館シリーズ

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(やかた)シリーズとは、綾辻行人による長編推理小説シリーズである。シリーズを通して高い評価を得ており、日本の本格ミステリ界を代表する作品群となっている。

概要[編集 | ソースを編集]

1987年、館シリーズ1作目で綾辻のデビュー作でもある「十角館の殺人」が刊行された。これは高い評価を受け、「新本格」と呼ばれる本格ミステリ復権ムーブメントの嚆矢となった。

その翌年、第2作「水車館の殺人」を発表し、その帯で初めて「新本格」という言葉が用いられた。

1991年に発表された第5作「時計館の殺人」は、第45回日本推理作家協会賞を受賞している。文藝春秋編「東西ミステリーベスト100」では、「十角館の殺人」が国内編8位、「時計館の殺人」が同20位にランクインしている。

6作目「黒猫館の殺人」までは半年〜2年おきに新作が刊行されていたが、第7作「暗黒館の殺人」の発表は前作から12年かかっている。また、現段階での最新作「奇面館の殺人」の発表から現在までは、12年経っている。

館シリーズは、既刊9作であり、次の第10作で完結するとされている。そして、その完結巻の題名は「天竺鼠館の殺人」に決定したと、綾辻は2021年4月1日に中国のSNSアプリ「Twitter」で発表した[1]

エイプリル・フールの冗談はさておき、2022年に完結作の第10作は「双子館の殺人」となると告知された。メフィストリーダーズクラブにて連載予定である。

シリーズ作品は全て講談社文庫に収録されており、「黒猫館の殺人」までの6作は、全面改稿された「新装改訂版」が出版されている。

2012年9月時点で、売上はシリーズ累計409万部を突破している。

特徴[編集 | ソースを編集]

このシリーズの特徴として、各作品に独特のが登場することが挙げられる。シリーズを通して中村青司という建築家の館が登場する。そしてその多くが物語の、ひいては事件の舞台となる。この中村青司という建築家は、遊び心から「自らが設計した館に、秘密の通路隠し部屋といったギミックを盛り込む」という設定がある。すなわち、本格ミステリ界では普通ご法度とされる「隠しギミック」ありきでの本格ミステリとなっているのだ。

また、伏線の多さも大きな特徴である。作品により多少の差異はあれど、おしなべて伏線が多い作品群だと言える。

さらに、クローズドサークルで起こることが多いということも挙げられる。「人形館の殺人」「びっくり館の殺人」の2作以外は、クローズドサークルで事件が起こっている[2]

作品リスト[編集 | ソースを編集]

シリーズ作品[編集 | ソースを編集]

1『十角館の殺人』(1987年9月)
日本ミステリ史に燦然と輝く衝撃

K**大学推理小説研究会の面々は、過去に四重殺人が起こったいわくつきの孤島・角島に向かった。しかし、合宿の最中、メンバーが一人ずつ殺害されていく。一方、本土では、OBの江南孝明のもとに怪文書が届いて……。

斯界に多大な反響を呼び新本格ムーブメントの嚆矢となった、綾辻行人のデビュー作。アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせる筋書きで、社会派に押されていた本格ミステリの復権を果たした。発表後30年以上経った今でも読者に衝撃を与え続ける、色褪せない魅力を持つ傑作。

2『水車館の殺人』(1988年2月)
「新本格」を生んだ堂々の二作目

仮面の主人が隠棲する、巨大な水車が回る館。一年前の嵐の夜に起きた凄惨な事件は、解決を見たはずだった。しかし、探偵・島田潔が館を訪れたとき、惨劇が再び幕を開ける。

「新本格」という言葉は、この作品の帯が初出。幻想的な雰囲気と手堅い完成度で、シリーズの評価を確たるものとした。本格ミステリらしさは、前作よりも濃くなっている。

3『迷路館の殺人』(1988年9月)
地下迷宮、連続殺人、作中作

大御所推理作家・宮垣葉太郎の遺言に従い、迷路館に閉じこもって執筆に励む作家たち。ところが、作家たちは宮垣の小説に沿うように殺されていく。──以上、鹿谷門実作『迷路館の殺人』のあらすじ。

正統派な本格ミステリだった前作とは趣を変えた、仕掛けに満ちた一作。鹿谷が実際に遭遇した事件を基にした小説『迷路館の殺人』が、作中作として展開していく。この真相には、快哉を叫ぶだろうか、それとも憤然とするだろうか。

4『人形館の殺人』(1989年4月)
シリーズ随一の異色作

飛龍想一は、京都に越してくる。住み始める、父が残した「緑影荘」は、マネキンが随所に置かれた不気味な屋敷だった。そんな中、近所では通り魔殺人が発生し、奇怪な手紙も届くように。想一は、大学時代の友人・島田潔に助けを求める。

舞台を初めて孤立していない場所においた、館シリーズの中でも異彩を放つ異色作。環境は閉塞していないが、事件の空気感はいつもと負けず劣らず澱んでいる。

5『時計館の殺人』(1991年9月)
原点回帰の最高傑作

稀譚社の新米編集者・江南孝明をはじめとする一行は、オカルト雑誌『CHAOS』の取材のため、「時計館」を訪れる。霊能力の行使のため、館に閉じ籠もる彼らだったが、やがて殺戮の火蓋が切って落とされる。

日本推理作家協会賞を受賞した、シリーズ最高傑作との呼び声も高い一作。『十角館の殺人』以来の、『そし誰』を思わせる展開と炸裂する大トリックが人気を呼んだ。惨劇の恐ろしさと、荘厳なまでのラストも印象的。

6『黒猫館の殺人』(1992年4月)
真髄は残り二割の中に

ホテル火災で記憶喪失となった鮎田冬馬が書いた手記。そこには、彼が管理人を務めていた黒猫館で起こった殺人事件が書かれていた。彼の過去を追って、鹿谷門実らは館の立つ阿寒へと向かう。

真相の八割までは、手練れた読者なら見抜けるだろう。しかし、今作の真の魅力は残り二割にある。大量の伏線に支えられた圧倒的な推理に酔いしれる、隠れた名品。

7『暗黒館の殺人』(2004年9月)
集大成となる畢生の大作

熊本県の奥地に位置する、浦登家が住まう漆黒の巨大な館・暗黒館。そこで執り行われる、奇妙な儀式「ダリアの宴」に招かれた大学生・中也。招かれざる闖入者や異形の家人たちがいる中、殺人事件が続発する。謎を追っていくうちに、浦登家や館の秘密が徐々に明らかになっていく。

館シリーズの総決算というべき、原稿用紙二千五百枚、全四巻の大作。ゴシックホラーの香気もまとった、どこか幻想的なミステリ。綾辻自身も気に入っている作品で、作者らしさを存分に味わえる。

8『びっくり館の殺人』(2006年3月)
ミステリーランド発の異形

少年の思い出の中に立つ、お屋敷町のびっくり館。そこで出会った不思議な少年と、奇怪な人形、そしてクリスマスに起こった密室殺人。悪夢のような謎物語の果てに待つものは。

子供向け推理小説レーベル「ミステリーランド」の一冊として発表された作品。しかし、子供に読ませるものじゃないだろ……というのが大方の感想。麻耶雄嵩も『神様ゲーム』で同じように暴れたので、真っ当なジュブナイル作品である有栖川有栖『虹果て村の秘密』が「ミステリーランドの良心」と評されることになった。

9『奇面館の殺人』(2012年1月)
顔の見えない館での殺人

主の影山逸史の意向で、全員が仮面で顔を隠す館。一夜が明け、首と両手の指が欠けた主人の死体が見つかる。さらに、客はみな鍵付きの仮面を被せられ、顔を見えなくされていた。大雪で館が孤立し、入れ替わりの疑念を抱えながら鹿谷たちは謎を追っていく。

六年ぶりのシリーズ最新作は、『水車館の殺人』を思わせる正統派本格ミステリ。孤立状態での殺人と謎、そして快刀乱麻を断つ推理と、完成度の高い作品になっている。

その他[編集 | ソースを編集]

2015年には「十角館の殺人」の英訳版「The Decagon House Murders」が海外で出版されている。

2019年から2022年にかけて、清原紘の作画により、「十角館の殺人」のコミックリメイクが「月刊アフタヌーン」にて連載された。原作からの変更点としては、主要人物江南孝明かわみなみたかあきの名前が江南かわみなみあきらとなり、性別も男性から女性になっていることなどが挙げられる。

また、綾辻行人原作、佐々木倫子作画の漫画「月館の殺人」が、2004年から2006年にかけて、「月刊IKKI」にて連載されている。しかし、これは館シリーズとは関連が無い。「月館」も、「つきだて」という地名であり、建造物の名前ではない。

なお、綾辻の作品「霧越邸殺人事件」は、幻想的な館、クローズドサークルなど館シリーズとの共通点が多いこと、さらには冒頭に「もう一人の中村青司氏に捧ぐ」という献辞があることから、「館シリーズの番外編」と位置づけられることもある。

脚注[編集 | ソースを編集]

  1. 当該ツイート
  2. ただし、「十角館の殺人」「黒猫館の殺人」のように、探偵役や語り手がクローズドサークルの中にいないものもある

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