ミルン現象
概要[編集 | ソースを編集]
「ミルン現象」とは、多くの哺乳類や一部の昆虫に見られる、細長いスペースを歩行しようとする現象である。
歴史[編集 | ソースを編集]
人間におけるこの現象は、古くからよく知られていた。しかし、初めて学界に正式に発表されたのは、1943年のことである。アメリカの生物学者ナーテル・ミルンが発表した論文である。彼女が、この現象の名前の由来となった。
米軍はミルン現象を地雷の開発等、軍事利用する研究を進めていたが、それが完成する前に第二次世界大戦は終結した。
1958年、ニュージーランドの生物学者ジョン・エルロンがミルン現象は全ての陸棲哺乳類に共通であるとの学説を発表し、注目された。その後、多くの生物においてミルン現象が見られるかの研究が進み、水棲哺乳類にもこの現象が確認された。しかし、コウモリにはミルン現象は確認されていない。
2008年、中国の研究者チャン・リーバイの研究チームが、アリやハチなどの一部の昆虫にもミルン現象が見られるという論文を発表した。
人類におけるミルン現象[編集 | ソースを編集]
人類においては、特に子供にミルン現象が見られる。古くから、子供が塀や柵、板の上などの細長い部分を歩きたがることは経験的によく知られていた。現代でも同様の行動はよく見られる。子供が塀の上をバランスを取りながら歩行したり、道の白線だけを踏んで帰ったりすることがこれに当たる。
一方で、子供がある特定の色のタイルを踏んで歩くという現象もある。しかしこの現象は、人類の他には見られていない[1]。この現象は、俗に色タイル現象(英:color tile phenomenon)と呼ばれている。
哺乳類におけるミルン現象[編集 | ソースを編集]
前述の通り、ジョン・エルロンが提唱した[2]。後続の研究により、この学説はほぼ定説化している。
大型哺乳類での実験でも、人類や小型哺乳類ほど顕著ではないが、ミルン現象が確認されている。
水棲哺乳類では、水底の細長い突起に沿って泳いだり、それに身を擦りつけたりする行動が確認された。特にイルカでは顕著な反応が見られた。
身近な例としては、ネコが塀の上を歩いたり、サルが縄をつたって遊んだりすることが挙げられる。
ミルン現象が見られたどの哺乳類においても、若い個体で特にミルン現象が見られる傾向があった。このことは若個体偏向性の典型的な例とされている。
また、体に対する脳の体積比が大きい動物は、より強い反応が見られている。
一部の昆虫におけるミルン現象[編集 | ソースを編集]
ハチやアリなどのハチ目の昆虫にミルン現象が確認されている。これらの生物はいずれも社会性昆虫であり、知能的な行動をすることが多い種である。また、哺乳類におけるミルン現象と区別するために、「特殊ミルン現象」と呼称される。
しかし、昆虫におけるミルン現象は、テントウムシによく見られる、ヤコブの梯子現象(英:Jacob's ladder phenomenon)(可能な限り上へ歩行しようとし、限界に達すると飛び立つ現象のこと)の一部ではないかという説もある[3]。
原理[編集 | ソースを編集]
哺乳類におけるミルン現象の原理[編集 | ソースを編集]
ミルン現象には、脳の下垂体から放出される、アントルキシンという物質が関係している。アントルキシンは授乳に関わるホルモンとして知られている。ミルン現象が見られた多くの哺乳類で、このホルモンの血中濃度が上がることが観測されている。アントルキシンは、授乳を行う哺乳類特有のホルモンである。ミルン現象が起こる理由は、哺乳類に必須であるアントルキシンの副作用として細長い突起の上を歩行したくなるからだと考えられている。
また、若個体偏向性がある理由は、アントルキシンは本来授乳をするためのホルモンであり、個体が成長し授乳が可能になるに伴って、副作用を引き起こす量が減るためだと考えられている[4]。
脳の体積比が大きいほど顕著にミルン現象が見られる理由は、アントルキシンの血中濃度が高くなるためだと推測されている。
特殊ミルン現象の原理[編集 | ソースを編集]
昆虫はアントルキシンを分泌しない。そのため、何か別の原因となる社会性昆虫に特有の物質があると推定されている。特殊ミルン現象は、発見が比較的最近で、また昆虫の体内の調査は難しいことから、あまり研究が進んでいない。
利用[編集 | ソースを編集]
- 1943年頃の米軍の研究。細長い突起のついた地雷が考案されたが、実用には至らなかった。
- 遊動円木
- 日本の製薬会社「アース」が開発した商品「アリの巣コロリα」。容器に突起があり、毒餌にアリを導く構造となっている。