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そう言って、卦伊佐は手早く検分を終わらせた。 | そう言って、卦伊佐は手早く検分を終わらせた。 | ||
「死因は外傷による心破裂。被害者はナイフを持った犯人を前に抵抗したものの、心臓を一突き、即死だ。指紋はどこにもついていないから、手袋でも使ったんだろう。死後硬直が始まっているが、まだピークには達していない、死亡したのは十九日の8~10時あたりだろうな。」 | |||
「……ところでさっきの話だが、この部屋に来る順番というのは?」 | 「……ところでさっきの話だが、この部屋に来る順番というのは?」 | ||
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「書斎に行く順番が回ってくると、夫が派遣したネモがやって来て、それを教えてくれるの。ネモったら頭が良いから、写真を見せられるだけでその人を識別できちゃうのよ。」 | 「書斎に行く順番が回ってくると、夫が派遣したネモがやって来て、それを教えてくれるの。ネモったら頭が良いから、写真を見せられるだけでその人を識別できちゃうのよ。」 | ||
「なるほど……。つまり容疑者らの部屋に来た順番を知っているのは、被害者とネモだけということか。」 | |||
「あー、でも、数時間前に案内した人の順番は流石にネモでも覚えてないと思うわ。」 | 「あー、でも、数時間前に案内した人の順番は流石にネモでも覚えてないと思うわ。」 | ||
「うーむ、容疑者全員が書斎に行った時間を覚えていればいいんだが……ちなみに、来る人の順番を決めることに何か理由はあったのか?」 | |||
「さあ……あ、でも、夫は書斎に来た人に、ホットミルクかアイスコーヒーか好きな方の飲み物を入れてくれるの。もしそれが知人の場合、彼は既に好みを把握しているから、あらかじめ順番を決めておけばその人が来る前に飲み物の準備を済ませられる、というのがあるかもしれないわね。彼、飲み物によってコップさえ変えるのよ。確か、ミルクはマグカップ、コーヒーはタンブラーね。まあでも、結局は彼の気分だと思うわ。そんなに効率化したいなら、ミルクの人とコーヒーの人を前半後半に分けておけばいいけど、そんなことはやってなかったし。」 | 「さあ……あ、でも、夫は書斎に来た人に、ホットミルクかアイスコーヒーか好きな方の飲み物を入れてくれるの。もしそれが知人の場合、彼は既に好みを把握しているから、あらかじめ順番を決めておけばその人が来る前に飲み物の準備を済ませられる、というのがあるかもしれないわね。彼、飲み物によってコップさえ変えるのよ。確か、ミルクはマグカップ、コーヒーはタンブラーね。まあでも、結局は彼の気分だと思うわ。そんなに効率化したいなら、ミルクの人とコーヒーの人を前半後半に分けておけばいいけど、そんなことはやってなかったし。」 | ||
「……なるほど。」 | |||
「そうねえ……。うん……夫はね、本当に几帳面な人だったわ。起きたらまず20秒間顔を洗う、流しに置いたままにしていい食器は一つまで。ネクタイピンの位置は毎日10分くらいかけて調整してたし、お辞儀の角度だって完璧になるまで練習してた。ほんと、馬鹿げてるわ。でも、どんなに忙しくても朝食は家族で一緒にとってくれた。特別な日には仕事をほっぽり出して、みんなで遊んだわよね。ねえ、覚えてる? 律……。」 | |||
ネモは、いつの間にか眠ってしまっていた。 | ネモは、いつの間にか眠ってしまっていた。 | ||
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「……もしもしー? 聞こえてます? いやーちょっと、諦めてダイニングルームに帰ってるじゃないですか! マジで希望がないんですよこっちは! 早く僕を見つけて!!」 | 「……もしもしー? 聞こえてます? いやーちょっと、諦めてダイニングルームに帰ってるじゃないですか! マジで希望がないんですよこっちは! 早く僕を見つけて!!」 | ||
「えー、まあ、そういうわけで、各自書斎に行ったときのこと、特に時間や部屋の状態を、覚えているだけ精細に話してほしい。」 | |||
「……ちょっと! 無視しないで!」 | 「……ちょっと! 無視しないで!」 | ||
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「じゃあ、まずは此井江からだ。声紋鑑定タイプなので、電話越しでも大丈夫だぞ。」 | 「じゃあ、まずは此井江からだ。声紋鑑定タイプなので、電話越しでも大丈夫だぞ。」 | ||
「……あーはい、分かりました。えー、まあさっきも言った通り、僕は取材のために書斎に行きましたね。あ、そうそう、アポ取りの時にノレさんにミルクとコーヒーどっちが好きかって聞かれて、どういうことなんだろうと思ってたんですけど、飲み物出すための質問だったんですね。僕はコーヒーを飲みました。すいませんが、時間は覚えてませんね……えー、で、部屋の状態……部屋の状態ねえ……うーん、流しにマグカップがあったはずです。それ以外は全然注目してませんでしたね。あ! あと、部屋を出てから廊下の方で取材したことのメモを見返してたんですけど、その時に亜奈貴さんが書斎に入っていくのを見ました。このくらいですかね。あと、早く助けてください。」 | |||
「よし、反応は出なかったな、じゃあ次は弟さんの方から。」 | 「よし、反応は出なかったな、じゃあ次は弟さんの方から。」 | ||
「うい。えー、俺はまあ、母の話をしたよ。そろそろ認知症がやばいから、施設に預けたほうがいいかもしれないってな。飲み物は俺もコーヒーだったぜ。時間は知らない。俺はそういうの気にしないタイプなんだ。状態……うーん、流しは見てなかったけど、律が洗ったらしいマグカップを拭いてたのは覚えてる。あーあと、コーヒーマシーンのスイッチを切ってたから、少なくとも次出される飲み物はコーヒーじゃないだろう。こんなとこかな。」 | |||
「よし、これも無反応。じゃあ続いてそっちの……亜奈貴さんだっけ?」 | 「よし、これも無反応。じゃあ続いてそっちの……亜奈貴さんだっけ?」 | ||
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「あー、それなんだが……俺がパトカーを飛び出して地面に着陸したとき、そのあまりの衝撃で地盤が崩落してしまったんだ。おそらく今で救助が完了したくらいだろう。もう少しでみんな来るんじゃないか?」 | 「あー、それなんだが……俺がパトカーを飛び出して地面に着陸したとき、そのあまりの衝撃で地盤が崩落してしまったんだ。おそらく今で救助が完了したくらいだろう。もう少しでみんな来るんじゃないか?」 | ||
このあまりの荒唐無稽さに、アナーキストとキチガイ以外の全員が、彼に対して疑念というより恐怖を抱いた。しかし、超合金でできたウソ発見器をベコベコにへこますその剛力は銃砲の何倍も強力なものであり、下手に刺激したら普通に殺される可能性があるので、みんな知らんぷりを維持した。 | |||
――探偵のいない事件は、ここに来て膠着状態に陥った。 | |||
'''第三章 ''' | |||
「なにしてるのー?」 | |||
止まったダイニングルームの時間を動かしたのは、 |
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