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=<span style="font-size:120%">吸巨化事件1号</span>=
=<span style="font-size:120%">吸巨化事件1号</span>=
{{基礎情報 事件・事故|名称=吸巨化事件1号|場所=日本 沖縄県|日付=2028年8月13日〜14日|概要=1人の吸巨化能力者が能力を行使、無差別攻撃を行った。}}
{{基礎情報 事件・事故|名称=吸巨化事件1号|場所=日本 沖縄県|日付=2028年8月13日〜14日|概要=1人の吸巨化能力者による無差別攻撃。}}
'''吸巨化事件1号'''とは、2028年8月13日〜14日にかけて沖縄県で起こった、世界初の吸巨化事件である。1人の吸巨化能力者が無差別攻撃を断続的に行い、多くの死者が出た。
'''吸巨化事件1号'''とは、2028年8月13日〜14日にかけて沖縄県で起こった、世界初の吸巨化事件である。1人の吸巨化能力者が無差別攻撃を断続的に行い、多くの死者が出た。


この事件によって吸巨化能力者の存在が明るみに出た。この事件から数日後、吸巨化能力者による人類への一斉攻撃が開始され、'''惨劇戦争'''が始まった。
この事件によって吸巨化能力者の存在が明るみに出た。この事件から数日後、吸巨化能力者による人類への攻撃が開始され、'''惨劇戦争'''が始まった。


吸巨化事件1号は、惨劇戦争の嚆矢となった事変であり、そのため'''惨闢'''と呼ばれることもある。
吸巨化事件1号は、惨劇戦争の嚆矢となった事変であり、そのため'''惨闢'''と呼ばれることもある。


{{フェード}}
{{フェード}}
 
==8月13日19時57分、神代晃平==
==8月13日、神代晃平==
小さい頃から、物を引き寄せられた。代々、神代家の男はこの力を持っていたらしい。
小さい頃から、物を引き寄せられた。代々、神代家の男はこの力を持っていたらしい。


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「葵、どうしたの?」<br>妻の椿が、ぐずる葵を抱いてあやしている。俺たちが何をしにここへ来たのか判っているから、葵はこんなに不機嫌なのだろうか。
「葵、どうしたの?」<br>妻の椿が、ぐずる葵を抱いてあやしている。俺たちが何をしにここへ来たのか判っているから、葵はこんなに不機嫌なのだろうか。


午後7時。俺たちはホテルを探して那覇市街を歩き回っていた。数時間前に那覇空港に降り立ち、明朝の{{傍点|文章=約束}}に向けて一泊だけすれば良かった。しかし、盆休みの国内有数の観光地、ホテルはどこも満杯で、もう2時間ほど歩きっぱなしだ。日も沈み、いよいよ本格的に暗くなってきている。
午後8時。俺たちはホテルを探して那覇市街を歩き回っていた。数時間前に那覇空港に降り立ち、明朝の{{傍点|文章=約束}}に向けて一泊だけすれば良かった。しかし、盆休みの国内有数の観光地、ホテルはどこも満杯で、もう2時間ほど歩きっぱなしだ。荷物は少ないとはいえ、流石に堪える。日も沈み、いよいよ本格的に暗くなってきた。


「椿、あそこに行ってみよう」<br> ゆいレールの線路がある大通りから一本外れた小道に、民宿の看板が立っていた。俺は引き戸を開け、戸をくぐった。葵を抱いた椿も続く。中の狭いロビーには、先客の外国人グループがいた。タトゥーを入れた東洋人が3名。黙礼して、無人の受付のベルを鳴らす。椿は歩き疲れたのか、外国人たちが座るソファーの端に腰を下ろした。中から人が来る様子はまだ無い。
「椿、あそこに行ってみよう」<br> ゆいレールの線路がある大通りから一本外れた小道に、民宿の看板が立っていた。俺は引き戸を開け、戸をくぐった。葵を抱いた椿も続く。中の狭いロビーには、先客の外国人グループがいた。タトゥーを入れた東洋人が3名。黙礼して、無人の受付のベルを鳴らす。椿は歩き疲れたのか、外国人たちが座るソファーの端に腰を下ろした。中から人が来る様子はまだ無い。
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外国人は、戸を閉めて出ていったところだった。取り返さねば。<br>「掏られた。葵を頼む」<br> 素早く伝えると、ポカンとしている椿を残し、走り出した。
外国人は、戸を閉めて出ていったところだった。取り返さねば。<br>「掏られた。葵を頼む」<br> 素早く伝えると、ポカンとしている椿を残し、走り出した。


ガラガラと戸を開け、外へ走り出す。右に、外国人はいた。振り返っているそいつと目が合う。途端、そいつは走り出した。俺も急いで後を追う。掏摸の右手には、財布が。距離は、10mほど。辺りに掏摸以外の人影は無い。
ガラガラと戸を開け、薄闇に包まれた外へ走り出す。右に、外国人はいた。振り返っているそいつと目が合う。途端、そいつは走り出した。路駐された車の横を駆け、俺も急いで後を追う。掏摸の右手には、財布が。距離は、10mほど。辺りに掏摸以外の人影は無い。


いけるか。
いけるか。
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掏摸が風切り音に前を向いた瞬間、飛んできたプランターが頭に直撃した。掏摸は昏倒し、今度は手から離れた財布が飛んでいく。俺はそれをパシリと掴み、ほっと息をついた。
掏摸が風切り音に前を向いた瞬間、飛んできたプランターが頭に直撃した。掏摸は昏倒し、今度は手から離れた財布が飛んでいく。俺はそれをパシリと掴み、ほっと息をついた。
どうにか、取り返すことができた。掏摸も、死んではいるまい。だが、暴れてしまったから、この民宿には泊まれないだろう。また別の場所を探さねば。重い気持ちになりながら、引き返そうとしたその時だった。
女の悲鳴が響き、同時に派手な音を立てて民宿の戸が開き、外国人が2人、飛び出てきた。そのうち1人の腕の中には、大声で泣いている赤ん坊。まさかあれは、葵?
彼らは道に駐まっている車に乗り込み、急発進してこっちに向かってくる。呆然としていた俺は、慌てて横に飛び退いた。車はギャリギャリと音を立て、倒れた掏摸を避けつつ通りへと走り去った。
「晃平さん! あ、葵が!」<br> 椿が出てきて、悲痛な叫びを上げる。葵は、攫われてしまった。掏摸に人攫いなんて、あの東洋人たち、堅気ではないと思っていたが……。しかし、そんなことはどうでもいい。
怒りが、満ちてきた。葵を取り返さないと……!
「は、早く警察に通報しないと……!」<br>「駄目だ、{{傍点|文章=それじゃ間に合わない}}。椿、ここから離れろ」<br>「え?」<br>「葵を助ける」<br>「どうやって⁈」<br>「『だいだらぼっち』になる」
代々伝わる伝説に、「先祖が巨人だいだらぼっちになった」というものがある。桁外れの力を持っていた先祖が、大量の物を引き寄せて全身に纏い、巨人の体を形作ったという。椿は、神代家の能力を知っている。意図は伝わったようだ。
椿は、青ざめた顔で頷いた。今の俺の力の強さなら、おそらくできる。<br>「近くの、奥武山公園で待ち合わせよう」<br>「わかったわ」<br>俺は車が去った方向へと走り出した。椿は、反対方向へと走っていく。
椿を巻き込まぬよう、距離を取ってから力を発動しないと。だが葵を見失いかねないから、早くしなければ。大通りに駆け出た。煌びやかな明かりに包まれ、多くの人や車が行き交っている。
力について、一つ経験則がある。人の目が多く、注目を集めていればいるほど、力は強くなるのだ。今まで、これほどの衆目の中で力を使ったことなど無い。もしかしたら、だいだらぼっちになることすら叶うかもしれない。
車線の位置からして、葵を連れ去った車は、国道330号線を北に走っているはずだ。巨人の歩幅になれば、追いつける。
ゴウッといってモノレールが頭上を通過していく。俺は両腕を真横に伸ばし、目を瞑り、掌に全神経を集中させた。
椿は、もう逃げただろうか。俺は、周りのすべてを思いっきり引き寄せた。
==8月13日20時23分、瑞慶覧雅登==
ゴト、コトト。雅登を乗せたモノレールが、軌道を走っていく。雅登は、吊り革を掴んで単語帳を見ていた。学校から塾に行った帰り、そろそろ降りるべき安里駅に着く。到着メロディーが流れ初め、雅登は単語帳をリュックにしまった。
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