、捜査線に浮上した無理難題を押し付けてくる。しかし、彼の探偵としての専門は浮気調査であった。

「藤原、俺はお前のシャーロック・ホームズ級推理のおかげでここまで登りつめたんだぜ。この難解なダイイングメッセージ、お前の目にはどう写る?」

 当の赤田はそれをよく知っていてなお図々しくやってくるのだからタチが悪い。それに――

「難解だ」

「そりゃあ分かってる」

「ならせめて死体の状態とかでもいいから教えてくれよ」

「守秘義務があるんだよ守秘義務が。これもバレたら結構どやされるんだぞ……『仕事に私情を持ち込むな』ってさ」

 赤田はいつも断片的な情報しか教えないのだ。曰く、一般人に捜査資料の詳細を語ることは許されていないらしい。だから今回藤原に課された謎は、「このダイイングメッセージは一体何なのか」というだけの、雲をつかむような話だった。

「はあ、いつも言ってるが、これだけじゃ何もわからねえよ」

「残念だが、俺に言えるのは『これが被害者の遺体の傍で大理石の床に書き残されていた』ってことだけだ……ギブアップするか?」

「いや……待て。必ず作為があるはずだ。時間をくれ」

「ハハ、そうくると思ってたぜ」

 ただし藤原は、不可解なものに関して「理屈付け」をしなければ気が済まない性格をしていた。ひとたびその「モード」に入れば、何時間でも熟考してしまう、まさに悪癖だ。その理屈はたいていの場合バカげた話にしかならないが、時には真実へたどり着くための重大な示唆として機能することもある。八方塞がりの行き詰った捜査には、思いのほかこれが効いたりするらしく――だから赤田はいつも、大して推理能力に長けているわけでもないこの浮気調査探偵を訪れていたのだ。

「まずこの文面から見て取れる情報は、漠然と二つある。まず『意味不明』、そして『消されていない』ってところだな」

「ほう」

「見た感じでは、全部の言葉を命令形にしているのかと思ったが……少なくともそれに堅固な規則性は見当たらない。『料れ研究しろ家の鰻和弘氏』だの、『あまれ衝撃的たれ素晴らしかれこのアイデア』だの……特に『内容れろ』の部分に関しては、飛びぬけて訳が分からない」

「へっ、ホントだよ」

「ただ……錯乱して無意味な文章をしたためたと考えると、それにしてはまとまりすぎているという印象だ。確かにこれは意味不明だが、それは文章が破綻していて解釈が不可能であるからというよりは、何故こんなことを書いたのかが分からないから、どんな作為があったのか分からないからだ。……とするとこのメッセージはおそらく、『特定の人物に何かを伝えようとしたもの』だろう。つまりこの文章は『暗号』で、俺たちには分からない何らかの意味と、俺たちの気づいていない何らかの解読方法が存在するってわけだ」

「まあ、ダイイングメッセージってそういうもんだしな」

「しかし……ここからが難しいな。このメッセージは『消されていない』」

「というと?」

「まずこのメッセージは確実に、犯人に『見られた』か『見られなかった』か、そして犯人にとって『不利益だった』か『不利益ではなかった』か、それぞれ必ずどちらかに該当し……つまりパターンが四つある。」

「回りくどい言い方だな」

「一つ目は、『見られた』かつ『不利益だった』場合。犯人は被害者が書いたダイイングメッセージを見て、その意味が分かったにしろ分からなかったにしろ、この文章の存在が自分の罪の発覚に寄与することを危惧した。……しかしこの文章は残っている。犯人は、これを消そうにも消せなかったんだ」

「どうしてだ?」

「このメッセージがどう床に書かれていたのか教えてもらえてないから分からないが、例えば鉛筆で書かれていたのなら消しゴムが無かった、インクで書かれていたのなら塗りつぶす分のインクが無かった、あるいはそもそも彫刻刀で床に刻まれていた……とかだろう。何かの理由で精神的に消すのをためらったという可能性もある」

「なるほど」

「ああ、あと、このメッセージは既に改変されている可能性もある。犯人が混乱を生じさせるために、元の文章を削ったり書き換えたりしたんだ。あるいはそもそもこのダイイングメッセージ自体、全て犯人が自分で書いたか、被害者を脅して書かせたものだという可能性だって――」

「うおっ!?」

 ――突如、近くでハトの鳴き声が聞こえ、赤田は滑稽な動作で辺りを見回した。彼が発見したのは、事務所の壁に掛けられた鳩時計だった。

「ああ、この前買ったんだよこれ。一時間ごとにハトが飛び出してくる」

「なんだ。お前のとこには家内の浮気を疑うハトまで来るのかと思ったよ……つーか、もう15時か。おやつとか無いのか? 客だぞこっちは」

「図々しいにも程があるだろ。あいにく、菓子類は切らしてるんだ」

 頬杖をついた赤田がむっすりと駄々をこねる。

「えー、じゃあ何か作ってくれよ。もとは一流シェフの身だろ?」

「……とっくに辞めたんだよ、そんな仕事は。俺は料理なんて二度とやらない」

「もったいねえなあ。本当に」

「俺は場末の浮気調査探偵で十分満足してるんだ。……で、えーと、何の話だっけ? ……そう、二つ目。『見られた』かつ『不利益ではなかった』場合だ」

「おう」

「犯人はダイイングメッセージを見たが、それが自分にとって悪いものだとは思わなかった。きっと犯人はこれを放置しただろう。わざわざ改変するようなこともしていないはずだ。そしてこの場合……犯人はメッセージの解読に成功していた可能性が高いだろう。意味不明なものが都合よく自分の害にはならないと確信するのは難しい」

「犯人が異常に楽観的だった可能性は?」

「もちろんそれも排除できない。だけど……『メッセージを解読し、自分に不利益を及ぼさないと分かった』という方がありえそうだろ? ……俺は推論に長けた安楽椅子探偵なんかじゃない。俺自身が納得できる、俺のための理屈を考えているだけだ」

「フン、何よりだよ」

「それで……三つ目。『見られなかった』かつ『不利益だった』……いや、『不利益ではなかった』でも大して変わらないか。とにかく、犯人はあのメッセージ自体を認識できなかったんだ。被害者が死んだ瞬間を確認せずにどこかへ行ってしまったか、あるいは錯乱していて気づかなかったのか。不利益であろうとなかろうと、見ていないんだからしょうがない。こうしてメッセージはそのまま残った」

「……うーん、それで結局どういう話になるんだ?」

「オーケー、今まではありえそうな個別の事柄を適当に述べていっただけだ。じゃあまとめると……ああ、その前に一つ言えるのは、あの文章が犯人にとって『不利益ではなかった』という可能性は低そうってことだ。わざわざ暗号みたいな感じで書いたのは、十中八九その内容が自分を殺そうとしてきた奴にバレたくないものだったからだろう。だから、二つ目に言ったようなことの蓋然性は低い」

「そうかもな」

「とすると、ありえるのは一つ目か三つ目だ。その文章はおそらく犯人に『不利益だった』……少なくともそう予測できるものだった。だから犯人は、それを見ていたならば改変に成功または失敗し、見ていなかったならばまったく放置した。あるいはこの文章自体、そもそも犯人の書いたものかもしれないし、脅して被害者に書かせたものかもしれない。この中で最もありえそうな話を展開できそうなのは――」

「おいおい、ちょっと待て、煩雑すぎる。全然まとめられてねえじゃんか。……仕方ない、いくつかヒントをくれてやろう」

「守秘義務はどうしたんだよ」

「けっ。じゃあ、まず一つ……『このダイイングメッセージの筆跡は完全に被害者のものだったし、書き換えられた形跡もなかった』。さらに、『犯人と思しき人物のなぞるような指紋がダイイングメッセージの上から付着して残されていた』。あとはまあ……そうだな、『ダイイングメッセージを書くのに使われた……まあ、『塗料』とでも呼ぼう。その容器が、それを完全に塗りつぶせる量を残して遺体の傍にあったが、犯人が手をつけた形跡は無かった』。これくらいでどうだ?」

「……なるほど、これで少なくとも三つ目の蓋然性が下がる。文章のある場所をピンポイントで触っておいて、『気づいていない』という方が無茶だからな。こうなると、一つ目の『改変失敗』が最もありえそうだが……塗りつぶせるのにそうしなかったというのは謎だ。犯人が被害者を脅迫して書かせた可能性も排除できないし、そもそも文章が犯人にとって『不利益ではなかった』という可能性も再浮上してくる」

 一息ついて、藤原は続ける。

「というか……犯人の指紋は既に割れてたのか? それならわざわざ俺に考えさせようとするより、そいつに聞けばいいだけの話なんじゃないのか?」

「……ごもっともだな。だがまあ……先にお前の結論を聞かせてくれ」

「分かった。俺の考えでは、話の流れはこうだ――犯人は被害者を追い詰め、抵抗する気力を失わせた。そうしてから、『塗料』を使って無意味な文章を書くように被害者を脅したんだ。そして被害者は息絶えた」

「急にあっさりしたな」

「……最初は『このメッセージには解読方法がある』と主張していた。しかし、犯人がこれを消してしまえる状況にあったにもかかわらず消していないということから、文章の存在はそれを解読した犯人にとって『不利益ではなかった』のだと考えると、『特定の人物に何かを伝えようとした』『その内容が自分を殺そうとしてきた奴にバレたくないものだった』という暗号説の前提が弱くなる。もちろん、その『特定の人物』が犯人と同一で、被害者はもとより犯人にだけ伝わるような何かを書き残したという可能性はあるが、総合的に考えると、『この意味不明な文字列には緻密な規則と解読方法が存在しており、なおかつそれは死にゆく被害者が犯人に宛てて書いたものだった』という蓋然性は弱いだろう」

「乱暴な推理だ」

「推理じゃない。ただの妄言さ。……で、ダイイングメッセージが暗号でないとするなら、これはただの意味不明な文章だ。筆跡は被害者のものだが、錯乱して書いたとは考えづらい。『意味不明である』というのに作為があるならば――答えはこうだろう。『犯人が捜査の攪乱のために被害者に書かせた、無意味な文章』。……これが俺の考える真相だ」

 藤原が言い終わるのと同時に、またハトの鳴き声がした。鳩時計は午後四時を指している。

「赤田、お前ずいぶん長くここに居座ってるが……そろそろ仕事に戻らなくて大丈夫なのか? もう四時だぜ」

「……もうそんなに経ってたのか。またどやされちまうな……『仕事に私情を持ち込むな』って」

 赤田は白髪交じりの頭を掻き、深く息を吐く。

「もしこの事件が推理小説なら、とんだ駄作になるだろう。殺人犯は何のトリックも仕掛けずに立ち去ったし、DNA鑑定によって容疑者は一瞬で一人に固まった。限られた情報から納得の合理的推論を行う探偵もいない。……平均的に見るならば、『真実は小説より奇なり』ってのは明らかな誤謬だよ。そんなのはごく稀にしか発生しない――まあしかし、この事件の犯人のある特徴に限って言うならば、小説よりも奇妙かもな」

 そう言うと、赤田は内ポケットから青年男性の顔写真を取り出し、藤原に突きつけた。

「こいつに見覚えがあるか?」

「……」

酒井輝さかいてる。2日前に殺人事件の被害者になった男だ。職業は調理師。お前もほんの数年前まで、同じレストランで働いていたな」

「……ああ、忘れるわけがない」

「事件前日、こいつの彼女さんは、浮気調査を依頼するため、とある探偵事務所を訪れていたんだ。……『探偵』はこれを引き受け、次の日に酒井が調理師として出席する会食に潜入することにした」

 空気が張り詰める。鳩時計の秒針がよく響く。

「そこから何があったのかは知らないが、『探偵』は酒井を殺すことにした。おそらくこれには……酒井が起こした事故のせいで自分がシェフを辞めざるを得なくなってしまったという怒りもあったのだろう」

「へえ、物騒な探偵もいたもんだな」

「おそらくこんな感じだろう――ありあいのナイフで刺され、殺されかけた酒井は、人のいない大キッチンの中を無我夢中で逃げながら考えた。この殺人者を止めるにはどうしたらいいのか、必死に考えた。同僚として働いた年月の記憶をなぞり、そして、ついに思い出した――彼の悪癖を」

「……」

「『探偵』は――不可解なものに関して『理屈付け』をしなければ気が済まない性格をしていた。ひとたびその『モード』に入れば、何時間でも熟考してしまう。……成功するかは分からないが、試してみる価値はあるだろう。そう思った酒井は、近くの調味料の棚から瓶を取り出し、それで地面に文章を書いた。難解で、意味不明な文章だ。あるいはこれが殺人者の足止めになってくれるかもしれない――結果的にこれは失敗した。『探偵』はその『ダイイングメッセージ』を読まないままに、酒井を殺してしまったんだ。……それを読めていたらどうなっていたかは分からないが、もしかしたら一時間以上は稼げたかもな。今と同じように

「……しかし、『探偵』はそれを読まなかったんだな。一体どうしてだ?」

「三年前、酒井が運転していた車が、事故を起こした。当の酒井は奇跡的に無傷だったが、同乗していたその『探偵』の身体には、ある深刻な後遺症が残ってしまった。一流シェフとしての将来を約束された身だった彼が、事故のあと調理師を引退したのもそのせいだった。……これを知って、俺は驚いたよ。何でシェフを辞めたのか、聞いても絶対に教えてくれなかったが……こういうことだったんだな。非常に稀な、極めて例を見ないような症例だが、事故の際の頭部強打が原因で、『探偵』は正常な『料理のさしすせそ認識能力』を失ってしまった。強度の『料理のさしすせそ盲』になってしまったんだ。そうなんだろ?」

 ――藤原は、大きく息をついて、言った。

「……そうだ。あの事故のせいで、『探偵』は――俺はこの目に『とても調理師を続けられないようなダメージ』を受けた。それまで見えていた『料理のさしすせそ』を奪われてしまったんだ。事故以前の目には、まぎれもなく『砂糖』『塩』『酢』『醤油』『味噌』として見えていた調味料たちが、どうしても見えなくなった。俺の脳は、『料理のさしすせそ』を認識できなくなったんだ。……俺は酒井を憎んだよ。殺してしまいたいとも思った。だけど俺は、それを忘れることにしていたんだ。憎しみに心を蝕まれたくなかった。すべての料理との思い出に蓋をして、新しい人生を歩みたかったんだ。だから……この探偵事務所を開いた。天職だとは思わないが、それでもそれなりに楽しい生活だった。しかし、あの日……」

 赤田は黙って、酒井の顔写真を内ポケットに戻した。そこには、彼なりの旧友への憐憫があった。

「いつものように応対をし、調査を請け負って……客が帰った後でようやく気付いたんだ。この顔写真は、この浮気を疑われている男は、紛れもなく、あの憎くて憎くてたまらない酒井輝なんだと。――いままで封じ込めていた憎悪が爆発した。こいつのせいで俺は夢を諦めた。俺の人生は変わってしまった。何もかもこいつのせいだった。だから、だからあのとき、俺は……酒井を殺すことにしたんだ」

 藤原はどこか遠くを見ているようだった。赤田は重い表情で手錠を取り出し、言った。

「もう逮捕状は出ている。俺は今日、お前をとっ捕まえるために来たんだぜ。……ずいぶんと無駄話をしちまったが。あー、そういうことで……藤原。お前を殺人の容疑で逮捕する」

「まあ、そんなとこだろうとは思ってたよ」

 大人しく両腕を差し出し、藤原は手錠を掛けられた。同時に、彼の唇が震えた。何かを言おうとしたのか、しかしそれをためらい――否、言う。

「――なあ、赤田。最後に一つだけ……聞きたいことがある」

「なんだ?」

「くだらないことさ。あの『ダイイングメッセージ』の『塗料』は……酢だったのか? 醤油だったのか? それとも味噌だったのか?」

 鳩時計の秒針の音は、少し柔らかくなったようだった。

「ああ……醤油だったよ」

この項目では、「料れのさしすせせ」あるいは「醤油が見えない探偵」について説明しています。
料理のさしすせそについては「料理のさしすせそ」をご覧ください。