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<br> 反射的に玄関を振り返る。扉の鍵は、掛かっていた。ホッとすると体の力が抜けた。後ろにパタリと倒れ込む。何だか笑いが込み上げてきた。アハハハという乾いた笑いが部屋に響く。 | <br> 反射的に玄関を振り返る。扉の鍵は、掛かっていた。ホッとすると体の力が抜けた。後ろにパタリと倒れ込む。何だか笑いが込み上げてきた。アハハハという乾いた笑いが部屋に響く。 | ||
<br> こんなことが、起こるなんて。 | <br> こんなことが、起こるなんて。 | ||
<br> | <br> ……疲れてるみたいだ。こりゃさっさと寝ないと。 | ||
<br> その時、テレビの中のスタジオがざわめき出した。アナウンサーの動揺が声に乗って伝わってくる。 | <br> その時、テレビの中のスタジオがざわめき出した。アナウンサーの動揺が声に乗って伝わってくる。 | ||
<br>『新しい情報が入ってきました。犯人が写った写真があるそうです』 | <br>『新しい情報が入ってきました。犯人が写った写真があるそうです』 | ||
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<br> 随分前に言われた気がする。 | <br> 随分前に言われた気がする。 | ||
<br>「酒に弱いあんたが、よく面接通ったわね」 | <br>「酒に弱いあんたが、よく面接通ったわね」 | ||
<br> | <br>「店員は酒飲まねえからいいんだよ。それに、最近はそこそこ飲めるようになったんだぜ?」 | ||
<br> 燿は、生粋の下戸だ。少し杯を舐めただけで、ベロベロに酔ってしまう。燿が二十歳になった日、あっという間に酔い潰れた燿を担いで店を出たのはいい思い出だ。 | <br> 燿は、生粋の下戸だ。少し杯を舐めただけで、ベロベロに酔ってしまう。燿が二十歳になった日、あっという間に酔い潰れた燿を担いで店を出たのはいい思い出だ。 | ||
<br> そんな弟が通り魔じゃないかと疑っている、私の頭のネジが数本飛んでいることは間違いない。 | <br> そんな弟が通り魔じゃないかと疑っている、私の頭のネジが数本飛んでいることは間違いない。 | ||
117行目: | 117行目: | ||
<br> 心配されてしまった。全く、人の気も知らないで。 | <br> 心配されてしまった。全く、人の気も知らないで。 | ||
<br> テレビはネタが尽きたのか、先程と同じ内容を繰り返し始めた。独自インタビューから見えてきた犯人像──。 | <br> テレビはネタが尽きたのか、先程と同じ内容を繰り返し始めた。独自インタビューから見えてきた犯人像──。 | ||
<br> | <br> ……ん? | ||
<br> 燿の台詞が脳内でリフレインされる。{{傍点|文章=テレビですら十分な取材ができていない}}──。 | <br> 燿の台詞が脳内でリフレインされる。{{傍点|文章=テレビですら十分な取材ができていない}}──。 | ||
<br> ゆっくりと、考えが組み上がっていく。 | <br> ゆっくりと、考えが組み上がっていく。 | ||
<br>「……き、姉貴! おーい!」 | <br>「……き、姉貴! おーい!」 | ||
<br> 気づくと、燿が麗を呼んでいた。生返事をすると、 | <br> 気づくと、燿が麗を呼んでいた。生返事をすると、 | ||
132行目: | 134行目: | ||
< | <p style="text-align:center">* * *</p> | ||
「実は私ね、燿が通り魔なんじゃないかと疑ってたの」 | 「実は私ね、燿が通り魔なんじゃないかと疑ってたの」 | ||
<br> 燿を部屋に上げ、冷蔵庫から缶ビールを2つ取り出しながら、麗は言った。燿は枝豆を口に運びかけた姿勢のまま、固まった。同じ内容を繰り返すテレビ番組が、タイミングよく通り魔の写真を映した。 | <br> 燿を部屋に上げ、冷蔵庫から缶ビールを2つ取り出しながら、麗は言った。燿は枝豆を口に運びかけた姿勢のまま、固まった。同じ内容を繰り返すテレビ番組が、タイミングよく通り魔の写真を映した。 | ||
160行目: | 164行目: | ||
< | <p style="text-align:center">* * *</p> | ||
麗はシンクで皿を洗っていた。酒に弱い燿は案の定、卓に突っ伏して寝息を立てている。 | 麗はシンクで皿を洗っていた。酒に弱い燿は案の定、卓に突っ伏して寝息を立てている。 | ||
<br> この1時間ほど、色々あった。頭の中で振り返ってみる。 | <br> この1時間ほど、色々あった。頭の中で振り返ってみる。 | ||
<br> | <br> ……ふと、怖くなった。燿は、私の考えなんて全てお見通しなのではないか? 私はまんまと騙されたのではないか? あの子は賢い。もしかしたら……。 | ||
<br> いや、そんなわけがない。麗が疑念を払うために振り向くと、''こちらを虚ろに見つめる燿と目が合った''。 | <br> いや、そんなわけがない。麗が疑念を払うために振り向くと、''こちらを虚ろに見つめる燿と目が合った''。 | ||
<br>「きゃっ」 | <br>「きゃっ」 | ||
183行目: | 189行目: | ||
<br> 突如、燿は言葉を切り、机の上に崩れ落ちた。今まで喋っていたのが嘘みたいに、グーグーと寝こけている。 | <br> 突如、燿は言葉を切り、机の上に崩れ落ちた。今まで喋っていたのが嘘みたいに、グーグーと寝こけている。 | ||
<br> 変な酔い方をするのね。麗は呆然としていたが、ゆっくりと歩き出す。 | <br> 変な酔い方をするのね。麗は呆然としていたが、ゆっくりと歩き出す。 | ||
<br> {{傍点|文章= | <br> {{傍点|文章=2人目の通り魔が怖くなかったのも}}、{{傍点|文章=こんなことが起こるなんてと驚いたのも}}、「{{傍点|文章=それらの可能性は低い}}」{{傍点|文章=と判断できたのも}}、{{傍点|文章=家族が通り魔で襲われるんじゃないかなんて発想ができたのも}}。 | ||
<br> 雑多にものが詰まった鞄から、新聞紙で包まれたものを取り出す。中から出てくるのは、赤と銀のきらめき。 | <br> 雑多にものが詰まった鞄から、新聞紙で包まれたものを取り出す。中から出てくるのは、赤と銀のきらめき。 | ||
<br> {{傍点|文章=全て}}、{{傍点|文章=私が2人目の通り魔だから}}。 | <br> {{傍点|文章=全て}}、{{傍点|文章=私が2人目の通り魔だから}}。 |
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