セックス
「お待たせ」
「ううん」
同じバスローブを着ている千夏の左に、僕は腰を下ろした。こういうことはまるっきり初めてというわけじゃないのに、今までで一番緊張している。
その所為か、意味もなく思ったことを話しかけてしまう。
「お風呂、意外と綺麗だったね」
「あっ、うん。それに広かった。まるでホテルみたいだなって思っちゃった」
「ここもホテルっちゃホテルでしょ?」
「あ、そうだった」
二人で肩をゆすって笑い合う。ベッドのスプリングが微かに軋んで音を立てた。右をちらりと見ると、千夏が口元を綻ばせて笑っている。
長い睫毛、細められた栗色の瞳、短めに切り揃えられた艶やかな髪。僕の胸に、愛しさが膨れ上がっていった。
気づくと、千夏を抱きしめていた。
「……大介?」
千夏の戸惑ったような照れたような声が、僕の胸の中から聞こえる。肩を掴んで一度身を離し、千夏の瞳をまっすぐ覗き込んだ。込み上げる衝動のまま、口に出す。
「好きだ、千夏」
目を見張った千夏は、もじもじと身じろぎをしていたが、やがて斜め下を見ながら、
「……わたしも」
と小さな声で言った。
僕はそっと千夏の髪を撫でると、ゆっくりと顔を近づけていった。千夏もあごを少し上向かせて、目を閉じた。心臓がドキドキとうるさい。解れたと思った緊張がまたぶり返してきている。ええい、ままよ、と唇を寄せたが、目測を誤って歯がガチリと当たってしまった。
「ご、ごめん」
「ふふっ、中学生のファーストキスみたい」
「なんかものすごく緊張しちゃって」
「もう、落ち着いてよ」
千夏はコロコロと笑うと、一転して艶やかな表情になり、僕の首に腕を絡ませた。僕の唇に千夏のそれが重なる。柔らかな感触が直に伝わってきて、下腹部が疼く。右手で千夏の髪を撫でていると、唇を割って舌が入ってきた。熱を持って這い回る舌、固い歯とハリのある歯茎、ねばつく唾液を互いに貪り合う。
千夏の背中に回していた左手を、バスローブの襟から滑り込ませる。微かに火照った体がぴくりと震えた。口づけを続けながら、滑らかな肌の上に指を走らせる。息が続かなくなったのか、千夏はのけぞって顔を離した。
「ちょっと待っ──」
その口の端からとろりと唾液が糸を引いているのを見て、僕は思わず唇を再び押しつけていた。
「んむっ」
そのまま上体を重ね、シーツの上に倒れ込む。キスを続けながら千夏のバスローブをはだけさせた。右手は千夏の頭を抱いたまま、左手を肌に這わせる。細い首を撫でると、形の良い鎖骨の横を通り、人差し指で正中線をへそまでなぞる。華奢な体がびくりと跳ねた。塞いだ口から洩れる吐息が荒くなっていく。
口内を貪りながら、左手をさらに這わせていく。微かな胸の起伏を円を描くように指でなぞり、段々と円の半径を小さくしていく。ぽつりと立った小さな突起に指が触れたとき、千夏は小さく声を洩らした。乳首を親指で捏ねると、声は一際高くなった。
僕はようやく唇を離した。千夏の体はぐったりとベッドに横たわり、目は焦点があっていない。自分のものが怒張しているのを感じながら、手を千夏の太股の間に伸ばしていった。動悸が耳元で聞こえるほど、僕の心臓は暴れている。
薄く毛の生えた丘の下に、指を滑り込ませる。中指で秘所をなぞりあげると、千夏は唇の隙間から吐息を洩らした。そのまま数往復させると、とろりとした液が垂れてきた。天井の仄かな明かりを反射して、てらてらと光っている。それを指先に塗りつけ、ぷくりと膨らんだ赤い突起をつまんだ瞬間、千夏の腰がびくりと跳ねた。荒い呼吸をしながら、濡れた目で僕の指を見つめている。
僕は右手の親指と人差し指で挟んだ突起を、しごきはじめた。千夏が叫んで体を弓なりにしならせる。
「あっ、待って、待っ──」
慌てて手首を掴まれたが、構わず続けていると、やがて千夏は声を漏らしながら浮かせた腰を激しく痙攣させた。僕がぐっちょりと濡れた右手を離すと、千夏の身体はベッドにくずれ落ち、もう一度震えた。足を開いて果てているあられもない姿に、理性の糸が切れるのを感じる。
手の平をシーツで拭うと、僕はバスローブを脱ぎ捨てた。千夏のも剥いで放り投げると、千夏をうつ伏せに転がす。サイドボードの引き出しに入っていたコンドームを素早くつけると、固くなった僕のものを千夏の腰に押し当てた。
四つん這いになった千夏は、振り向いて僕と目を合わせた。そして、微かに頷いた。
受け入れてくれたのだ。僕は天にも昇る心地になって、先端を千夏に侵入させた。
少し苦しそうな呻きを千夏が洩らす。僕はゆっくりと動いた。決して焦らず、千夏を痛がらせないように。
しかし、快感は否応なく高まっていく。きつく包まれた僕の敏感な部分を、幾度も幾度も擦りつける。怒張した部分が四方から締め付けられ、甘い針を刺されているような感覚が押し寄せる。
気づかぬうちに、夢中で腰を振っていた。しまった、我を失っていた。焦って千夏の顔色を窺うと、しかし悪い想像とは異なり、恍惚とした表情で吐息を洩らしている。
ゾクリと興奮が背を駆け下り、僕はピストン運動を再開した。より速く、より強く。千夏が叫んで太腿を揺らす。
悦びのままに、叩きつけるように腰を動かす。一突きごとに、千夏が声を洩らし、僕の中から何かが上がってくる。接合部分が淫靡な音を立て、快感は加速した。
全神経が下半身に集まったかのような状態。千夏も身体を震わせ、シーツをくしゃりと掴んだ。強く、甘く包み込まれて、それ以外何も考えられなくなる。
千夏が一際甘い叫びを上げ、僕は昇ってくる快楽を、もう押しとどめられない。深々と体を貫き、千夏の股から汁が迸り出た瞬間、僕は長々と精を放った。
愛情[編集 | ソースを編集]
しばらく二人でベッドに横たわっていた。荒い息をしながら、快感の余韻に浸っていた。こんなにいいとは思わなくて、最初の緊張はいつの間にかどこかへ消えていた。
と思っていたら、千夏が半身を起こして僕の体をまさぐり始めた。出し切ったと思ったのに、僕のそこはすぐに大きくなっていく。
千夏は汗だくの体を惜しげもなく晒して、不敵に笑った。
「さっきは好き勝手されちゃったから、今度はこっちの番ね」
そう言って唇を舐め、僕は征服される予感に打ち震えた。僕の股間はとっくに臨戦態勢である。
「じゃ、挿れるよ」
千夏の屹立したそれが、僕の尻に押し当てられる。
征服する悦びも、される悦びも味わえる。これがやはり、男同士の行為の醍醐味だろう。
貫かれながら、僕はそんなことを思った。